医師偏在対策の是正に向けた「診療報酬の単価見直し」、生活習慣病を評価する診療報酬の見直しなど進めよ—財政審
2024.5.22.(水)
医師偏在対策の是正に向けて「診療報酬の単価見直し」などの対策を早急に検討すべきである—。
生活習慣病生活を評価する診療報酬の在り方について、さらなる見直しを進めるべきである—。
財政制度等審議会が5月21日、こうした内容を盛り込んだ建議「我が国の財政運営の進むべき方向」をとりまとめ、鈴木俊一財務大臣に提出しました(財務省のサイトはこちらとこちら(概要)とこちら(参考資料1)とこちら(参考資料2))。
医師の偏在解消に向け、「診療所の新規開設に対する一歩踏み込んだ規制」を要請
我が国の公的医療保険制度(健康保険)、公的介護保険制度では、財源の25%が国費となっています(ほか加入者の保険料、自治体負担、患者・利用者負担)。
Gem Medで繰り返し報じているとおり、医療保険財政が厳しさを増しており、今後も増していきます。
「医療技術の高度化」が進むことで、医療費も高騰していきます。脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。さらに、新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、患者数が膨大なことから、医療保険財政に及ぼす影響が非常に大きくなる可能性があります。
同時に「高齢化の進展」による医療費高騰も続きます。ついに昨年度(2022年度)から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長く、結果、1人当たり医療費が若年者に比べて2.4倍と高くなります(関連記事はこちら)。このため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招きます。あわせて高齢化の進展は「介護費の急騰」に直結します。
こうした医療費・介護費の増加に伴い、当然、その25%に相当する国費支出も増加を続けることから、「国家財政を圧迫する、国家財政を厳しくする」と指摘されます。そこで財政審では「国家財政を健全化させる(端的に「入りを増やし、出を抑える」)ために、医療費・介護費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」方策の検討を独自に進め、建議として提言を行っています。
今般の建議でも社会保障改革に関して、例えば次のような意見・提言を行っています。
【主に医療について】
▽我が国の医療には、国民皆保険・フリーアクセス・自由開業医制・ 出来高払いという4つの特徴があり、これらによって「医学的な必要性以上に過剰な医療提供を招きやすい構造」となっている(例えば「自由開業医制の下、都市部の開業医が多いなど地域間、診療科間、病院・診療所間の医師の偏在を招き、出来高払い制の下、患者数や診療行為数が増加するほど収入が増える」仕組みとなっている)
→制度の持続可能性を確保していくための医療制度改革を進めていく必要がある
▽診療報酬(公定価格)の適正化
▼財政審は2024年度診療報酬改定について全産業の経常利益率に合うように5.5%の引き下げを行うよう提言したが、道半ばであり次の改革を進めるべき
・医療機関の経営状況の継続的な把握や医療統計の充実
・生活習慣病や他の疾病の管理の在り方の検討(診療頻度や使用される薬の価格が医療機関によって大きくばらついているとの指摘等もあり、さらなる見直しを検討すべき)
・診療所と病院の医師の偏在是正」などを進めるべきである
▼毎年薬価改定の着実な実施(既収載品の算定ルール全ての適用など)を行うべきである
▽費用対効果など経済性の勘案・患者本位の治療の実現
▼真に革新的な新薬とそうで ないものを区分し差別化した価格設定を行うため、費用対効果評価制度について「対象薬剤の範囲や価格調整対象範囲の拡大」「結果の保険償還可否判断への適用」などの強化を図るべきである
▼真に革新的な医薬品と費用対効果が低い医薬品を区分して評価し、小児用・希少疾患用医薬品の適切な評価を含めた「薬価配分のメリハリ」をつける必要がある
▼類似薬効比較方式(II)(新規性の乏しい新薬の薬価設定方式)において、類似薬に「後発品」が上市されている場合はその価格を勘案した薬価設定を行うべきである
▼「費用対効果評価の結果を学会の診療ガイドラインや厚生労働省の最適使用推進ガイドラインなどに反映する」「各種ガイドラインに、減薬・休薬を含めた投与量の調整方法など、患者本位の治療の適正化に関する事項を盛り込む」ことなどを進めるべきである
▽医療提供体制改革
▼「医学部定員の適正化」「改革工程に基づき、医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在是正に向けた、経済的インセンティブ(診療報酬の適正化等)と規制的手法の双方を活用した強力な対策」を講じる必要がある(関連記事はこちら)
→より具体的には、診療所不足地域と診療所過剰地域で異なる1点単価を設定し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促すべきである
→当面の措置として、診療所過剰地域における1点単価引き下げを先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化すべきである
→診療科別、地域別の医師定員設定なども検討すべきである
▼「かかりつけ医機能の発揮」「地域医療構想の推進」を図る必要がある
・外来の医療機能の転換・集約を推進していくべきである
・「かかりつけ医機能報告制度」では、患者による医療機関選択に資するよう、各医療機関が「どのような症候や疾患に対応可能なのか」など、必要な情報が報告・公表されるようにし、将来的には「かかりつけ医の登録制や認定制」なども検討していくべきである(関連記事はこちら)
・地域医療構想について、進捗が遅れている地域の取り組みを後押しし、各医療機関で地域医療構想と整合的な対応を行うよう求めるなど知事の権限強化に向けた法制的対応を行うべきである(関連記事はこちらとこちら)
・目標が達成困難となっている今回の反省を活かして、次期地域医療構想とその具体的な推進手法の検討を進めるべきである(関連記事はこちら)
・公立病院の経営強化プランを踏まえた取り組みを着実に進めていくとともに、公立病院の経営者(院長)に経営マインド・コスト意識(限られた公的資源、財源の有効活用等)を持たせるための取り組み(研修等)を省庁横断的、地域医療構想との関係も踏まえて広域的に行う必要がある(関連記事はこちら)
▽医療DXを工程表に沿って着実に推進していく必要がある(関連記事はこちら)
▽自助・公助の適切な組み合わせの観点から「保険給付範囲の在り方」を検討する必要がある
▼医薬品のスイッチOTC化を進め、薬局で自ら購入できる医薬品の選択肢を増やしていくべきである
▼OTC類似薬に関する薬剤自己負担の在り方について、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大とあわせて検討すべきである
▼医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは、薬剤費の一定額までは自己負担とするといった対応を検討すべきである
▽年齢でなく「能力」に応じた負担の設定
▼金融所得を勘案した保険料率設定を検討すべきである(ただしNISA等の非課税所得は保険料の賦課対象としない)
▼金融資産の保有状況も勘案して、負担能力を判定するための具体的な制度設計を検討すべきである
▼3割負担となる「現役並み所得」の判定基準について、現役世代との公平性を図り、世帯収入要件について見直しを行うべきである
【主に介護について】
▽効率的な給付の実現
▼ICT機器を活用して、特別養護老人ホームや通所介護などにおける人員配置基準の更なる柔軟化を強力に進めていくことが不可欠である
▼経営の協働化・大規模化(とりわけ特に社会福祉法人)を早急に進めるべきである
▼「介護保険施設の指定を受けている特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム等」と「指定を受けていない高齢者向け住まい」との役割分担・住み分けを改めて検討し、介護保険事業(支援)計画において、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も含めた後者の整備計画も明確に位置付けるべきである
▼有料老人ホームやサ高住における利用者の囲い込みの問題に対して、「訪問介護の同一建物減算といった個別の対応策」にとどまら ず、外付けで介護サービスを活用する場合も「特定施設入居者生活介護(一般型)の報酬を利用上限とする」形で介護報酬の仕組みを見直すべきである
▼地方公共団体のローカルルールの実態把握を行った上で、国民の利便性向上に資するよう、介護保険外サービスの柔軟な運用を認めるべきである
▼人材紹介会社に対する指導監督の強化により一層取り組むとともに、医療・介護業界の転職者が一定期間内に離職した場合は手数料分の返金を求めることを含め、実効性ある規制強化を図るべきである
▼軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行を目指し、段階的にでも、生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供を可能にすべきである
▼生活援助サービスに関するケアプラン検証の強化(身体介護も含める等)を図るべきである
▽給付の在り方の見直し
▼ケアマネジメントへの利用者自己負担導入を図るべきである
▽負担の在り方の見直し
▼2割負担の対象者の範囲拡大について早急に実現するとともに、利用者負担の原則2割化なども検討していくべきである
▼介護老人保健施設・介護医療院も含め、多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを更に行うべきである
「頷ける提言内容」もあれば、「練り切れていない、思い付きにとどまっている提言内容」もあります。今後、建議を受けてどういった検討・議論に発展するのか注目する必要があります。
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