2021年度の後期高齢者医療費、最高の高知と最低の新潟で1.52倍もの格差、不適切入院の是正・病床数適正化が重要—厚労省
2023.12.29.(金)
2021年度の1人当たり医療費を見ると、市町村国保では最高の佐賀県と最低の茨城県との間に1.37倍の、後期高齢者医療では同じく最高の高知県と最低の新潟県との間に1.52倍の格差がある—。
地域差の原因を探ると、医療費の高い地域では「高い頻度で、長期間入院している」ことが分かり、「不要な入院の是正」や「ベッド数の適正化」などの対策が極めて重要なことが分かる—。
厚生労働省は12月28日に2021年度の「医療費の地域差分析」を公表し、こういった状況を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。
目次
市町村国保、1人当たり医療費トップは佐賀県、最も低い茨城県の1.37倍
昨年度(2022年度)から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上となることから、今後、「高齢者数の増加→急速な医療費の増加」が生じます。その後、2040年度にかけて高齢者数そのものは大きく変化しませんが、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。「少なくなる一方の支え手」で「増加し続ける高齢者」を支えなければならないことから、公的医療保険制度の基盤は極めて脆くなっていきます。
こうした状況の中では、「医療費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」(医療費適正化)ことが必要不可欠です。医療費適正化に向けては、「1人当たり医療費の地域格差を是正していく」ことが重要方策の1つとなります(関連記事はこちら(骨太方針2021))。
このためには、まず「医療費の地域差がどの程度あり、その要因はどこにあるのか」を明らかにしなければなりません。ただし、医療費は「地域の人口構成に大きな影響を受け」ます。当たり前のことですが高齢化の度合いが高い地域では必然的に医療費が高くなり、人口数で除した1人当たり医療費も高くなりますが、これを「遺憾である」と考えることはできません。述べるまでもありませんが「高齢化=悪」ではないからです。
そこで「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を補正・調整することが重要です(年齢構成を揃える形で補正する)。Gem Medでは主に、補正・調整を行った「1人当たり年齢調整後医療費」を、市町村国保(74歳まで)と後期高齢者医療制度(75歳以上)に分けて見ていきます。
まず市町村国保・後期高齢者医療全体の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2021年度は全国平均で38万6610円で、前年度に比べて2万2981円・6.3%増加しました。大幅増の背景には「新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度に医療費が大きく減少した」ことの反動があると考えられます。
都道府県別に見ると、最高は佐賀県の46万6529円(全国平均の1.207倍)。次いで▼鹿児島県:45万8327円(同1.186倍)▼鳥取県:44万7422円(同1.157倍)—と続きます。
逆に最も低いのは茨城県の33万9710円(全国平均の0.879倍)で、▼埼玉県:35万4859円(同0.918倍)▼愛知県:35万6890円(同0.923倍)―と続きます。
最高の佐賀県と最低の茨城県との間には12万7819円・1.37倍の開きがあります。前年度(最高の福岡県と最低の新潟県との差、12万1294円・1.38倍)から、ほんの僅か地域差が縮小しています。
医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、依然として「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が継続していることを確認できます。
入院医療費の地域差を生む最大要因は「不要かつ長期の入院」と「病床数の過剰」
こうした1人当たり医療費の地域差が「なぜ生じるのか」を見るために、医療費を3要素に分解することが有用です。
(要素1)1日当たり医療費
いわば「単価」
→単価の高低の評価は容易ではありませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発医薬品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります
(要素2)1件当たり日数
一連の治療について、入院ではどれだけの日数がかかり、外来では何回(=日数)医療機関にかかるのか
→例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまく機能しているのか」などを考えるヒントになります
(要素3)受診率
どれだけの頻度で医療機関にかかるのか
→例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります
ここで市町村国保医療費の地域差において「入院」「入院外」「歯科」それぞれの影響度合いを見ると、「入院」の影響が大きいことが分かります。そこで入院医療を3要素に分解して、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみましょう。
入院医療費の高い地域(鹿児島県、佐賀県、大分県など)では、▼「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める方向に寄与している▼「1日当たり医療費」は医療費を低くする方向に寄与している―傾向が伺えます(前年度と同じ傾向)。一方、入院医療費の小さな地域(愛知県、茨城県、埼玉県など)では、「『受診率』が医療費を低くする方向に寄与している」ことが分かります(やはり前年度と同じ傾向)。
これを逆方向から見ると、次のような傾向が伺えます。
▽「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している
▽「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している
これらを総合すると、▼1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている▼1人当たり医療費の低い地域では、入院の頻度が低く、かつ高濃度の医療を短期間受けている―ことが推定されます。
つまり医療費の地域差を解消するためには、▼不適切な入院(例えば入院の必要性がない患者を入院させる社会的入院など)が生じていないか▼不適切な在院日数の延伸(例えば病床稼働率を維持するために、退院可能な患者を退院させないなど)が生じていないか—を十分に確認する必要があります。とくに1人当たり医療費の高い地域では、この点の確認・是正が極めて重要です。
さらに、こうした「頻度の高い、期間の長い入院」の背景には「病床数」が大きく関係している点にも留意が必要です(関連記事はこちら、医療費の地域差と病床数との間には、極めて大きな相関がある)。地域で病床が過剰になっていれば、稼働率を高めるために「不必要な入院」が増えてしまいます。「病床数の適正化」をしっかり考えていくことが極めて重要です。
後期高齢者、1人当たり医療費トップは高知県、最も低い新潟県の1.52倍
次に後期高齢者医療の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2021年度は全国平均で92万2373円で、前年度に比べて2万1799円・2.4%増加しました。
都道府県別に見ると、最高は高知県の113万3857円(全国平均の1.229倍)。次いで▼福岡県:111万5191円(同1.209倍)▼鹿児島県:107万2214円(同1.162倍)―と続いています。
逆に最も低いのは新潟県の74万3654円(同0.806倍)で、▼岩手県:74万6114円(同0.809倍)▼青森県:77万4025円(同0.839倍)―と続きます。
最高の高知県と最低の新潟県の間には39万203円・1.52倍の開きがあります。前年度(高知県と新潟県:38万276円・1.52倍)から地域差は縮小していないようです。
後期高齢者の入院医療費について、市町村国保医療費と同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率—の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院医療と同様に▼「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している▼「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している―ことが分かります。
やはり、1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けていると推定され、「不適切な社会的入院」や「不適切な在院日数の延伸」がないかを見ていく必要があります。
冒頭に述べたように、高齢化がますます進行する中では、後期高齢者医療費の適正化(ここでは1人当たり医療費の地域差縮小)に努める必要性が極めて大きく、「病院病床が介護施設代わりに使用されていないか」などを厳しい目で確認し、必要な是正を早急に行っていくことが重要です。
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