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かかりつけ医機能報告制度、「患者の医療機関選択」支援を重視?「地域での医療提供体制改革」論議を重視?—かかりつけ医機能分科会

2024.4.12.(金)

2025年4月から「かかりつけ医機能報告」制度などが施行されるが、報告対象となる医療機関の範囲について、「患者にとっての分かりやすさを考慮して絞り込む」べきか、それとも「地域医療提供体制の在り方論議に資するよう可能な限り広く設定する」べきか—。

また報告項目について、患者にとっての分かりやすさを考慮して「例えば症候への対応」(腹痛に対応できるか?など)を基本とすべきか、それとも地域医療提供体制の在り方論議に資するよう「疾患や対応体制をベースに考える」べきか—。

こういった議論が、4月12日に開催された「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」(以下、分科会)で行われました。今夏(2024年夏)の意見とりまとめを目指し、次回以降、より具体的な議論に入ります。

4月12日に開催された「第4回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」

かかりつけ医機能報告制度、「患者の医療機関選択」支援と「地域医療体制」構築の2側面

2023年の医療法改正(「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の一部)で、(1)医療機能情報提供制度の刷新(本年(2024年)4月施行済)(2)かかりつけ医機能報告の創設(来年(2025年)4月施行)(3)慢性疾患患者等に対する書面交付・説明の努力義務化(来年(2025年)4月施行)—を行うことになりました。

「まずかかりつけ医を受診し、そこから基幹病院の専門外来を紹介してもらう。専門外来での治療が一定程度終了した後には、かかりつけ医に逆紹介を行う」という外来医療の流れ・機能分化を推し進めると同時に、地域包括ケアシステムの中で極めて重要な役割を果たす「かかりつけ医機能を持つ医療機関」の明確化を図る狙いがあり、検討会で「かかりつけ医機能報告制度」等の詳細を詰めていきます(関連記事はこちらこちら)。

かかりつけ医機能が発揮される制度整備1

かかりつけ医機能が発揮される制度整備2



4月12日の会合には、厚生労働省大臣官房の高宮裕介参事官(救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)から▼論点案▼基本的な考え方案—が示されました。

まず基本的な考え方を見ると、後述するように「かかりつけ医機能報告制度」と「医療機能情報提供制度」の2つの仕組みによって、次のような取り組み等を可能とすることを確認しています。

▽「かかりつけ医機能を有する医療機関」「当該医療機関のかかりつけ医機能の内容」を国民・患者に情報提供し、明確化することにより、国民・患者のより適切な医療機関の選択に資する

▽「かかりつけ医機能を有する医療機関」「当該医療機関のかかりつけ医機能の内容や今後担う意向」を地域の協議の場に報告し、地域での確保状況を確認して、「地域で不足する機能を確保する方策」(プライマリケア研修、在宅医療研修等の充実、夜間・休日対応の調整、在宅患者の24時間対応の調整、後方支援病床の確保、地域の退院ルール等の調整、地域医療連携推進法人制度の活用等)を検討・実施することにより、地域医療の質の向上を図る
→地域性を踏まえた多様な「かかりつけ医機能を有する医療機関」のモデルの提示を行い、地域で不足する機能の確保のため、各医療機関が機能や専門性に応じて連携しつつ、自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化するように促す

かかりつけ医機能報告制度等に関する基本的な考え方(かかりつけ医機能分科会1 240412)



さらに、これらの実現に向け、今後、次のような論点を議論・検討していく方針も示され、こうした基本的考え方・論点の案は概ね了承されました。
【施行に向けて省令やガイドライン等で定める必要がある事項】
▽「かかりつけ医機能を有する医療機関」の明確化(報告を求めるかかりつけ医機能の内容、報告対象医療機関の範囲、都道府県の確認・公表、医療機能情報提供制度による報告・公表、地域性を踏まえた多様な「かかりつけ医機能を有する医療機関」のモデルの提示など)
▽「地域における協議の場」での協議(参加者、市町村の関与、協議の進め方など)
▽「かかりつけ医機能を有する医療機関」の患者等への説明

【かかりつけ医機能が発揮されるための基盤整備、国の支援のあり方など】
▽地域で必要となるかかりつけ医機能の確保に向けた医師の教育や研修の充実
▽地域におけるかかりつけ医機能の実装に向けた取組
▽医療DXによる情報共有基盤の整備など

【医療計画に関する事項】
▽医療計画に「かかりつけ医機能を持つ医療機関」を位置づけるにあたっての整備など(検討会で大枠を詰め、第8次医療計画に関する検討会などで詳細を決定する)

分科会で今後議論していく論点(かかりつけ医機能分科会2 240412)

患者の医療機関選択を重視すれば「腹痛に対応可能か」など症候ベースの報告制度が考えられる

次回以降、具体的に「報告対象医療機関の範囲をどう考えるか」「報告内容をどう考えるか」を詰めていきますが、4月12日の会合でも重要な議論、具体的には「患者による医療機関選択を重視すべきか、地域医療提供体制の構築論議を重視すべきか」という議論が繰り広げられました。


上述の基本的考え方にもありますが、かかりつけ医機能報告制度は大きく次の2つの仕組みを包含しています。

(前提)2025年4月からスタートする「かかりつけ医機能報告制度」によって、各医療機関が「自院はどのようなかかりつけ医機能を持っているか」を都道府県知事に毎年度報告する

(1)この報告内容をベースに「医療機能情報提供制度」を用いて、患者・国民に「どの医療機関が、どのようなかかりつけ医機能を持っているのか」を情報提供し、患者・国民の医療機関選択をサポートする

(2)この報告内容をベースに、各地域で自治体・医療関係者等が膝を突き合わせて「この地域には、どのようなかかりつけ医機能が報告しているのか、それを補っていくために、どの医療機関が、どのような機能を強化していくべきか」を協議し、それを実践していくことで「地域での面としてのかかりつけ医機能」を強化(地域医療提供体制の構築・改革)していく(1医療機関ですべての機能をカバーすることはなかなか難しい)



両者は一体不可分ですが、(1)の「患者による医療機関選択」機能をより重視すべきか、(2)の「地域医療提供体制の構築論議」を重視すべきかによって、報告対象医療機関や報告内容の考え方が少し違ってきそうです。

土居丈朗構成員(慶應義塾大学経済学部教授)は、「あくまで『患者の選択』に資する情報提供を促すこと大事である」とし、次のような提案を行いました。河本滋史構成員(健康保険組合連合会専務理事)も「保険者として加入者に情報提供しやすい」とし、土居構成員の考えに一定の賛意を示しています。

▽報告内容は、腹痛や発疹、腰痛などの「症状、症候」をベースに考えるべきである
→患者は「自分がどの疾患にかかっているのか」はわからないが、自分に「どういう症状(●●が痛いなど)があるか」はわかる
→「どの医療機関が、どのような症状に対応できるのか」を、かかりつけ医機能報告制度で明らかにすることが重要である

▽患者の医療機関選択において「どのような能力を持つ医師が所属しているのか」も重要案要素であり、例えば「どのような、かかりつけ医機能に関する研修を受けているのか」などの報告も求めるべき



患者による「医療機関選択」をサポートする視点からは、非常に重要な提案と言えます。「腹痛のあるとき、胸に鋭い痛みがさした」ときなどに、「●●診療科と◆◆診療科に対応しています」という情報よりも、「腹痛に対応しています」「胸痛に対応できます」という情報のほうが患者にとって分かりやすいと考えられます。

医療提供体制構築論議を重視すれば「疾患対応」や「専門医資格」などが重要では

一方、(2)の「地域医療提供体制の構築論議」を重視した場合、「腹痛に対応可」といった情報よりも、「●●診療科を標榜」「●●専門医資格を保有」といった情報のほうが有用でしょう。「●●診療科を持つ医療機関をどの程度整備すべきか、●●専門医を何名確保すべきか」という議論が、地域医療提供体制構築においては重要となります。

このため、城守国斗構成員(日本医師会常任理事)や釜萢敏構成員(日本医師会生涯教育・専門医の仕組み運営委員会センター長)ら医療提供サイドの構成員は「症候をベースとする報告内容」には疑問を呈しています。

あわせて、腹痛や胸痛などにも「程度」があり、「重症患者にも対応可能なのか」「軽症患者への対応しかできないのか」という点もセットで考える必要がありそうです(各医療機関が、「どの疾患の、どの程度の重症患者にどこまで対応できるのか」という情報が重要)。この点について大橋博樹構成員(日本プライマリ・ケア連合学会副理事長/医療法人社団家族の森多摩ファミリークリニック院長)は、「門前払いをせず、初期対応を行えるのか?という視点が重要ではないか」と指摘しています。

なお、「かかりつけ医に関する研修受講」情報の重要性については、城守構成員ら医療提供サイド構成員も賛同しています(報告内容に含めることが重要との考えを提示)。

報告対象医療機関、患者視点では「絞り込み」を、医療体制論議重視では「広範に」

また、この(1)の患者選択を重視するか、(2)の地域医療提供体制構築を重視するかという視点は、「報告対象となる医療機関の範囲をどう考えるか」という論点にも影響してきます。

(1)の患者選択を重視すれば「あまりにも膨大な情報」(誤解を恐れずに言えば「検討する必要のないもの」まで含まれる情報)は好ましくありません。医療知識の少ない一般の患者が、膨大な医療機関情報の中から、適切なものを選択することは困難です。

このため、一定のセレクションをかけ、選択しやすくする工夫(選択の補助)が必要となります。土居構成員は、この点を重視し「フリーアクセス(原則として、患者はどの医療機関にもかかれる)の下での医療機関選択に資するよう、対象医療機関は一定程度絞り込むべき」と提案しました。

一方、(2)の地域医療提供体制構築論議を重視すれば、可能な限り多くの医療機関がかかりつけ医機能報告に参加し、「●●医院は『●●機能を持つ意向なし』と考えているようだが、地域の実情に鑑みて、考えを変更してもらうことはできないか」「●●病院は大規模であるが、地域の医療資源が不足している中で、●●科についてはかかりつけ医機能を一定程度になってもらうことはできないか」といった広範な角度からの議論ができるような環境を整えておくことが重要でしょう。データに欠損があれば十分な議論が行えなくなってしまいます。

このため城守構成員は「できるだけ多くの医療機関が手上げ・参加できる仕組みとすべき。医師の高齢化もすすんでおり、地域で必要な医療提供を継続するために、どういった機能を連携して発揮すべきかという議論が重要である」と強調しています。さらに、この視点に立てば「現在はかかりつけ医機能を保有していないが、今後、保有していく意向がある」、あるいは「現在はかかりつけ医機能を保有していくが、徐々に縮小・廃止していく考えである」といった情報も非常に重要となります。



いずれの意見にも頷ける部分が大きく、今後、どういった議論・整理が行われていくのか注目する必要があります。

「地域により医療ニーズ・医療資源などは千差万別」な点を踏まえた報告制度が必要

また、地域の人口動態(医療・介護ニーズに深く関連)や交通事情(医療機関等へのアクセスに深く関連)や医療資源は、まさに千差万別です。長谷川仁志構成員(秋田大学大学院医学系研究科医学教育学講座教授)や香取照幸構成員(未来研究所臥龍代表理事/兵庫県立大学大学院特任教授)は、この点をより重視すべきと強調。例えば、医療機関・資源が潤沢な都市部であれば「疾患別、症候別のかかりつけ医療機関」を持つことも可能ですが、医療機関・資源が限られる地方では「1医療機関が複数の(場合によっては極めて広範の)疾患・症候に対応できる機能」を持たなければなりません。

香取構成員は、この点を重視し▼かかりつけ医機能報告制度は、「新たな地域医療構想」の枠組みの中でも重要となる点をしっかり認識すべき▼報告制度においては「医師個人の知識・スキル」に関連する事項と、「医療機関として持つ機能」に関連する事項とを、明確に分けて考える必要がある▼報告制度で得られる情報は「点」(個別医療機関の情報)であり、これをどうつないで、「面としてのかかりつけ医機能」にしていくかという仕掛けも重要である。データを示し「関係者で協議してほしい」と投げるだけでは、「面としてのかかりつけ医機能」構築はできない—との考えも示しました。

このほか、報告内容に関して▼所属医師の「かかりつけ医」に関する研修受講状況は患者にとって非常に重要であり、詳しく報告してもらうべき(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼在宅療養支援診療所(病院)であるか否か、それは単独か他院との連携か、今後の在宅医療提供の「意向」などの報告が重要である(織田正道構成員:全日本病院協会副会長)▼入退院支援においてかかりつけ医の果たす役割が大きい、その点もかかりつけ医機能報告制度の中で検討すべき(服部美加構成員:新潟県在宅医療推進センター・基幹センターコーディネーター)▼かかりつけ医機能報告の趣旨は、報告する医療機関サイドの「患者の背景も含めて把握し、全人的な医療を行うこと」にどれだけ力を注ぐ意向があるか、という点であることを再確認すべき(釜萢構成員)—といった意見も出ています。



今夏(2024年夏)の意見とりまとめに向けて、報告対象医療機関の範囲や報告内容などを次回以降、具体的に詰めていくことになります。



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