かかりつけ医機能は医療部会で議論!「全国の医療機関での診療情報共有」でかかりつけ医は不要になるとの意見も—社保審・医療部会
2022.9.30.(金)
本年度(2022年度)および来年度(2023年度)に「かかりつけ医機能を明確化し、その機能を発揮するための環境整備などを検討する」こととされています。
これまで「第8次医療計画に関する検討会」で議論が行われてきました、医療計画の範疇を超えた「医療提供体制そのもの」に関連する意見が多数出ているため、議論の場は上位会議体である「社会保障審議会・医療部会」に移されました。
9月29日の医療部会は委員間のフリートークとなり、例えば「かかりつけ医は国民・患者が選ぶもので、医療機関は『自院がどういった機能を持ち、他医療機関と連携しどのような機能を果たせるのか』を明確にする必要がある」「かかりつけ医機能の明確化は、英国のような家庭医制度化を目指すものでもなく、かかりつけ医と専門医を峻別することを目指すものでもない点を明確にすべき」「個々の患者の診療情報を全国の医療機関で閲覧可能とする仕組みを設ければ、どの医療機関にかかっても同水準の医療を受けられる環境が整い、かかりつけ医を決める必要はなくなる。将来はこういった姿を目指すべき」などさまざまな意見が出されました。
ただし、どうしても議論が拡散してしまうため「論点を明確にする必要がある」との意見も出ています。
この点、岸田文雄内閣総理大臣が議長を務める「全世代型社会保障構築会議」では、9月28日に「患者・国民等から期待される『かかりつけ医機能』の在り方と、その機能が発揮される制度整備の在り方」を論点の1つに据えており(内閣官房のサイトはこちら)、近く構築会議サイドから「かかりつけ医制度試案」のような骨格が示される可能性もありそうです。その場合には、当該試案・骨格をベースに医療部会で具体的な肉付けを行っていくことになるでしょう。来年度(2023年度)にかけて丁寧な議論が進められます。
かかりつけ医は国民・患者が決めるもの、医療機関は機能情報提供すべしとの意見
Gem Medで報じているとおり、第8次医療計画に関する検討会において「かかりつけ医機能」に関する議論が行われてきました(関連記事はこちらとこちら)。しかし、第8次医療計画に関する検討会は名称どおり『医療計画』を検討する場ですが、▼かかりつけ機能について、医療計画の範疇を超える「医療提供体制そのもの」に関する意見が数少なく出ている点▼かかりつけ医について、何を医療計画に記載すべきかが明確となっていない点—を踏まえ、議論の場を「医療提供体制改革全体を議論する社保審・医療部会」に移すことになりました。
昨年(2021年)12月の「新経済・財政再生計画改革工程表2021」に規定されているとおり、▼かかりつけ医機能の明確化▼患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策—を、来年度(2023年度)を期限として検討することになります。
9月29日の会合では、「医療部会として正面からかかりつけ医機能を議論するキックオフ会合」であったことから委員間のフリートークとなりました。
例えば、相澤孝夫委員(日本病院会会長)は、「英国のような家庭医制度を目指すものでもなく、診療所は一般医療、病院は専門医療等の峻別を目指すものでもないことを明確にする必要がある」としたうえで、▼どのような患者でも幅広く受け入れる(症状により自院対応することも、他院に紹介することもある)▼継続通院患者の管理を行う(専門医療機関が安心してかかりつけ医機能を持つ医療機関に逆紹介できる)▼国民に対し「自院がどういった機能を持っており、かかりつけ医機能を果たせる」ことを示す—などの大枠の考え方を披露しました。その際、「患者を全人的に診るかかりつけ医」と「傷病を診る主治医」とを区分けした議論が必要であるとも相澤委員は付言しています(例えば「主治医」であれば「自身が専門とする傷病」以外については「専門外であり自院では診られない」となるケースが少なからずある)(関連記事はこちらとこちら)。
また、神野正博委員(全日本病院協会副会長)は、▼「かかりつけ医」は国民・患者が選択する▼医療機関は、その選択に資するよう「自院はどのような機能を持っているのか」を公表等する—ことがベースになると強調。このため、例えば希少疾患の患者にとっては「大学病院の専門医」がかかりつけ医となることもありうるとの考えを示しました。こう考えると、かかりつけ医が「専門外の傷病」について診断・治療は行えないものの、「相談にのり、適切な医師・医療機関を紹介する」ケースが少なからず出てくると思われます。この点について神野委員は「かかりつけ医による相談対応を診療報酬で評価していく」ことも重要であると訴えています。
患者情報の共有により、どの医療機関にかかっても「かかりつけ医と同程度の医療」提供可能
他方、楠岡英雄部会長代理(国立病院機構理事長)は、全く別の視点に立ち「全国の医療機関で、患者の過去の診療情報、電子カルテ情報、検診・健診情報などをすべて閲覧・共有できるようになれば、患者がどの医療機関にかかっても同程度の医療を受けることが可能になる。日本版のかかりつけ医制度では、人(医師)に頼るのではなく、このようにICTに頼る仕組みとしてはどうか」と提案しました。
このためには「電子カルテの標準化」など高いハードルもありますが(関連記事はこちらとこちらとこちら)、「遠方に転居した場合」でも、「かかりつけ医が廃業や転勤などした場合」でも、「自分の健康状況や過去の診療情報などに基づいた最適な医療」を受けられる環境が整います。極めて魅力的な提案と言え、時間はかかりますが関係者が連携し準備を進めていく必要があるでしょう。
また小熊豊委員(全国自治体病院協議会会長)は、この楠岡部会長代理案に賛意を示すとともに、「初期対応を行う医療機関と、専門的な高度医療を提供する医療機関との切り分け」が必要とも訴えました。全国の医療機関で患者情報を共有できる環境が整ったのとしても、例えば無床診療所と大学病院では果たすべき役割が異なりますし、軽症患者が大病院外来に初診でかかることは好ましくない(大病院勤務医の負担が過重になる)ことから、医療機能の分化がどうしても必要となるためです。小熊委員は、初期対応を行う医療機関が「かかりつけ医機能」を持ち、急変時に一時対応を行い「自院や連携医療機関で対応する」か「専門医療機関に搬送するか」をトリアージすることで、専門医療機関の負担が軽減されると小熊委員はかねてから提唱しています(関連記事はこちら)。
さらに島崎謙治委員(国際医療福祉大学大学院教授)は、かかりつけ医について国民・患者サイドは「どんな病気でも(もちろんすべてではなくコモンディジーズ)診てくれる」ことを強く期待しているが、医療サイドではこの点をそれほど重視していないというミスマッチがあると指摘。国民の信頼を得るために「コモンディジーズを診られる」能力の確保(総合診療の推進)を早急に行う必要があると訴えています。
また、松田晋哉委員(産業医科大学教授)は「母子保健では、母子手帳を持って小児科医にかかり、小学校入学前まで、まさに『かかりつけ医』機能が発揮されており、こうした仕組みを拡大していってはどうか。その際、『小児の母子手帳』に該当する情報連携ツールとしてPHR(Personal Health Record)が重要となる」との考えを示しました。楠岡部会長代理案と通じるものがあり、「過去の診療情報を全国の医療機関で閲覧・共有できる仕組み」の構築(そのベースとなるオンライン資格確認等システムの全国普及)に期待が集まります(関連記事はこちらとこちら)。
このほか、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や河本滋史委員(健康保険組合連合会専務理事)らは「第8次医療計画等に関する検討会」で述べた見解を改めて訴えています(関連記事はこちら)。
いずれの意見にも頷ける部分が大きく、さらに議論を深めていくことが求められますが、「今のままではフリートークを重ねるだけにとどまってしまう」との指摘も出ており(島崎委員)、例えば「まず、かかりつけ医にとって欠かせない機能はなにか」を明確化するなどの交通整理が必要となるでしょう。
この点、「全世代型社会保障構築会議」では「患者・国民等から期待される『かかりつけ医機能』の在り方と、その機能が発揮される制度整備の在り方」を論点の1つに据えており(内閣官房のサイトはこちら)、近く構築会議サイドから「かかりつけ医制度試案」のような骨格が示される可能性もあります。その場合、当該試案・骨格をベースに医療部会で具体的な肉付けを行っていくことになると思われます。今後の動きに注目が集まります。
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