かかりつけ医機能は医師個人・医療機関の双方に、「制度化や登録制」に疑問の声も—第8次医療計画検討会
2022.9.12.(月)
かかりつけ医機能を明確化し、その機能を発揮するための環境整備などが重要である。「かかりつけ医機能」については、コンセンサスがあるとの意見もあるが、「全く明確でない」(人によって考え方が異なる)ために例えば制度化や登録制導入などの検討は難しいのではないかとの見解もある—。
また、かかりつけ医機能の中には、「医師個人」の機能と、「医療機関全体で果たす」機能とがあり、両者は分けて考えていくべきではないか—。
9月9日に開催された「第8次医療計画に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった議論が行われました。
かかりつけ医が欲しい人への情報提供が重要、制度化・登録制の議論などできないとの声も
Gem Medで繰り返し報じていますが、「2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)」に向けた議論が検討会を中心に進んでいます(都道府県が作成する医療計画のベースとなる「厚生労働省の指針」策定論議)。
関連して検討会では「かかりつけ医機能に関する議論も行われています。医療計画では、「かかりつけ医」に関する記載は求められていませんが、▼、本年(2022年)6月7日の「骨太方針2022」(経済財政運営と改革の基本方針2022)で「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」方針が明確にされている▼昨年(2021年)12月の「新経済・財政再生計画改革工程表2021」では、「かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について、2022年度・2023年度に検討する」方針を掲げている—点を踏まえ、外来医療計画に附随する事項として「かかりつけ医機能」「かかりつけ医機能を発揮する方策」を議論していくことになったものです(関連記事はこちら)。
9月9日の会合には厚生労働省医政局総務課の岡本利久課長から、かかりつけ医機能について▼具体的にどのような機能を想定するか▼かかりつけ医機能を発揮させる意義をどう考えるか▼かかりつけ医機能の定義をどう考えるか▼かかりつけ医機能を発揮するための制度整備をどう考えるか—という論点が示されましたが、7月20日の会合と同様に、実質的にはフリートークとなりました。
まず注目されるのは、かかりつけ医機能が「医師個人の機能なのか?医療機関の機能なのか」という点です。この点、岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は「現在、日本病院会でかかりつけ医機能について議論を進めているが、そこでは『専ら医療機関の機能ではないか』という考えが多く示されている」ことを紹介。あわせて、かかりつけ医機能の具体的内容として▼緊急時に自院で対応または他院と連携して対応する▼広範な全人的医療提供▼地域包括ケアシステムの推進―の3点がとりわけ重要である点を岡留構成員は強調しています(関連記事はこちら)。
一方、猪口雄二構成員(日本医師会副会長)は「医療機関の機能としてのかかりつけ医機能と、医師個人の機能としてのかかりつけ医機能とがあると考えられ、両者は分けて検討すべき」との考えを示しています。たとえば在宅患者が急変した場合の対応などは「医療機関によるかかりつけ医機能」がフィットし、健診や予防接種などは「医師個人によるかかりつけ医機能」がフィットするのではないかと猪口委員は例示しています。
「かかりつけ医機能とは何か」が明確にならない中で、医師個人の機能か、医療機関の機能かを明確に切り分けることは難しいようです。例えば、難病患者では「大学病院や中核病院に在籍する専門医」をかかりつけ医と考えるケースが少なくないと思われます。「日本でその疾患を診れるのは、その専門医1人きり」という場合もあり、当該専門医は「かかりつけ医機能」を果たしていると言えそうです。この場合、「医師個人がかかりつけ医機能を持っている」と考えることが妥当でしょう。しかし、当該専門医が勤務する大学病院等が「かかりつけ医機能を持っているか」という点には疑問も生じます。
一方、猪口構成員が指摘するように、「在宅患者への急変を輪番制で行う」ような場合、医療機関単位で「かりつけ医機能を果たす」と考えることができそうです。そこには地域密着型の中小病院が輪番制に参画することもあり、当該中小病院は「かかりつけ医機能の一端を担っている」と言えそうです。しかし、「当該病院に勤務する医師がすべてかかりつけ医機能を持っているか」となると、ここにも疑問が生じます。「かかりつけ医機能を持つ医療機関」に勤める医師すべてが、かかりつけ医機能を果たすとは言い切れないようです。
このように考えると、「かかりつけ医機能のこの部分は医師個人に属する」「かかりつけ医機能の別の部分は医療機関全体で果たすべきものである」という形に備わっていると見ることができそうです。
ただし、前述のとおり「かかりつけ医機能とは何か、どのような機能がかかりつけ医機能なのか」という点について明確なコンセンサスはないようです。いわゆる「赤ひげ先生」をイメージする方もおられれば、上述した難病患者のように「大学病院の専門医」がかかりつけ医であると考える方もおられるでしょう。
この点、一部構成員は「一定のコンセンサスがある。日本医師会・四病院団体協議会の考えをベースに、医療DX等の考えを追加すればよいのではないか」と考えているようですが、山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「かかりつけ医機能の捉え方は千差万別で単純に決められるものではない。かかりつけ医の登録制などを提案する意見もあるようだが、かかりつけ医機能が決められない中で、そうした提案には賛成できない。我が国では患者側に医療機関選択権があり、また諸外国において『かかりつけ医の登録制により医療費が逓減した』という研究もないようだ。問題は『かかりつけ医が欲しいが、かかりつけ医がどこにいるのか分からない』という国民・患者への対応である」と強く訴えました。
例えば、「かかりつけ医を登録し、それ以外の外来を受診した場合には患者に特別負担を課す」という仕組みを提唱する識者もおられますが、山口構成員の考えに立てば、「そうした仕組みを検討する環境すら整っていない」と考えられます。
なお、山口構成員の指摘する「『かかりつけ医が欲しいが、かかりつけ医がどこにいるのか分からない』という国民・患者への対応」の一つとして「情報提供」が考えられます。かかりつけ医機能が何かは明確になっていない中でも、例えば日本医師会では「日医かかりつけ医機能研修制度」を実施しています。日本医師会と四病院団体協議会では、2013年に「かかりつけ医機能」についての見解をまとめ、これが「かかりつけ医機能の1つ」であることに疑いはありません(かかりつけ医機能が何かを明確化することはできないが、「この機能はかかりつけ医機能の1つと言える」「この機能もかかりつけ医機能1つと考えて間違いない」というパーツの議論は十分可能である)。この見解に沿った研修を受講した医師が数多く誕生していますが、残念ながらその情報は公表されていません。山口構成員は、この情報を公表するなどして「かかりつけ医がほしい」国民・患者に、「どこに『かかりつけ医機能の1つを持つ医師』がいるのか」の情報を提供してはどうかと猪口構成員に提案しています。今後の日医の検討に期待が集まります。
見てきたように、かかりつけ医機能に関する議論は、第8次医療計画に関する検討会で進められており、検討会では「本年度(2023年度)中に、第8次医療計画の策定指針に向けた意見をまとめる」予定です。
一方、改革工程表では「2022・23年度にかかりつけ機能に関する議論を行う」とのスケジュールを立てており、「検討会で、かかりつけ医について、いつまでに、どこまでの議論を行うのか」が気になります。
この点、岡本総務課長は「全世代型社会保障検討会議などの進捗状況も見ながら、いつまでに、どこまでの議論を行うのか検討していく」と答弁するにとどめています。
構成員の中には「2023年度までにかかりつけ医機能に関する結論を得て、第8次医療計画の中間見直し(2026・27年度予定)に反映させればよい」との考えもあるようですが、中間見直しにおいて「大幅な変更を行う」ことは現実的には不可能です(関連記事はこちらとこちら)。今後、どういった検討スケジュールを厚労省が示すのか注目されます。
なお、検討会では「A構成員はX事項について発言し、B構成員はγ事項について発言する・・」という具合に、構成員間での議論がなかなか嚙み合わずかみ合わっておらず「議論が前に進まない」状況も見られます。今後、厚労省事務局には難しい「議論の舵取り」が求められるでしょう。
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