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GemMed塾 大学病院本院群を取り巻く現況を解説 ~昨今の特定病院群・標準病院群の経営努力とは~

2024年度から「医師確保計画」も新ステージに、医師偏在解消に向け2022年内に見直し案まとめ―地域医療構想・医師確保計画WG

2022.5.12.(木)

2024年度から、医師偏在の解消に向けた「医師確保計画」についても新たな計画を作成することが求められる(3年を1期とする計画である)。このため、医師確保計画作成の考え方についても、問題はないかを検証し、必要な見直しを行っていく—。

具体的には、「医師確保計画のベースとなる医師偏在指標が適切なものかどうかの検証」「計画に医師確保の目標数をどう適切に設定するか」「医師確保に向けた具体的な取り組みをどう考えていくか」といった各項目について、夏までに一通りの議論(第1ラウンド論議)を行い、秋以降に取りまとめ議論に入る—。

5月11日に開催された「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、地域医療構想・医師確保計画WG)で、こうした議論が始まりました。

5月11日に開催された「第4回 地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」

医師偏在の是正・解消に向けた「医師確保計画」、3年に一度の見直しを行う

2024年度からスタートする「第8次医療計画」に向けて、第8次医療計画等に関する検討会や、下部WGの議論が本格化しています(関連記事はこちら(8次医療計画検討会)こちら(地域医療構想・医師確保計画WG )こちら(救急・災害WG)こちら(在宅WG))。2024年度から新計画(第8次計画)をスタートさせるため、▼2023年度に各都道府県で計画を作成する▼2022年度中に計画作成の拠り所となる指針を厚生労働省が定める—必要があります。

地域医療構想・医師確保計画WGでは、名称どおり「地域医療構想」と「医師確保計画」の2つを主な議題とします。医師の地域偏在等是正は、「医療機関の再編・統合」をも含めた地域医療構想の実現と切っても切れない関係にあるためです。

後者の医師確保計画は「2036年度までに、地域の医師偏在を段階的に解消していく」ために都道府県が作成する計画(地域医療構想と同様に医療計画の一部)です。計画は3年を1期としており(当初の2020-23年度計画のみ4年を1期)、2024年度から新計画がスタートするため、上記と同様のスケジュール感で「計画見直し論議」を進めていくことになり、夏頃までに主な論点(医師偏在指標、医師多数区域・少数区域などの設定、目標医師数、、医師確保方針、具体的施策など)について第1ラウンド論議を行い、秋から冬にかけて「意見とりまとめ」を行うことになります。

まず、医師確保計画についてお浚いしておきましょう。

地域(都道府県や2次医療圏等)によって医師配置にバラつき(偏在)があることが従前より問題視されてきています。ここに強力な1手を打つために、2020年度から各都道府県に「医師確保計画を作成し、計画的に医師養成・確保を行う」ことが求められています。医師確保計画・偏在解消に向けた取り組みは、大きく次のような流れで進みます(関連記事はこちらこちら)。

(1)地域の医師確保状況を精緻な指標(医師偏在指標)を用いて相対化(言わば順位付け)し、2次医療圏を▼医師多数区域(医師偏在指標に照らし上位3分の1)▼中間の区域▼医師少数区域(同下位3分の1)—に3区分する

(2)地域の区分に応じた「医師確保計画」(例えば下記のイメージ)を作成する

【医師確保に関する方針】
▼医師多数区域:圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣する
▼中間の区域:圏域内に「医師少数の地域」がある場合など、必要に応じて他の2次医療圏からの医師派遣等を受ける
▼医師少数区域:医師多数の区域(他の2次医療圏)から医師派遣等を受ける

【目標医師数】
▼2次・3次医療圏ごとに「計画満了時点」(つまり3年後)に確保すべき医師数を算出する

【具体的な施策】
▼「地域枠を●名確保する」「医師派遣を●名受けるよう調整する」などの施策を明示する

医師確保計画に基づく医師偏在対策の大枠(地域医療構想・医師確保計画WG3 220511)

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、3次医療圏)

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、2次医療圏)



この計画を第1期(2020-23年度)→第2期(2024-26年度)→第3期(2027-29年度)・・・と進めることで、「医師多数区域」から「医師少数区域」への医師移動を強力に促し「地域偏在を2036年度に解消する」ことを目指すのです。

始まってからまだ時間のたっていない計画ですが、現在の第1期計画の中で課題なども浮上してきており、第2期計画作成に向けた見直し論議が行われます。

医師確保計画のベースとなる「医師偏在指標」、実態を上手に反映できているのか検証

5月11日の会合では「医師偏在指標」を中心議題としました。

地域によって人口・年齢構成・医師の年齢構成などが異なるため、「医師数が多いか少ないか」は実数で比べることは不適切です(人口100万人のA地域には医師が1万人、人口50万人のB地域には医師が8000人いた場合に、実数だけではA地域で医師が多いが、人口比で見ればB地域で医師が多くなる)。

この点、現在は「人口10万人対医師数」を基本に、▼地域住民の年齢・性別(例えば高齢者が多ければ医療ニーズが高く、より多くの医師が必要となる)▼医師の年齢・性別(例えば高齢医師割合が高い場合、稼働能力が低いために、より多人数の医師が必要となる)—などを加味した「医師偏在指標」を用いて、「A2次医療圏は相対的に医師が多い」「B2次医療圏は相対的に医師が少ない」などと判断します(「医師多数」と判断された場合、圏域外からの医師派遣などを受けることができなくなる)。

医師偏在指標の大枠(地域医療構想・医師確保計画WG4 220511)

医師偏在指標の詳細な計算式(地域医療構想・医師確保計画WG5 220511)



この「医師偏在指標」については、例えば▼診療科別に医師数を見ていくべきではないか▼地理的状況を勘案すべきではないか(医療機関へのアクセスを考慮すべき)▼大学病院等の勤務医が他医療機関へ非常勤医師として派遣されていることを加味してはどうか▼臨床研修医などは医師数から除外してはどうか―などの要望が都道府県から出されています。

5月11日の会合でも構成員から、例えば次のような「見直し提案」がなされました。意見・要望を踏まえ、今後、医師確保計画のベースとなる「医師偏在指標」をどう見直していくべきかを具体的に議論していくことになるでしょう。ただし、例えば「勤務医を除外して医師偏在指標を計算し直しても、除外しない場合と大きな差はない(例えば「医師多数区域が多数区域でなくなる」などの変化は生じない)」、「病院とクリニックとの役割分担は地域によって大きく異なるため、別個に医師数を把握できたとして、地域間の比較は極めて難しい」などの状況もあり、どこまでの見直しを行うかは今後の議論やデータを待つ必要があります。

▽医師数を考えるにあたっては「病院の医師」と「クリニックの医師」とを分けて考えるべきではないか(伊藤伸一構成員:日本医療法人協会会長代行、大屋祐輔構成員:全国医学部長病院長会議理事・琉球大学病院院長ら)

▽研修医の診療については「指導医により監督、チェック」などが必須であり、少なくともその分を割り引いて考えるべき。例えば「指導医3名・研修医10名」と「指導医5名・研修医3名」とで比較した場合、前者のほうが「医療体制が充実している」との結論がおかしなことは述べるまでもない(大家構成員)

▽指標計算の1要素である「受療率」について、「全国の受療率」と「地域の受療率」とを見比べたうえで「全国の受療率を採用する」べきではないか(幸野庄司構成員:健康保険組合連合会参与)

▽医師について2年に一度、「勤務場所」「診療科」などを詳細に届け出ることとなっている。指標化は困難であっても、「診療科ごとの配置状況」は正確に把握できるのではないか(猪口雄二構成員:日本医師会副会長)

▽大学病院の勤務医は、「大学病院での勤務」(主たる従事先)と「他医療機関での副業」(従たる従事先)と複数医療機関で勤務しており、勤務時間割合などを考慮して「医師配置」を検討すべきではないか(例えば大学病院の所在するA医療圏で0.7勤務、副業先医療機関の所在するB医療圏で0.3勤務など)(幸野構成員)

医師偏在指標、小児科・産科以外の「診療科別」に設定することは、現時点では困難

猪口構成員や上述の都道府県のほか、織田正道構成員(全日本病院協会副会長)からも「診療科別に医師の多い少ないを見ていくべき」との意見が出ています。医師の偏在は「地域間」だけでなく「診療科間」でも問題視されており、非常に重要な論点です。

しかし、医師偏在指標の設定論議の中でも同様の意見・要望が出ましたが、「小児科」「産科」以外の「診療科別の指標設定は極めて困難」とされています。その背景には「医師の多くは非常に幅広い傷病等をカバーしている」ことが挙げられます。例えば内科標榜医が外科系疾患や皮膚科系の疾患を診ることも少なくありません、とりわけ医師が少ない僻地や離島などでは「内科」を標榜する医師が極めて多くの診療領域をカバーしていることでしょう。このため、例えば「標榜科」で医師をカテゴライズすることは、偏在を考えるうえで非常に大きな問題を含んでいるのです。当面は「地域偏在の解消」に力点を置き、「診療科偏在の解消」は今後の重要検討テーマに据えることになりそうです。



また、「医師偏在指標」に基づいた医師確保計画の作成・稼働により「医師偏在がどの程度是正されてきているのか」を試算し、「医師偏在指標」の実効性や実情反映性を検証すべきとの意見も大家構成員や幸野構成員から強く出されています。上述のとおり「医師偏在指標」は「医師確保計画の基礎」であり、指標が実態から大きくかけ離れていれば「現在の計画・取り組みは無駄になる」可能性もあるため、非常に重要な指摘です。

ただし、上記計画の内容からも分かるように、医師偏在の是正には相当程度の時間がかかります。しかも、第1期計画がスタートした2020年度以降、新型コロナウイルス感染症が全国的に猛威を振るっており、「医師確保計画の成果が芳しくあがっている」とは考えにくい状況です。

もちろん現状を可視化することの重要性は否定されませんが、例えば「医師偏在解消の成果がほとんど出ていないではないか。医師偏在指標は実態を表していない。指標を大きく見直すべき」などと議論することは「拙速である」と言わざるを得ないでしょう。中長期的な視点で成果を眺めていく必要があると思われます。



このほか医師偏在解消に向けて、「医学部入学定員の方向が決まらなければ、地域枠をどの程度設定してもらうべきかなどの検討が進まない。早期に方向を固めてほしい」(野原勝構成員:全国衛生部長会)、「医師派遣方針などを決める地域医療対策協議会では、事実上、地域枠出身など『キャリア形成プログラム』適用医師が主な派遣対象となっているが、全医師に派遣対象を拡大してはどうか」(猪口構成員、大家構成員)などの幅広い観点からの意見も出ています。

地域医療対策協議会で医師派遣方針などを調整する(地域医療構想・医師確保計画WG1 220511)

キャリア形成プログラムの概要(地域医療構想・医師確保計画WG2 220511)



地域医療構想・医師確保計画WGでは、医師偏在対策に向けて「医師確保計画の見直し」論議(夏までに各テーマに関する第1ラウンド論議、秋以降に具体的な見直し論議)とともに、「地域医療構想の実現」促進に向けた議論も並行して進めます。上述のとおり両者は密接に関連しており、ときには「両者を一体として議論しなければならない」など、非常に複雑な議論が進んでいくことになりそうです。



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