医療法改正し「かかりつけ医機能」持つ医療機関情報を国民に提供!地域で「かかりつけ医機能」強化の協議も—社保審・医療部会(2)
2022.11.30.(水)
「かかりつけ医機能を持つ医療機関の情報を国民に提供する」とともに、「地域単位で、かかりつけ医機能の強化を図っていく」ことを目指した医療法改正案を検討する—。
かかりつけ医機能を持つ医師と、患者との間で、「書面でのインフォームドコンセント」を行う仕組みも検討する—。
11月28日に開催された社会保障審議会・医療部会では、厚生労働省医政局総務課の岡本利久課長からこうした提案が行われました。ほかに▼新たな地域医療連携推進法人の創設▼医療法人への経営情報提出義務化・データベースの創設—なども盛り込んだ「医療法改正案」が来年(2023年)の通常国会に提出される見込みです。
目次
国民の医療機関選択を支援するため「かかりつけ医機能」の情報提供を強化
「かかりつけ医機能の明確化」「かかりつけ医機能が発揮できる仕組みの構築」論議が各所で進んでいます(例えば全世代型社会保障構築会議と健康保険組合連合会と日本病院会など)。
外来医療について「まずかかりつけ医機能を持つ医療機関にかかり、そこから必要に応じて高機能病院(地域医療支援病院、特定機能病院、紹介受診重点医療機関など)を紹介してもらう」という流れを強化するためです(関連記事はこちら(紹介受診重点医療機関)とこちら(2022年度診療報酬改定))。
ただし、「かかりつけ医」「かかりつけ医機能」については、定義も明確にされておらず、また論者によってイメージする内容が千差万別であるなど「曖昧」な状況が続いているため、本年(2022年)6月7日の「骨太方針2022」(経済財政運営と改革の基本方針2022)で「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」方針を明確化。また、昨年(2021年)12月の「新経済・財政再生計画改革工程表2021」では、「かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について、2022年度・2023年度に検討する」方針を掲げています。
こうした中で岡本総務課長は、全世代型社会保障構築会議の議論も踏まえて「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」案を11月28日の医療部会に提示しました。
「かかりつけ医機能を持つ医療機関の情報を国民に提供する」とともに、「地域単位で、かかりつけ医機能の強化を図っていく」ことを目指すもので、医療法改正により次のような仕組みを設ける考えです。「国民・患者に『かかりつけ医』を持つことを義務化する」ような仕組みではなく、「国民・患者が『かかりつけ医』を持ちやすい環境を整える」ことを目指すものである点に留意が必要です。
(1)国民への「かかりつけ医機能」に関する情報提供を強化するために、「医療機能情報提供制度」を充実する(下図の下段「青」部分がイメージ)
(2)地域単位でのかかりつけ医機能強化を行うために、新たに「かかりつけ医機能報告」制度を創設する(下図の中段「赤」部分がイメージ)
まず(1)は、国民に「どの医療機関がかかりつけ医機能を保持しているのか」という情報を広く提供するものです。全世代型社会保障構築会議でも「かかりつけ医は国民・患者自身が『選択』できる仕組みとする」方針を打ち出されており、選択のためには「情報」が必要です。この点、国民の医療機関選択を支援する「医療機能情報提供制度」(医療機関等(▼病院▼診療所▼歯科診療所▼助産所―)が、毎年度、自院の機能を都道府県に報告し、都道府県がその情報を整理して、ホームページ上で公開するもの、厚労省のサイトはこちら(各都道府県のホームページに飛ぶことができる))を見直し、「かかりつけ医機能に関する情報提供」強化を行います。
詳細は今後詰めていきますが、岡本総務課長は次のような大枠の考え方を示しています。
▽現在の医療機能情報提供制度における「かかりつけ医機能」(日常的な医学管理・重症化予防、地域医療機関等との連携、在宅医療支援、介護等との連携、適切かつ分かりやすい情報提供、地域包括診療加算・地域包括診療料・小児かかりつけ診療料・機能強化加算の届け出)は具体性に乏しく、分かりにくい(関連記事はこちら)ことから、例えば▼日常的によくある疾患への幅広い対応▼医療機関の医師がかかりつけ医機能に関して受講した研修など ◆入退院時の支援など医療機関との連携の具体的内容 ◆休日・夜間の対応を含めた在宅医療や介護との連携の具体的内容—など「国民目線に立った」内容に分かりやすく見直す
▽詳細は、今後、専門家・有識者で検討
▽「かかりつけ医機能」は現在、厚生労働省令に規定されているが、法律に規定する(格上げを行う)
各医療機関は、毎年度、新たに設定される「かかりつけ医機能」を保有しているか・その内容はどのようなものかを都道府県に報告。都道府県が、この報告内容を整理して公表することで、地域住民の「かかりつけ医療機関選択」をサポートすることになります。
医療機能情報提供制度については「各都道府県で公表方法が区々で分かりにくい」との指摘があり、2024年度に「全国統一の仕様」とするためのシステム改修が行われます。このシステム改修を視野にいれ「かかりつけ医機能情報提供の強化」が図られることになるでしょう。
なお、医療機能情報提供制度には「国民の認知度が低い」という大きな課題があります(11%程度にとどまる、関連記事はこちら)。こうした点へのテコ入れも、今後の重要な検討課題の1つとなってくるでしょう。
かかりつけ医機能報告制度を新設し、データをもとに「地域単位での機能強化」進める
また(2)は、各医療機関に「自院が、かかりつけ医機能を保持しているのか否か」の報告を求め、その情報をもとに「地域単位で、かかりつけ医機能の強化を図る」ことを目指すものです。
「自院が、かかりつけ医機能を保持しているのか否か」の報告を求める【かかりつけ医機能報告制度】(仮称)を、新たに医療法に規定することになります。
こちらも詳細は今後詰めていきますが、岡本課長は「現時点の考え方」を11月28日の医療部会に報告しました。
(A)報告してもらう「かかりつけ医機能」の内容を、今後、専門家・有識者で詰める
→【例】「慢性疾患を持つ高齢者」に対応するかかりつけ医機能としては、(a)外来医療の提供(幅広いプライマリケア等)(b)休日・夜間の対応(c)入退院時の支援(d)在宅医療の提供(e)介護サービス等との連携—などが設定されたと仮定する
↓
(B)各医療機関は、毎年度(A)の「かかりつけ医機能の保有状況、今後の保有意向」を都道府県に報告する
↓
(C)都道府県は、各医療機関の報告内容を整理し、「この地域では、どのような機能を持つ医療機関がどの程度あり、どのような機能が不足しているのか」などのデータを「地域の協議の場」に提示する
↓
(D)協議の場で、地域で不足している機能を充足するため、医療機関支援や医療機関間連携の具体的方法を検討する
↓
(E)都道府県は、(B)の報告内容をもとに「かかりつけ医機能を持つ医療機関」情報を公表する
病床機能報告(自院の病棟がどのような機能を持つか、入院診療実績はどのような状況か)、外来機能報告(紹介受診重点医療機関になる意向があるか、外来診療実績はどのような状況か)に続く、「かかりつけ医機能」の報告制度を創設するものです。
▼対象医療機関をどう考えるか(クリニックのみならず、病院も対象になると思われるが、その範囲をどう考えるのか)▼各機能について質をどう担保するのか(どのレベルに達してれば「機能を持つ」と判断するのか)▼各機能について「複数医療機関の連携」で持つ場合をどう考えるのか▼都道府県が「かかりつけ医機能を持つ」として公表する医療機関の基準をどう考えるのか(設定された機能のすべてを持つ医療機関のみなのか)▼機能の一部しか持たない医療機関をどのように扱うのか—など詰めていかなければならない事項が山積しており、今後の検討に注目が集まります。
こうした提案内容については好意的に受け止める委員が多く、▼かかりつけ医に求められる能力を保有・維持するための研修などを国で位置付け、それを受講している医師を公表する仕組みとしてほしい(山口育子委員;ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼まず大枠の合意を得て、そこから「具体的な機能」の内容を詰めていくべき(釜萢敏委員:日本医師会常任理事)▼自治体と地域医師会との連携が重要である(角田徹委員:日本医師会副会長)▼かかりつけ医の質を担保するために「公的機関による認証」を検討してはどうか(河本滋史委員:健康保険組合連合会専務理事)▼コモンディジーズへの対応、全人的対応、24時間対応を必須の要素とすべき(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼「かかりつけ医機能を持つ医師・医療機関」と「そうでない医療機関」とにはインセンティブ(診療報酬など)の面でも当然「差」をつけるべき(小熊豊委員:全国自治体病院協議会会長)▼NDBを分析することで、かかりつけ医機能に求められる「幅広い診療内容」の大枠が整理できる。母子手帳を好事例として考えていくべき(松田晋哉委員:産業医科大学教授)—など、非常に多彩な建設提案が出ています。今後も議論が継続されます。
ただし、「議論の前提となる認識が委員間で異なり、まずそこを整理しなければならない」(相澤孝夫委員:日本病院会会長)、「クリニックの質がばらばらである。まずクリニックの質を担保することが最優先ではないか」(山崎學委員:日本精神科病院協会会長)という意見も強い点、また識者からは「あまりに唐突である。全世代型社会保障構築会議の顔も見なければならないが、極めて重要な制度創設であり、じっくり腰を据えた議論がいるのではないか」という指摘もあることに留意が必要でしょう。
かかりつけ医と患者との間で「書面でのインフォームドコンセント」制度化も
また岡本総務課長は、患者と医療機関との間で「書面により、かかりつけ医機能を確認する仕組み」を創設する考えも提示しました。
「慢性疾患などに罹患し、継続的な管理が必要な患者」と「当該患者の継続管理を行っている医師」とが、書面で「今後想定される病状の変化、その際に考えられる治療・医学的管理の方針や内容」などを確認するものです。現在でも、多くの医師・患者が「口頭で行っている確認」を「書面で行う」ことで、患者がより安心して当該医療機関を受診できると考えられます。患者が複数の慢性疾患にかかり、それぞれの担当医が「継続的な医学管理が必要である」と考える場合には、複数医療機関と「書面でのかかりつけ医機能確認」を行うことも可能です。
したがって、この仕組みは、例えば「健康な人が、事前に近隣の医療機関と契約し、新興感染症が発生した場合にも確実に医療提供してもうらことを約束してもらう」といったような類のものでも、「国民に、自身のかかりつけ医療機関に関する登録を求める」ようなものでもありません。
ただし、委員からは「すべての国民がかかりつけ医を持つ」ことを目指し、より広範な仕組みを考えるべき旨の指摘も出ており、今後の検討課題の1つになるかもしれません。
年内に医療部会で意見をまとめ、▼新たな地域医療連携推進法人の創設▼医療法人への経営情報提出義務化・データベースの創設—なども盛り込んだ「医療法改正案」が来年(2023年)の通常国会に提出される見込みです。
このほか、11月28日の医療部会では▼認定医療法人(持ち分あり医療法人でも、一定の要件をクリアして厚生労働大臣の認定を受けた場合には、一定期間税制上の優遇が受けられる)を延長する(現在、2023年9月まで)▼医師働き方改革に向け、「1860時間以上の時間外労働」を行っている医師の所属する医療機関、「医師の引き揚げ」により機能停滞が懸念される医療機関に対し、宿日直許可取得やタスクシフトなどの重点的支援を行う(関連記事はこちら)—方針を固めています。
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