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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

原則「すべての医療法人」に詳細な経営情報提出を義務付け、政策立案に用いるほか、国民にも情報提供—医療法人経営情報DB検討会

2022.11.9.(水)

医療法を改正し、「医療法人の経営状況に関する詳細な情報のデータベース」を構築する。一部の小規模法人を除き、原則、すべての医療法人に経営情報の提出を義務付ける—。

このデータベースを活用し、医療政策の企画・立案、医療従事者の処遇改善、医療機関の経営支援などを行う—。

また、医療法人の経営状況に関する情報を広く国民に提供するとともに、医療経済研究に向けたデータの第三者提供を行う—。

11月8日に開催された「医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった内容の報告書がまとめられました。今後、社会保障審議会・医療部会での審議→改正法案の作成→来年(2023年)の通常国会への法案上程→審議・成立を待って、来年度(2023年度)中のデータベース構築(その後の早期の利活用スタート)を目指します。

11月8日に開催された「第2回 医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」

原則として、すべての医療法人に「経営状況の詳細」に関するデータ提出義務

▼医療技術の高度化・少子高齢化に伴う医療保険財政の逼迫▼物価高騰・為替変動(円安)に伴う医療機関経営の逼迫▼新興感染症(新型コロナウイルス感染症など)に伴う医療提供環境の急変—など、医療機関経営を巡る大きな変化が生じています。

こうした中では「データに基づく適切かつ迅速な政策立案や医療機関支援」などが必要となることから、検討会において「医療法人の経営状況に関するデータベース」構築論議が始まり、今般、報告書が取りまとめられました。すでに前回会合で制度の大枠が固められており、重複が多くなりますが、新データベースの概要を眺めてみましょう。

まず、骨格は「新たに詳細な経営情報の提出を医療法人に求め、その情報を国でデータベース化し、さまざまな政策等に活用する」ものです。

データ提出は、原則として「すべての医療法人に義務付け」られますが、小規模な四段階税制(法人税制度上、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置)を受けているところ(60法人程度)は、事務負担を考慮し除外することになりました。

提出するデータは次のように規定されました。多様かつ詳細なデータが集積されれば、それだけ有用なデータベースが構築できますが、医療法人の負担にも配慮しなければならず、両者のバランスを考慮したものと言えます。

▽収益・費用(損益計算書)については、対象を病院・診療所に限定し、「医療機関ごとの財務諸表を作成するために策定された病院会計準則」をベースにデータ提出を求める

▽資産・負債・純資産(貸借対照表)については提出を求めず、現行の事業報告書等による貸借対照表による

▽「職種ごとの年間1人当たりの給与額」を「『1月1日から12月31日までの職種別総給与支出』÷『病床機能報告における職種ごとの人数(毎年7月1日時点)』」として計算し、任意でのデータ提出を求める

病院に提出が義務付けられるデータ(医療法人経営データベース検討会1 221108)

診療所に提出が義務付けられるデータ(医療法人経営データベース検討会2 221108)

職員給与等の任意提出を求める職種一覧(医療法人経営データベース検討会3 221108)



このうち、「1人当たり給与額」は、政府の公的価格評価検討委員会からの「現場で働く医療従事者の給与上の処遇を把握せよ」との宿題(内閣官房のサイトはこちら)に対する回答と言えます。この点、「任意の提出とする点、計算方法について公的価格評価検討委員会の要請に沿っているのか」(=義務化としなくてよいのか)との旨を指摘する声もありましたが、医療法人サイドを代表する猪口雄二構成員(日本医師会副会長)、今村英仁構成員(日本医師会常任理事)、伊藤伸一構成員(日本医療法人協会会長代行)、野木渡構成員(日本精神科病院協会 副会長)は、「職種別の給与費を把握していない医療法人も少なくなく、義務化すれば大きな負担増となる」「小規模な法人では、例えば『薬剤師は1人配置のみ』となっており、職種別給与を示すことは、当該個人の給与費を報告することとなってしまう。個人情報保護の観点で問題があるのではないか」と指摘し、「任意提出とする」方向を確認しました。

上述したように「多様かつ詳細なデータが集積したほうが、有用なデータベースが構築できる」という視点がある一方で、「データ提出義務が課せられる医療法人の負担にも配慮しなければならない」という要請もあります。

こうしたデータは、事業報告書と同じく「決算終了後3か月以内」の提出が求められますが、医療法人の事務負担を考慮して、一定の猶予を設けることになります。

国でデータを利活用するほか、国民に「医療機関全体の経営状況」情報を公表

医療法人は、上述のデータをG-MIS(医療機関等情報支援システム)を通じて、都道府県と国に提出します。国は、このデータを新データベースに格納し、さまざまなデータとの連結分析などを行ったうえで政策立案などに活用することになります。

この点について、「紙ベースでのデータ提出も認める」「データベース構築は国と福祉医療機構(WAM)で共同して行う」考えを示しています。

新たな医療法人経営データベースの運用イメージ(医療法人経営データベース検討会4 221108)



「さまざまなデータとの連結分析」に関しては、統計法にのっとり、▼新たな医療法人経営データと病床機能報告・外来機能報告データとは常時連結した統合データベースとして管理ができる▼その他のデータ(例えば医療施設調査など)と、新たな医療法人経営データとは、常時連結はできないが、必要に応じて都度連結解析できる—ことになります。荒井耕構成員(一橋大学大学院経営管理研究科教授)は、こうした点を明確にするよう要望しています。

さまざまなデータと連結解析することで、例えば「高度急性期病床」を持つ病院の利益率はどの程度なのか、病床規模別に見ると病院の利益率はどうなるのか(大規模ほど効率的経営が可能となり利益率が良いのか?それとも高コストとなり利益率が悪いのか?)、従前より理論上「7対1看護よりも10対1看護のほうが利益率が高い」とされているが、実際はどうなのか、などが明らかとなってきます。こうしたデータを、さまざまな医療政策(医療計画、各種補助金、診療報酬改定)などに利活用していくことも期待が集まるでしょう。また、データを踏まえて医療法人が経営方針の見直し(7対1→10対1、急性期→回復期への転換など)を自主的に検討することも可能となるでしょう。

医療法人経営データをグルーピングしたうえで、国民に情報公表

さらに、こうしたデータは「国民に公表する」ことが求められます。

少子高齢化の進展、医療医術の高度化により、医療保険財政が脆くなっていく(医療費が高騰する一方で、費用負担する現役世代が減る)中では、国民の負担増(保険料、税、窓口一部負担の引き上げ)が必要となります。その際、「医療機関を儲けさせるために国民負担を引き上げるのはおかしい」という誤解が生じないように、「医療法人の経営状況はこのように厳しいのです。医療保険制度を維持するために負担増が必要なのです」というデータを分かりやすく、丁寧に情報提供していくことが不可欠となります。

こうした要請に応えるために新たな医療法人経営データを「国民に公表する」ことになりますが、個別医療機関のデータを公表するわけではありません。医療法人全体の利益は平均○○万円、都道府県別に見ると●●、病院の規模別に見ると◆◆などといった概括的なデータ公表が行われます。

「どのような内容のデータを公表すべきか」「どのようなグルーピング(地域別、規模別)を行うべきか」を後に詰めていくことになります。その際に重要となる視点が「個別医療機関の特定につなげない」ところです。猪口構成員や野木構成員は、この点を改めて強調しています。

なお、松原由美構成員(早稲田大学人間科学学術院教授)は「公表されたデータの見方を丁寧に説明することも重要である。社会福祉法人の経営データが公表された際には『莫大な内部留保がある』と報道等されたが、実際にはデータの見方を知らない報道機関が、誤った理解をしたものであった。医療法人も『非営利』であり、一般企業の財務諸表とは見方が大きく異なる点などを丁寧に分かりやすく説明する必要がある」と提案しています。非常に重要な視点と言えます。

研究者への医療法人経営データ提供、詳細は改正法成立後に検討

さらに、こうした「医療法人の経営データ」は、医療経済や社会保障の研究において極めて有用であることから、▼医療経済に対する国民の理解に資すると認められる学術研究▼適正な保健医療サービスの提供に資する施策の企画・立案—などを行う第三者(大学研究者や公的研究機関など)にデータ提供(第三者提供)が行われます。

第三者の範囲をどう考えるのか?提供するデータはどのようなものとするのか?データ提供の可否を審査する仕組みをどう設置するのか?などは制度創設後に詳細に詰めていくことになります(データベースの構築→データの格納→第三者提供には一定の時間がかかるため、この間に詳細を詰める)。

なお、第三者提供にあたっても「個別病院の特定に繋がるようなことがあってはならない」という声が多くの構成員から改めて出ています。この点、他のデータ(病床機能報告・外来機能報告・医療施設調査・医療経済実態調査など)と連結解析することで有益な研究につながると期待されますが、その分「個別病院の特定」につながりやすくなります。報告書では、「提供する情報の範囲は研究目的に照らして必要最小限の範囲の情報に限定するなど、個人・法人の権利利益が侵害されないよう配慮した上で提供する必要がある」点を確認しています。



今後、報告書の最終調整(文言の調整など)を厚労省と田中滋座長(埼玉県立大学理事長)とで行ったうえで、社会保障審議会・医療部会での審議を待ちます。その後、「医療法改正案を来年(2023年)の通常国会へ提出」→「国会での審議・成立」→「2023年度中にデータベース構築を行う」→「データの一定程度の集積を待って利活用をスタートする」ことを目指します。

なお、厚労省は「地域医療連携推進法人の新類型」創設を考えていますが、同じ改正法案に盛り込むかどうかは決まっていません(関連記事はこちら)。



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