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医療法人の経営状況をデータベース化し、国民への情報提供・政策立案・処遇改善などに活用—医療法人経営情報DB検討会

2022.10.20.(木)

医療法人の経営状況に関する詳細な情報をデータベースを新たに構築し、例えば国民への情報提供、医療政策の企画・立案、スタッフの処遇改善、医療機関の経営支援、医療経済に関する研究などに活用する—。

こうした議論が10月19日に開催された「医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」(以下、検討会)で始まりました。来年度(2023年度)中にデータベースを構築し、早期の利活用スタートを目指します。

10月19日に開催された「第1回 医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」

医療法人に「経営状況の詳細」に関するデータ提出を、新たに義務付ける

少子高齢化が進む中で医療保険財政が逼迫化し、国民の負担(保険料、税、窓口一部負担)増を検討していかなければなりません。その際には、「医療機関の経営状況はこのように厳しいのです。医療提供体制を安定化させるために国民負担を増加しなければならないのです」と、データを示しながら丁寧に説明していくことが必要不可欠となります。説明泣き負担増は国民の理解を得られないからです。

他方、医療機関の経営支援や医療従事者の処遇改善を考えていく際にも「医療機関の経営状況」に関するデータを見なければなりません。あわせて医療提供体制改革などを行う際にも「経営状況のデータ」は必須となります。

こうしたデータを揃え、分析していくために、「医療法人の経営状況に関する詳細な情報をデータベース」構築に向けた議論が検討会で始まりました。医療法人から「経営に関するデータ」提出を新たに求め、国でそれを集積し(データベース化)、分析・公表等を行っていく仕組みです。

このデータベースを構築するにあたっては、(1)データ提出を求める医療機関等の範囲をどう考えるのか(2)提出してもらうデータは、どのようなものとするか—をまず固めなければなりません。この点、厚生労働省は次のような考え方を提示しており(下図参照)、検討会でも異論は出ていません。今後、詳細を詰めていくことになるでしょう。

【(1)対象医療機関】 
▽原則として、「すべての医療法人」とする
▽ただし、小規模な四段階税制(法人税制度上、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置)を受けている医療機関(60法人程度)は、事務負担を考慮し除外する

【(2)提出データ】
▽収益・費用(損益計算書)については、対象を病院・診療所に限定し、「医療機関ごとの財務諸表を作成するために策定された病院会計準則」をベースにデータ提出を求める
▽資産・負債・純資産(貸借対照表)については、現行の事業報告書等による貸借対照表による
▽「職種ごとの年間1人当たりの給与額」を「『1月1日から12月31日までの総給与支出』÷『病床機能報告における職種ごとの人数』」として計算し、任意でのデータ提出を求める

新たに医療法人に提出が義務付けられる経営状況データ(案)(医療法人経営DB検討会1 221019)



基本的に「医療法人に、詳細な経営データ提出を新たに義務付ける」仕組みとなりますが、医療法人の事務負担を考慮し、提出するデータは既存の財務諸表など流用できる(あるいは容易に作成できる)ものとなる見込みです。

なお、データ提出の時期は、事業報告書と同じく「決算終了後3か月以内」となる見込みですが、ここでも医療法人の事務負担を考慮して、一定の猶予を設ける方向で検討が行われます。

国でデータを利活用するほか、国民に「医療機関全体の経営状況」情報を公表

国は、このように収集した医療法人の経営データをもとに「医療機関の経営支援」(例えば、新興感染症が蔓延した際に収益が下がれば、どのように経営補填をすべきかを正確に検討できる)や「医療政策の企画・立案」を行っていくことになります。エビデンスに基づく政策(いわゆるEBP)が、さらに一歩推進されることになります。

なお、新たな医療法人経営データと病床機能報告・外来機能報告データとの連結が可能となる仕組み(医療機関ごとに同じIDを付与する)も設けられます。これにより、例えば「高度急性期病床」を持つ病院の利益率はどの程度なのか、病床規模別に見ると病院の利益率はどうなるのか(大規模ほど効率的経営が可能となり利益率が良いのか?それとも高コストとなり利益率が悪いのか?)などが明らかとなってきます。こうしたデータを、さまざまな医療政策(医療計画、各種補助金、診療報酬改定)などに利活用していくことも期待が集まるでしょう。



また、冒頭に述べたように「医療機関の経営状況」を国民に情報提供することも極めて重要です。少子高齢化の進展、医療医術の高度化により、医療保険財政が脆くなっていきます(医療費が高騰する一方で、費用負担する現役世代が減る)。そうした中で国民の負担増(保険料、税、窓口一部負担の引き上げ)が検討されますが、「医療機関を儲けさせるために国民負担を引き上げるのはおかしい」という誤解が生じないように、「医療法人の経営状況はこのようになっているのです」というデータを分かりやすく、丁寧に情報提供していくことが不可欠となります。

この目的に照らすと、公表すべきは「●●医療法人病院の利益は●●万円、当該病院の医師の給与は◆◆円から◇◇円、看護師の給与は▲▲円から△△円」などといった個別データではなく、「医療法人の利益は平均○○万円、医師の給与平均○円、看護師の給与平均は○円、都道府県別に見ると●●、病院の規模別に見ると●●」といった概括的なデータの方が好ましいと考えられます(十数万施設ある個別データを出されても、一般国民はそれを分析・解析して判断する困難である)。

今後、「どのような内容のデータを公表すべきか」「どのようなグルーピング(地域別、規模別)を行うべきか」を詰めていくことになりますが、野木渡構成員(日本精神科病院協会副会長)は「例えば2次医療圏別のデータ公表となると、医療機関が特定される可能性が非常に高くなる」(地域によっては●●床以上の●●科を持つ医療法人病院は1か所、などのケースもある)と指摘し、適切なグルーピングの検討を求めています。この点、松原由美構成員(早稲田大学人間科学学術院教授)は病院経営管理指標を参考にしてはどうかと提案しています。

研究者にもデータ提供を行うが、病床機能報告との連結を可能にするかなどは検討課題

さらに、こうした「医療法人の経営データ」は、医療経済や社会保障の研究において極めて有用と考えられます。このため▼医療経済に対する国民の理解に資すると認められる学術研究▼適正な保健医療サービスの提供に資する施策の企画・立案—などを行う第三者(大学研究者や公的研究機関など)にデータ提出が行われます。

第三者の範囲をどう考えるのか?提供するデータはどのようなものとするのか?などは今後詰められますが、レセプトや特定健診データなどを格納するNDB(National Data Base)からのデータ提供と同様に「有識者により、研究目的やデータの範囲などに関する審査」を経ることになりそうです。

「データの利活用により医療経済や社会保障研究の水準が上がる」と期待されることから、第三者提供に反対する声はありません。ただし提供されるデータは「機微性の高い経営データ」であることから、「個別病院の特定に繋がるようなことがあってはならない」という声が多くの構成員から出ています。

この点、医療経済研究者である荒井耕座長代理(一橋大学大学院経営管理研究科教授)は「研究という側面からすれば、経営データにとどまらず、それを病床機能報告・外来機能報告データと連結して分析・解析することに大きな意味がある。第三者提供でもデータ連結を考慮してほしい」と要望しました。ただし、データの連結は「有益な分析・解析が可能になる」一方で、「医療機関の特定につながりやすくなる」側面もあります。個人情報保護に詳しい北山昇構成員(森・濱田松本法律事務所弁護士)は「研究目的であってもプライバシー保護などには十分配慮する必要がある」点を強調。両者のバランスなどにも鑑みながら、第三者提供の仕組みを考えていくことになります。

医療法人について「経営状況DB」と「事業報告書DB」との2つのデータベース

ところで、Gem Medで報じているとおり、医療法人は毎年度、都道府県に「事業報告書」を提出することが義務付けられており、これを▼オンラインでの届け出を可能とする▼都道府県のホームページ等で閲覧可能とする(手法は都道府県が判断する)▼報告データを国でデータベース化する—こととなっています(関連記事はこちら)。

医療法人事業報告書のデータベース化が別に進んでいる(医療法人経営DB検討会2 221019)



この「事業報告書に関するデータベース」と、今般検討が始まった「新制度に基づく医療法人の経営状況データベース」とは異なるものです(2つのデータベースができることになる)。

この点「事業報告書は、極論すれば『誰でも閲覧可能』となっている。新たな医療法人経営状況データベースは、事業報告書をベースに作成されるため、公表や第三者提供の限定は不要ではないか」という疑問もわきますが、厚労省は「事業報告書はあくまで概括的な内容にとどまっている。新たな経営状況データは詳細なものであり、両者は全く異なるもので、それぞれに公表・第三者提供などを考えていかなければならない」旨を説明しています。

もっとも、「貸借対照表」については、現時点で「医療機関単位で作成しておらず、法人単位でしか作成していない」ケースも少なくないため、上述のように「新たな経営状況データベースにおいても、事業報告書の貸借対照表による」とされているように、両データベースに重複する部分もあります。荒井座長代理は「データベース構築・利活用について、一緒に考えていくべき部分もあるのではないか」とコメントしています。

関連して松原構成員は「一定の期間を設けたうえで、医療法人に対し『医療機関単位の貸借対照表』作成を義務付ける必要があるのではないか。自院の経営状況可視化のためにも重要である」と提案しています。これは別の場で議論・検討することになるでしょう。



「2023年度中にデータベース構築を行う」→「データの一定程度の集積を待って利活用をスタートする」ことを目指し、検討会で新制度(経営状況データ提出の義務化、データベースの内容、利活用範囲など)論議が進められます。すでに制度の大枠が固まっていることから、田中滋座長(埼玉県立大学理事長)は厚労省に対し「11月8日開催予定の次回会合に、取りまとめ案を提示せよ」と指示しており、スピード感を持った議論が進みそうです。



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