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医療法人財務省表などのネット開示等、厚労省の委託研究では「医療法人の6割が賛成」

2022.8.17.(水)

医療法人の経営データ(財務諸表など)について「インターネットで開示する」ことや、「全国データベースを構築する」(例えば経営指標などを提示する)ことについて、6割の医療法人が賛成している—。

厚生労働省がこのほど公表した「医療法人の事業報告書等に係るデータベース構築のための調査研究事業」報告書では、こういった結果が示されました(厚労省のサイトはこちら(概要)こちら(全文))。

ただし、この調査結果について四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)では「肌感覚と異なる」として独自に調査を実施。そこでは「ネット開示に反対する医療法人が8割」という、いわば真逆の結果が示されています(関連記事はこちら)。

「医療法人経営データの全国開示などに6割の医療法人が賛成」との調査結果

従前より医療法人には、会計年度が終了するごとに次の書類を都道府県知事に届け出ることが義務付けられています。保険診療が公的性格を色濃く帯びていること(財源の7―9割は国民の税金、医療保険加入者の保険料・税で賄われている)、健全な経営を確保する必要性のあること(経営が不安定になれば地域医療に多大な影響が出てしまう)などを踏まえた義務と説明されています。
▼事業報告書
▼財産目録
▼貸借対照表
▼損益計算書
▼監査報告書
▼関係事業者との取り引きの状況に関する報告書
▼その他の書類

医療法人には事業報告書等などを都道府県に届け出る義務がある(医療部会(1)2 211102)



これらの書類提出は「紙」ベースで行われてきましたが、厚労省は(1)今年度(2022年度)からG-MISへの電子データアップロードによる届け出とする(2)来年度(2023年度)からは都道府県ホームページ等でデータを閲覧可能とする(3)将来には全国データベースを構築する(検討中)―という方針を昨年(2021年)11月2日の社会保障審議会・医療部会に提示しています。

(1)のデジタルアップロードについては、事務負担軽減というメリットが都道府県にも医療機関にもあるため、特段の反対意見は出ていません。しかし、(2)の「ネット開示」、(3)の「データベース構築」については医療機関サイドから▼閲覧者が匿名で、つまりどこの誰か明らかでない人間が情報にアクセス可能とするのは問題ではないか。行き過ぎた詮索や営業活動などに使われるのは遺憾ではないか▼今の未成熟なネット事情を見れば、誰でも閲覧できる状況とすれば想定外の問題が生じる可能性が高い。医療に専念しなければならない一方で、そうした想定外の問題への対応をしなければならないとなれば医療法人経営が立ち行かなくなる―といった懐疑的な意見・反対の意見が出ています。

この点、厚労省がコンサルティング会社に委託して、(2)の「ネット開示」、(3)の「データベース構築」について都道府県が医療法人などがどのように受け止めているのかを調査。今般、その結果が公表されました(38都道府県、365医療法人、4税理士法人が本年(2022年)2月にアンケート回答)。

まず、(2)の「ネット開示」については、都道府県の94.7%、医療法人の60.0%が「賛成」していることが示されました。

医療法人事業報告書のネット開示について、都道府県の95%が「賛成」と回答

医療法人事業報告書のネット開示について、医療法人の6割が「賛成」と回答



少数派である「反対」意見としては、▼税制優遇を受けているわけでもなく、医療法人のみ一律に公開を求められる理由が理解できない▼が入力作業等が煩雑である▼関係のない者に閲覧されたくない▼不特定多数の人への情 報公開をした場合に詐欺やそれに類する行為の対象となるのではないかと危惧する▼未知の業者などからの宣伝や勧誘・案内などが増え、主たる事業の防げになる可能性がある▼「職員採用に不利となる」「風評被害により、患者が集まらなくなる」「物品購入の価格交渉に影響が出る」ことが懸念される▼M&A会社や金融機関等からの標的になりやすくなる—などが目立ちます。



他方、(3)に関連した「全国規模の経営指標」(国が医療法人から施設別の経営情報(非公表)に関する追加的報告を受け、これを活用して全国規模の匿名化された病院の経営指標(全国の平均値等)を作成する)に関しては、都道府県の39.5%、医療法人の60.8%が「必要である」と考えていることが示されました。

医療法人事業報告書の全国データベース構築に基づく「全国規模の経営指標」作成について、都道府県の4割が「必要」と回答

医療法人事業報告書の全国データベース構築に基づく「全国規模の経営指標」作成について、医療法人の6割は「必要」と回答



今回調査において少数派(医療法人)となる「反対」意見(「必要なし」との意見)を眺めると、▼地域や施設ごとの特徴、パフォーマンスに差があり参考になることが少ない▼経営母体の違いで大きな差が出て比較材料にならない▼新たに報告することが業務的に負担となる▼診療所と病院とでまったく異なる—などが目立ちます。

一方、多数派である「賛成」(「必要あり」との意見)医療法人では「期待する経営指標」として、例えば▼医業利益率▼経常利益率▼材料費比率▼人件費比率▼借入金比率▼自己資本比率—などをあげています。



このように、厚労省調査では(2)の「ネット開示」、(3)の「データベース構築」に双方について「多くの医療法人が賛成している」結果が示されました。しかし、四病協では「肌感覚と異なる」として独自調査を実施。そこでは「ネット開示に8割の医療法人が反対する」など、真逆とも言える結果が示されています(関連記事はこちら)。

医療法人経営状況のデータ単独でなかく「病床機能報告」などとのクロス分析が有用では

上記のアンケート結果では「ネット開示等に賛成」意見が多数を占めていますが。「ネット開示に反対する」声もあります。個別医療法人を対象としたヒアリング調査結果や有識者論議でも、この点が確認され「一定の配慮」が必要と考えられます。そこで報告書では、医療法人の事業状況に関する全国的な電子開示システムを構築するに当たり、次のような点に留意すべきではないかとの考えも示しています。

▽開示データの範囲としてグルーピングした全国平均とするなどのデータを対象とし、個別の匿名加工情報には慎重な議論が必要である
▼医療法人を特定できないように全国平均等グルーピングしたデータとしてはどうか
▼匿名加工情報であっても個人情報保護法上の第三者提供に該当する場合を想定し、匿名加工の方法等、慎重な議論が必要ではないか

▽詳細データは政策等のエビデンスとして活用できる可能性があるが、医療法人経営の適正化を目的とした活用には慎重な議論が必要である
▼診療報酬改定、補助金等の医療機関支援の制度設計など「でーあの活用目的」に応じて整理が必要ではないか
▼データの単独活用ではなく、「病床機能報告」や「外来機能報告」などとの連携等、多角的な分析の有用性について議論が必要ではないか
▼第三者提供する場合には、活用目的を具体化し目的に沿ったグルーピングしたデータを対象とし、匿名加工情報は慎重な議論が必要ではないか



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