地域医療構想の実現助ける「地域医療連携推進法人」、事務手続きや参加ハードル低い新類型を設立—地域医療構想・医師確保計画WG(2)
2022.11.2.(水)
地域医療構想の実現を助ける「地域医療連携推進法人」だが、現場の声を踏まえて「事務手続きや参加ハードルの低い新類型」を設立する。▼「法人のみ」が参加でき、厳しい外部監査等が求められるが、カネの融通が可能な従来型の法人▼「個人立医療機関」も参加でき、簡素なルールが適用されるが、カネの融通ができない新類型の法人—という2種類となる—。
2024年度の医学部入学定員は暫定的に従来どおりとし、2025年度以降については「第8次医療計画」の動向を踏まえて改めて検討していくこととする—。
10月27日に開催された「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織、以下、地域医療構想・医師確保計画WG)では、こういった点に関する論議も行われました。
個人立医療機関の参加認め、事務手続きを緩和した新「地域医療連携推進法人」設立
地域医療構想・医師確保計画WG では、2024年度からの医師確保計画見直し論議とともに(関連記事はこちら)、「地域医療構想の実現」も重要検討テーマとなっています。
地域医療構想は、2025年の医療ニーズを踏まえて、▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―のベッド数がどれだけ地域で必要となるかを推計し、この構想にマッチするように病院・病棟・病床の機能分化を進めていくものです。実現を手助けする仕組みの1つとして「地域医療連携推進法人」があります(2017年度からスタート)。
地域の医療機関等が、いわばホールディングカンパニーである「地域医療連携推進法人」を設立。ホールディングカンパニーにおいて、参加医療機関等の代表者が話し合い「それぞれの医療機関等が、地域でどのような役割を担っていくのか」という方針を決定。その方針に沿って機能分化・連携を進めていくものです。参加医療機関間では、「病床の融通」や「人事交流」「医薬品や医療機器などの共同購入」「資金貸付」などが容易に行えるようになり、限られた医療資源をより効率的・効果的に活用することが期待できます(関連記事はこちらとこちら)。
ただし、これまでに発足した法人は全国で31にとどまり、制度上の課題として「個人立の医療機関が参加できない」点があげられています。現在、地域医療連携推進法人に参加できるのは「法人」(医療法人や社会福祉法人、国立・公立医療機関など)に限られ、全国に4万強ある個人立クリニック、140弱ある個人立病院には参加が認められていません。医療現場からは「個人立医療機関の参加も認めてほしい」との声が出ています。
また、厚生労働省が行ったアンケート調査によれば、▼外部監査費用に大きな負担感がある▼代表理事の再任時に都道府県知事があらかじめ医療審議会の意見を聞くことになっている手続きが非効率である—など、事務手続きの緩和を求める声も出ています。
こうした声を踏まえて厚労省は、医療法を改正し、次のような「新たな類型の地域医療連携推進法人」を設ける考えを提示しました。
▽個人立医療機関の参加も可能とする
▽カネの融通(「出資」「貸付」)は不可とする(個人立医療機関ではは個人用資産と医療資産の分離が困難であるため)(個人立医療機関だけではなく、すべての参加医療機関へカネの融通を行うことが認められない)
▽公認会計士・監査法人による外部監査を不要とする
▽参加法人が重要事項を決定する場合の意見照会のうち一部を不要とする
▽事務負担の軽減のため「代表理事再任時の手続き」を緩和する
これにより、▼「法人のみ」が参加でき、厳しい外部監査等が求められるが、カネの融通が可能な従来型の法人▼「個人立医療機関」も参加でき、簡素なルールが適用されるが、カネの融通ができない新類型の法人—という2種類の地域医療連携推進法人ができることになります。現行の「従来型の地域医療連携推進法人」から「新類型の地域医療連携推進法人」へ移行する道も開かれる見込みです。
実質的に「設立要件の緩和」などが認められることとなり、地域医療連携推進法人が急速に増加すると期待されます。地域医療連携推進法人は上述のように「機能分化」が促進され、地域医療構想の実現を手助けするとともに、「参加医療機関間での人事交流」により医師偏在の是正にも一役買うと期待されています。31法人のうち11法人で既に人事交流が行われ、今後は19法人で人事交流の実施が予定されていることが厚労省から報告されています。
また、医療機関の再編(統合など)には一定の時間がかかるため、成果が見えにくくなっていますが、岡留健一郎構成員(日本医師会副会長)は「当初は本制度に懐疑的であったが、実際には密接に連携した議論が進められている。今後、機能分化・再編等が大きく進むと期待している」とコメントしています。
今後、社会保障審議会・医療部会での議論を経て、必要な法案(医療法改正案など)作成が厚労省内で進められる見込みです。
医学部入学定員、医療計画見直しの状況など踏まえて検討するが・・・
また、10月27日の地域医療構想・医師確保計画WGでは、今後の医学部入学定員に関して次のような方針が固められました(関連記事はこちら)。
▽2024年度の医学部入学定員(主に「2022年度時点での高等学校2年生」が受験する)は、2021年度の医学部総定員数(9420人)を上限とし、2023年度の枠組み(歯学部振替枠を廃止し、地域枠臨時定員として地域医療や社会におけるニーズに対応するための枠組みを充実させるために活用する、関連記事はこちら)を暫定的に維持する
▽2025年度以降の医学部臨時定員については、「第8次医療計画等に関する検討会」等における議論の状況を踏まえ改めて検討する
医学部入学定員は、「とりわけ地方で医師が不足している」ことが問題視され、2008年から臨時的な増員(医学部入学定員の拡大)が行われてきています。しかし、「人口動態」「受療行動の変化」「医師の働き方改革」など様々な要素を踏まえて医師の需要(ニーズ)と供給(医師数)とを試算すると、「早晩、医師過剰になる」ことが分かっています。
医師が過剰になれば「将来の医師の生活基盤が極めて不安定になる」「不適切な医療需要の掘り起こしが生じ、医療費の高騰→医療保険制度の逼迫を招く」などの問題が生じます。このため、厚労省の医師需給分科会では「そう遠くない将来、医師過剰になることが明らかなため、今後、医師養成数(つまり医学部入学定員)を段階的に抑制していく(削減していく)」という大きな方針を固めています。
しかし、大学医学部にとっては「入学定員の削減は大きな収入減につながる」(入学金・授業料収入が削減された分、減少する)という切実な問題があり、具体的な「医学部入学定員の削減論議」に入れません。しかし、事態を放置すれば、上記の問題はより大きくなってしまいます。
今後、どのように「将来の医学部入学定員」を考えていくのか、議論の場も含めた調整に期待が集まります。
【関連記事】
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