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2023年度の医学部入試、定員等は従前と同様とし、総合診療や救急など「診療科指定の地域枠」拡大―医師需給分科会

2021.8.31.(火)

2023年度の医学部入学定員は2022年度と同様の方法で設定する―。

あわせて「歯学部振替枠」(44名分)を廃止し、その分、総合診療や救急など「診療科を指定した地域枠」として新たに設定する(すでに診療科指定地域枠は存在するので、実際は「拡充」である)―。

8月27日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった議論が行われました。今後、各大学と都道府県との間で「診療科指定の地域枠」を協議し、それを文部科学省と厚生労働省で審査していくことになります。

「医学部入学定員の削減」に踏み切れず、2023年度定員は「2022年度と同様」に

医師需給分科会では、医師の需要と供給について科学的な分析を行い、医師の養成数を考えています。

医師の養成数、つまり「大学医学部の入学定員」については、2008年から臨時的な増員が行われ、「2022年度まで」は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—という枠組みが維持されることになっています。医師確保が困難な都道府県等に配慮し、「医師養成数を一定の考え方に基づいて増やしていく」ものです。

当面の医学部入学定員



ただし、データに基づく推計によれば、次のように「現行の医学部入学定員を継続すれば、早晩、医師過剰になる」ことが確認されています。

▼医師の時間外労働を年間960時間以下(医師働き方改革のA水準)程度にした場合には、2029年頃に約36万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(従前の推計に比べて均衡および医師過剰となる事態の発生が1年遅れる)

▼医師の時間外労働を年間720時間以下(一般労働者と同水準)程度にした場合には、2032年頃に約36.6万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(同1年早まる)

医師需給の最新推計によれば、早ければ2029年、遅くとも2032年に医師の需要と供給が均衡し、以後「医師過剰」となる(医師需給分科会(1)3 200831)



医師が過剰になれば、「将来の医師の生活基盤が極めて不安定になる」「不適切な医療需要の掘り起こしが生じ、医療費の高騰→医療保険制度の逼迫を招く」などの問題が生じます。このため、医師需給分科会では「そう遠くない将来、医師過剰になることが明らかなため、今後、医師養成数(つまり医学部入学定員)を段階的に抑制していく(削減していく)」という大きな方針を固めています。

このため2023年度の医学部入学定員は「削減される」と思われました。しかし、例えば「医師の地域偏在解消策は始まったばかりで、医師が不足する地域では、さらなる医師養成が必要なのではないか」「新型コロナウイルス感染症が蔓延し、医療提供体制が逼迫する中で、医師養成数を削減することには問題があるのではないか」との指摘も根強くあり、医師需給分科会では「2023年度は、2022年度と同様の方法とする」(つまり臨時定員増を確保する)ことを決定しました。

2022年度の医学部入学定員の考え方(医師需給分科会2 210827)



ただし、上述のとおり「近い将来、医師過剰になる」ことは確実なため、「医師養成数(つまり医学部入学定員)の段階的な抑制(削減)を継続していく」(早ければ2024年度の定員から削減できるように検討を進める)方針も確認しています。

この点、「医師需給分科会では、『削減』方針は決めるものの、具体的な議論は先送りすることを繰り返している」との批判があります。「医学部入学定員は、大学にとっては重要な収入源である」こと、「政治が『短期的な視点』しかもっておらず、将来を考えられない」こと(「医学部定員削減」の批判による落選を危惧する)、「医師の働き方改革、新型コロナウイルス感染症対策、第8次医療計画や地域医療構想(医療提供体制と医師配置には深い関係がある)など、新たな要素が矢継ぎ早に登場し、議論の前提が変わり続けている」ことなど、さまざまな原因があります。

しかし、医師過剰となれば上記のような大問題に発展することから、「今から手を打たなければならない」点に疑いはありません。将来の我が国を考えた、大所高所に立った議論が行われることが強く求められており、同日にはその点も意識した「第5次中間とりまとめ」に関する議論も行われています(今後、親組織である「医療従事者の需給に関する検討会」で取りまとめ)。

総合診療や救急、内科など「診療科を指定する地域枠」を拡大

ところで2023年度の医学部入学定員では、新たな試みも行われます。それが「歯学部振替枠」(44名)を廃止、その枠を活用して新たに「診療科指定の地域枠」を設定するというものです。

歯学部振替枠とは、骨太方針2009を受けて創設された、「歯学部の定員削減を行った場合、『1大学10名まで』の範囲で、医学部入学定員の増員を認める」仕組みですが、▼歯学部を持たない大学と歯学部のある大学とで不公平になっている▼振替枠は医師の地域偏在是正等に活用されていない―ことから「廃止」が決定されました(関連記事はこちらこちら)。

同時に、地域における医療ニーズ充足に資するために「診療科を指定する地域枠」(例えば総合診療、救急、内科など、大学と都道府県とで協議して診療科を設定する)を、この44名分を活用して設定する方針も固められました。2036年時点で「医師が少数である」と推測される都道府県が、大学医学部(歯学部振替枠の有無とは無関係)と「どの診療科の医師を増員させるべきか」を協議し、それを厚労省・文科省で審査し「診療科指定の地域枠を認めるか否か」を決するものです。

歯学部振替枠を廃止し、それを「診療科指定の地域枠」に振り替える(医師需給分科会1 210827)



例えば、「総合診療科、救急科、内科の3科のうち、いずれかに従事する」ことを要件として医学部に入学し、国家試験に合格→医学部卒業→臨床研修を経て、研修修了の時点で「3科の中から特定の診療科を決定する」などの運用方法が考えられそうです(入学時点で「〇〇科に従事する」と選択させることは酷であるとの指摘が多い)。

地域枠ゆえに、▼一般の入学枠とは「別枠」で選抜する(診療科縛りのない「一般の地域枠」とも別枠とする▼卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する▼都道府県のキャリア形成プログラムに参加する▼離脱する場合には都道府県の了承を得る必要―ことなどが求められます(関連記事はこちら)。

地域枠の定義(医師需給分科会(2)4 200831)



もっとも、「診療科指定の地域枠」は、全く新しいものではなく、すでに27大学・245名で「診療科指定の地域枠」が設定されています(産科・産婦人科、救急科、小児科、総合診療科、内科、外科など)。これを「拡大する」イメージと言えるでしょう。

「産科」や「小児科」「救急科」など診療科を指定する地域枠は既に存在する(医師需給分科会 200831)



小川彰構成員(岩手医科大学理事長)や新井一構成員(全国医学部長病院長会議前会長)、今村聡構成員(日本医師会副会長)からは「診療科を指定するなど縛りを厳しくすると、志願者が減るのではないか」との懸念も出ていますが、文部科学省からは、既存の実績からすると「現行の診療科指定地域枠の充足率は96%、97%程度で閑古鳥が鳴いている状況ではない。44名分が加わったとして、この状況が大きく変わるとは想定していない」と回答しています。

すでに動いている仕組みですが、構成員からは▼教育内容を一般の医学部と分けてはいけない(北村聖構成員:東京大学名誉教授、山内英子構成員:聖路加国際病院副院長)▼離脱が生じないか注視し、支援していく必要がある(堀之内秀仁構成員:国立がん研究センター中央病院呼吸器内科病棟医長)―といった注文がついています。各大学・都道府県から上がってきた「診療科指定の地域枠」の中身を見ながら厚労省・文科省で「どういった配慮がなされているのか」などをチェックしていくことになるでしょう。



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