2022年度以降の医師養成数論議開始、「海外医学部出身者」も医師供給数にカウント―医師需給分科会
2019.12.2.(月)
医師の働き方改革や偏在対策、地域医療構想の実現、さらに少子化の進行などを踏まえて、「医師の需要と供給」について改めて推計を行い、2022年度以降の「医師養成の在り方」を考えていく―。
その際、増加し続けている「海外の大学の医学部出身者」(後に我が国の医師国家試験を受験し、医師免許を取得する)について、「医師の供給数」の1要素として勘案し、「医師偏在対策」の中では我が国医学部出身者との区別は行わない―。
11月27日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった点を確認しました。
目次
医師の働き方改革や地域医療構想など踏まえ、医療需要がどう変化するかを推計
医師需給分科会では、名称どおり「医師の需要と供給について科学的な分析を行い、医師養成数を考える」検討会です。人口減少が進む我が国において、医師養成を無策に拡大していけば医師過剰となり、「医療費の高騰」や「職に就けない医師の増加」という問題が生じてしまうため、需要を適切に満たせるように医師養成数のコントロールが必要となるのです。
医師の養成数は、「医学部の入学定員」と言い換えられます。医学部で学業を修めた後、医師にならない人はごく少数であるためです(後述するように異なる要素を検討する必要が出てきています)。
医学部の入学定員は、大きく「恒久定員」(下図の青色の部分)と「臨時定員」に分けられ、後者の「臨時定員」は、さらに▼医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)▼地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分)—に分けられます。
2016年の医師需給推計をベースとして「2019年度までの医学部入学定員は、▼暫定増は維持する▼追加増は慎重に精査する―」ことが決まり、さらに「2020年度・21年度の医学部入学定員は、現状の医学部入学定員を維持する」ことが決まっています。
検討会では、今後「2022年度以降の医師養成の在り方」を議論していきます。そこでは、医療提供体制に関する「三位一体改革」(▼地域医療構想の実現▼医師働き方改革▼医師偏在の是正―)の状況や足元の医師数、さらに新たな人口動態なども勘案し、「需要」と「供給」を改めて推計することになります。
例えば「医師の働き方」については、2024年4月から勤務医の時間外労働上限が「960時間以内」と規定され、例外的に厳格な要件の下で「救急科や研修医等について960時間超1860時間以内の時間外度労働」が認められます。医師1人に当たりの労働時間が短くなるため、これまでと同じ医療提供量を確保するためには、より多くの医師が必要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらと こちらとこちら)。
ただし、我が国では「医療機関数が多すぎ、かつ散在しすぎている」という指摘があり、これが医療の質確保に弊害になっているとも指摘されます。医療の質を確保するためには「医療機関・医療機能の集約」がどうしても必要となってきます(地域医療構想の実現に当たっても、これに沿った考え方が必要となる)が、これは「医師1人当たりの負担を軽減する」ことにもつながり、医師養成数を抑える要素となります(関連記事はこちらとこちら)。
一方、我が国の医療提供体制の問題として「医師の地域偏在・診療科偏在」がクローズアップされており、検討会では「新たな偏在対策」を今年(2019年)3月に取りまとめました(関連記事はこちらとこちら)。新たな指標をもとに「どの地域が医師少数なのか、多数なのか」を明らかにし、都道府県の作成する「医師確保計画」に沿って、偏在対策に向けた様々な取り組みを進めることになります。偏在を解消するためには、医師をより多く養成していくことが一定程度求められます。
また、我が国では少子化が想定以上のスピードで進行しており、これは「医療需要の減少」をもたらし、医師要請数を抑える大きな要素となります。
こうした多様な要素を踏まえながら、今後、需要と供給を推計していくことが11月27日の医師需給分科会で確認されました。
2019年度から20にかけて、「地域枠」定員数は日本全国で64人分減少
ところで「医師偏在」対策としては、例えば「医師多数の地域から医師少数の地域への派遣を強力に進める」「地域の医療機関に従事する医師を養成する」などさまざまな手法が考えられます。このうち「地域の医療機関に従事する医師の養成」に関しては、従前より大学医学部に「地域枠」等が設けられています。地域枠にもさまざまな種類がありますが、例えば「卒後、一定期間は都道府県の指定する医療機関での勤務を義務付ける」ことを条件に入学を認めるといったイメージですが、厚生労働省と文部科学省の調査で「地域枠で入学しながら、卒後の他地域で勤務するケースが少なからずある」「入学時点では地域枠として別個の選抜を行っていないケースがある」など、さまざまな運用上の課題などが明らかになりました。
そこで医師需給分科会では、地域枠について、例えば▼一般の学生とは「別枠」で選抜する▼地域枠のブランド化を図る▼都道府県担当者が個々の地域枠・地元枠学生と「顔の見える関係」を構築し、希望に沿ったキャリア形成プログラムを作成する▼地域枠・地元枠学生の「同窓会組織」を設立し、不安や悩みの解消に努める▼学部時代から、地域医療の意義や魅力を伝える―ことなどを決定。すでに2020年度入学者分からこの考え方が採用されていますが、「日本全国で見て、また多くの都道府県で、2019年度から20年度にかけて地域枠を要件とした臨時定員増が減少する」(日本全国でみればマイナス64人)ことが報告されました。都道府県が「医師確保の目途が立っており、地域枠を減少させる」と考えたり、都道府県と大学医学部との間で地域枠定員に関する調整がつかなかった(例えば、都道府県から地域枠設定の要請があっても、一般学生と別枠で地域枠を設けたとして、そこに十分な応募が期待できず「定員割れ」となってしまうことを危惧した大学もあると考えられる)などさまざまな理由がありますが、医師需給分科会委員からは「今後の需給を考えるうえで、非常に重要なテーマであり、詳細を明らかにする必要がある」との声が相次ぎました。
もっとも個別大学について「地域枠が減少した理由はなにか」と1つ1つ詰めていくことが好ましいかとの問題もあり、厚労省医政局医事課の佐々木健課長は「地域枠について積極的に議論してもらえるような準備を進める」と答弁するにとどめています。例えば、地域枠と一口に言っても、「卒後●年は都道府県の指定する医療機関での勤務を求める」形態や、「他の都道府県等での勤務も可能で、通算して●年、自地域内で勤務すればよい」形態などさまざまであり、これらの整理も行うわれる見込みです。
海外の医学部を経て、我が国で医師免許を取得する者、2018年度には95名に
「医師の養成数は『医学部の入学定員』と言い換えられる」と述べましたが、最近「海外の大学医学部で教育を受けて医師免許を取得するなどし、のちに我が国の医師国家試験を受けて医師免許を取得する」というケースが増えてきています。
2018年度にはこうした医師が95名(日本人が海外の大学医学部に行くケースも、外国人が海外の大学医学部に行くケースもある)おり、今後も増加が見込まれます。すでに「大学医学部1つ分」に相当しており、医師需給分科会では「医師の供給推計において、こうしたケースを十分に織り込んでいかなければならない」との見解で一致しました。
ところで、米国やカナダでも、このような「外国の医学部で医学を学び、のちに自国の医師免許資格を得て医業に携わる医師」がいます。この点、「自国の医学部出身者」と「海外の医学出身者」とでは一定の区分けがなされており「海外の医学部出身者には、地方勤務や不人気診療科での勤務を行うことが求められる」ことがあるようです。ただし米国では、こうした海外医学部出身者に対し「地方での一定期間勤務を条件に永住権を与える」という仕組みも設けられており、これが「地方での医師確保」に一役買っていると見ることもできるでしょう。
例えば我が国においても「海外医学部出身者には、一定期間、医師少数区域等での勤務を求める」という仕組みの導入が考えられそうですが、医師需給分科会では「海外医学部出身者も、高度な知識・技術を持ち、極めて優秀である。日本の医学部出身者との区別は好ましくない」(山内英子委員:聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)、「海外医学部の教育システムは高品質であり、同じ土俵で競争してもらうべきである」(神野正博委員:全日本病院協会副会長)との意見が相次ぎました。
海外医学部出身者についても、「医師の供給数の中に織り込んでいく」が、「医師偏在対策の中で、日本の医学部出身者との区分けはしない」方針が固まったと言えそうです。
今後、海外医学部出身者も含めて「医師の需給推計」が行われます。また、2022年度の医学部入学定員は、現在の高等学校1年生の「進路決定」に大きな影響を与えます。このため医師需給分科会では来春(2020年春)には、少なくとも「2022年度の医師養成の在り方」について一定の結論を出す予定です。
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