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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

医師偏在対策、「医師養成課程での対応」から「医師の移動」に軸足を移すべきではないか―医師需給分科会

2021.3.8.(月)

「近い将来、医師過剰になる」ことを見据え、2023年度の医学部入学定員から「臨時定員」を漸減していくが、臨時定員の中に設けられている「研究医枠」や「歯学部定員削減に伴う振替枠」をどのように考えていくべきか―。

また、医師偏在の解消に向けて、今後は「医師養成課程での対策」から「医師の移動」に軸足を移していくべきではないか―。

3月4日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった議論が行われました。

今春には「2023年度の医学部入学を目指す高等学校2年生が進路の大枠を決める」こととなるため、分科会では、「遅くとも今春」に2023年度の地域枠の在り方を固めます(高等学校3年生に進級してから、突然「来年の医学部入学定員は大幅に削減します」となれば大混乱を招く)。

3月4日に開催された「第37回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

研究医枠、その成果をどう評価するべきか

医師需給分科会では、「医師の需要と供給について科学的な分析を行い、医師の養成数を考える」検討会です。医師の養成数が少なすぎれば、国民に十分な医療提供を行うことができず、逆に多すぎれば、「医療費が高騰しかねない」「医師の生活確保が困難となりかねない」といった問題が生じることになります。

最新のデータに基づく推計によれば、次のように「現在の医学部入学定員を継続すれば、早晩、医師過剰になる」ことが再確認されています。

▼医師の時間外労働を年間960時間以下(医師働き方改革のA水準)程度にした場合には、2029年頃に約36万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(従前の推計に比べて均衡および医師過剰となる事態の発生が1年遅れる)

▼医師の時間外労働を年間720時間以下(一般労働者と同水準)程度にした場合には、2032年頃に約36.6万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(同1年早まる)

医師需給の最新推計によれば、早ければ2029年、遅くとも2032年に医師の需要と供給が均衡し、以後「医師過剰」となる(医師需給分科会(1)3 200831)



このように「そう遠くない将来、医師過剰になる」ことが明らかなため、今後、医師養成数(つまり医学部入学定員)を抑制していくことが必要です。一方、従前より「地域間、診療科間で医師の大きな偏在があり、地域医療を守る医師をより多く要請していかなければならない」という問題もあり、偏在解消に効果的な▼地域枠(一般入学枠とは「別枠」で選抜し、卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する医師を養成する医学部入学枠)▼地元枠(一定期間、当該都道府県に住所を有した「地元出身者」を対象に選抜を行う医学部入学枠)を医学部入学定員の中に戦略的に組み込んでいく必要があります。

こうした状況を踏まえて、医師需給分科会では「2023年度から地域枠の設置・増員を進めながら、臨時定員を含む医学部入学定員を段階的に減員していく」方針を固めています(関連記事はこちらこちらこちら)。

3月4日の会合では、「医学部入学定員をどう考えるか」「今後の医師偏在対策をどう進めていくか」を議題としました。

前者では、臨時定員における(1)研究医枠(2)歯学部定員削減に伴う振替枠(以下、振替枠)―をどう考えていくかを議題としています(地域枠については次回以降、改めて議論)。

医学部の入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—に分けられます。このうち「臨時定員」の中に「地域枠」「研究医枠」「振替枠」があります。2023年度には臨時定員を削減していくため、それぞれの枠をどう考えていくかを決する必要があるのです。

当面の医学部入学定員

2023年度以降、地域枠(濃いオレンジ色)を増員しながら、医学部定員全体を減少させていく(医師需給分科会1 201118)



(1)の研究医枠は名称どおり「研究医の養成」を目指すものです。2010年度から「卒後・大学院教育を一貫して見通した特別コースを設定し、適切に履修者を確保すること」などを要件に、医学部の入学定員を増員することを認めるものです。これまでに269名の「研究医枠としての定員増」が認められ、特別コースの履修者は875名に上っています(研究医枠を超えて医学部生が特別コース履修することが求められている)。

我が国の医学・医療水準を向上させるためには「研究医の養成」が極めて重要ですが、「現在の研究医枠」には疑問を唱える向きも少なくありません。今村聡構成員(日本医師会副会長)は「我が国の基礎医学論文数の推移を見ても、先進国で唯一減少しており、研究医枠は失敗であった」と指摘しています。しかし新井一構成員(全国医学部長病院長会議前会長)は「研究医枠を設け、すぐに論文数が増加するわけではない。比較的長いスパンで検証する必要がある」と反論し、今後、「研究医枠の成果を広い視点で見極めながら、是非(研究医枠を継続するか否か)や要件(厳格化)を検討していく」こととなりました。

我が国は、基礎医学論文数が先進諸国で唯一減少している(医師需給分科会1 210304)



ただし片峰茂座長(長崎市立病院機構理事長)は、「ゴールが各大学でバラバラである。特別コースの履修をゴールとするのか、大学院入学をゴールとするのか、研究者として生きることをゴールとするのか、非常に難しい」とコメントしており、「研究医枠の成果」をどういった指標で見るかも検討する必要があります。

文科省では、「研究医枠」を2023年度以降も存続するとした場合には、▼特別コース履修者が、大学院進学に際し「どのような進路に進み、研究活動を行っているか」などを追跡調査・評価し、文部科学省に報告する▼医師臨床研修マッチングにおいて臨床研修と基礎研究を両立するための「基礎研究医プログラム」を確保する▼常勤ポストの設置、奨学金、キャリアサポートなど、研究医となるために必要なサポートを行う―などの要件厳格化を予定しています。

なお片峰座長は「医師・医学部生の診療エフォートが大きくなりすぎていると個人的に感じている。もっと大きな議論をしなければならない」との考えも示しています。研究医の養成にとどまらず「我が国の基礎医学研究をどう振興するのか」を幅広く、しかも早急に議論する必要があるでしょう。

歯学部定員削減に伴う振替枠、歯学部のない大学では不公平

(2)の振替枠は「歯学部の定員削減を行った場合、『1大学10名まで』の範囲で、医学部入学定員の増員を認める」ものです。2020年度には全大学で44名の振替枠が認められています。

2020年度の医学部入学定員(医師需給分科会2 210304)



これまで正面から議論されたことはありませんが、「臨時定員を漸減していく」中で振替枠の在り方を考え直すこととなったものですが、3月4日の会合では「歯学部のない大学では振替枠を利用できず不公平である」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「歯科医師養成の在り方と密接に関連しており、そちらの議論をまず進めてもらうべきではないか」(釜萢敏構成員:日本医師会常任理事)などの意見が出ています。

あわせて構成員の多くは、「臨時定員の数」と「研究医枠・振替枠の在り方」とは別個に議論を進めるべきとの考えを示しています。こうした考えも踏まえて、厚労省医政局医事課の山本英紀課長が近く「検討の進め方」を整理する見込みです。冒頭に述べたとおり「今春(2021年春)には2023年度の医学部入学定員の在り方」を明確にする必要がある点に留意が必要です。

医師養成課程に、これ以上「医師偏在対策」を盛り込むべきではない

また「医師偏在是正策」については、構成員から「地域枠など『入口』方策(医師養成課程での対策)には限界がある。他の方策をより強力に進める必要があるのではないか」との意見が多数でています。

医師偏在を是正するために、▼地域枠の拡大をはじめとする医師養成課程での対策▼都道府県の「医師確保計画」を活用した対策▼医師少数の地域での勤務を推奨する対策―など多方面の対策が取られています。

このうち医師養成課程での対策、とりわけ「地域枠」(一般入学枠とは「別枠」で選抜し、卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する医師を養成する医学部入学枠)に「医師の地域偏在を是正する効果が高い」ことが分かっており、2018年の改正医療法・医師法では「都道府県知事が大学に対して地域枠・地元出身入学者枠の設定・拡充の要請する権限」の創設などが行われました。

また、2018年度から全面スタートした新専門医制度では、「地域の医師偏在を助長する」可能性が指摘され、現在は都道府県別・診療科別の必要医師数をベースにした「シーリング」(都道府県別・診療科別の採用数上限)が設けられています。

この点、山口構成員は「医師臨床研修(卒後2年間の初期研修)でも『半年間、医師少数の地域での研修を義務付ける』ことなどが議論されているが、これ以上、医師養成課程に偏在対策を盛り込むべきではない」と指摘。新専門医を目指す研修、臨床研修にはそれぞれ意義・重要な役割があり(臨床研修ではプライマリケアの習得、専門研修では専門的医療技術・知識の習得)、医師偏在対策のために各研修の意義が阻害される、つまり「将来の医療の質低下を招く」点を危惧した意見と言えます。新井構成員も「頭数の議論から脱却し、医療の質を念頭に置いた議論を行うべき」と要請しています。

関連して小川彰構成員(岩手医科大学理事長)も「医師を『医師多数の地域・区域』から『医師少数の地域・区域』に移動させる強力な手法を考えるべき」と強く訴えました。この手法としては、上述のように「医師少数の地域での勤務を推奨する」方策が設けられており、例えば「地域医療支援病院のうち、医師派遣機能を有する病院では、院長等の管理者要件として『医師少数の地域での勤務』経験を求める」というインセンティブが設けられています。今後、「医師少数の地域・区域での勤務」へのさらなるインセンティブ付与が検討される可能性もあります。

医師少数区域等での一定期間勤務を認定する制度の概要



現在の「都道府県による医師確保計画と、その成果」なども見ながら、医師偏在解消に向けた「次の手」を考えていくことが重要です。



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