2023年度より「地域枠の設置・増員」しながら、日本全体で医学部定員を「段階的に削減」―医師需給分科会
2020.11.20.(金)
2023年度以降の大学医学部入学定員について、「地域枠を拡大しながら、臨時定員を削減していき、全体として医師養成数(定員)を減少していく」方向としてはどうか―。
また、医師不足地域では「まず恒久定員の中に地域枠を設置」し、それが定員の5割(恒久定員の半数が地域枠)となっても「なお医師が不足する」場合に初めて、臨時定員としての地域枠設定を認めることとしてはどうか―。
あわせて、地域枠医師をサポートする「キャリア形成プログラム」について、さらなる充実を図るために、好事例の横展開を図ってはどうか―。
11月18日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった議論が始まりました。
「2023年度の大学医学部入試」に向けて受験生に混乱が生じないよう、来春には詳細が固められます。
目次
地域枠の設定・増員を進めながら、全体としての医学部入学定員は「段階的に削減」
医師需給分科会は、名称どおり「医師の需要と供給について科学的な分析を行い、医師の養成数を考える」検討会です。医師の養成数が少なすぎれば、国民に十分な医療提供を行うことができず、逆に多すぎれば、「医療費が高騰しかねない」「医師の生活確保が困難となりかねない」といった問題が生じることになります。
このため、医療需要が将来どのように変化するのか(人口減で医療需要が少なくなれば、医師の必要数も少なくなる)、医師の労働環境はどのように変化するのか(医師の働き方改革が求められれば、医師の必要数は多くなる)などを科学的に推計し、ニーズに対し過不足なく医療サービスが提供されるように医師養成数(つまり医学部入学定員)を調整していく必要があるのです。
最新のデータに基づく推計によれば、次のように「現在の医学部入学定員を継続すれば、早晩、医師過剰になる」ことが再確認されています。
▼医師の時間外労働を年間960時間以下(医師働き方改革のA水準)程度にした場合には、2029年頃に約36万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(従前の推計に比べて均衡および医師過剰となる事態の発生が1年遅れる)
▼医師の時間外労働を年間720時間以下(一般労働者と同水準)程度にした場合には、2032年頃に約36.6万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(同1年早まる)
一方、従前より「地域間、診療科間で医師の大きな偏在があり、地域医療を守る医師をより多く要請していかなければならない」という問題もあります。偏在解消には▼地域枠(一般入学枠とは「別枠」で選抜し、卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する医師を養成する医学部入学枠)▼地元枠(一定期間、当該都道府県に住所を有した「地元出身者」w対象に選抜を行う医学部入学枠)―が効果的であることが分かっています。
こうした状況を踏まえて、医師需給分科会では「2023年度から地域枠の設置・増員を進めながら、臨時定員を含む医学部入学定員を段階的に減員していく」方針を固めました。
医学部の入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—に分けられます。
2022年度まではこの枠組みが維持されますが(関連記事はこちら)、23年度からは後述するように「恒久定員の中に相当程度、地域枠を設けてもなお医師が不足する場合に、臨時枠として地域枠を設置・増員することができる」という考え方に改められます。地域によっては医師不足が深刻なため(例えば新潟県)、臨時枠による地域枠設置が行われると見込まれますが、オールジャパンでは「入学定員を削減していく」格好です。
もっとも、入学定員の削減は大学医学部の「収益減」に繋がることから、大学の意向、地域医療提供体制の責任者である都道府県の意向も踏まえ、「具体的にどの程度の期間を設け、どの程度の段階を踏んで削減していくのか」を検討していくことが重要です。今後の各論では調整が難航する部分も出てくるかもしれません。
なお、この点について「2023年度に一度、『臨時定員』を廃止し、そこに地域の実情を踏まえて『必要な地域枠の増員』を考えていくべき」との考え方もあります。しかし、今般の「段階縮小」でも「地域の実情を踏まえて『必要な地域枠の確保』を行う」こととなるため、結果は同じとなります(「一度ゼロにし、そこにプラスしていく」のか、「プラスすべき要素を勘案して削減していく」のか、の手法の違いのみ)。
恒久定員に5割地域枠を設けても「なお医師不足」の場合に、初めて臨時定員を設定可
このように「地域枠の設置・増員を進めながら、臨時定員を含む医学部入学定員を段階的に減員していく」ためには、▼プラス(増員)要素となる「地域枠の設置等」をどう進めていくか▼マイナス(減員)要素となる「医学部定員全体の削減」をどう進めていくのか―を分けて考える必要があります。
11月18日の医師需給分科会では、前者の「地域枠の設置等」に関して、これまでの議論も踏まえた次のような考え方の整理が行われています。
(1)各都道府県において「医師不足地域(医療圏)」の不足数(将来の必要医師数と医師養成数との差)を合計したものを「必要な地域枠数」とする
(2)都道府県全体で医師不足が見込まれない場合でも、「将来的に医師の不足が見込まれる二次医療圏」がある場合は、恒久定員の中に地域枠の設置要請を可能とする
(3)現時点で医師少数区域がある場合にも、引き続き恒久定員内に地域枠の設置要請を可能とする
(4)恒久定員内で一定程度(例えば5割程度)の地域枠を確保しても、地域における必要医師数の確保が不十分な場合に、地域枠の設置を要件とする臨時定員の設定を要請可能とする
「医師不足地域が存在する場合に恒久定員の中に地域枠を設定し、それでもなお医師が不足する場合に臨時定員として地域枠の設定を認める」という考え方です。
なお、(1)で医師養成数を計算するにあたり、これまでは「臨時定員の医師は地元に100%定着する」との仮定が置かれていましたが、現実には結婚や介護などで地元定着できない医師もいることから「計算式の見直し」(臨時定員の実際の定着率を用いて計算する)が行われます。
厚労省は、次回会合以降に「都道府県別に何名分の地域枠が必要となるのか」の試算結果を提示。こうしたデータを踏まえて、都道府県ごとに「恒久定員の中にどの程度の地域枠を設けるか」「さらなる臨時定員としての地域枠が必要か」を考えていくことになります。
こうした検討方向そのものは了承されていますが、「県をまたぐ医師養成などは複雑で、慎重な検討が必要ではないか」(新井一構成員:全国医学部長病院長会議前会長、順天堂大学学長)、「地域枠を確保する大学側のコストも考慮した財源的な支援の検討も必要ではないか」(小川彰構成員:岩手医科大学理事長)などの指摘も出ており、より広範な視野で検討が進められることになるでしょう。
例えば、ある県(A県)が医師不足の場合、「自県の大学医学部の恒久定員の中に5割の地域を設け、さらに臨時定員を設定して地域枠医師を多く養成していく」ことになるでしょう。しかし、当該県の医師養成能力には限界があります(教官の数は限られている。とりわけ1大学しかない場合には限定的)。この場合、隣県等の大学医学部に「A県で勤務する医師を養成するための地域枠を設けてほしい」と要請することになり、こうした「県またぎ」の事例を把握し、養成数(地域枠数)の中に組み込んでいくためには、非常に複雑な検討が必要となるのです。時間が限られている(後述するように来春には決定しなければならない)中で、効率的な議論も求められています。
また神野正博構成員(全日本病院協会副会長)や森田朗構成員(津田塾大学総合政策学部教授)は「地域枠以外にも、医師偏在解消に向けた施策をより積極的に検討・実施する必要がある」と要請しています。森田構成員は「地域枠には18歳(医学部入学)の時点で、将来をかなり枠にはめてしまうという問題もあり、教育上の問題もあるかもしれない」「新型コロナウイルス感染症の影響により社会が大きく変わる」点を強調し、「他の偏在対策」の重要性を強調しています。
この点、医師需給分科会では「医師偏在解消に向けた広範かつ具体的な対策を実施する」方針を2019年3月に「第4次中間とりまとめ」としてすでに固めており(関連記事はこちらとこちらとこちら)、各都道府県の「医師確保対策」として具体化されてきています。
2023年度の地域枠・医学部入学定員が来春までに決まらなければ、「2023年度の医学部入学を目指す高等学校生」の進路決定が難しくなります(2021年度の高等学校2年生が、主に2023年度の医学部入学を目指す。2022年度の3年生になって、突然「来年の医学部入学定員は大幅に削減します」となれば大混乱を招く)。このため、医師需給分科会では、当面「地域枠・医学部入学定員」の議論を行い、その後に、医師偏在の解消状況なども見て「さらなる対策の必要性」などを検討していくことになるでしょう。
地域医療に従事する医師をサポートする「キャリア形成プログラム」をより充実させる
ところで、地域枠には「医師としてのキャリアを十分に積めるのか」「専門医の資格は取得できるのか」「学位は取得できるのか」などの不安があるといいます。こうした不安を解消するために、厚労省は各都道府県に対して「キャリア形成プログラム」の作成を求めています。例えば、「海外留学をする場合の勤務プログラム例」「学位を取得する場合の勤務プログラム例」などを作成・提示し、地域枠に関する不安の解消を目指すものです。
しかし、厚労省の調査では、▼一部の都道府県では、キャリア形成プログラムが1コースしかない(多様なニーズに応えることが困難)▼どのような専門医資格を取得できるかを明示していないコースが一部にある▼専門医の研修プログラムと整合的でないケースがある—などの課題も浮上しています。
そこで厚労省は、キャリア形成プログラムをより充実させ、より魅力あるものとするために▼「地域医療に従事する意識の涵養・醸成」「地域医療の従事と医師としての研鑽の両立」などの取り組みを実施している都道府県から、取組事例を発表してもらい、横展開を図る▼都道府県や大学医学部の取り組みを進めるための様々な支援を検討する―方針を示しました。
例えば、離島の多い長崎県では、地域枠の医学部生の地域定着を目指し▼夏季ワークショップの開催(地域医療に従事する先輩医師との意見交換や、施設見学など)▼冬季研修会の実施▼離島病院見学の実施▼養成医との面談実施―などを従前から行っています。また、山間地の多い千葉県では「地域医療支援センター」と「医師キャリアアップ・就職支援センター」を設置し、高等学校生の段階から「顔の見える関係を構築し、相談等に応じる」「就学資金を貸し付ける」「県内の19医療機関と連携し、120のキャリア形成プログラム構築する」「先輩医師との交流会や病院見学ツアーを頻繁に開催する」などの取り組みを行っています。
こうした取り組みを、次回以降の医師需給分科会で都道府県から発表してもらうことで、多くの都道府県で「より魅力的なキャリア形成プログラム」が準備されることを厚労省は期待しています。
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