全国統一の「医療の質」評価指標を設け、オールジャパンでの病院ベンチマーク可能に―医療情報提供内容検討会
2019.7.2.(火)
現在、病院団体間で微妙に異なっている「医療の質」評価指標について、病院団体等が参画する「医療の質向上のための協議会」で統一化に向けた議論を行う(今夏からスタート)。あわせて、一般国民が誤解なく情報把握できるような「医療の質」の公表方法も十分に議論していく―。
6月27日に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、厚生労働省や日本医療機能評価機構からこういった報告が行われました(関連記事はこちらとこちら)。
医療機関等のwebサイト、ネットパトロール事業への「違反では」との通報が増加
6月27日の議題は、(1)医療に関する広告規制(2)医療の質の評価・公表(3)医療機能情報提供制度―の3点。
まず(1)の広告規制については、医療機関等のWEB広告がより適切なものとなるような取り組みに関する報告が行われました。
美容医療をはじめとする主に自由診療の分野で不適切なwebサイトが少なくなく、患者と医療機関との間にトラブルが絶えないことから、改正医療法(2017年6月改正)では医療機関等のwebサイト等も「広告」に含め、虚偽や誇大な内容の掲載を禁止(違反すれば罰金・懲役などの罰則も課される)することとしました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また不適切なwebサイトを是正するため、厚労省は一昨年(2017年)8月から、「ネットパトロール事業」を実施。厚労省から委託を受けたネットパトロール事業者が「一般からの通報」「自ら実施するキーワード検索」によって不適切なwebサイトを探し、「医師や弁護士で構成される評価委員会での審査」などにより「是正が必要なwebサイトである」と判断された場合、医療機関等に通知を行い改善等を促すものです(改善等が行われない場合には、都道府県から指導等が行われる)。
医療広告の改正内容やネットパトロール事業の普及により、通報件数は増加(2017年度:678件→18年度:1801件)しており、歯科に関する通報が大幅に増加している点が注目されます。石川広巳構成員(日本医師会常任理事)は「実際の違反が減少しているのか」に着目した分析を求めていますが、「すべてのwebサイトを一斉に調査する」ことなどは難しく、▼通報件数▼是正の状況▼都道府県による指導▼トラブル件数の動向―などより推測することが現実的でしょう。
ただし、「是正が必要なwebサイトである」として医療機関等に通知がなされた場合でも、「どのような点で違反の疑いがあるのか」「どのように修正すればよいのか」などが必ずしも明示されていなかったことから、厚労省は今年(2019)年6月19日に通知「医業等に係るウェブサイトの監視体制強化事業について」を発出(厚労省のサイトはこちら(検討会資料))。そこでは、▼具体的な違反疑い事項▼どのような点が違反しているのか(誇大表現なのか、不適切表現なのか、など)―などを明示するように運用が改められています。
さらに、「違反事例の分類をタグ付けして、データ管理することで、集計・事例抽出を行いやすくする」「新設される医療広告協議会(▼国▼自治体▼医療関係団体▼インターネット広告業界団体―などで構成)で、自治体・関係団体における現状の課題に関する解釈・認識を共有する」「医療広告協議会で、関係者に分かりやすい医療広告規制に係る解説書を作成する(2019年10-12月)」などの運用改善も行われます。
病院団体の垣根を越えて、「医療の質」を評価
また(2)の「医療の質の評価・公表」については、日本病院会や全国自治体病院協議会などの病院団体が行っている「医療の質の評価・公表等推進事業」(QI事業)について、評価指標の統一化を図り、病院団体の枠を超えて、つまりオールジャパンでの評価実施を見据えた取り組みが報告されています。
この点、日本医療機能評価機構が、厚労省から「医療の質向上のための体制整備事業」を受託し、オールジャパンでの評価実施に向けた「評価指標の統一」などの検討をスタートさせています。すでに、各病院団体のトップと意見交換をはじめており、今年(2019年)7-9月には、病院団体等が参画する「医療の質向上のための協議会」を立ち上げる予定です。
QI事業においては、▼患者満足度▼インシデント・アクシデント発生率▼30日以内の予定外再入院率―などの共通QI指標が設定し、各病院団体等で「医療の質」を測定しています。ただし、各指標項目に関する計算式(分子・分母の設定)が病院団体で異なることから、組織の枠を超えたベンチマークができないのが実際です。「医療の質向上のための協議会」で計算式までも含めた「共通評価指標」を設けることで、全国の病院について「医療の質」が数値化されると期待されます。
ただし、「医療の質」をどのように公表するのかは非常に重要な問題です。医療関係者や学識者などは「測定値」そのものから「医療の質」を正確に判断できますが、医学・医療に明るくないほとんどの一般国民にとっては「測定値が何を示しているのか」「測定値を解釈するうえでの留意点」などは十分に把握できません。例えば、がん医療1つをとっても、患者の重症度(ステージなど)を考慮せずに治療成績を単純比較することはできません。
石川構成員は「例えば、グルメサイトのようにA病院は●ポイント、B病院は●ポイントなどと示すのか、慎重に検討する必要がある」と強調しています。この公表方法についても、「医療の質向上のための協議会」で検討されます。
医療機能情報提供制度、全国統一システム化に向けた検討をスタート
さらに(3)は、国民が医療機関を適切に選択できることを目指す「医療機能情報提供制度」について、全国統一のシステム構築に向けたスケジュールなどが報告されました。
現在、「医療機能情報提供制度」は都道府県が独自にサイト構築等を行っていることから、都道府県によって内容に大きなバラつきがあります。こうしたことも手伝い、医療機能情報提供制度の国民への認知度は低い(11%程度)のが実際です。
そこで厚労省は全国統一システムを構築することとし、今年度(2019年度)には各都道府県のサイトに関する実態調査を行い、来年(2020年)1-3月に「全国統一システムの素案」を取りまとめる予定です。国民・患者が「どういった情報を欲しているのか」という視点に立った検討が期待されます。この点、厚労省医政局総務課の担当者は「全国統一の仕様を固め、そこに都道府県が独自の情報を搭載することも可能としたい」との考えを示しています。
一方で、情報登録等を行う医療機関サイドの負担にも配慮し、「NDB(National Data Base:特定健診データと医療レセプトデータを格納)の活用」なども検討されます。例えば、特定の診療報酬の算定件数などは、国・都道府県がNDBデータを抽出し、それを医療機関で確認する、という形にすれば一定程度、医療機関側の負担軽減が図れると期待されるのです。
なお、「医療機能情報提供制度」は、認知度こそ低いものの、利用者のみに限れば満足度は極めて高く(9割程度)、どのように一般国民のPRしていくのかも重要な論点となります。
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