「かかりつけ医機能持つ医療機関」の情報充実と、「かかりつけ医機能報告」の新設に向けた論議続く!—社保審・医療部会(1)
2022.12.6.(火)
社会保障審議会・医療部会において「かかりつけ医機能を発揮するための制度整備」論議が続いています(関連記事はこちら)。
「かかりつけ医機能を持つ医療機関の情報を国民に提供する」とともに、「地域単位で、かかりつけ医機能の強化を図っていく」ことを目指すもので、医療法に関連規定を整備する内容です。
11月25日の医療部会論議では、この2つの見直しを行う方向に意見が収束してきていることが伺えますが、一部に少し異なる意見や別の提案も出ており、年末(2022年末)に向けてさらに意見調整が続けられます。
医療法改正案には、▼新たな地域医療連携推進法人の創設▼医療法人への経営情報提出義務化・データベースの創設—なども盛り込まれる見込みです。医療部会の最終意見を踏まえて「医療法改正案」を厚生労働省が作成し、来年(2023年)の通常国会に提出する構えです。
なお、同日には「遠隔医療の拡大」も議題に上がっており、別稿で報じます。
患者とかかりつけ医、1対1の関係が望ましいか、複数かかりつけ医が望ましいか
「かかりつけ医機能を発揮するための制度整備」案として、11月28日の前回会合に厚労省医政局総務課の岡本利久課長から次のような考え方が提示されました。詳細は別稿をご参照ください。
(1)国民への「かかりつけ医機能」に関する情報提供を強化するために、「医療機能情報提供制度」を充実する(下図の下段「青」部分がイメージ)
▼かかりつけ医機能について、現在の厚労省令の記載を、医療法に格上げし、例えば「日常的によくある疾患への幅広い対応」「医療機関の医師がかかりつけ医機能に関して受講した研修など」「入退院時の支援など医療機関との連携の具体的内容」「休日・夜間の対応を含めた在宅医療や介護との連携の具体的内容」—などの分かりやすいものに見直す
▼詳細は、今後、専門家・有識者で検討する
(2)地域単位でのかかりつけ医機能強化を行うために、新たに「かかりつけ医機能報告」制度を創設する(下図の中段「赤」部分がイメージ)
▼医療機関(病院、クリニック)に対し、「かかりつけ医機能」(その内容は今後、専門家・有識者で検討する)の保有状況を都道府県に報告する義務を課す
▼都道府県は報告内容を整備し、「かかりつけ医機能を持つ」医療機関を確認して、公表する
▼地域で「かかりつけ医機能」のどの部分が不足しているかを分析し、不足分を補う方策を地域の協議の場で議論し、実行する
委員の意見は、こうした見直しを認める方向に集約化しつつありますが、さまざまな提案もなされています。
例えば、「質の担保がなされていることが、患者・国民の安心につながる。質を担保できる仕組みを組み込むべき」(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「機能・質が不十分であれば、都道府県が認めないと判断できる仕組みすべき」(河本滋史委員:健康保険組合連合会専務理事)など「質の確保」を求める意見が出ています。上記(2)の「かかりつけ医機能報告」では、「かかりつけ医機能」を複数設定し(その内容は、今後、有識者・専門家が検討する)、●項目以上に該当する医療機関を「かかりつけ医機能を持つ医療機関」として公表する考えが示されています。その際、「機能を持つ」度合にも様々あり、一定の水準を持つ場合にのみ「機能を持つ」と判断できる仕組みが必要と佐保委員や河本委員は訴えています。この判断の仕組みや、判断の基準なども、今後、有識者・専門家で検討することになるでしょう。
また、後述する書面交付とも関係しますが、患者は「複数のかかりつけ医療機関を持つ」ことが認められます。ただし、河本委員や島崎謙治委員(国際医療福祉大学大学院教授)らは「患者とかかりつけ医療機関とは1対1の関係が望ましい」との考えを強調しています。
例えば「患者が服用する薬剤や、検査結果等をすべて把握したうえで、最適な全人的医療を提供する」ためには、確かに「治療の司令塔になる、かかりつけ医療機関」は1か所に集約した方が好ましいとも思われます。全世代型社会保障構築会議でも示された「医療版のケアマネジャー」の考え方も、「1対1」の関係を想定していると言えそうです。
一方、24時間・365日対応や在宅医療対応、増悪した場合の入院医療対応なども「かかりつけ医機能」に含まれると考えられ、この側面からは「かかりつけ医療機関が複数ある」ことに何ら問題はなさそうです。1人開業医が少なくない我が国では、1つの医療機関に24時間・365日対応を求めることはできず、「複数医療機関で連携する、いわばチームでのかかりつけ医療機関」が現実的です。「複数医療機関が連携してかかりつけ医機能を果たすべき」(釜萢敏委員:日本医師会常任理事)、「特定の医療機関と患者を紐づけるのではなく、疾病ごとにどの医療機関が対応するかを明確にしていくべき」(木戸道子委員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)などの意見も出ています。
双方の視点を踏まえた継続的な検討が求められる論点と言えるでしょう。岡本総務課長は「ある疾患を持つ患者に対し、大学病院と地域クリニックとが連携して治療・指導管理を行うこともあり(平時の指導管理はクリニックが、増悪時や定期的なチェックを大学病院が担うなど)、複数のかかりつけ医療機関が存在することも想定され、1対1に絞ることは考えていない」と述べたうえで、「慢性疾患を持つ患者の総合的な管理を複数医療機関が行うケースがどの程度あるのか、診療実態を踏まえてさらに検討していく」旨の考えを示しています。
島崎委員は「個々の医療機関が、それぞれに治療を行うという、現状と変わらない状況になることを危惧している。かかりつけ医機能には▼コモンディジーズへの対応▼全人的対応▼24時間対応—の3要素を必須とすべき」と改めて訴えました。
このほか、「全国の医療機関で患者情報を活用する仕組みの検討が進んでおり、それを活用した情報共有が、かかりつけ医機能を発揮するためにも重要となる」(松田晋哉委員:産業医科大学教授)などの意見も出ています。
かかりつけ医療機関から患者へ「医療提供内容」に関する書面を交付する仕組みも創設
また岡本総務課長は、11月28日の前回会合で示された「患者と医療機関との間で、書面により、かかりつけ医機能を確認する仕組み」について、「かかりつけ医機能として提供する医療の内容を説明・確認する」ものであるとの考えを説明しました。
「慢性疾患などに罹患し、継続的な管理が必要な患者」と「当該患者の継続管理を行っている医師」とが、書面で「今後想定される病状の変化、その際に考えられる治療・医学的管理の方針や内容」などを確認するものです。現在でも、多くの医師・患者が「口頭で行っている説明・確認」を「書面で行う」ことで、患者がより安心して当該医療機関を受診できる環境を整えるものです。入院においては、医師が「入院診療計画」を作成し、「どのような病状なのか、どのような治療を行うのか、入院期間はどの程度なのか」などを患者に説明・交付しています。これを「かかりつけの患者」に広げるイメージと言えそうです。
翻って診療報酬を眺めると、例えば脂質異常症、高血圧症または糖尿病を主病とする患者に対し継続的な治療・管理を行う場合にはB001-3【生活習慣病管理料】を算定できますが、その際には療養計画書を医師が作成し、患者に「検査結果の詳しい説明」「重点的な指導項目(食事や運動など)」「服薬指導」などを説明することが求められています。
また、脂質異常症、高血圧症、糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病または認知症のうち2以上の疾患を有する患者に対し継続的・総合的な治療・管理を行う場合にはB001-2-9【地域包括診療料】などを算定できますが、その際には、医師から患者に対し「生活習慣病や認知症等に対する治療や管理を行う」「他院からのものを含めたすべての医薬品管理を行う」「予防接種や健康診断の結果に関する相談など、健康管理に関する相談に応じる」などの対応を行うことの説明が求められています。
岡本総務課長は、こうした診療報酬上の説明様式なども参考に、新たな「かかりつけ医機能として提供する医療の内容を説明・確認する」書式の内容を今後検討していく考えを示しました。
この書面交付の仕組みに反対する意見は出ていませんが、例えば相澤孝夫委員(日本病院会会長)は、「転勤などで不案内な地域に居住してから、『何か調子が悪い。体のいろいろな部分が不調である』と感じた際に『どの医療機関にかかればよいのか』と困ることが多い。そうした際に『大きな総合病院にかかる』という受療行動を変えるために、かかりつけ医・かかりつけ医療機関の議論がなされている。継続的な指導管理が必要な患者だけでなく、『医療の入り口』となる部分でのかかりつけ医療機関にも焦点を合わせた議論をすべき」と、より広範な仕組みの検討を求めており、小熊豊委員(全国自治体病院協議会会長)もこの見解に賛同しています。今後の重要論点の1つとなるでしょう。
意見は集約の方向に動いてきていますが、永井良三部会長(自治医科大学学長)は「性急な制度改革は好ましくない。日本ではフリーアクセスが保証されている。今後もエビデンスに基づいた、かかりつけ医機能論議をしてほしい」と委員・厚労省事務局に要請しています。
医療部会では、年内(2022年内)に意見をまとめるためさらに詰めの議論を行います。その後、医療部会の最終意見を踏まえて「医療法改正案」を厚生労働省が作成し、来年(2023年)の通常国会に提出となる予定です。
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