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EPA・技能実習の外国人介護人材、人員基準への算定を「就労開始時点」から認めるべきか—社保審・介護給付費分科会

2022.8.29.(月)

外国人介護人材のうち「EPA介護福祉士候補者」と「技能実習生」は、就労開始後6か月経過してから介護施設の人員配置基準等に算定可能となっている—。

一方、同じ外国人介護人材でも「特定技能1号」と「在留資格『介護』」では、就労開始時点から介護施設の人員配置基準等に算定可能である—。

両者の整合性を確保する点、日本人では何らの制限が設けられていない点、また介護施設サイドからの要望が出ている点などを踏まえて、前者(EPA、技能実習)についても「就労開始時点から介護施設の人員配置基準等に算定可能」とすべきか—。

8月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論が行われました。分科会では賛否両論が出るとともに、「議論のベースとなるデータが不十分であり、さらなる調査検討が必要である」との意見も出ており、今後、厚生労働省で「議論の進め方も含めて検討していく」こととなりました。まだ結論は出ていません。

外国人介護人材の人員基準算定、賛否両論とともに「データ不足」を指摘する声も

外国人介護人材については、現在、(1)EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者(2)技能実習生(3)特定技能1号(4)在留資格「介護」—の4つの制度があります。

しかし、後2者(特定技能、在留資格「介護」)では、就労開始時点から介護施設の人員配置基準等に算定可能ですが、前2者(EPA、技能実習)については「就労開始後6か月経過してから介護施設の人員配置基準等に算定可能とする」との、言わば制限が設けられています(ただし日本語能力試験N2取得者(日本語能力が非常に高い者)では就労開始時点から算定可)。

外国人介護人材でも、制度により「人員配置基準への算定」時期に違いがある(社保審・介護給付費分科会1 220826)



この制限は、「介護技能や業務に必要な日本語能力がある程度向上するまでの期間」とされていますが、後2者ではそうした制限が設けられていないこと、また、日本人では「介護業務経験が全くない者」でも、就労開始直後から人員配置基準等に算定可能であることに比べると、「合理的な制限かどうか」には疑問も生じます。

こうした点を踏まえ、厚労省は「前2者(EPA、技能実習)についても就労開始時点から介護施設の人員配置基準等に算定可能としてはどうか」との提案を8月26日の介護給付費分科会に行いました。

この見直しにより、▼外国人介護人材の自覚の向上▼施設内の均衡待遇の実現—などに結びつき、「処遇改善や、利用者に対するサービスの質の向上にも効果が波及する」と厚労省は考えていますが、「単なる人手不足対策と受け止められてはいけない」「適切な技能移転や実習生の保護に支障を来すことがあってはならない」ことから、次のような要件を設定する考えも厚労省は示しています。すべての外国人介護人材を一律に「就業当初から人員基準算定に組み入れる」ものではなく、事業所・施設ごとに「教育状況などを振り返り、人員基準算定への組み入れ時期を選択してもらう」仕組みと言えるでしょう(個々人での選択を認めるかどうかは、今後、詰めていく)。

▽「受入先施設を運営する法人の理事会」等で審議・承認するなど、適切かつ透明性の高いプロセスを経る

▽上記のプロセスを経て外国人介護人材の受入れを実施することについて都道府県等に報告する

▽厚労省から、都道府県・事業者等に対し「就労後6か月未満の外国人介護人材」について、▼報酬を「日本人が従事する場合と同等以上とする」必要がある▼他の従業者と同様に、介護保険法に基づく介護サービスの実施状況等に対する運営指導(介護保険施設等指導指針等に基づく指導)を行う必要がある—旨を周知する



この見直し案に対しては、賛否両論が出ているほか、「データ不足」を指摘する声もあります。それぞれについて見ていきましょう。

賛成する意見としては、上述のとおり「日本人や、他制度との整合性をとるべき」といった声や、「外国人労働者には賃金の他にも様々な経費がかかる一方で、一定期間、人員配置に算定できないことが足枷となり、受け入れに二の足を踏む事業者も多い」「利用者へのアンケート(後述)では経験機関が6か月未満でも、6か月移行と同じように満足している」ことなどを上げる意見が稲葉雅之委員(民間介護事業推進委員会代表委員)や濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)、古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)らから出たほか、「理事会承認などの要件を課しており、外国人介護人材の育成状況をきちんと把握できる」点を田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)らは評価しています。



一方、EPAや技能実習は「我が国の技術・技能を外国人に伝授するもので、国際貢献が趣旨となる」「決して、人材確保の仕組みではない」点を根拠に、今回の仕組みに疑問を呈する意見も江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や田母神裕美委員(日本看護協会常任理事)をはじめ少なくありません。また、「就業当初は間接業務から入り、ベテラン介護スタッフが手取足取りの教育・指導を行い徐々に直接業務に入っていく。就労当初から人員配置に査定することで、かえってベテランスタッフなどの負担が増すのではないか」(小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)との不安の声も出ています。



さらに多く聞かれたのが「議論の素材となるデータが不十分である」との声です。

2021年度の調査研究では、例えば(a)利用者の外国人介護人材によるサービスへの満足度等をみると、就労から6か月未満でも6か月以上でも「8割程度が満足」している(6か月未満勤務・6か月以上勤務で差はない)(b)介護事業所等の3割程度は「EPA介護福祉士候補者等について、即時の人員基準算定を望んでいる」—ことなどが示され、厚生労働省はこれも見直しの1根拠として提示しています。

利用者の8割が「外国人介護人材の働きぶり」に満足しており、就業6か月未満と以上とで差はない(1)(社保審・介護給付費分科会2 220826)

利用者の8割が「外国人介護人材の働きぶり」に満足しており、就業6か月未満と以上とで差はない(2)(社保審・介護給付費分科会3 220826)

利用者の8割が「外国人介護人材の働きぶり」に満足しており、就業6か月未満と以上とで差はない(3)(社保審・介護給付費分科会4 220826)



しかし、(a)では「就労6か月未満の外国人介護人材数が非常に少ない」、(b)では「逆に6割の介護事業所等は『現状の就労から6か月以上の経過による人員基準算定のままでよい』と答えている」ことも明らかにされており、「これをベースに議論を行うことはできない。さらなる調査が必要ではないか」との意見が吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)や及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)、石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学客員教授)ら数多くの委員から出ています。また鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は「外国人介護人材の声をまず聞くべきではないか」と提案しています。

事業所の3割弱が「見直し」を希望しているが、6割が「今のままでよい」と考えている(社保審・介護給付費分科会5 220826)



このように意見が大きく割れている状況に鑑み、田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)は「本日、結論を出すことはできない」と判断。今後、厚労省で「介護給付費分科会で再度、議論を行うかも含めて、今後の検討の進め方などを検討する」ことになりました。検討の期限などは定められておらず、上記の意見にも配慮した慎重な検討が行われることになるでしょう。

なお、関連して松田晋哉委員(産業医科大学教授)は「我が国に来てくれる外国人介護人材は非常に優秀である。今、看護・介護人材の争奪戦が世界規模で行われており、優秀な人材には、きちんとした処遇で迎えるべき」と提言。この点、江澤委員も「一部には、夢を持って来日したが、劣悪な処遇で使い捨て人材としてこき使われ失望して帰国した外国人もいるという。我が国の国際貢献の姿勢が問われる」と指摘しています。非常に重要な視点です。



このほか、8月26日の介護給付費分科会では、▼2021年度介護報酬改定に関する効果検証調査(2022年度調査)2022年度の介護従事者処遇状況等調査—の詳細を決定しました(今後、総務省の審査で一部内容が修正される可能性あり)。委員からは「改定の効果検証調査において、利用者の声を今以上に聞くべき」との指摘が数多く出ています。また、後者の処遇改善に関しては「3つの加算の組み換えなどによる簡素化」を求める声も小さくありません。こうした意見も踏まえ、今後、2024年度の次期介護報酬改定論議が進められていきます。



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