2024年度の次期介護報酬改定に向け、テクノロジー活用の効果・介護施設の医療状況などを詳細に調査―介護給付費分科会・研究委員会
2022.8.5.(金)
2021年度に行われた介護報酬改定の効果・影響を見るために、本年度(2022年度)には▼離島や中山間地域などのサービス確保状況▼介護保険施設のリスクマネジメント▼介護保険施設における医療・介護サービス提供実態▼LIFEの利活用状況▼テクノロジー活用—などを調べる—。
このうち介護保険施設における医療・介護サービス提供実態に関しては、2021年度改定でも重視された「リハビリ・口腔管理・栄養管理の一体的提供」状況も分析していく—。
8月3日に開催された、社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護報酬改定検証・研究委員会」(以下、検証・研究委員会)で、こういった調査内容を議論しました。
8月下旬開催の介護給付費分科会での了承を経て、9月にも調査を実施。来春(2023年春)から順次、調査結果が公表され、2024年度に予定される介護報酬改定(診療報酬との同時改定)議論につなげられます。
「LIFEを介護の質改善につなげる」ために、まず介護分野の基礎研究底上げが必要
昨年度(2021年度)に3年に一度の介護報酬改定が行われ、例えば「介護人材不足を踏まえた人員基準等の緩和」や「科学的介護実現のためのLIFEデータベースの推進」「質の高い訪問看護に向けたリハビリ専門職による訪問看護の抑制」などが柱に据えられました。
●人員基準見直しなどに関する記事はこちら
●訪問看護に関する記事はこちら
●介護医療院に関する記事はこちら
●居宅介護支援に関する記事はこちら
●ADL維持等加算などに関する記事はこちら
●データベースの利活用に関する記事はこちら
●リハ・口腔・栄養等に関する記事はこちら
●処遇改善加算等に関する記事はこちら
介護報酬では、こうした「介護現場の課題を解決し、介護の質を向上させる」ことが重要目的の1つとなります。このためには「改定を行う」にとどまらず、「改定によって『課題解決が進んでいるのか』を常に検証」し、その結果を次の改定に活かしていくことが求められます。もっとも、改定の効果・影響がすぐに出る項目と、比較的時間がかかる項目があるため、調査は▼改定年度(2021年度改定に関しては2021年度)▼改定翌年度(同2022年度)▼改定翌々年度(同2023年度)―に分けて行われます。改定年度には「すぐに効果の現れる」項目を、時間のかかる項目については「翌年度、翌々年度」という具合に分担するイメージです(2021年度調査結果に関する記事はこちらとこちら)。
2022年度には次の5項目の調査を行う方針が固められており(関連記事はこちら)、8月3日の検証・研究委員会では具体的な調査内容(対象、調査項目、調査票など)が議論されました。
(1)都市部、離島や中山間地域などにおける2021年度改定等による措置の検証、地域の実情に応じた必要な方策、サービス提供のあり方の検討
(2)介護保険施設のリスクマネジメント
(3)介護保険施設における医療・介護サービスの提供実態等
(4)LIFEを活用した取組状況の把握および訪問系サービス・居宅介護支援事業所におけるLIFEの活用可能性の検証
(5)介護現場でのテクノロジー活用
まず(1)では、「離島や中山間地域などでも必要な介護サービスが確保される」ことを目指した2021年度改定(例えば▼(看護)小規模多機能型居宅介護について、市町村が認めた場合に、登録定員を超過した場合の報酬減算を一定の期間行わない▼小規模多機能型居宅介護の登録定員・利用定員の基準を、市町村が条例で定める上での「従うべき基準」 から「標準基準」に見直す—など)の影響・効果(定員見直しによりサービス提供に支障が出ていないかなど)を調査します。
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調査設計を行った検討組織の委員長でもある川越雅弘委員(埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科兼研究開発センタ 教授)は「(看護)小規模多機能型居宅介護について、全市町村を対象に『定員増のニーズがあるのか』などを調べ、自治体の規模・人口減少率を踏まえたクロス分析を行っていく」旨を、厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長は「他のサービスの状況について、別に老人保健事業で調査研究を進める」旨を説明しています。離島やへき地でのサービス確保に向けて、小多機・看多機以外にも「定員増などのニーズがあるのか」を探り、2024年度介護報酬改定の基礎資料を揃えることになります。
この点、今村知明委員(奈良県立医科大学教授)は「今後、都市部において介護ニュースが急速に膨らむ。その点に介護現場がどう対応できるのか詳しく調査分析してほしい」と要望しています。戦後の集団就職で都会に移住した団塊世代が、今年度(2022年度)から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度にはすべてが後期高齢者になることから、今後「都市部の介護ニーズが急増する」ことは確実です。一方で都市部では「土地代」など高額になるため、サービス確保が難しいという面もあります。今後の介護サービス提供確保に向けて、極めて重要な視点です。
また(2)では、介護保険施設における「安全管理体制の確保状況(安全対策体制加算・安全対策体制未実施減算の算定状況など)」「事故やヒヤリ・ハット事例の発生状況や報告体制」「事故情報等の活用状況」などを詳しく調べます。
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介護分野でも「安全確保」が極めて重要になりますが、▼北欧では施設内転倒などについて、よほどの過失等がないかぎり施設側は責任を問われない(自宅でも高齢者の転倒などは生じるため)。一方、我が国では転倒等について、基本的にすべて施設側が責任を問われ、「可哀そうな状況」にある。国際比較を今後進める必要がある(松田晋哉委員長: 産業医科大学教授)▼介護分野では、医療分野のように「インシデント」「アクシデント」の区別なく、「事故」と大きな括りでとらえている。今後、切り分けを考えていく必要がある(粟田主一委員:東京都健康長寿医療センター研究所副所長)—などの指摘が出ています。
他方(3)では、「施設入所者の医療ニーズと、医療・看護提供内容」「口腔衛生の管理体制」「管理栄養士等の配置状況、栄養ケア・マネジメントの対応状況」などとともに、「介護療養型医療施設・医療療養病床の移行予定」について詳しく調べます。
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この点について、田中滋委員(埼玉県立大学理事長)は「リハビリ・口腔管理・栄養管理の一体化を意識した分析を行ってほしい」と要望しました。2021年度介護報酬改定では、この3点の一体的実施が重視され、例えば次のような点がポイントとなっています(関連記事hこちら)。さらに在宅医療分野でもこの点が重視されています(関連記事hこちら)。
▽「リハビリテーション・機能訓練」「口腔」「栄養」に関する加算等の算定要件とされている計画作成や会議について、必要に応じて▼リハビリ専門職▼管理栄養士▼歯科衛生士―が参加することを明確化する
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設(一部除く)、介護医療院において、【口腔衛生管理体制加算】(1月あたり30単位)を廃止するとともに、LIFEへのデータ提出・フィードバック情報によるPDCAサイクル推進を評価する【口腔衛生管理加算(II)】(1月当たり110単位)を新設する
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設(一部除く)、介護医療院において、【栄養マネジメント加算】を廃止する一方で、【栄養ケア・マネジメントの未実施減算】(1日あたり14単位の減算)を新設し、手厚い管理栄養士体制を敷き、計画的な栄養改善を行うことを評価する【栄養マネジメント加算】(1日あたり11単位)の新設などを行う(介護保険施設での栄養マネジメント充実を目指す)
▽通所介護、地域密着型通所介護、療養通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護、(介護予防)通所リハビリ、(介護予防)小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、(介護予防)特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護において、口腔機能・栄養状態の「いずれか」を確認し、ケアマネジャーに情報連携する取り組みを評価する【口腔・栄養スクリーニング加算(II)】(1回あたり5単位)、【口腔機能向上加算(II)】(1回あたり160単位)を新設する(口腔機能・栄養状態の「双方」を確認し情報連携することを評価する【加算(I)】の下位区分を設け、取り組みやすくする)
▽通所介護、地域密着型通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護、(介護予防)通所リハビリテーション、看護小規模多機能型居宅介護において、管理栄養士を配置し、利用者ごとの栄養状態把握・改善等の取り組みを評価する【栄養アセスメント加算】(1月あたり50単位)を新設し、居宅訪問による栄養改善を評価する【栄養改善加算】の単位数を引き上げる(現行の150単位から200単位に引き上げ)
▽(介護予防)認知症対応型共同生活介護において、管理栄養士(外部連携でも可)による栄養ケアに係る介護スタッフサポート体制等を評価する【栄養管理体制加算】(1月あたり30単位)を新設する
こうした点や田中委員の指摘も踏まえ、厚労省は「一体的な実施の状況を見ることができるように分析段階で工夫する」考えを明らかにしています。
さらに(4)では、▼LIFE関連加算の算定状況(取り組みや負担状況など)、算定していない事業所の状況(なぜ算定しないのかなど)▼介護関連データベースを活用した分析▼訪問系サービス・居宅介護支援事業所の一部を対象とした「モデル調査」(実際にLIFEを活用してもらい、課題などを探る)—という3類型の調査を行います。
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この点、松田委員長は「LIFEデータを『ケアの質改善』につなげるためには、臨床研究の膨大な積み上げが必要であるが、介護分野では、そうした積み上げがなされておらず、現時点では、まだ『質の改善』につなげることまでは難しい。まずは『LIFEデータをどう分析するか』という点について何らかの示唆が得られるような分析結果が得られることを期待している。現在は、介護分野における研究の底上げを進める段階と言える」と見ています。
まずは各施設・事業所において「適切にデータを入力する」→「国で、データを集積・分析する」→「国から各施設・事業所に分析結果のフィードバックを行う」→「各施設・事業所においてフィードバックされたデータを参考にする」という流れが根付くことが期待されます。その後、段階的に「フィードバックされたデータを踏まえたケアの質改善を検討」していくことになるでしょう。
一方、(5)では、見守りセンサーなどのテクノロジーを活用した場合の「人員基準緩和等」により「利用者の安全やケアの質は保たれるのか」「スタッフの負担は過重にならないのか」などを詳しく調べます。
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この点、▼施設・事業所の負担を考慮して、調査項目の整備や回答しやすい選択肢の工夫などを行うべき(堀田聰子委員:慶應義塾大学大学院教授)▼訪問系サービスでは、利用者宅でサービスを行うため、ケアの提供場所とICT活用の場面がズレるケースが少なからず出ている。そうした点を踏まえた調査内容の整理を行うべき」(福井小紀子委員:東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科在宅ケア看護学教授、田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授)▼ICT利活用が現場で生きるのは、現在は「他事業所との情報共有」などの場面である。その点の調査項目も加えるべき(松田委員長)—などの注文がついています。
今後、委員の意見も参考にして調査内容を精査。8月下旬に開催される親組織「社会保障審議会・介護給付費分科会」での了承を経て、9月から実際の調査がスタートします。来春(2023年春)から順次、調査結果が介護給付費分科会に報告され、2024年度介護報酬改定論議が本格化していきます。
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