訪問介護の「同一建物減算」を厳格化すべきか?訪問介護+通所介護の新複合型サービスを創設すべきか?—社保審・介護給付費分科会(5)
2023.11.9.(木)
訪問介護・訪問入浴介護について「看取り期対応」を適切に評価する一方で、訪問介護の「同一建物減算」について厳格化を図ってはどうか—。
「通所介護」と「訪問介護」を組み合わせた、新たな地域密着型サービスを創設するべきか—。
11月6日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論も行われました(関連の第1ラウンド論議の記事はこちらとこちら)。
目次
訪問介護・訪問入浴介護でも「看取り対応」を介護報酬でした支え
2024年度の介護報酬改定に向けた議論が、個別具体的な第2ラウンドに入っています(訪問リハビリに関する記事はこちら、ケアマネジメントに関する記事はこちら、訪問看護に関する記事はこちら、処遇改善加算1本化に関する記事はこちら、通所介護等に関する記事はこちら、通所リハビリ等に関する記事はこちら、ショートステイに関する記事はこちら、地域密着型サービスに関する記事はこちら)。
11月6日の会合では、訪問系サービス((1)訪問介護(2)訪問入浴介護(3)訪問看護(4)訪問リハビリ(5)居宅療養管理指導(6)居宅介護支援(ケアマネジメント)(7)福祉用具・住宅改修—)、横断的事項(介護人材の処遇改善等、複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ))について具体的な改定内容に関する論議が行われました(訪問リハビリに関する記事はこちら、ケアマネジメントに関する記事はこちら、訪問看護に関する記事はこちら、処遇改善加算1本化に関する記事はこちら)。
本稿では「訪問介護・訪問入浴介護」「新たな複合型サービス」「居宅療養管理指導」に焦点を合わせます。
訪問介護・訪問入浴介護については、厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の和田幸典課長から次の3項目の見直し提案がなされました。
(1)看取り期の利用者への対応
(2)同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬
(3)中山間地域等における移動距離等を踏まえた報酬の見直し
まず(1)は、訪問介護・訪問入浴介護において、より適切な「看取り期対応」が実施可能となるよう、次のような報酬上の評価を行ってはどうかという提案です。
(訪問介護)
▽▼中重度者や支援困難ケースへの対応▼専門性の高い人材の確保—などを行う事業所を評価する【特定事業所加算】の「重度者対応要件」について、「看取り期にある者」要件を追加し、「看取り期の利用者に対するサービス提供体制」を評価する
▽【特定事業所加算】について、訪問介護員の質の向上に向けた取り組みをより一層推進し、事業所を適切に評価する観点から、「現行区分の整理統合」「要件の見直し」を行う
(訪問入浴介護)
▽看取り期には「医師・訪問看護師等の多職種との連携体制を構築する」「通常の対応と比べてサービス提供時間を要する」ことなどを踏まえ、看取り期対応への新加算を設ける
「在宅で人生の最期を迎えたい」と考える利用者の希望に沿った対応が可能になると期待され、この方向に異論・反論は出ていません。今後、詳細な要件などが詰められていきます。
訪問介護の同一建物減算、業務効率を踏まえて「さらなる厳格化」を行うべきか
また(2)は「効率的なサービス提供を行う訪問介護事業所」について、報酬の適正化(引き下げ)を行うものと言えます。
▼訪問介護事業所と「同一敷地内・隣接敷地内に所在する建物」に居住する者では、介護報酬を10%減算する▼事業所と「同一敷地内・隣接敷地内に所在する建物」に居住する利用者で、1か月あたりの利用人数が50人以上の場合には、介護報酬を15%減算する—という仕組みが設けられています(同一建物減算)。
例えば、サービス付き高齢者向け住宅に訪問介護事業所が併設され、その訪問介護事業所から当該サ高住の居住者に訪問介護を行う場合などには、移動時間が極めて少なく「効率的なサービス提供が行える」点などを考慮して、この減算規定が設けられています。
しかし、主に「同一建物でない建物の利用者サービスを行う訪問介護事業所」からは、同一減算はまだ不公平であるとの指摘もあるようです(減算を受けてもなお利益率が良い)。
こうした声も踏まえて和田認知症施策・地域介護推進課長は「訪問介護利用者の一定割合以上が同一建物等に居住する者である場合には、段階的に報酬の適正化を図る仕組み」へと見直してはどうかとの提案を行いました。例えば「同一建物居住者の割合がX%以上Y%未満の場合には20%減算」「同じくY%以上Z%未満の場合には25%減算」「同じくZ%以上の場合には30%減算」といったイメージでしょう。
この提案について、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)など費用負担者サイドは「業務効率を踏まえて減算規定を推進・厳格化していくべき」旨を訴えていますが、「事業所の努力で生産性を向上し、業務時間が短縮できる点を減算することは妥当ではない。居宅介護支援でも同様である」(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)、「要介護高齢者について、病院からサ高住などへの移動が進む中で、現在の同一建物減算規定の厳格化が好ましいのか考える必要がある。介護サービス評価のポイントは『質の高いケアの提供がなされているか否か』である。例えば第三者評価によって『同一建物居住者の抱え込みが生じていないか』などの視点で減算などを考えていくべきではないか」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)、「一部に不適切な訪問介護・サ高住関係などが存在するのだろうが、それをもって全体にペナルティをかけるのはいかがなものか」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「サービスの質に着目すべきであり、同一建物減算の厳格化は好ましくない。利益率が良いサービスは報酬減額がなされるが、それが日本の介護制度にとって良いことなのか検証する必要がある」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)といった反論も強く出ています。
今後、どういった方向に進めるべきか、さらに議論を継続する必要がありそうです。
さらに(3)は、地方自治体から要望のある「中山間地域等で、現行の加算(特別地域加算など)に該当しないが、地域のサービス資源の状況等によりやむを得ず移動距離等を要し、事業運営が非効率にならざるを得ない事業所について、新たに評価を行ってはどうか」という提案です。明確な反論は出ておらず、今後、自治体とも調整しながら「詳細な要件」などを練っていくことになるでしょう。
通所介護と訪問介護を合わせた「新たな複合型の地域密着型サービス」に賛否両論
また、和田認知症施策・地域介護推進課長は、介護保険部会でも提唱された「新たな複合型サービス」として、「訪問介護」と「通所介護」を組み合わせた、次のような新たな地域密着型サービスを創設してはどうかと提案しています。
▽訪問介護と通所介護を一体的に提供することにより、「訪問」と「通所」における利用者の態様を把握・随時共有し、「利用者の状況やニーズに即応したきめ細かなサービスの提供を行う→機能訓練等を通じた生活機能の維持・向上を図る→要介護者の自立した在宅生活が継続できるよう、効果的かつ効率的なサービスを行う」ことを目的とする
▽既存サービスの組合せであり、サービスの質の確保の観点から、それぞれのサービスで必要とされる人員・設備・運営基準は基本的に同様のものとする
【人員基準】
▼管理者は1名(1つのサービスとなり、従業者を一元的に管理する)
▼訪問・通所サービスに対応可能な人材育成を図るため、「事業所全体で必要な人員を確保する」ことを基準とする
▼限られた専門人材の有効活用を図り、地域の訪問ニーズへの対応を行う観点から、新サービスと訪問介護の指定を併せて受け、一体的に運営されている場合は、訪問介護員等に関する双方の基準を満たすこととする
【設備基準】
▼設備は、すべて共有して使用する(1つのサービスである)
▼地域密着型サービスであり、「29人以下」の登録定員を設ける
【運営基準】
▼地域に開かれたサービスとし、サービスの質確保を図る観点から、運営の公平性や透明性を確保するための運営推進会議(6か月に1回以上開催)を設ける
▼「ケアマネ事業所のケアマネジャー」が作成したケアプランに基づきサービス提供を行う(ケアマネジメントの外出し)
▼利用者の状況等に応じてきめ細かなケアを行う観点から、ケアマネ事業所のケアマネと連携し、個別サービス計画において利用日時等について決定する
【介護報酬】
▼基本報酬は、利用者の状態の変化等に応じて、時間区分にとらわれない訪問・通所のきめ細かなサービス提供を行う観点から、利用者の自己負担額の変動を回避し、円滑なサービス提供を行いやすくするため「要介護度別の包括払い」(月当たり●単位)とする
▼既存サービスの組合せであることから、現行の訪問介護と通所介護の加算・減算を基本としつつ、包括報酬であることや複合型サービスの特性を踏まえたものとする
この提案内容については「賛同する声」と「反対する声」との両方が出ています。
賛同する声としては、「介護人材が不足する地域で、通所・訪問の双方のサービスが行えるようになると期待できる」(濵田委員、奥塚正典委員:大分県国民健康保険団体連合会副理事長、大分県中津市長)、「利用者からは好ましいサービスである」(正立斉委員:全国老人クラブ連合会理事・事務局長)などが目立ちます。
また反対する声としては、「地域密着型サービスでは市町村を跨ぐ利用がしにくくなる。既存の通所介護事業所が訪問看護事業を提供可能な仕組みとすべきではないか。既存サービスからの移行は期待できず、地域で人材争奪戦が生じるため、人材確保難への対応効果は期待できないのではないか」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長、江澤委員)、「既存事業所の経営努力を阻害しないか。また人材確保難への対応は困難であろう」(堀田聰子委員:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)、「提案された定員規模では安定経営は困難ではないか」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)といったところが目立ちます。
現在の介護保険法では「既存サービスを組み合わせあ複合型サービスは、地域密着型サービスとして実施する」ことになっており、東委員・江澤委員の提案する「既存の通所介護事業所が訪問看護事業を提供可能な仕組み」創設には、介護保険法改正が必要となります。まず「新たな地域密着型サービスを創設し、その状況を検証しながら次の手を考えていく」というやり方もありそうです。
まだ「新たな複合型サービス」の行方は見えておらず、さらに議論が継続されることでしょう。
医療用麻薬を使用する在宅要介護者等への薬学管理を、介護報酬でも評価へ
このほか、居宅療養管理指導について次のような見直し提案が厚労省老健局老人保健課の古元重和課長からなされています。明確な反対意見は出ておらず、今後、細部の詰めが行われると見込まれます。
▽薬剤師によるオンライン居宅療養管理指導について、薬機法規制に合わせて「初回も含めて算定を可能にする」「薬局以外の場所で行う場合も算定可能とする」「居宅療養管理指導の上限である月4回まで算定可能とする」などの要件等見直しを行う
▽「在宅で医療用麻薬持続注射療法が行われている患者」「在宅中心静脈栄養法を行っている患者」に対し、在宅での療養状況に応じた薬学的管理・指導を行うことを、診療報酬と同様に介護報酬でも評価する
▽管理栄養士による居宅療養管理指導の対象利用者のうち、「一時的に頻回な介入が必要と医師が判断した利用者」に限定して、期間を設定して上限回数(月2回まで)を緩和する等の対応を行う
▽管理栄養士、歯科衛生士等について、医師、歯科医師、薬剤師と同様に「通所が可能な利用者」も居宅療養管理指導の算定対象とする
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