医療ショートを「高齢の軽症救急」搬送先の1つに、ショートステイでの看取り対応評価・長期利用是正進める—社保審・介護給付費分科会(3)
2023.10.27.(金)
短期入所生活介護について、「看取り対応体制」を評価するとともに、一方で「長期利用」を是正するような報酬対応を考えてはどうか—。
短期入所療養介護について、「軽症の高齢救急患者」搬送先の1つとなるよう、手厚い医療対応を評価する「総合医学管理加算」の評価を充実してはどうか—。
10月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論も行われています(第1ラウンドの関連記事はこちら、同日の通所介護等に関する議論の記事はこちら、通所リハに関する記事はこちら)。
目次
ショートステイ、「看取り」実施の実態を踏まえた加算を新設
2024年度の介護報酬改定に向けた議論が介護給付費分科会を中心に進み、現在は個別具体的な第2ラウンド論議に入っています(地域密着型サービスの第2ラウンド論議に関する記事はこちら)。10月26日の会合では、通所系・短期入所系サービス((1)通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(2)療養通所介護(3)通所リハビリテーション(4)短期入所生活介護(5)短期入所療養介護—)について具体的な改定内容に関する論議が行われました。本稿では()通所リハ、(4)(5)のショートステイに焦点を合わせます((1)(2)のデイサービスに関する議論の記事はこちら、(3)のデイケアに関する議論の記事はこちら)。
(4)の短期入所生活介護(ショートステイ)は、在宅要介護者が悪化した場合の一時入所、家族介護者のレスパイト(介護疲れからの一時開放)といった機能を持ち、「在宅生活を維持するために欠かせない」ものと高く評価されています。しかし、短期入所を繰り返し「実質的に施設入所になっている」ケースもあると言う課題も指摘されています。
厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の和田幸典課長は、2024年度の次期改定に向け(a)看取り対応を行った場合の評価創設(c)長期利用の適正化—という2つの論点を提示しています。
まず(a)は「ショートでの看取り」という実態があり、そこでは相応の手間・コストが発生している点を踏まえて▼新たに「看取り期における取り組み」(例えば看護職員体制や看取り期における対応方針の作成など)を評価する(新加算)▼新加算は「1週間程度」の算定期間上限を設ける—といった提案です。この点、和田認知症施策・地域介護推進課長は「ショートでの看取りを推進するものではなく、実態を踏まえた評価を行うもの」との考えを併せて示しています。
この考えに反対意見はなく、例えば「訪問看護や医療機関との連携を進めながら、適切な看取り対応を評価すべき」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「ショート事業所・施設の配置医と、看取り対応を行う医師とが異なる場合の整理などを進めてほしい」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)といった声も参考に詳細を詰めていくことになります。
ショートステイ、長期利用の是正に向け「特養並みの報酬」水準への切り下げなど検討
一方(b)は、上述した「長期利用」に対する対応で、和田認知症施策・地域介護推進課長は「短期入所生活介護、介護予防短期入所生活介護における長期利用について、施設入所と同等の利用形態となっているため、施設入所の報酬単位との均衡を図る」考えを示しました。
例えば、要介護3の高齢者について、個室ユニット型の特別養護老人ホームに入所した場合には「1日793単位」の基本報酬が算定されます。一方、同じ形態の特養ホームのショート利用では「1日838単位」の基本報酬が算定されます。ショートでは「長期利用の場合には30単位の減算を行う」との規定がありますが、これでも「1日808単位」となり、特養入所よりも高くなってしまいます。これを「特養の報酬に近づけていく」ことで、ショートの長期利用が是正されるのではないかと厚労省は見ています。
この点、「特養とショートでは利用率が異なる(ショートでは連休中などは利用率が高まるが平日は空室が目立つ、一方、特養はそうした格差は少ない)点も踏まえ、ショート経営が困難にならないような工夫も必要である」(濵田委員)、「利用者負担が低くなれば、かえって長期利用を生むことにならないかの検討も必要である」(東委員)といった声が出ており、。今後の具体的な点数設定に活かされます。
医療ショートの総合医学管理加算を拡充し、「軽症の高齢救急患者」搬送先に位置付けよ
また(5)の短期入所療養介護(医療ショート)は、介護老人保健施設、療養病床を有する病院・診療所、介護医療院などにおいて「医療ニーズを持つ要介護高齢者などの短期受け入れ」を行うもので、医療ニーズをもつ要介護高齢者の「在宅限界」を高めるために、極めて重要なサービスとなっています。
厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、さらに「高齢者の救急搬送先」としての注目度も高まってきている点を踏まえ、次のような提案を行いました(関連記事はこちらとこちら)。
▽医師が診療計画に基づき必要な診療、検査等を行い、退所時にかかりつけ医に情報提供を行うことなどを評価する「老健施設の医療ショートにおける【総合医学管理加算】」について、医療ニーズのある利用者受け入れをさらに促進していくため「予定されていた短期入所において治療管理を行った場合」にも算定可能とする(現在はケアプランで計画的に行うこととなっていない医療ショート入所者のみが対象)
▽総合医学管理加算の算定上限を「7日」から「10日」に延長する
この提案に対しては、「医療費削減、軽症高齢者の救急搬送削減などの点からも好ましい。老健施設の管理医師が『軽度、軽症である』と判断した場合には、医療ショートの場で治療を行うべきである。認知症高齢者がケガを負った場合に、入院すれば状態が悪化してしまう」(東委員)、「老健施設等の中で『医療ショート』というサービスがあることを、医療機関や救急隊などにも認知してもらうことが大事である。また、管理医師にはそれぞれ専門があり、『この医療ショートではどのような対応が行えるのか』などの情報も事前に地域関係者で共有することが重要である」(江澤委員)、「突然、具合が悪くなった高齢者に対応するために、総合医学管理加算を拡充することは極めて重要である」(田中委員)といった歓迎の声が出ています。
ただし、委員からは「総合医学管理加算を区分支給限度基準額(在宅の要介護者について、要介護度別に1か月に介護保険サービスを使用できる量が決まっている、超過分は自己負担となる)の外に出すなど、使い勝手が良くなる工夫が必要である」との注文もついています。
今後、高齢の救急搬送患者受け入れ先として、軽症の場合には「医療ショートという選択肢もある」ことが地域の関係者に深く浸透することに期待が集まります。
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