認知症グループホームでの「医療ニーズ対応」力強化をどう図るか、定期巡回と夜間訪問との統合は2027年度目指す—社保審・介護給付費分科会
2023.6.29.(木)
定期巡回随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護は、利用者像が類似しており、一定の配慮をしたうえで「統合」していく方向が考えられる。統合方針が固まれば、介護保険法等の改正を経て、2027年度の介護報酬改定での統合実施がありえる—。
小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護では、中重度の在宅要介護者に総合的なサービス(泊り、通い、訪問)をセットで提供しており、さらなる普及に向けた方策を練っていく必要がある。
認知症高齢者が増加する中で認知症高齢者共同生活介護のニーズが高まるが、「医療ニーズのある認知症高齢者」への対応が十分とは言えない。しかし、施設サイドに看護スタッフを雇用する余裕などもそれほどなく、どう対応していくかを考える必要がある—。
6月28日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論が行われました。2024年度の介護報酬改定に向けた本格議論が始まりました。
目次
定期巡回と夜間訪問、「2027年度改定での統合」が見込まれる
公的介護保険サービスの公定価格である介護報酬は、介護事業所・施設の経営動向や賃金・物価水準、さらに介護現場の課題解決などを総合的に勘案して改定されます(介護報酬改定)。現在は介護保険事業(支援)計画に合わせて、3年に一度改定が行われています。
次期介護報酬改定は2024年度に予定されており、▼夏までの総論論議(いわゆる第1ラウンド)▼秋からの個別項目論議(いわゆる第2ラウンド)▼年末の改定率決定(予算案編成過程で決定)—を経て、年明け(2024年)1月に改定内容が決定される見込みです(関連記事はこちら)。
6月28日の分科会では、(1)定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護(2)小規模多機能型居宅介護(3)看護小規模多機能型居宅介護(4)認知症対応型 共同生活介護—という地域密着型サービスに焦点を合わせた議論が行われました。
まず(1)の定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護について見てみましょう。定期巡回・随時対応型訪問介護看護は「日中・夜間を通じて、訪問介護と訪問看護の両方を提供し、定期的な巡回(例えばご飯時など)と随時の訪問(急変時など)を行う」サービスで、2012年度改定で創設されました。一方、夜間対応型訪問介護は「夜間において、定期巡回訪問、または随時通報を受け利用者の居宅を訪問介護員等が訪問し、入浴・排せつ・食事等の介護等の提供を行う」サービスで、2006年度改定で創設されました。
どちらも「定期的な訪問+随時の訪問」により、要介護状態が中重度になっても住み慣れた在宅での生活を継続できる環境整備を目指すもので、「機能、態様が類似」しています。このため、2021年度の前回介護報酬改定論議や、2022年の介護保険制度改革論議の中で「両者を統合する方向」が示されています。類似サービスが乱立すれば介護人材の確保がさらに難しくなり、また介護報酬体系が複雑化し、利用者やケアマネジャーに不便を強いることにもなりかねないためです。
2021年度・22年度の研究事業では、▼定期巡回サービスと夜間訪問の利用者像は概ね同じで、夜間訪問を定期巡回に統合することが可能▼ほとんどの地域において夜間訪問の利用者は、定期巡回と夜間訪問が統合された場合でもサービス提供を継続して受けられる—ことが分かっています。もっとも「夜間のみ利用する場合の単位数設定が必要ではないか」「定期巡回サービスの一部機能のみの利用を可能にする仕組みが必要ではないか」といった配慮すべき要素もあります。
こうした統合方向に現時点では異論・反論は出ておらず、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)や𠮷森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「配慮すべき点を十分に踏まえながら統合の方向で検討を進めるべき」と進言しています。
もっとも、サービスの統合には介護保険法等の改正が必要となります(サービス類型が法律に記載されている)。このため厚生労働省は「統合する場合には、法改正を経て、2027年度の介護報酬改定(次の次の改定)で対応を行うことになる」と見通しています。2024年度改定では「統合すべきか否かの方向決定、統合するとなった場合の対応」などの検討を進めていくことになるでしょう。
ところで、定期巡回サービスの状況を見ると「高齢者人口当たりの事業所数には、依然として大きなバラつきがある」ことなども分かっています。上述のように在宅限界を高める(中重度者になっても在宅生活の継続を可能とする)ためのサービスであり「さらなる普及」に向けた方策も2024年度改定に向けた重要テーマとなります。この点、自治体サイドからは「都市部では集合住宅向けに効率的なサービス提供を行うことから、減算の仕組みが設けられている。一方、過疎地では集合住宅は少なく、点在する個人宅に、多大な移動時間を費やしてサービス提供をすることとなり、現在の報酬水準では経営が困難な状況であり、サービス参入が難しい。報酬水準の引き上げなどを検討すべき」との要望が出ています。
小多機、中重度者の利用ニーズにさらに応えるためにどのような方策をとるべきか
(2)の小規模多機能型居宅介護(小多機)は、▼泊り▼通い▼訪問—の3機能を合わせ持つサービスです。1つの事業所で馴染みのスタッフから3サービスをセットで受けられることができるため、要介護状態が中重度になっても在宅生活を継続可能になると期待され、実態調査からもその点が確認されています。
ただし、小多機を巡っては(a)利用に当たり従前のケアマネジャーからの交代が生じ(小多機では専属のケアマネが付く)、馴染みの関係が壊れることを恐れてサービス利用を控えるケースがある(b)重度化、認知症などでの「施設移行」も少なくない(c)「管理者の兼務要件が厳しすぎる」(小多機と同一敷地内のデイサービス管理不可など)との指摘がある—などの課題が指摘されています。
解決策の具体的な検討は秋以降の第2ラウンド議論で本格化しますが、早くも(a)課題に対しては「従前に利用していたケアマネジャーと、小多機のケアマネジャーとを利用者・家族が選択可能な仕組みを検討してはどうか」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)などの提案がなされています。
また稲葉雅之委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「兼務要件について、実態を十分に調査したうえで柔軟化を図るべき。また不合理な自治体独自ルールの解消にも取り組んでほしい」と要望しています。介護人材不足が大きな問題となる中では「業務への支障、サービスの質低下などに繋がらない範囲で、兼務可能範囲を広げていく」ことも重要な視点となります。
看多機の普及をどう進めるべきか、専門性の高い看護師配置の評価など求める声も
他方、(3)の看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、(2)の小規模多機能型に看護機能を付加し、「医療ニーズの高い要介護者に対して、通い・泊り・訪問の3サービスをセットで提供する」ことを可能としたサービス類型です。認知症や高血圧症などの慢性疾患を抱える要介護者が増える中で、医療・介護連携の要として注目を集め、推進・拡大が期待されています。
ただし、▼まだまだ事業所が不足している(2022年度時点で、全国で852事業所にとどまり、高齢者人口1000人当たり0.024事業所しか存在しない)▼一定の利用者において「泊り」サービスが提供されていない—という課題も浮上しています。
前者については「看護職員を中心とするスタッフ確保」「経営効率」などのハードルが浮上しており、「市町村の判断で定員を拡大し、経営効率を上げられることを自治体・事業所サイドに更に周知すべき」(田母神裕実委員:日本看護協会常任理事)、「地域の訪問看護ステーションとの連携によるサービス提供を模索してはどうか」(田中委員)などの提案がなされました。
また後者の「泊りゼロ」問題について田母神委員は「重度化した場合にのみ泊りサービスを利用するケースも少なくない」と状況を説明。こうした意見も踏まえながら「泊りゼロが問題であるのかどうか、問題があるとしてどう対応すべきか」をさらに検討していくことになるでしょう。
このほか、田母神委員は「専門性の高い看護職員(専門看護師、認定看護師、特定行為研修修了看護師)を配置し、重度の医療ニーズに対応できる事業所への加算設定」や「泊りサービスでは重度者割合が高くなり、手厚いスタッフ配置が必要となる点を踏まえた加算設定」などを行うことを提案しています。
認知症グループホーム、医療ニーズを併せ持つ利用者にどう対応していくべきか
また(4)の認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は、認知症高齢者が共同生活を送り、家庭的な環境と地域住民との交流の下で入浴・排せつ・食事等の介護などの日常生活上の世話と機能訓練を行い、能力に応じ自立した日常生活を営めるようにするサービスです。
認知症高齢者が増加する中で、その重要性がこれまで以上に強く認識されてきていますが、「医療ニーズの高い者の入所拒否、退所措置などが生じている」という課題が指摘されています。人手不足(とりわけ看護職員など)が深刻化する中で「医療ニーズのある高齢者にまで手が回らない」という背景が伺えますが、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「グループホームの経営状況をみると、平均黒字額が29万8000円となっている。これは利用者が1人・1か月少なくなるだけで黒字が飛んでしまうことを意味しており、こうした中では看護スタッフを雇う余裕はない。外部の訪問看護利用を模索するため、まず『訪問看護があればグループホーム生活を継続できる者』の状況などを調査すべき」と提案しています。
ところで、グループホームについて、2021年度の介護報酬改定で「夜勤職員の柔軟化特例」が認められました。「平屋建て」などの要件を満たす場合には、3ユニット・2人夜勤体制で可とするもので、全国の9事業所で柔軟化特例が採用されています。この特例については「人材を効率的に活用でき、経営に役立てることができた」と評価できる面がある一方、「夜勤者の身体的・夜勤者の精神的負担が増えた」という課題も判明しています。もっとも「調査サンプルが非常に少ない」ことから、特例の効果を判定することは「現時点では困難」(江澤委員)です。委員からは「ICT等を活用したさらなる緩和を考えても良いのではないか」(吉森委員ら)といった声でも出ていますが、やや先走りすぎの意見と言えるかもしれません。
このほか、「介護職員の処遇改善を進めなければならない」(及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長)、「過疎地では人材確保が困難であり、事業規模の拡大は困難である。過疎地でも経営が成り立つ仕組みを考えるべき」(米本正明委員:全国町村会行政委員会副委員長、山口県和木町長)、「人材確保が深刻化する中では、ICTやロボットの活用をさらに進め、サービスの重度者への重点化なども考えていくべき」(伊藤委員)、「グループホームの緊急入所要件を緩和し、隣接市町村の利用も認めるべき」(田中委員)などの幅広い意見が出ています。
今後も、訪問、通所、施設などの総論論議を続け、秋以降の具体的な改定論議につなげていきます。
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