介護保険リハビリのアウトカム評価をどう考えていくか、高齢者は「リハビリ効果出にくい」点考慮を—社保審・介護給付費分科会(2)
2023.7.11.(火)
通所リハビリについてアウトカム評価の必要性が指摘されるが、介護保険では「リハビリの効果」を出しにくく、適切な手法を考える必要がある。また、医療機関の疾患別リハビリと、介護事業所の通所リハビリの情報連携を強化し、切れ目のないリハビリ提供をこれまで以上に促す必要がある—。
短期入所生活介護では「多様なニーズを抱える要介護者」の受け入れを促進し、さらなる「在宅限界の高まり」に備える必要がある—。
医療機関と連携する介護老人保健施設の医療ショート(短期入所療養介護)を評価する【総合医学管理加算】が2022年度の前回介護報酬改定で創設されたが、医療機関側は7割が知らず、周知を強化していく必要がある—。
7月10日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論も行われています(同日の「通所介護」「認知症対応型通所介護」「療養通所介護」に関する総論論議の記事はこちら)。
目次
医療機関の疾患別リハと介護保険の通所リハとの円滑な情報連携などが重要ポイント
2024年度の介護報酬改定論議が進んでいます。
【介護給付費分科会】
▽通所介護、認知症対応型通所介護、療養通所介護」
▽定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型 共同生活介護
▽スケジュール等
ICT・ロボット活用等
【介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会との意見交換会】
▽ACP等
訪問看護等
身体拘束ゼロ等
施設での医療、認知症等
要介護高齢者の急性期入院医療、リハ・口腔・栄養の一体的推進等
7月10日の分科会では、通所系サービス((1)通所介護・地域密着型通所介護(2)認知症対応型通所介護(3)療養通所介護(4)通所リハビリ—)と短期入所系サービス((5)短期入所生活介護(6)短期入所療養介護―)を議題としました。本稿では、(4)の通所リハ、(5)(6)のショートに焦点を合わせます((1)―(3)のデイサービスに関する記事はこちら)。
(4)の通所リハビリ(デイケア)は、介護老人保健施設や医療機関などに要介護者等が通い、心身の機能の維持回復・日常生活の自立に向けたリハビリテーションを行うサービスで、その重要性は述べるまでもありません。近年の調査研究により、通所リハビリ利用開始から6か月後のADLをみると、全体で25.9%が「改善」していることが分かりました。要介護高齢者では「機能の維持」ならぬ「機能改善」がこれだけの割合で見られている点は重視する必要があります。
また、「リハビリは早期に開始するほど効果がでやすい」ことが分かっており、最近の調査では、介護保険のリハビリ(通所リハビリ、訪問リハビリ)でも同様であることが判明しました。
しかし、医療機関を退院してから介護保険の通所リハを開始するまでの期間を見ると、約44%が「2週間以上かかっている」、約35%が「4週間以上かかっている」状況です。より早期に介護保険リハにつなげられるような工夫が求められるでしょう。田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)は「医療機関のリハビリスタッフにおいて、介護保険制度に関する知識不足があるのかもしれない」と指摘しています。
そこでは、医療機関と介護サイドとの連携が極めて重要になり、例えば医療機関において「退院後に介護保険リハビリが必要となりそうな高齢患者を早期に抽出し、必要な介護保険利用支援を行う」(そのためには、早期に要介護認定を受けているかどうかを確認し、未申請であれば申請を補助することなども含まれてくる)などの支援が求められます。
この点について厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、「医療機関におけるリハビリ(疾患別リハビリ)の情報が、うまく介護保険のリハビリ(通所リハビリなど)事業所に伝達・共有されていない」という点を問題視しています。医療保険のリハビリと介護保険のリハビリは、制度上は別のものですが、個々の患者・利用者に「切れ目なく提供される」ことが重要です。このためには医療機関におけるリハビリの情報が、続いてリハビリを提供する介護事業所(通所リハビリ事業所など)に十分に伝達・共有されていなければなりません。しかし、介護側で医療側リハビリの実施計画書を入手していた利用者は44%、しかも医療機関・介護事業所が別法人などの場合には、その割合は26.8%にとどまることが示されました(関連記事はこちら)。
この状況を改善するためには、医療・介護双方、つまり診療報酬・介護報酬の両面で「リハビリ情報の伝達・共有」を評価する(あるいは伝達・共有を行うことを義務化し、しない場合にペナルティを課す)ことが必要になってきます。同時報酬改定だからこそ、十分な手当てが可能となる領域と言えそうです。
また、リハビリについては「提供することを評価するのではなく、効果・成果を評価する方向に重きを置くべき」との考えがあります。「提供する」ことを評価する仕組みでは「効果の上がらない、質の低いリハビリが漫然と続けられてしまう」ためです。医療保険では、この「リハビリの効果」に着目した評価が導入され、例えば回復期リハビリ病棟では「効果が低いリハビリを提供する場合に、一定以上のリハビリ点数を算定できない」仕組みが設けられています(関連記事はこちら)。
介護保険のリハビリについても「効果・成果を評価する仕組み」の導入を求めるべきとの声があり、7月7日の分科会でも、体制(リハ専門職、とりわけ言語聴覚士の充実した配置、歯科衛生士、管理栄養士の積極的な参画)・プロセス(計画的に実施し、効果を踏まえてアイゼンを行うリハビリ(リハビリマネジメント)など)・効果(目標達成度合いなど)を総合的に評価する手法に関する研究が続けられていることが古元老人保健課長から報告されたほか、「アウトカム評価の充実」を求める声が費用負担者サイド委員から出ています。
しかし、松田晋哉委員(産業医科大学教授)や田中委員は「リハビリの効果に最も関連する要素は年齢であり、高齢になるほどリハビリの効果は出にくくなる。介護保険のリハビリ評価では、ADL改善よりも『適切な内容のリハビリが実施されているか』『利用者、家族のリハビリに対する満足度はどの程度か』などを評価軸にした質評価が重要になる」と指摘。また江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「介護保険リハビリの評価は極めて困難であり、現状では不可能ではないか」と見通しています。リハビリの効果を評価する場合には、「リハビリの効果が出にくい重度者・超高齢者を忌避し、効果のでやすい軽度者のみを受け入れる」というクリームスキミングが発生することも懸念されます。様々な知見・意見を踏まえて「適切なリハビリの評価方法」を今後も検討していきます。
このほか、通所リハビリをめぐっては、▼2021年度の前回介護報酬改定でリハビリ・口腔・栄養の一体的実施計画書活用が推奨されたが、低調である▼長期間利用減算の割合が高止まり(2022年10月時点で事業所ベース93.6%、利用者(算定回数)ベース64.0%)している—などの問題点が古元老人保健課長から報告されています。これに対しては「長期利用で機能維持が実現できている点を考慮すべき」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)、「リハビリマネジメントに歯科医師・歯科衛生士・管理栄養士などのより積極的な参加を促す仕掛けが必要である」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)などの意見が出ています。
ショートステイ、長期利用への対応、医療対応力強化への評価などが論点に
また(5)の短期入所生活介護(ショートステイ)は、在宅生活を送る要介護者等が、老人短期入所施設、特別養護老人ホームなどに短期間(1か月以内)入所し、当該施設で介護サービスを受けることで心身の機能維持を図るサービスです。さらに、在宅介護する家族の身体的・精神的負担軽減を図る(レスパイト)という極めて大きな意味もあります。このレスパイトの視点は、医療保険の入院医療とは大きく異なります(レスパイト入院は医療保険では認められない)。事業所数は横ばいから微減ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で利用者数は直近では減少しています。
いわゆる在宅限界を高めるために欠かせない短期入所生活介護ですが、例えば「長期利用が増加している」(31日以上の割合:2019年度8.6%→2022年度:10.6%)をどう考えるか、医療ニーズ対応力が強化されてきている点をどう評価していくか(2021年度の前回介護報酬改定で「看護配置」を強化した)などの論点があります。
この点については、「創設時には『農繁期などの短期間利用』が想定されていたが、医療ニーズの複合化、増加など状況が変化している。そうした実態を踏まえた報酬上の対応を考える必要がある」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「外部訪問看護の活用を制度的に考慮すべきである」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「特別養護老人ホームの入所待ちの長期利用であれば、入所に向けた『顔なじみ』関係の構築として容認できるのではないか」(田中委員)、「医療ニーズの高い者は、本来は短期入所療養介護(医療ショート、後述)で対応すべきではないか」(東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)などの意見が出ており、今後の検討の下地となります。
このほか「光熱水費、物価の上昇を踏まえた対応(食事の基準額引き上げなど)を早急に行ってほしい」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)との要請が出ています。この点、骨太方針2023(経済財政運営と改革の基本方針2023)でも「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」ことが明示されており、今後の具体的な対応内容が注目されます。
医療機関と連携する医療ショートの総合医学管理加算、医療機関側は7割が知らず
他方(6)の短期入所療養介護(医療ショート)は、介護老人保健施設、療養病床を有する病院・診療所、介護医療院などにおいて「医療ニーズを持つ要介護高齢者などの短期受け入れ」を行うものです。医療ニーズをもつ要介護高齢者の「在宅限界」を高めるために、極めて重要なサービスであるとともに、「高齢者の救急搬送先」としての注目度も高まってきています(関連記事はこちらとこちら)。
2021年度の前回介護報酬改定では、老健施設の短期入所療養介護について、より医療ニーズの高い高齢者の受け入れ促進・在宅復帰機能の強化を目指し「医師が診療計画に基づき必要な診療、検査等を行い、退所時にかかりつけ医に情報提供を行う」ことを評価する【総合医学管理加算】(1日275単位、7日間まで)が創設されました。
しかし、本加算の算定状況は極めて低調(利用者の1%程度、事業所数も100に遠く及ばない)です。この背景として「7割程度の医療機関では、本加算を認識していない」ことがあるようです。
このため7月7日の分科会では、「医療機関への周知」の重要性を求める声が多数でたほか、東委員から「区分支給限度基準額の範囲から、医療対応部分を除外してはどうか」、田中委員から「短期入所療養介護用の決まったベッドはなく、空きベッドの中で対応している点などが影響していないか検討してはどうか」との提案が出たほか、江澤委員は「これからの医療介護連携においては、短期入所療養介護も重要要素として考えなければならない」と指摘しています。さらに「加算を取得しても、医療ニーズ対応(検査、投薬など)コストを賄いきれない。加算の引き上げを検討してほしい」、旨の声も出ています。
また、同加算は介護報酬上の加算であり、連携する医療機関サイドへの診療報酬上の特別な評価も考えていく必要がありそうです。両面で手当てを行える同時改定ならではの重要論点と言えるでしょう。
こうした意見は、秋以降の第2ラウンド論議のベースとなります。
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