通所介護の入浴介助加算、安全確保のために「研修受講」義務化、重度者を多く受ける療養通所介護を高く評価—社保審・介護給付費分科会(1)
2023.10.26.(木)
通所介護などの入浴介助加算について、より安全・適切な介助を実現するために「入浴介助に係る研修受講」を算定要件に加える。また「自宅での入浴」の実現を目指す加算(II)について、一定の要件緩和を図ってはどうか—。
また通所介護利用者の自立支援・重度化防止を目指す「個別機能訓練加算」について、貴重な人材である機能訓練指導員の有効活用という観点から、「機能訓練指導員の配置要件」を緩和してはどうか—。
末期がんなど医療ニーズを抱える重度の要介護者を支援する療養通所介護について、「お試し利用」を可能とするような「1日単位の報酬」を設けるとともに、重度者をより積極的に受け入れる事業所の評価充実を図ってはどうか—。
10月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。
同日には「通所リハビリ」「短期入所生活介護」「短期入所療養介護」の見直し方向も議論されており、別稿で報じます。
目次
通所介護等の入浴介助加算、安全・適切な実施に向けた研修の義務化、要件緩和など実施
2024年度の介護報酬改定に向けた議論が介護給付費分科会を中心に進み、現在は個別具体的な第2ラウンド論議に入っています(地域密着型サービスの第2ラウンド論議に関する記事はこちら)。10月26日の会合では、通所系・短期入所系サービス((1)通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(2)療養通所介護(3)通所リハビリテーション(4)短期入所生活介護(5)短期入所療養介護—)について具体的な改定内容に関する論議が行われました。本稿では(1)(2)のデイサービス(通所介護)に焦点を合わせ、(3)の通所リハ、(4)(5)のショートステイについては別稿で報じます。
まず(1)の通所介護(デイサービス:通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護(認デイ))については、厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の和田幸典課長から次の4つの見直し提案が示されました。
(a)入浴介助加算の見直し
(b)個別機能訓練加算の適正化
(c)通所系サービスにおける3%加算・規模区分特例
(d)豪雪地帯等に対する通所介護等の取扱いの明確化
このうち(a)の入浴介助加算は、名称どおりデイサービス事業所での「利用者の入浴介助」を評価するものです。2021年度の前回介護報酬改定では「自宅での入浴実施」を目指した取り組み(環境整備、自宅訪問など)を評価する加算2を新設しており、次のような報酬区分となっています。
▽加算(I)(1日40単位):入浴介助を適切に行うことができる人員・設備を有し、入浴介助を行う
▽加算(II)(1日55単位):「加算(I)」に加え、「医師等が利用者宅を訪問し、浴室における入浴動作・浴室の環境を評価し、必要に応じて設備改修などの助言を行う」→「機能訓練指導員等・医師等な連携・共同して、利用者の自宅環境を踏まえた個別入浴計画を作成する」→「計画に沿って、自宅環境の近い環境で入浴介助を行う」こととする
清潔の保持、心身のリフレッシュなどのために「入浴」は非常に重要であり、とりわけ自宅での入浴実施を目指す「入浴介助加算2」には注目が集まりますが、「算定要件の解釈を誤解等している事業所も少なくない」「利用者宅を訪問・評価する医師等の確保が難しい」などの理由から、算定は低調です。
そこで和田認知症施策・地域介護推進課長は、▼加算(II)の算定要件で誤解のある部分(例えばQ&Aで「個浴槽がなくても利用者の居宅の浴室の状況に近い環境が再現されていれば差し支えない」と示しているが、現場が「個浴槽がないために算定できない」と誤解している点など)を、告示(Q&Aよりも上位の法令)で明確化する▼加算(II)の算定要件の1つ「医師等が利用者宅を訪問し、浴室における入浴動作・浴室の環境を評価し、必要に応じて設備改修などの助言を行う」点について、「介護職員が訪問し、医師等の指示のもとICT機器を活用して状況把握を行い、医師等が評価・助言する」ことでも可能とする—との見直し案を提案。
あわせて、加算(I)について、より安全な入浴介助(浴室等では転倒しやすくなる点への配慮など)を実現するために「入浴介助の技術として求められる研修内容を算定要件に組み込む」などの対応を図る(現在、4割の事業所で研修未受講)考えも示しています。
この見直し提案に対し明確な反対意見は出ていません。今後、詳細を詰めていきますが、その際には、「研修を受講しやすい環境整備も同時に進める必要がある。加算(II)は要件緩和を検討すべき。また物価、光熱水費、人件費の高騰による入浴介助のコストも上がっている。加算の増点を検討してほしい」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)、「利用者の状態像、必要な設備(リフト、機械浴整備など)をも踏まえた加算単位数を設定してほしい」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「自宅浴実現に向けて、デイサービスの入浴介助者と家族・訪問介護員との連携が十分に進むような工夫も検討してほしい」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)などの声に十分に耳を傾けることが必要となるでしょう。
通所介護等の個別機能訓練加算、機能訓練指導員の有効活用に向け「人員配置要件」緩和
また(b)の個別機能訓練加算は、デイサービス利用者の機能維持・向上に向けて、「専従の機能訓練指導員を配置し、個別・小規模集団で身体機能・生活機能の向上を目的とした機能訓練を実施する」ことを評価するものです。2021年度の前回改定で、次のような報酬区分が設定されました。
▽加算(I)イ(1日56単位):専従の機能訓練指導員を1名以上配置(配置時間の定めなし)
▽加算(I)ロ(1日85単位):「イ」+「専従の機能訓練指導員を1名以上配置(サービス提供時間を通じて)→結果:2名の機能訓練指導員配置が求められる
▽加算(II)(1日20単位):個別機能訓練計画等の内容を厚生労働省に提出し、フィードバックを受けている場合、加算(I)に上乗せ
現場の状況を見ると、機能訓練指導員の所要時間区分では「7時間から8時間未満」で人員を配置している事業所も一定数ありますが、「1日あたりの利用者への個別機能訓練に係る平均実施時間」を見ると、「10分以上20分未満」の割合が高くなっています。つまり「機能訓練指導員を長時間配置しているものの、個別機能訓練の実施時間は短く、貴重な人材である機能訓練指導員の有効活用が阻害されている」状況にあります。
そこで和田認知症施策・地域介護推進課長は「機能訓練指導員の有効活用」を可能とするために、▼機能訓練指導員の配置要件を緩和する▼加算(I)ロの単位数適正化を図る—といった見直しを行うことを提案しました。例えば、加算(I)ロについても、加算(I)イと同様に「専従の機能訓練指導員」の配置時間を定めず、事業所・利用者の利用状況に応じて「2名以上の専従機能訓練指導員による機能訓練が行われる」場合に、加算(I)ロを算定可能とすることなどが考えられそうです。
この方針に異論・反論は出ておらず、今後、詳細を詰めていくことになります。ただし、関連して「どこかの段階で機能訓練による効果(ADL等が維持されているのか、向上しているのかなど)を検証したうえで、加算の在り方を考えていく必要がある」(石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学客員教授)との声が出ている点に留意する必要があります。「自立支援や重度化防止(もちろん機能低下を防ぎ、維持することも含めて)などに効果がある」とのデータがある取り組みは、さらに推進していくことが重要ですが、「取り組みを実施しても機能維持等に効果が出ない」場合には、それを加算で評価することは好ましくありません(利用者・家族の負担にもなり、介護費財政の悪化にもつながる)。将来に向けた重要論点の1つになるでしょう。
また(c)では「新型コロナウイルス感染症対応の特例」として設けられた「3%加算、規模区分特例」(コロナ感染症で利用者が激減した場合には、経営を維持するための加算や、高い報酬の区分に速やかに移行することを認める)について、今後の新興感染症や大規模災害に備えて「存置しておく」(ただし、平時には稼働しない)ことを、(d)では「当日の利用者の心身の状況から、実際の通所介護提供が計画よりもやむを得ず短くなった場合には計画上の単位数を算定して差し支えない」とのルールについて、積雪等のやむを得ない事情でも適用可能なことを明確化する—といった見直し方向が提示されています。
こちらも「3%加算等の適用範囲は限定的に考えるべき」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)、「豪雪地帯でも特別地域加算等の対象に加えてほしい」(自治体サイド)といった注文がついたものの、提案内容に異論・反論は出ていません。詳細を今後詰めていくことになります。
療養デイ、「お試し利用」可能とする1日当たり報酬や、重度者受け入れの加算など新設へ
(2)の療養通所介護(療養デイ、医療デイ)は難病やがん末期などの重度要介護者に対応可能な通所介護です。
厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、2024年度の次期介護報酬改定に向けて、(a)短期利用の評価(b)重度者のケア体制の評価(c)地域包括ケア推進・地域共生社会の実現に資する取り組みの評価—の3つの見直し提案を行いました。
療養デイの報酬は、医療・介護両方のニーズを持つ中重度の要介護者の状態やニーズに合わせた柔軟なサービス提供を図る観点から、2021年度の前回改定で「日単位の報酬体系→月単位の包括報酬」とする見直しが行われました。
これにより、柔軟なサービス提供や事業所の経営安定化が図られましたが、一方で「療養通所介護の利用を検討している。状況を把握するために、まず数回だけ利用したい」という「いわゆるお試し利用」がしにくくなったとの声があります(数回の利用でも1か月分の利用者負担が生じる)。事業所サイドでも「お試し利用→本格利用」が減ってしまったと感じる部分もあるようです。
そこで古元老人保健課長は(a)として「登録者以外が短期利用をする場合の低い報酬」(例えば1日当たりの報酬)を設定してはどうかと提案しています。登録者以外が「試しに数回利用してみよう」という場合の低い報酬を設定し、本格利用につなげることを期待するものです。例えば看護小規模多機能型居宅介護の「短期利用居宅介護費」(名称どおり短期利用する場合の低い基本報酬)などが参考にされます。
また(b)は、「より手厚い人員を敷き、より重度の要介護者を受け入れる事業所」について、特別の評価(例えば加算)を行うものです。現在、療養通所介護の基本報酬は「要介護度に関わらず一律」となっていますが、事業所の中には手厚い人員配置・より多くの中重度者受け入れを行っているところもあり、その分のコスト等を報酬で評価する必要があるためです。
あわせて「中重度かつ医療的ニーズを有する療養通所介護の利用者に対し、適切な医療的ケアを提供するための手続き」などの明確化も図られます。
さらに(c)は、看護小規模多機能型居宅・小規模多機能型居宅で提案されている「地域の多様な関係者との連携の新加算での評価」を療養デイにも導入してはどうかとの提案です(関連記事はこちら)。
こうした一連の見直し提案には、「多様な利用者のニーズ、家族のレスパイトニーズにも対応できる良い見直し内容で、賛成である」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「短期利用・お試し利用の報酬設定は現場・利用者・家族のニーズに沿っている」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)など賛成の声が数多く出ています。
今後、詳細を詰めていきますが、その際には「療養デイと看護小規模多機能型居宅介護との役割分担・統合化なども今後の検討課題になる」(田中委員)、「療養デイでも、より複雑な医療ニーズに対応可能となるよう、特定行為研修を修了した看護師や専門看護師、認定看護師などの配置を進めるべき、介護報酬上の評価を検討すべき」(田母神委員)といった声も参考にする必要があります。
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