介護医療院は医療施設だが「肺炎による医療機関転院」も生じている、さらなる医療・介護力強化が重要課題を—社保審・介護給付費分科会(2)
2023.8.8.(火)
医療ニーズを抱える重度要介護者の受け入れ施設として「介護医療院」が重視されているが、一部に「肺炎での医療機関入院」などがあり、またACPガイドラインに沿った対応も半数程度しかなされていない。看取りを含めた医療・介護力をさらに高めていく必要がある—。
介護療養は予定どおり来年(2024年)3月で廃止されることなる。現在の介護療養は75%が介護医療院に、16%が医療療養に転換するなど、「すべて」が転換・移行先等を決定している状況にある—。
8月7日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論も行われています(同日の高齢者施設・医療機関の情報連携、感染対応強化などに関する議論の記事はこちら)。なお、同日には「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」「介護老人保健施設」「特定施設入居者生活介護」に関する総論論議も行われており、別稿で報じます。
介護医療院でも「肺炎による医療機関転院」などが一部あり、医療機能の更なる強化を
2024年度の介護報酬改定論議が進んでいます。
【介護給付費分科会】
▽高齢者施設・医療機関の情報連携、感染対応強化など
▽居宅介護支援(ケアマネジメント)、訪問介護、訪問入浴介護、居宅療養管理指導通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所療養介護、福祉用具・住宅改修
▽訪問看護、訪問リハビリ
▽通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所療養介護
▽通所介護、認知症対応型通所介護、療養通所介護
▽定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型 共同生活介護
▽スケジュール等
ICT・ロボット活用等
【介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会との意見交換会】
▽ACP等
訪問看護等
身体拘束ゼロ等
施設での医療、認知症等
要介護高齢者の急性期入院医療、リハ・口腔・栄養の一体的推進等
介護医療院は、▼医療▼介護▼住まい―の3機能を併せ持つ新たな介護保険施設として2017年の介護保険法改正で創設されました。2018年度介護報酬改定で単位数や構造・設備基準等が設定され、2018年4月から各地で開設が進められており、本年(2023年)3月末時点で764施設、4万5220床が整備されています。
入所者の状況を見ると、「要介護5が45.0%、要介護4が38.9%、要介護3が10.1%で、要介護3以上が94.0%を占める」「平均要介護度は4.2」(2022年4月審査分レセプトより)という具合に、重度者を受け入れる施設として非常に重要な役割を担っています(特養、老健と比べても重度入所者が多い)。また、介護医療院は医療施設でもあり、医療ニーズ対応、看取り対応にも重要な役割を果たしています。
ただし、▼介護医療院は医療施設であるが、例えば「肺炎」でも一定数が医療機関に入院してしまう▼ACP(人生の最終段階にどのような医療・ケアを受けたいか、逆に受けたくないかを専門家や家族等と何度も話し合い、可能であれば文書にして共有する取り組み)ガイドラインに対応を行っている施設は53.2%にとどまる—などの課題もあり、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は「看取りを含め、引き続き必要な医療・介護を提供するための方策」を検討してほしいと介護給付費分科会に要請しました。
これに対し、委員からは「治療目的の介護医療院入所もあり、そうした場合に医療を特別に評価する介護報酬の充実を行う必要がある」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)、「介護医療院では半数の入所者が死亡退所しており、『看取りまで対応する場』であることを前提にした議論が必要である」(吉森俊和委員:全国健康保険協会理事)などの意見が出ています。
また田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)は「介護医療院では、同一法人内の医療機関に勤務する介護職員との公平性などに鑑みて、介護職員の処遇改善に向けた加算の取得が進んでない。2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定であり、医療機関・介護施設等で公平性を担保できるような『処遇改善の仕組み』を構築すべき」と提案しています。介護施設・事業所に勤務する介護職員については、介護報酬の処遇改善加算(介護職員等ベースアップ等支援加算、特定処遇改善加算、処遇改善加算)の対象となるが、医療機関に勤務する介護職員については対象となりません。このため、ある法人が医療機関・介護施設等を経営する場合、「介護職員などの処遇を均衡にするためには、医療機関へ自前の財源投入をしなければならないが、経営的に困難である。処遇均衡を確保するために、介護職員の処遇改善加算を取得しない(=処遇改善も行われない)」というケースが少なからず出てきます。田中委員はこうした点への改善を求めています。
介護療養は予定どおり2024年3月廃止、75%が介護医療院・16%が医療療養に転換予定
ところで、介護医療院は「介護療養からの転換先の1つ」という役割も果たしています。現に、介護医療院の67.3%は「介護療養からの転換」組です。
介護療養の設置期限は「来年(2024年)3月まで」となっており、本年(2023年)2月時点での介護療養は280施設(病院172、診療所108)・7024床(病院6066、診療所958)となりました。
2024年度以降は「介護療養」として存続することは認められません。介護医療院や医療療養等に転換・移行しなければ「入所者が行き場をなくす」事態が生じます。仮に移行等がなされなければ、ベッドは医療保険・介護保険適用とならないため、その費用は入所者の全額自己負担となってしまいます。こうした事態を避けるため、厚労省は「転換等の状況」をしっかり把握するよう都道府県等に求めています(関連記事はこちら)。この結果、来年(2024年)3月までに100%の介護療養が「介護医療院に転換する」(74.5%)、「医療療養に転換する」(15.7%)などの方針を明確化しており、「行き場のなくなる」利用者は出てこない見込みです。
この点については、「介護療養の廃止についてはソフトランディングが可能となるような配慮をしてほしい」(江澤委員)という意見が出る一方で、「介護療養の設置期限延期は認められない。また、介護医療院はもともと、医療ニーズを抱える重度者が長期療養することを前提とした施設である。2021年度の前回改定で新設した【長期療養生活移行加算】(療養病床における長期入院患者を受け入れ、生活施設としての取り組みを説明し適切なサービス提供を行うことを評価する加算、1日当たり60単位を最大90日間算定可)は廃止すべき」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)との厳格対応を求める声も出ています。状況をしっかりと注視していく必要があるでしょう(例えば「●●に転換しようと予定していたが、人員・構造設備の整備が間に合わない」などのケースが出ないように注視するなど)。
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