認知症対策、介護サービスの質向上目指すLIFE、医療介護連携、とりわけ医療・介護間の情報連携等を強力に推進—社保審・介護給付費分科会
2023.8.31.(木)
2024年度の次期介護報酬改定に向けて「認知症対策の充実」「介護サービスの質向上目指すLIFEの推進」「医療介護連携、とりわけ医療・介護間の情報連携推進」が極めて重要である—。
訪問介護+通所介護のような新サービス創設について、メリットが見えにくいのではないか—。
8月30日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論も行われました。
目次
認知症への専門的ケアを評価する加算、算定状況が極めて低調
2024年度の介護報酬改定論議が介護給付費分科会で進んでいます。
【介護給付費分科会】
▽特定施設入居者生活介護
▽特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
▽介護老人保健施設
▽介護医療院
▽高齢者施設・医療機関の情報連携、感染対応強化など
▽居宅介護支援(ケアマネジメント)、訪問介護、訪問入浴介護、居宅療養管理指導通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所療養介護、福祉用具・住宅改修
▽訪問看護、訪問リハビリ
▽通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所療養介護
▽通所介護、認知症対応型通所介護、療養通所介護
▽定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型 共同生活介護
▽スケジュール等
ICT・ロボット活用等
【介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会との意見交換会】
▽ACP等
訪問看護等
身体拘束ゼロ等
施設での医療、認知症等
要介護高齢者の急性期入院医療、リハ・口腔・栄養の一体的推進等
これまで個別サービスに関する議論が続けられ、8月30日の会合では、いわば「各サービスに共通する横断的事項」として(1)認知症への対応力強化(2)医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護(3)新しい複合型サービス(4)地域の特性に応じたサービスの確保(5)LIFE—の5項目を議論しました。
まず(1)の認知症対策の重要性は述べるまでもないでしょう。
認知症患者は、2018年に500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況を迎えましたが、2025年には約700万人(同じく5人に1人)、2040年には約800-950万人(同じく約4-5人に1人)に達すると見込まれています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、本年(2023年)には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。
介護報酬の面でも取り組みが進められ、例えば2021年度の前回介護報酬改定では▼【認知症専門ケア加算】について対象サービスの拡大、要件の1つである「専門研修受講者」に専門性の高い看護師を加えることで、算定の裾野を広げる▼介護サービス事業者に、「介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について認知症介護基礎研修を受講させる義務を課す」こととする(3年間の経過措置あり)—などの対応が図られました。
しかし【認知症専門ケア加算】の算定状況は極めて低く(2022年4月時点で訪問介護7か所など)、委員からは「加算の要件が現場実態とマッチしていないのではないか。背景を詳しく分析し、要件見直しなどを検討すべき」(吉森俊和委員:全国健康保険協会理事)、「加算要件を満たそうと研修受講を希望しても、なかなか受けられない。研修受講機会を十分に確保してほしい」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)、「加算の簡素化、整理を進めるべきではないか」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)—などの提案が出ています。
また、認知症対応力の更なる強化に向けて▼「多職種チームでのアプローチがBPSD(危険行動など)の予防・軽減に向け有用である」こと▼介護現場で簡易に認知症の有無等を判定できる「新たな評価尺度」を作成し、今後、他の評価指標との相関を検証すること—が厚労省研究班で検討されています。2024年度の次期介護報酬改定では、こうした研究成果を介護現場に導入していくことも重要検討テーマとなり、委員からは「BPSD対策を認知症研修の中に体系化していくべき」(古谷委員)、「認知症対応の専門人材配置等を報酬で評価すべき」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「医療・介護での認知症評価指標・尺度に相関性を十分にもたせるべきである」(東憲太郎委員:全国老人保健施設強化会長)などの意見が出されました。
医療・介護間の情報連携をICT等活用して積極的に進めよ
2024年度の介護報酬改定は、診療報酬との同時改定となります。このため医療・介護現場からは「医療介護連携、とりわけ『医療・介護の情報』を同時改定の機会に飛躍的に進めるべき。高齢者医療では介護現場からの『生活』関連情報が重要であり、介護では医療機関からの『疾患管理で重要な点』に関する情報が重要である」と期待する声が多数でています。
また、人は必ず死を迎えますが、その直前、つまり人生の最終段階でどのような医療・ケアを受けたいか、逆に受けたくないかを、家族や友人などの親しい人、医療・介護専門職らと何度も繰り返し話し合い、可能であれば文書にしておく取り組みが重視されています(いわゆるACP:Advanced care planning)。厚労省は ACPガイドラインを作成し、2021年度の前回介護報酬改定では「介護保険施設の基本報酬要件」や「看取り加算の算定要件」などにACPガイドラインに沿った対応を求めるなど、ACPの取り組み推進に力を入れています。しかし、医療・介護関係者の中にも一定程度「ACPの取り組みを知らない」者がおられ、さらなる取り組みの推進に期待が集まります(関連記事はこちらとこちら)。
こうした状況を踏まえ、厚労省老健局老人保健課の古元重和課長は、▼要介護高齢者が在宅・高齢者施設・医療機関のいずれの場でも必要なケアを受けられるよう、関係機関の連携を充実させる観点からどのような方策が考えられるか▼本人が望む場所でより質の高い看取りを実施できるようにするためにどのような対応が考えられるか▼本人の尊厳を尊重し、意思決定に基づいた医療・介護を提供するための医療・介護従事者の連携や支援の在り方、情報共有の在り方についてどのように考えるか—という論点を提示し、介護給付費分科会委員に議論を要請。
委員からは「ICTを活用した医療・介護間での情報連携推進」(吉森委員、伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)、「訪問看護ステーションによる認知症グループホーム等での看取り支援」(奥塚正典委員:大分県国民健康保険団体連合会副理事長(中津市長))、「特別養護老人ホームなど、住み慣れた場所での看取りが確実に行えるよう、看護師配置の拡充、それが難しい場合には外部訪問看護の活用などを進めるべき」(田母神委員)、「ACPに関する正しい知識の普及にまず努めるべき、現状でも誤解している専門職も少なくない」(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)、「情報連携のために項目や定義、評価基準等を『認定調査票』に沿って整理し直すべき」(松田晋哉委員:産業医科大学教授)といった提案がなされています。
なお、医療・介護情報連携に関して、現在、別の検討会(健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」)でも議論が進んでいます(関連記事はこちら)。両者の関係が気になりますが、介護情報利活用ワーキングでは「医療・介護等の情報を連携する共通プラットフォーム構築を念頭に置き、どういった情報項目を連携対象とすべきかを、少し先を見据えて議論する」、介護給付費分科会では「共通プラットフォームより手前となる2024年度改定に向けて、どういった情報項目の連携を進めるかを議論する」という違いがある点はGem Medで報じているとおりです(将来は同じ内容(情報項目)が連携対象となる)。
「訪問介護+通所介護」の新サービス、「メリットが見えない」などの慎重な意見相次ぐ
他方、(3)は例えば「訪問介護と通所介護を一体的に提供する」ような新サービス構築について「そもそも必要はあるか」「設置する場合にどういった形態が考えられるか」「効果的なサービス提供を可能とするためにどういう基準を設定するか」といった検討テーマです。
高齢化が進み介護ニーズが増大・複雑化する一方で、少子化の進展で介護従事者不足が深刻さを増していきます。こうした状況を踏まえて社会保障審議会・介護保険部会では「特に都市部における居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう『複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する複合型サービス』類型などを設けてはどうか」との考えをまとめ、介護給付費分科会に具体的な議論を行うよう依頼しました(関連記事はこちら)。
8月30日の介護給付費分科会では、厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課の和田幸典課長から、例えば「訪問介護+通所介護」の新複合サービス案に対し、介護現場から「通所介護で利用者の性格やニーズを把握し、訪問介護側にフィードバック可能となる」「より詳しく在宅時の状況を確認でき、現有能力を生かす対策が立てやすくなる」など質の高いサービス提供が可能となるとのメリットや、「訪問介護人材の不足を補える」などの期待の声が出ている一方で、「急なキャンセルなどのサービス変更があった場合の対応が煩雑になる」といった課題の声も出ていることが紹介されました。
委員からは「介護人材の有効活用、介護サービスの質向上が期待され、柔軟な運営基準等を設定すべき」(古谷委員ら)との声が出ている一方で、「事業所間の情報連携強化で足りるのではないか。報酬の複雑化などは避けるべき」(井上隆委員:日本経済団体連合会専務理事、田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事、東委員)、「メリットが見えにくい。複合サービスを推進するのであれば、将来の目指すべき姿などを明確にしていくべき」(堀田聰子委員:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)などの慎重意見が多数出ています。
今後も新たな複合サービスについて「必要性」「効果」などを含めた議論が続けられます。なお、介護保険法の規定に沿い、新たなサービスは「地域密着型サービス」の1類型として創設されることになります。
離島など介護人材も利用者も限定される地域で、どう介護保険サービスを維持するか
また(4)は離島や山間地などでどのように公的介護サービスを確保するかという論点です。こうした地域では、「介護人材の確保が難しい」「利用者も限定され収益増大が見込みにくい」などの問題があります。このため「単価の上乗せ」や「加算の設定」「定員等の特例的緩和」などの対応が図られていますが、「定員等の特例的緩和」は自治体サイドの要望で設けられたものの、利用は極めて低調です。
2024年度の次期介護報酬改定に向け、委員からは「人材確保難を補うためにICTやロボットの活用を離島等でこそ進めるべき」(吉森委員、伊藤委員)、「離島や過疎地では規模拡大が不可能であり、加算等の創設を考えてほしい」(古谷委員)、「地域の実情を踏まえた柔軟な介護サービス提供体制の構築と評価が必要である」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)などの声が出ています。
介護サービスの質向上目指す「LIFE」、入力負担に見合うフィードバック充実が必要
さらに(5)は「LIFE」の推進に関する論点です。「介護施設・事業所がリハビリや栄養・介入などのデータを提出する」→「LIFEデータベースに蓄積され、集計・解析が行われる」→「LIFEから各施設・事業所にデータ解析結果がフィードバックされる」→「各施設・事業所でフィードバック結果をもとにサービス内容の改善を行う」ことにより、全体としてケア・サービスの質が向上していくことを目指す仕組みで、科学的根拠に基づいて「効果的かつ効率的なサービス提供」が進むことに期待が集まっています。
2021年度の前回介護報酬改定でこれを受け、▼データ入力項目を整理する(必須項目と、それ以外とに区分する)▼利用者・入所者すべてについてデータ入力を行い、フィードバックを受けたサービス改善を行うことを評価する【科学的介護推進体制加算】を新設する(利用者1人につき1か月当たり40-60単位)―などの見直しが行われました。
しかし、依然として現場からは「データの収集・記録の負担が大きい」という声も出ています。2024年度の次期介護報酬か一会に向けて、委員からは「LIFE活用の好事例を普及すべき」(古谷委員)、「入力負担の軽減を考慮すべき」(伊藤委員)、「入力負担に見合ったフィードバックヲ行うことが重要である」(東委員)、「現場感覚を持った入力項目検討などが必要である」(松田委員)、「LIFEの目的を改めて明確化すべき。重度化防止を目的とするのであれば、現在の報酬設定は好ましくなく『要介護度別になっている基本報酬の在り方見直し』を考えていくべき」(堀田委員)などの声が出ています。
関連して、古元老人保健課長は「自立支援・重度化防止に資するサービスの提供を推進していく観点から、アウトカム の視点も含めた評価のあり方、対象となるサービスの範囲についてどう考えるか」との論点を示しており、これに対しては「アウトカム評価の推進、拡充に向けた検討・研究を行うべき」(伊藤委員)、「まずLIFEでのフィードバック充実を進めるべきであり、現時点ではアウトカム評価の対象拡大(例えばADL維持等加算の対象サービス拡大など)はすべきでない」(東委員、江澤委員)といった意見が出されました。
介護給付費分科会では、さらに「横断的事項」に関する議論を継続する予定です。
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