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介護職員の3つの処遇改善を一本化、職場環境等要件も改善し「より働きやすい環境」構築—社保審・介護給付費分科会(1)

2023.11.6.(月)

介護職員の処遇改善に向けた「現在の3つの加算」について、2024年度の介護報酬改定で「一本化」を行う。ただし、一定期間は「新加算」と「現行3加算」の併存を認める—。

処遇改善加算の職場環境等要件も改善し、「より働きやすい環境」構築を目指す—。

11月6日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論が行われました(関連の第1ラウンド論議の記事はこちら)。

同日には訪問系サービスや新たな複合型サービス(訪問介護+通所介護)についても議論されており、これらは別稿で報じます。

3つの介護職員処遇改善加算を一本化、柔軟な賃金改善を可能とするものに

2024年度の介護報酬改定に向けた議論が介護給付費分科会を中心に進み、現在は個別具体的な第2ラウンド論議に入っています(通所介護等の第2ラウンド論議に関する記事はこちら、通所リハビリ等の第2ラウンド論議に関する記事はこちら、ショートステイの第2ラウンド論議に関する記事はこちら、地域密着型サービスの第2ラウンド論議に関する記事はこちら)。11月6日の会合では、訪問系サービス((1)訪問介護(2)訪問入浴介護(3)訪問看護(4)訪問リハビリ(5)居宅療養管理指導(6)居宅介護支援(ケアマネジメント)(7)福祉用具・住宅改修—)、横断的事項(介護人材の処遇改善等、複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ))について具体的な改定内容に関する論議が行われました。

本稿では「介護人材の処遇改善等」に焦点を合わせ、他の項目は別稿で報じます。

少子高齢化が進展する中で「介護提供体制を確保するための介護人材の確保・定着」が非常に大きな課題となっています。介護分野では他産業に比べて賃金・給与が低いとの指摘があり、これまでに次の3つの「介護職員等の処遇改善に向けた加算」が設けられています。

▽介護職員処遇改善加算:2012年度介護報酬改定で、従前の「介護職員処遇改善交付金」を受けて創設され、その後、順次拡充されてきている(関連記事はこちら

▽特定処遇改善加算:2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す(関連記事はこちらこちら

▽介護職員等ベースアップ等支援加算:2021年度改定で創設、基本給などの引き上げを目指す(関連記事はこちら

介護職員等ベースアップ等支援加算を含めた、3つの処遇改善加算の全体像(介護給付費分科会(3) 220228)



これらの加算による「処遇改善効果」は相当程度現れています(関連記事はこちら)。

介護職員等ベースアップ等支援加算などの状況(介護事業経営調査委員会1 230616)



ただし現場からは「事務作業が煩雑である」「3つの加算を一本化してほしい」「全産業平均と比べてまだまだ介護職員の給与は低い」「賃金増だけでなく『職場環境改善』にもさらに力を入れるべき」などの声が出ており、2024年度の次期介護報酬改定に向けて、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は今回「3つの加算を一本化してはどうか」との考えを示しました。具体的には次のような内容で、「より事業所・施設の実情に照らし、柔軟にスタッフの処遇改善を行える」ような加算に昇華させるイメージです。

▽たとえば「現在の3加算全ての最上位区分を取得している事業所」の加算率が一本化の前後で同一になるように現行の各加算・各区分の要件・加算率を組み合わせる形で、段階を設けた上で一本化を行う(新処遇改善加算1・新処遇改善加算2・新処遇改善加算3・・・といったイメージ)



▽要件については次のような考えで設定する
▼現在3加算それぞれで異なっている職種間賃金配分ルールについて、「介護職員への配分を基本とし、とくに経験・技能のある職員に重点的に配分する」こととするが、「事業所内で柔軟な配分を認める」形に統一する

▼ベースアップ等要件(現在は「加算の3分の2以上を基本給増等に充てる」こととしている)については、ベースアップ等に充てる割合(現在は前述のように「3分の2以上」)を見直しつつ、一本化後の新加算全体に適用する

▼職場環境等要件を見直す(後述)—



▽新加算の名称は、可能な限り簡素に、かつ加算の趣旨や内容を踏まえたものとする(介護職員「以外」も賃上げの対象になることが明確になるような名称を検討)



▽賃金改善方法の変更等の対応が必要な事業所のため、一定の移行期間(新・旧加算を選択できる期間)を設ける



詳細は今後の検討を待つ必要がありますが、【第1段階】「介護職員の基本的な待遇改善・ベースアップ」等要件→【第2段階】前記+「資格や経験に応じた昇給の仕組みの整備」要件→【第3段階】前記+「総合的な職場環境改善による職員の定着促進」要件→【第4段階】前記+「事業所内の経験・技能のある職員の充実」要件—という具合に、「要件を充実させるほど、高い区分の加算を取得できる」形となるイメージです。

あわせて、新加算の区分と、現行加算の要件との整理案イメージも提示されました。

新たな処遇改善加算(一本化後)のイメージ(社保審・介護給付費分科会(1)1 231106)

新たな処遇改善加算(一本化後)と、現行3加算との要件の関係イメージ(社保審・介護給付費分科会(1)2 231106)



多くの委員から出されていた一本化要望に応える形の提案であり、反論・異論は出ていませんが、「事業所・施設内での財源配分ルールについて『介護職員への配分を基本とする』『経験・技能のある職員に重点的に配分する』『事業所内の柔軟化を認める』との考えが示されているが、一定程度『定量的なルール』を設けるべきであろう」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)、「一本化によりメリットは大きいが、一方で『使いにくくなる』ことも懸念される。現場が混乱しないよう、説明会開催や相談窓口設定等を十分に行ってほしい」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)、「現行要件の簡素化も必要である」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)といった注文がついています。

さらに加算の水準、対象職種などについて「現在よりも下がることの内容にすべきであり、また看護職なども対象に加えるべき」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「ケアマネジャーの人材不足も深刻であり、処遇改善加算の対象にケアマネジャーも加えるべき」(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長、東委員)などの要望も出ています。

今後、こうした意見も踏まえながら、さらに年末の予算案編成過程で決まる「介護報酬改定率」(改定財源)も勘案し、具体的な「新たな一本化した処遇改善加算」の制度設計が進められます。

なお、一本化により「事務負担の軽減」が期待できますが、「新・旧加算が併存する期間」には保険者の負担が増えると考えられ、そうした点への配慮も必要になってくるでしょう。

事務負担簡素化イメージ(社保審・介護給付費分科会(1)3 231106)

処遇改善加算の「職場環境要件」を充実し、さらに「働きやすい環境」構築を目指す

また古元老人保健課長は、処遇改善加算の「職場環境等要件」について、次のような見直しを行ってはどうかとの論点も示しました。賃金改善にとどまらず「働きやすい職場環境の構築」が人材確保・定着にとって極めて有用である点を踏まえて「職場環境等要件」が設定されており(本要件を満たさない場合には処遇改善加算を取得できない)、さらなる「働きやすい職場環境構築」に向けた改善を目指す内容と言えます。

▽職場環境改善の取り組みをより実効性が高いものとする観点から、以下の見直しを行う
▼多くの事業所が要件(処遇改善加算は24項目中1以上、特定処遇改善加算は区分ごとに1以上、詳細は下表)を超えた項目数の職場環境等改善の取り組みを行っている現状を踏まえ、取り組むべき項目数を増やす

▼現行の特定処遇改善加算の「見える化要件」について、職場環境等要件の各項目ごとの具体的な取組内容の公表を求める旨を明確化する

▼年次有給休暇取得促進の取組内容を具体化する(上司等からの声かけ・業務の属人化の解消等)

▼研修受講支援の対象に、介護福祉士ファーストステップ研修・ユニットリーダー研修を追加する



▽職場環境等要件のうち、「生産性向上・経営の協働化」に係る項目についても拡充を検討する



この見直し提案に対しては、「生産性向上・経営の協働化が離職防止につながるかは疑問である。現在6区分についてそれぞれ1つ以上実施するとのルールが設けられているが、区分の妥当性・必要性を検証する必要がある」(堀田聰子委員:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授、江澤和彦委員:日本医師会常任理事)、「項目増にとどまらず、『必須項目』を設けるなどの対応充実を促すものとすべき」(伊藤委員)、「そもそも処遇改善加算は他産業と介護職との賃金格差を埋めるものであり、『職場環境改善』の評価と『賃上げ』の評価とは分けて考えるべきではないか」(正立斉委員:全国老人クラブ連合会理事・事務局長)との注文がついています。

ただし「提案内容に反対する」ものとまでは考えられず、今後、上記意見も踏まえながら具体的な改善内容を詰めていくことになるでしょう。

現在の「職場環境等要件」(社保審・介護給付費分科会(1)4 231106)



ところで、石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学客員教授)は「利用者負担増を懸念して処遇改善加算を取得しない事業所も一部にある。介護報酬以外での財源による処遇改善方策も検討していくべき」との考えを示しています。従前より「処遇改善は、本来は介護事業所・施設と従事者との労使交渉で行うべきものである」(例えば基本報酬を引き上げ、その財源配分を各施設で検討していくべき)、「介護従事者よりも低い給与の人で働く人も少なくない。そうした人の負担を引き上げ(加算は介護保険の2号保険料増に直結する)て、より高い人の賃金増を行うことには問題がある」との指摘もあります。こうした「処遇改善を介護報酬、さらに使途を限定した加算で行うことが適切なのか」という点も、今後の重要論点であることを忘れてはいけません。



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