介護事業所の感染症・看取り対応力強化を介護報酬で推進、LIFEデータ利活用で「介護の質」向上につながる—社保審・介護給付費分科会(4)
2023.12.13.(水)
Gem Medで報じているとおり、来年度(2024年度)の介護報酬改定に向けて、12月11日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、改定内容に関する「審議報告」の取りまとめに向けた議論を行いました。
年内に審議報告をまとめ、別に政府が予算案編成過程で決定する改定率などを踏まえて、年明けから具体的な単位数設定・基準等設定論議に入ります。
本稿では、「感染症対応」「看取り対応」「LIFEの利活用」に焦点を合わせます(医療・介護連携に関する記事はこちら、生産性向上等に関する記事はこちら、認知症対応、リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体的推進に関する記事はこちら)
目次
介護事業所・施設での「感染症」対応力強化を図る、BCP策定も急ぐべき
2020年初頭より我が国を襲ったコロナ感染症に対応する中で、「医療・介護連携の重要性」が再認識されました。その中でも「介護施設等と医療機関とが、平時から感染症対応に関する協議・訓練等を通じた関係性を構築し、感染症患者が発生した場合には両者が連携して対応する」ことの重要性が強く認識されました。
あわせて感染症流行時・災害時にも「介護サービス提供を継続できる」体制の確保も重要となります。
こうした点を踏まえて、2024年度の介護報酬改定で次のような対応を図ってはどうかとの提案が、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長からなされています。
▽(地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院について、以下を要件とする新たな「感染症対策」に関する加算を設ける(関連記事はこちら)
▼興感染症発生時等に感染者の診療等を実施する医療機関(協定締結医療機関)新との連携体制を構築している
▼新興感染症以外の一般的な感染症(コロナ感染症を含む)について、協力医療機関等と「感染症発生時における診療等の対応」を取り決め、協力医療機関等と連携の上で適切な対応を行う
▼感染症対策に係る一定の要件を満たす医療機関等や地域の医師会が定期的に主催する感染対策に関する研修に参加し、助言や指導を受ける
▽(地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院について、「感染症対策に係る一定の要件を満たす医療機関等から施設内で感染者が発生した場合の感染制御等の実地指導を受ける」ことを新加算で評価する(関連記事はこちら)
▽(地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院について、新興感染症のパンデミック発生時等に「必要な感染対策や医療機関との連携体制を確保した上で、感染した高齢者を施設内で療養を行う」ことを新たに評価する(対象感染症は今後のパンデミック発生時に必要に応じて指定する)(関連記事はこちら)
▽(地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院について、感染者の診療等を迅速に対応できる体制を平時から構築しておくため、「感染者の診療等を行う協定締結医療機関と連携し、新興感染症発生時の対応を取り決める」努力義務を課す。協力医療機関等が協定締結医療機関である場合には「協力医療機関との間で、新興感染症の発生時等の対応について協議を行う」義務を課す(関連記事はこちら)
▽居宅療養管理指導を除くすべてのサービスについて、「感染症・災害のいずれか・両方の業務継続計画が未策定」の場合、基本報酬を減算する(関連記事はこちら)
▼ただし、2026年3月31日までの間、感染症予防・蔓延防止指針の整備、非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には減算を適用しない
▼訪問系サービス、居宅介護支援については、2026年3月31日までの間、減算を適用しない
極めて重要な内容であり明確な異論・反論は出ていませんが、自治体サイドからは「地域によっては、感染症に対応できる医療機関が少なく、連携先医療機関が一部に集中してしまうことも考えられる。地域の状況への配慮も検討してほしい」との要望が、また伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)から「業務継続計画(BCP)策定について、2021年度の前回介護報酬改定で『2024年3月31日までの猶予措置』が設けられた。さらなる猶予措置は好ましくなく、仮に猶予措置を設ける場合でも『1年限りの延長』とすべきではないか」との注文が出されています。地域の状況・現場の状況、さらにこうした介護給付費分科会委員の意見も踏まえて最終調整が進められます。
介護事業所・施設での「看取り」対応力強化も重要課題
また2024年度介護報酬改定では「看取り対応」の充実も重要テーマの1つに掲げられました。利用者の「人生の最終段階で自身が受けたい医療・ケア、受けたくない医療・ケア」ニーズを踏まえて、適切な看取り対応を行うことの重要性は論を待ちません。
古元老人保健課長は、次のような対応案を提示しています。
▽訪問介護の【特定事業所加算】について、▼看取り期における対応を適切に評価する観点から、重度者対応要件として「看取り期にある者」に関する要件を新たに追加する▼重度要介護者等への対応における現行要件について、実態を踏まえた一部現行区分の見直し等を行う▼中山間地域等において、やむを得ず移動距離等を要し、事業運営が非効率にならざるを得ない場合があることから、利用者へ継続的なサービスを行っていることを新たに評価する—(関連記事はこちら)
▽訪問入浴介護について、「事業所の看取り対応体制」を評価する新加算を設ける(関連記事はこちら)
▽訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護の【ターミナルケア加算】について、ターミナルケアの内容が介護保険・医療保険と同様であることを踏まえた評価の見直しを行う(関連記事はこちら)
▽訪問看護、看護小規模多機能型居宅介護について、「看護師が情報通信機器を用いて医
師の死亡診断の補助を行った」場合の評価を新たに設ける(関連記事はこちら)
▽短期入所生活介護について、「レスパイト機能を果たしつつ、看護職員の体制確保や対応方針を定め、看取り期の利用者に対してサービス提供を行う」ことを新加算で評価する(関連記事はこちら)
▽居宅介護支援の【ターミナルケアマネジメント加算】について、「人生の最終段階における利用者の意向を適切に把握する」ことを要件と、対象疾患の「末期がん」限定を解除する。あわせて【特定事業所医療介護連携加算】における「ターミナルケアマネジメント加算の算定回数」要件も見直す(関連記事はこちら)
▽介護老人保健施設の【ターミナルケア加算】について、「死亡日以前31日以上45日以下」の区分の評価を見直し、「死亡日の前日、前々日、死亡日」の区分等への重点化を図る(関連記事はこちら)
▽介護医療院について、基本報酬の算定要件・施設サービス計画において「本人の意思を尊重した上で、入所者全員(拒否者を除く)に対して「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組を行うことを求める(義務化する)(関連記事はこちら)
看取り対応の充実方向ゆえ異論・反論は出ていませんが、「居宅介護支援(ケアマネジメント)の【ターミナルケアマネジメント加算】では『死亡日前14日以内に2回の在宅訪問を行う』ことなどが要件となっているが、タイミングが合わない場合もある。情報連携など他の支援も含めた要件に見直せないか検討してほしい」(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)、「居宅介護支援(ケアマネジメント)の【ターミナルケアマネジメント加算】について、医師が『回復の見込みなし』と判断した場合を広く対象としてほしい」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)といった技術的な注文がついています。今後、これらも参考にしながら詳細を詰めていきます。
LIFEデータの活用で「介護の質向上」につながる、積極的なLIFEデータ提出を
介護分野においても「どういったケアを行えば、どういった効果が得られるのか」というデータに基づく、科学的な介護の実施が求められています。利用者の重度化防止・自立支援に資することはもちろん、介護人材確保が難しくなる中で「不要なケア・取り組みをできるだけ排除し、効果につながるケア・取り組みに限られた介護人材を投入する」ことが重要なためです。このため、「介入(ケア)の内容」と「その効果」も含めた介護データを集積する「LIFE」が重視され、「LIFEデータベースへの積極的なデータ登録を行い、LIFEデータベースからフィードバックを受け、ケアの改善につなげていく」ことが強く求められています。
しかし、LIFEについては、現時点では「現場でのデータ入力負担が重い」「フィードバック内容の確認がしにくい」などの課題が指摘されており、こうした声も踏まえて古元老人保健課長は次のような対応を2024年度の介護報酬改定で行うことを提案しました。
▽(地域密着型)通所介護、認知症対応型通所介護、通所リハビリ、(地域密着型)特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、看護小規模多機能型居宅介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院における【科学的介護推進体制加算】について、▼加算の様式について入力項目の定義明確化や他の加算と共通している項目の見直しなどを行う▼LIFEへのデータ提出頻度を「少なくとも6か月に1回」から「3か月に1回」に見直す▼初回のデータ提出時期について、他のLIFE関連加算と揃えることを可能とする—(関連記事はこちら)
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院における【自立支援促進加算】について、▼加算の様式について入力項目の定義明確化や他の加算と共通している項目の見直しなどを行う▼医師の医学的評価を「少なくとも6か月に1回」から「3か月に1回」に見直す▼初回のデータ提出時期について、他のLIFE関連加算と揃えることを可能とする▼事務負担の軽減を行いつつ評価の適正化を行う—(関連記事はこちら)
▽(地域密着型)通所介護、認知症対応型通所介護、(地域密着型)特定施設入居者生活介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護における【ADL維持等加算】について、▼加算(II)におけるADL利得要件を、現行の「2以上」から「3以上」に見直す▼ADL利得の計算方法を簡素化する—(関連記事はこちら)
▽看護小規模多機能型居宅介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院における【排せつ支援加算】について、▼排せつ状態の改善等について「尿道カテーテルの抜去」も新たに評価する▼加算の様式について入力項目の定義明確化や他の加算と共通している項目の見直しなどを行う▼初回のデータ提出時期について、他のLIFE関連加算と揃えることを可能とする—(関連記事はこちら)
▽看護小規模多機能型居宅介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院における【褥瘡マネジメント加算】(介護医療院は【褥瘡対策指導管理】)について、▼「施設入所時・利用開始時に既に発生していた褥瘡が治癒したこと」も評価する▼加算の様式について入力項目の定義明確化や他の加算と共通している項目の見直しなどを行う▼初回のデータ提出時期について、他のLIFE関連加算と揃えることを可能とする—(関連記事はこちら)
こうした見直し内容に異論は出ていません。より多くの事業所が、「LIFEデータベースへの積極的なデータ登録を行い、LIFEデータベースからフィードバックを受け、ケアの改善につなげていく」ことに期待が集まります。
なお、この点に関連して松田晋哉委員(産業医科大学教授)は、▼LIFEデータを用いることで利用者のADLなどの現状を標準的なフォーマットで可視化できる(例えば「食事」能力は要介護度が高くなっても比較的維持されるが、「入浴」能力は要介護度の低い段階から低下する、「自分自身で起床できる」人は自立の割合が高い、など)▼他のデータとのクロス分析・時系列分析を行うことで「介護介入の効果」を検証できる(栄養を標準よりも多く摂取すると、能力低下の度合いが小さくなる、など)▼検証結果などを各施設・事業所にフィードバックし、各施設・事業所でPDCAサイクルを回すことで介護サービスの質向上が可能になる—と「LIFEデータ利活用の重要性」を強調。あわせて、北海道の函館地区では「LIFE関連データを医療・介護の連携情報として活用し、地域全体で医療介護サービスの質の向上に活かしている」という実例も紹介しました。
この松田委員の考えには、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)や堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)も強い賛意を示しており、LIFEへのより多くの事業所参加・利活用推進が待たれます(もちろんLIFEの改善も重要テーマの1つ)。
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