介護施設等に「医療機関との実のある協力関係」「安全・ケア質確保、負担軽減」検討委員会設定など義務化—社保審・介護給付費分科会(2)
2023.12.5.(火)
生産性向上の積極的に取り組み、ケアの質確保・職員の負担軽減などの実証データを示せた特定施設について、人員基準の緩和を認める。介護保険施設などに「中身のある医療機関との協力関係」を義務化する。施設系・居住系サービスにおいて、新興感染症に対応する第2種協定医療機関との連携を努力義務とする。
12月4日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった「介護保険サービスの運営基準」見直し案が概ね固めました。田辺国昭分科会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)と厚生労働省で最終の詰めを行い、近くパブリックコメントに付されます(同日の介護医療院等での多床室負担、食費・居住費の基準費用額引き上げなどに関する議論の記事はこちら)。
自治体の条例改正など考慮し、加算論議などより一足早く「運営基準」改正内容を固める
介護保険サービスでは、安全で質の高いサービス提供を担保するために「運営基準」などが定められています。例えば、多くの利用者に少ない人数の介護スタッフで対応することは「安全性」「ケアの質」という面で多くの問題が生じます。このため専門家が「●●のサービスを安全かつ適切に提供するためには、利用者●人に対して●人以上の介護スタッフが必要である」などを検討し、基準として明確に示す必要があるのです。
この基準は、介護保険の保険者である市町村の条例で定めることとなり、「厚生労働省が言わば雛形を示す」→「市町村が議会で条例を制定・改正する」という手続きを踏むため、介護報酬改定においては「他の項目に優先して基準の雛形を市町村に示しておく」ことが求められます。
このため厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は12月4日の介護給付費分科会に「基準の案」を提示ました(ここで概ねの了解を得た後に市町村に示すことで「条例の制定・改正」の時間を確保できる)。基準案の内容は、既にこれまで介護給付費分科会で議論されてきたもので、大枠は次のとおりです。
【全サービス共通】(関連記事はこちら)
▽重要事項の「書面掲示」について、1年間の経過措置を置いたうえで「ウェブサイト掲載」を義務付ける
▽管理者の兼務範囲拡大
▽身体拘束最小化(短期入所系・多機能系サービスで1年間の経過措置を置いたうえで「身体的拘束等適正化措置」を義務付け、訪問系・通所系サービス、福祉用具貸与・販売、居宅介護支援で「緊急やむを得ない場合を除く身体的拘束等禁止」を求める
【短期入所系・多機能系・居住系・施設系サービス共通】
▽3年間の経過措置を置いたうえでの「利用者の安全、介護サービスの質確保、職員の負担軽減」方策を検討する委員会設置義務(関連記事はこちら)
【訪問系サービス】
▽訪問リハビリ:医療機関からのリハビリ実施計画書入手義務化、老健施設・介護医療院での見直し指定導入(関連記事はこちら)
▽居宅療養管理指導」高齢者虐待防止義務緩和措置の3年間延長、BCP策定義務猶予の3年間延長(関連記事はこちら)
【通所系サービス】
▽通所リハビリ:医療機関からのリハビリ実施計画書入手義務化、みなし指定を受けた通所リハビリの人員配置基準緩和(関連記事はこちら)
【短期入所系サービス】
▽共通:ユニットケアの質の向上のための体制確保(関連記事はこちら)
【多機能系サービス】
▽(看護)小規模多機能型居宅介護:管理者の兼務規定緩和(関連記事はこちら)
▽看護小規模多機能型居宅介護:サービス内容の明確化(関連記事はこちら)
【福祉用具貸与・特定福祉用具販売】(関連記事はこちら)
▽共通:選択制の対象福祉用具提供に係る利用者等への説明・提案義務
▽福祉用具貸与:貸与後のモニタリングの実施時期等の明確化、モニタリング結果の記録・ケアマネジャーへの交付、選択制対象福祉用具を貸与した後の貸与継続の必要性検討
▽特定福祉用具販売:選択制の対象福祉用具に係る計画達成状況の確認、販売後のメンテナンス
【居宅介護支援・介護予防支援】(ケアマネジメント、関連記事はこちら)
▽公正中立性の確保のための取り組みの見直し(過去のケアプランにおける訪問介護、通所介護、福祉用具貸与、地域密着型通所介護の各サービスの利用割合など提示)
▽指定居宅サービス事業者等との連携によるオンラインモニタリング解禁
▽ケアマネジャー1人当たりの取り扱い件数の見直し
▽介護予防支援の円滑実施
【居住系サービス】
▽共通:協力医療機関設定の努力義務化(関連記事はこちら)、医療機関と連携した新興感染対策(関連記事はこちら)
▽特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護:生産性向上に先進的に取り組む場合の試行結果に基づく人員配置基準の特例的柔軟化(関連記事はこちら)、3年間の経過措置を置いたうえでの口腔衛生管理義務化(関連記事はこちら)
【施設系サービス】
▽共通:ユニットケアの質の向上のための体制確保、一定の経過措置を置いたうえでの実質的な協力医療機関との連携体制構築(関連記事はこちら)、医療機関と連携した新興感染対策(関連記事はこちら)
▽介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):小規模介護老人福祉施設の配置基準緩和、入所者の緊急時対応方法の定期的な見直しの義務付け(関連記事はこちら)
このうち、「特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活における生産性向上に先進的に取り組む場合の試行結果に基づく人員配置基準の特例的柔軟化」に対しては、「ケアの質、安全性確保の面から人員配置基準緩和(通常「3対1」から最大「3.33対1」までの緩和)は行うべきではない」との反対意見が小林司委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や田母神裕美委員(日本看護協会常任理事)、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)らから改めて示されました。
もっとも、すべての特定施設で人員配置柔軟化が認められるわけではなく、「生産性向上の取り組み」パッケージすべてを一定期間(数か月程度)試行し、そこで「ケアの質の確保、職員の負担軽減」などがデータ等で確認できた場合に、初めて人員配置の柔軟化が認められるという「極めて限定的な取り組み」である点にも留意が必要でしょう。
このほか「居宅療養管理指導におけるBCP策定義務の猶予は、これまで3年間の経過措置がおかれているにもかかわらず、さらに3年間延長することは適切ではない。新興感染症や自然災害はいつ発生するか分からず、適切に業務継続がなしえるよう早急に対応すべき」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事、酒向里枝委員:日本経済団体連合会経済政策本部長)、「施設系・居住系サービスにおける新興感染症時の医療機関との連携について、改正感染症法と平仄を合わせ、訪問看護ステーションとの連携も広く進めるべき」(田母神委員)、「施設と協力医療機関との実質的な連携体制構築義務は、当初の1年間の経過措置から『一定期間の経過措置』となったが、相手方のあることであり、施設側に不利益を課すべきではない」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)、「居住系サービスにおける協力医療機関設定の努力義務化について、医療機関サイドは介護サービスとの連携を期待しており、実質的な連携体制が早期に構築されるべき旨を確認しておくべき」(江澤委員)などの意見・注文がついています。
今後、こうした意見を踏まえて田辺分科会長と厚労省で「運営基準見直案」を決定し、近く国民からの意見募集を行います(パブリックコメント)。その意見も踏まえて年明けの介護給付費分科会で再度議論し、1月中旬頃に「運営基準見直し内容」が確定する見込みです。
なお並行して、これまでGem Medで報じてきた新加算創設などの議論・検討が続けられます(12月中旬の予算案編成内容を踏まえて介護給付費分科会で議論を続け、年明け1月下旬頃に改定内容が確定する見込み)。
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