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ADL維持等加算などを「患者の状態改善」により資する内容に見直す、BCP未策定事業所等で介護報酬減算—社保審・介護給付費分科会(3)

2023.11.30.(木)

科学的介護を目指す「LIFE」について、2024年度介護報酬改定では、対象サービス拡大などは行わず「入力負担軽減」や「フィードバック内容の改善」などに努める—。

またアウトカムを評価するADL維持等加算や褥瘡マネジメント加算などについて、より「患者の状態改善」に資するような内容に見直していく—。

感染症や自然災害などが生じても介護業務を継続できる計画の策定や、高齢者虐待防止に努めることなどが、介護事業所に求められており、こうした取り組みを行っていない場合には介護報酬を減算する—。

通所サービスの送迎について、運転手不足が深刻化する中「他事業者と共同して送迎を行う」ことを明確化し、その際の責任の所在なども明確化していく—。

11月27日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論も行われています(関連の第1ラウンド論議の記事はこちら)(同日の認知症対応力強化に関する記事はこちら、感染症対応力強化に関する記事はこちら)。

科学的介護を目指す「LIFE」、2024年度は入力負担軽減やフィードバック改善に努める

2024年度の介護報酬改定に向けた議論が、個別具体的な第2ラウンドに入っています。

11月27日の会合では、(1)認知症への対応力強化(2)感染症への対応力強化(3)業務継続に向けた取り組みの強化等(4)LIFE・口腔・栄養(5)高齢者虐待の防止、送迎—といった点が議題に上がりました。本稿では(3)から(5)の論点に焦点を合わせます((1)の認知症対応力強化に関する記事はこちら、(2)の感染症対応力強化に関する記事はこちら)。

まず(4)のうち「LIFE」関連を見てみましょう。「介護施設・事業所がリハビリや栄養・介入などのデータを提出する」→「LIFEデータベースにデータが蓄積され、集計・解析が行われる」→「LIFEから各施設・事業所にデータ解析結果がフィードバックされる」→「各施設・事業所でフィードバック結果をもとにサービス内容の改善を行う」ことにより、全体としてケア・サービスの質が向上していくことを目指す仕組みです。後述するように、各種の加算で「LIFEへのデータの提出」を要件化し、この取り組みを報酬面で促進する仕組みも設けられています。

「どのようなケア、サービスを提供すれば効果的かつ効率的に利用者・入所者の状態が改善するのか」を各事業所・施設で確認し、それをケア・サービスに活かしていくことが期待されますが、現時点では「現場でのデータ入力負担が重い」「フィードバック内容の確認がしにくい」などの課題が指摘されています。

そこで、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、2024年度介護報酬改定では次のような対応を行ってはどうかとの考えを示しました。

▽「入力項目の定義明確化」「複数の加算で重複している項目の選択肢統一により重複入力を避ける」など、LIFEの入力項目を見直し、システムの利便性向上に取り組む

▽入力負担に配慮した上で、フィードバックを充実させる観点から「新たな項目」の追加も検討する(例えば「新たな認知症評価尺度」による判定結果などが想定される)

▽LIFEへのデータ提出頻度について「少なくとも3か月に1回」に統一する

▽同一利用者に複数の加算を算定する場合に加算のデータ提出タイミングが揃うよう、一定条件下で「初回のデータ提出に猶予期間」を設ける

▽「自事業所と平均要介護度が同じ事業所との比較」「同じ要介護度の利用者との比較」「地域別などのより詳細な層別化、複数の項目をクロス集計する」など、フィードバック内容の充実を図る

▽LIFEへのデータ提出対象サービスは拡大しない
→現在対象となっていない「訪問系サービス」などに適した評価項目、同一の利用者にサービスを提供している複数の訪問系事業所等における各サービスの評価方法などについて、引き続き検討を進める

LIFE項目見直しイメージ(社保審・介護給付費分科会(3)2 231127)

LIFEデータ提出頻度見直しイメージ(社保審・介護給付費分科会(3)3 231127)

複数加算で重複するが、評価方法などが異なる例(社保審・介護給付費分科会(3)1 231127)



2024年度改定では、現場寄せられる「LIFEの課題」解決に努め、並行して「将来の拡大に向けた研究・検討を継続」するイメージです。

この方向に異論・反論は出ていませんが、「利用者の多い訪問系サービスへのLIFE導入をゴールと捉え、引き続き検討を進めてほしい」(石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会理事・名古屋学芸大学客員教授、酒向里枝委員:日本経済団体連合会経済政策本部長)、「フィードバックの内容を『確認』するだけでも相当な手間がかかって老い、そこの改善も併せて検討してほしい」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)などの注文がついています。今後、詳細を詰める中で参考にしていくことになるでしょう。

アウトカム評価するADL維持等加算など、より「利用者の状態改善に資する内容」に見直し

また上述のようにLIFEへのデータ提出が要件となっている加算について「アウトカム評価」の視点をより重視した評価とするために、古元老人保健課長は次のような見直しを行ってはどうかとも提案しています。「より状態改善の資する内容」に改善していくイメージです。

【褥瘡マネジメント加算】(褥瘡ケア計画を作成し、定期的に利用者の褥瘡の管理と治療を行うことを評価する、褥瘡の治癒(アウトカム)に着目したより高い評価もなされる)
→「褥瘡の発生がないこと」だけでなく、「サービス利用開始時点において褥瘡がある利用者について、サービス利用開始後に褥瘡が治癒したこと」も、新たなアウトカムとして評価する

【排せつ支援加算】(入所者への適切な排せつケア提供体制を整えることを評価する、実際に状態の改善が見られた(アウトカム)ことに着目したより高い評価もなされる)
→「排せつの状態の改善・おむつの使用の有無」だけでなく、「尿道カテーテルの使用の有無」も、新たなアウトカムとして評価する

【ADL維持等加算】(ケアによる利用者のADL維持・改善を評価し、維持・改善度合い(アウトカム)に応じた評価が行われる)
→加算(II)(評価対象利用者等の調整済ADL利得(ADLの改善度合い)がより高い場合の上位区分の加算)のカットオフ値(現在は調整済ADL利得が平均2以上)について見直す(ADL利得が「2以上」の事業所が約3-6割、同じく「3以上」の事業所が約1-3割あり、多くがカットオフ値をクリアできている状況に鑑みた厳格化・要件引き上げを検討)

→利用者のADLを良好に維持・改善する事業所を評価する観点、算定要件が複雑である等の指摘があることを踏まえ、ADL利得値に影響を与えない範囲で要件の簡素化を行う(「ADL改善が見込まれる人だけを選別する」というクリームスキミングを防止するために、一定の利用者をADL利得計算から除外しているが、その内容を簡素化することを検討)

ADL利得の分布を見ると、加算の基準値(カットオフ値)をクリアする事業所が多い(社保審・介護給付費分科会(3)4 231127)



【自立支援促進加算】(定期的に医師が入所者の医学的評価を行い、その結果に基づく自立支援計画を作成(定期的な見直しも必須)し、それに基づくケアを行うことを評価する)
→入所者の尊厳を保持し自立支援・重度化防止の取組をより推進する観点から、LIFEへの入力項目の有用性や負担感を踏まえ「個別ケアを重視した支援計画の立案」により資する評価項目に見直す



アウトカム評価とは、いわば「状態が改善したという結果に基づく評価」のことです。漫然とケアを行うのではなく「どうすれば状態が改善するか」を考え、また結果を検証し「ケアの内容をこう見直せば、より状態改善につながるのではないか」と検討・実践することが重要で、その取り組み・結果を加算で評価するとともに、客観的データに基づく取り組みが行えるように「LIFEデータベース」が設けられています。

上記の見直しは、評価のベースとなる「状態の改善度合い」をより正確に把握し、より適切に評価(加算)につなげることを目指すもので、異論・反論は出ていません。ただし「ADL維持等加算ではクリームスキミングが発生しないよう十分に留意してほしい」(小林委員)、「ADL維持等加算についてカットオフ値引き上げで現場の意欲がそがれないように留意してほしい」(田中委員)、「ADL維持等加算について、生活期リハビリの目的と合致しているのか今一度検討すべき」(江澤委員)、「褥瘡マネジメント加算において、看取り期の利用者を計算から除外することなども考えてはどうか」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)といった声も出ています。今後、こうした声も踏まえて詳細を詰めていきます。

介護事業所での「口腔衛生管理」や「栄養管理」などを報酬面でさらに推進

また、口腔管理・栄養管理の充実がリハビリの効果に大きな影響を及ぼす点を踏まえ、古元老人保健課長は次のような対応案も示しています。要介護者の多くか「口腔」に一定の問題を抱えているものの、歯科医療機関受診に繋がっていないという課題に対応する(まず口腔状態を把握し、必要に応じて歯科医療につなげる)ことを目指すものです。

▽訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、短期入所生活介護、短期入所療養介護サービスにおいて、「歯科医療機関と介護事業所が連携し、口腔アセスメント指標に基づいて介護職員が利用者毎の口腔アセスメントを実施し、歯科医療機関やケアマネジャーに情報提供を行う」ことを新たに評価する

▽介護保険施設等において「入所者毎の口腔状態を確認すること」を運営基準に位置づけ、介護職員等においても実施可能な口腔アセスメントの簡易指標を示す(特定施設、認知症対応型共同生活介護などでは、口腔・栄養スクリーニング加算の要件とする)

▽(介護予防)特定施設入居者生活介護では、口腔衛生管理体制加算を廃止し、加算要件の一部を基本サービス費の要件とする(口腔衛生管理を義務化する)

▽終末期がん患者等の利用者について居宅療養管理指導(歯科衛生士等が行う場合)の算定回数上限(現在は月4回)を緩和する

▽介護保険施設の管理栄養士が「入所者等の栄養管理に関する情報」を他の介護保険施設や医療機関等の医師・管理栄養士、ケアマネジャーに文書等で提供することを新たに評価する(新加算など)

▽【再入所時栄養連携加算】(施設→医療機関→施設となるとき、栄養状態や摂食機能が大きく異なる場合に、医療機関の栄養管理士と施設の栄養管理士が連携して再入所後の栄養管理に関する調整を行うことを評価する)について、対象者を現行の「入院中に経管栄養または嚥下調整食が新規導入となった入所者」だけでなく、「療養食を提供する必要性がある入所者など」に拡大する



こうした提案内容に関しては、「簡易な口腔アセスメントの簡易指標は、将来、在宅への導入も目指してほしい」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「栄養情報の提供先には看護職も加えるべきではないか」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「特定施設での口腔衛生管理義務化に当たっては、必要な経過措置を設けるべき」(古谷委員)といった注文が付きましたが、目立った反論・異論は出ていません。

なお、「加算よりも、義務化(基本報酬の要件化)を検討すべきではないか」といった声も一部に出ていますが、将来の要件化(義務化)に向けて、まず多くの事業所・施設での口腔・栄養管理の浸透を目指して加算で対応することは現実的・合理的と言えます。

今後、詳細を詰めていくことになります。

簡易な口腔状態アセスメントについて(社保審・介護給付費分科会(3)5 231127)

BCPが策定されていない、高齢者虐待防止に取り組まない事業所は介護報酬を減算

また、より適切かつ安定的な事業運営を目指し、(3)の業務継続、(5)の虐待防止において次のような「減算」規定導入が厚生労働省高齢者支援課の峰村浩司課長から提案されています。

【業務継続計画(BCP)未策定事業所に対する減算など】
▽感染症・自然災害のいずれか、または両方のBCPが未策定の場合、基本報酬を減算する

▽(経過措置)2026年度末まで(次期介護報酬改定まで)、「感染症の予防・蔓延延防止指針」「非常災害に関する具体的計画」を策定していれば減算を適用しない

▽(経過措置)2026年度末まで(次期介護報酬改定まで)、訪問系サービス・ケアマネ事業所は減算の対象としない(2021年度改定で「感染症の予防・蔓延延防止指針」が義務付けられて間もなく、非常災害対策計画の策定が求められていない)

▽(経過措置)2026年度末まで(次期介護報酬改定まで)、居宅療養管理指導はBCP策定の経過措置期間を延長し、BCP策定実態把握などに努める(ほとんどが「みなし指定」であり、BCP策定実態が十分に把握できていない)

▽業務継続計画の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等を継続的に把握し、支援に繋げるため、毎年調査を行い、都道府県等にも策定状況等を共有する

▽非常災害対策における地域住民との連携強化に向けて、2027年度の次期介護報酬改定に向けて検討を進める

【高齢者虐待防止にかかる減算など】
▽利用者の人権擁護、虐待の防止等をより一層推進する観点から、運営基準における「高齢者虐待防止措置」がとられていない場合には基本報酬を減算する

▽(経過措置)2026年度末まで(次期介護報酬改定まで)、福祉用具貸与・特定福祉用具販売は減算の対象となる(サービス提供態様が他サービスと異なるため)

▽(経過措置)2026年度末まで(次期介護報酬改定まで)、居宅療養管理指導は虐待防止に係る経過措置期間を延長し、策定実態把握などに努める(ほとんどが「みなし指定」であり、BCP策定実態が十分に把握できていない)

▽介護サービス事業所における「ハラスメント等のストレス対策に関する研修」「職員からの相談支援」について、国の補助により都道府県が実施している自治体向け事業を活用できることを明確化する

【身体拘束ゼロに向けて】
▽既に身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定があるサービス種別(短期入所・多機能系サービス)について、1年間の経過措置を設けた上で「身体的拘束等の適正化のための措置」を義務づけ、措置が行われていない場合には基本報酬を減算する

▽身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定のないサービス種別(訪問・通所系サービス等)について、「身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定」を運営基準に設ける

サービス種別で身体拘束防止の規定が若干異なっている(社保審・介護給付費分科会(3)6 231127)



この点、「2021年度から3年間の経過措置があったにも関わらず、BCP策定などを進めていないことは問題ではないか、さらなる経過措置は不要ではないか」との声も出ていますが、介護事業所等でもコロナ感染症対応に注力しなければならなかった点、とりわけ小規模事業所では対応が困難である点などを踏まえた「さらなる経過措置」には多くの委員が賛意を示しています。

また高齢者虐待防止、身体拘束ゼロに向けた対応には異論・反論は出ていません。



このほか、通所系サービスにおける「送迎」について、次のような対応も図られます。いわゆる「運転手不足」が深刻化する中で、複数事業所が共同して送迎を行うケースが増えてきている点などを踏まえたもので、委員からは「責任分解などの具体的事例・モデルなどを示してほしい」といった声も出ています。

▽利用者の送迎は「自宅-事業所」を原則とするが、▼運営上支障がない▼利用者の居住実態がある(例えば、近隣親戚の家など)—場合に限り「当該場所(近隣の親戚宅など)への送迎を可能とする。ただし事業所のサービス提供範囲内とする」ことを明確化する

▽2021年度介護報酬改定に関するQ&Aで示された「他事業所の従業員が自事業所と雇用契約を結び、自事業所の従業員として送迎を行う場合」「委託契約において送迎業務を委託している場合(共同での委託を含む)」にについて、「責任の所在等を明確にした上で、他事業所の利用者との同乗を可能とする」ことを明確化する

▽障害福祉サービス事業所が介護事業所と雇用契約・委託契約(共同での委託を含む)を結んだ場合には「責任の所在等を明確にした上で、障害福祉サービス事業所の利用者も同乗する」ことを可能する(障害福祉サービス事業所は、同一敷地内事業所や併設・隣接事業所など、利用者の利便性を損なわない範囲内の事業所とする)



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