2024年度介護報酬改定に向け一足先に「人員配置基準」改正了承、介護施設等と医療機関の「中身ある連携」義務—社保審・介護給付費分科会
2024.1.15.(月)
少子高齢化の進展により介護人材確保が難しくなる点を踏まえて、「介護サービスの安全性や質の確保」を前提として、介護施設・事業所の人員配置基準等をさらに柔軟化する。例えば、介護サービス事業所・施設の管理者について「兼務」の幅を大幅に拡大する—。
また、より働きやすい職場環境の整備に向けて、介護保険施設や居住系サービスにおいて、3年間の経過措置を置いたうえで「利用者の安全、介護サービスの質確保、職員の負担軽減」方策を検討する委員会設置を義務づける—。
さらに、医療・介護連携を推進するため、介護保険施設や居住系サービスにおいて医療機関との実質的な中身のある連携関係構築や新興感染対策をとることを求める—。
1月15日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった内容が了承されました。厚生労働省は1月下旬にも改正「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令」を公布する考えです。
また、介護給付費分科会では、近く「単位数見直しや新加算創設」などに関する審議も行い、2024年度介護報酬改定の全体像がそこで固められます。
先進的な取り組み行う特定施設で人員基準柔軟化、介護事業所管理者の兼務を大幅拡大
20241年度の介護報酬改定に向けた議論が介護給付費分科会で精力的に進められています。
介護報酬改定は、昨年(2023年)12月18日に審議報告をまとめており、その後、(1)人員基準等の厚生労働省令改正見直し(いわば改定第1弾)(2)単位数などの告示改正見直し(いわば改定第2弾)—の2つ分けて諮問・答申が行われます(改定内容の実施・施行は両者一体に行われる)。
1月15日の介護給付費分科会では、まず前者(第1弾)の「人員基準等」改正(「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の改正」)について武見敬三厚生労働大臣が諮問。介護給付費分科会で諮問内容について審議を行い、後述するように了承されました。
改正内容は、すでに議論されてきたものですが(関連記事はこちら)、パブリックコメントを踏まえたごく一部の修正がなされています。大枠を振り返ると次のように整理できます。
【全サービス共通】(関連記事はこちら)
▽重要事項の「書面掲示」について、1年間の経過措置を置いたうえで「ウェブサイト掲載」を義務付ける
▽管理者の兼務範囲拡大
▽身体拘束最小化(短期入所系・多機能系サービスで1年間の経過措置を置いたうえで「身体的拘束等適正化措置」を義務付け、訪問系・通所系サービス、福祉用具貸与・販売、居宅介護支援で「緊急やむを得ない場合を除く身体的拘束等禁止」を求める
【短期入所系・多機能系・居住系・施設系サービス共通】
▽3年間の経過措置を置いたうえでの「利用者の安全、介護サービスの質確保、職員の負担軽減」方策を検討する委員会設置義務(関連記事はこちら)
【訪問系サービス】
▽訪問リハビリ:医療機関からのリハビリ実施計画書などにより利用者のリハビリ情報を把握することを義務化、老健施設・介護医療院での見直し指定導入(関連記事はこちら)
→パブリックコメットで「リハビリ実施計画書以外でも、医療リハビリ・介護リハビリの連携・連続性確保の目的を果たせるものであれば良いのではないか」との指摘を受け、リハビリ実施計画書「などによる情報把握」を義務化する修正が行われている
▽居宅療養管理指導」高齢者虐待防止義務緩和措置の3年間延長、BCP策定義務猶予の3年間延長(関連記事はこちら)
【通所系サービス】
▽通所リハビリ:医療機関からのリハビリ実施計画書などにより利用者のリハビリ情報を把握することを義務化、みなし指定を受けた通所リハビリの人員配置基準緩和(関連記事はこちら)
→パブリックコメットで「リハビリ実施計画書以外でも、医療リハビリ・介護リハビリの連携・連続性確保の目的を果たせるものであれば良いのではないか」との指摘を受け、リハビリ実施計画書「などによる情報把握」を義務化する修正が行われている
【短期入所系サービス】
▽共通:ユニットケアの質の向上のための体制確保(関連記事はこちら)
【多機能系サービス】
▽(看護)小規模多機能型居宅介護:管理者の兼務規定緩和(関連記事はこちら)
▽看護小規模多機能型居宅介護:サービス内容の明確化(関連記事はこちら)
【福祉用具貸与・特定福祉用具販売】(関連記事はこちら)
▽共通:選択制の対象福祉用具提供に係る利用者等への説明・提案義務
▽福祉用具貸与:貸与後のモニタリングの実施時期等の明確化、モニタリング結果の記録・担当ケアマネジャーへの交付、選択制対象福祉用具を貸与した後の貸与継続の必要性検討
▽特定福祉用具販売:選択制の対象福祉用具に係る計画達成状況の確認、販売後のメンテナンス
【居宅介護支援・介護予防支援】(ケアマネジメント、関連記事はこちら)
▽公正中立性の確保のための取り組みの見直し(過去のケアプランにおける訪問介護、通所介護、福祉用具貸与、地域密着型通所介護の各サービスの利用割合など提示)
▽指定居宅サービス事業者等との連携によるオンラインモニタリング解禁
▽ケアマネジャー1人当たりの取り扱い件数の見直し
▽介護予防支援の円滑実施
【居住系サービス】
▽共通:協力医療機関設定の努力義務化(関連記事はこちら)、医療機関と連携した新興感染対策(関連記事はこちら)
▽特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護:生産性向上に先進的に取り組む場合の試行結果に基づく人員配置基準の特例的柔軟化(通常3対1のところ、3対0.9に緩和する、関連記事はこちら)、3年間の経過措置を置いたうえでの口腔衛生管理義務化(関連記事はこちら)
【施設系サービス】
▽共通:ユニットケアの質の向上のための体制確保、「3年間」の経過措置を置いたうえでの実質的な協力医療機関との連携体制構築(関連記事はこちら)、医療機関と連携した新興感染対策(関連記事はこちら)
→経過措置期間を「3年間」と明確化した
▽介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):小規模介護老人福祉施設の配置基準緩和、入所者の緊急時対応方法の定期的な見直しの義務付け(関連記事はこちら)
すでに長期間にわたって議論された内容であり、また昨年末(2023年末)にはいったん了承がなされている事項でもあることから異論・反論は出ていません。もっとも自治体サイドから「管理者の兼務範囲を拡大したことで自治体による裁量が広がるが、大きなバラつきも出かねない。国が一定の基準を通知等で示すべき」との指摘が出たほか、「人員配置基準の緩和などについて現場には様々な懸念があると思う。それを払拭できるような通知やQ&A発出、さらに、問題が生じた場合には速やかな対応を行うように努めてほしい」(小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)、「新興感染症対策においては平時・有事のいずれにおいても看護職の役割が非常に重要である、その点を十分に踏まえた運用を行ってほしい」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)といった注文もついています。
このように介護給付費分科会では省令改正案を了承。その旨を田辺国昭分科会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)が、親会議である「社会保障審議会」に報告。社会保障審議会の遠藤久夫会長(学習院大学経済学部教授)が近く武見厚労相に対し「諮問内容を了承する」旨の答申を行うことになります。
厚労省は、答申を踏まえて、1月中にも改正省令を公布する見込みです。
また、近く第2弾である「単位数」(告示事項)に関する諮問・答申も行われ、両者(第1弾・第2弾)により2024年度介護報酬改定の全体像が固まります。その後、3月上旬に通知や事務連絡等で改定内容の詳細が示され、4月(居宅療養管理指導・訪問看護・訪問リハ・通所リハは6月)から新単位数・新基準が適用されることになります。
こうした単位数設定論議に向け田母神委員や濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は、武見厚労相・鈴木俊一財務大臣の折衝で「介護報酬改定率プラス1.59%のうち、プラス0.61%分で看護職員やケアマネジャーなどの処遇改善対応を行う」旨が決定されている点を踏まえた報酬対応(基本報酬引き上げなど)を行うよう改めて要請。また、今後の介護報酬改定を見据えて田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)は「医療・介護連携の重要性に鑑み、平時から中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会の意見交換会を継続実施すべき」と進言しています。
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