2027年度介護報酬改定に向け高齢者施設等・医療機関連携の強化、人員配置基準の柔軟化など継続検討を—社保審・介護給付費分科会(2)
2023.12.20.(水)
2027年度以降の介護報酬改定に向けて、例えば「訪問看護と他の介護保険サービス等との効果的・効率的な連携の在り方」や「高齢者施設等と医療機関の連携強化の更なる推進」、「介護医療院の長期療養・生活施設として更なる機能強化」、「認知症対応力の更なる向上」、「LIFEを活用した質の高い介護提供」、「人員配置基準の柔軟化」、「介護保険制度の安定性・持続性確保」などを検討していく必要がある—。
12月18日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会でまとめられた2024年度介護報酬改定の審議報告(改定内容の大枠)には、こうした「将来への宿題」事項も盛り込まれています(2024年度改定の方向、施行時期に関する記事はこちら)。
●審議報告案はこちら(田辺国昭分科会長:国立社会保障・人口問題研究所所長と、厚労省で最終調整・確定を行うため、文言は修正される可能性がある)
2024年度改定論議では議論を尽くせなかった事項など、2027年度改定への宿題に
介護報酬改定の議論は、▼介護給付費分科会でサービスごとの課題を確認し、見直し方向を探る→▼年末に具体的な見直し方向を固める(審議報告)→▼年明けから、審議報告の内容や内閣が設定した改定率をもとに、新加算などの単位数や要件設定などを行う—という大きな流れで進みます。
今般の審議報告では、2024年度の次期介護報酬改定において、例えば「介護保険施設などに、在宅医療等を行う医療機関との協力関係構築を義務づける」「見守り機器導入などの先駆的取り組みを行う特定施設について、人員配置の柔軟化を行う」「認知症の心理・行動症状(BPSD)発現を防止するような取り組みを行う事業所を、新加算で評価する」などの内容が明らかにされています(関連記事はこちら(とりまとめ)とこちら(制度の持続可能性など)とこちら(感染症・看取り対応力強化など)とこちら(認知症対応力強化、リハ・栄養・口腔の一体的実施など)とこちら(生産性向上など)とこちら(医療介護連携など))。
もっとも、改定論議の時間は限られていることから「議論が尽くせず、結論には至らなかった」項目なども出てきます。例えば2024年度改定論議では「新たな複合型サービス(訪問介護+通所介護など)」創設論議が行われ「保留」となりましたが、「時間切れ」に終わった側面もあります(関連記事はこちらとこちら)。
この場合、「次の改定に向けて議論を継続していく」ことが必要となります。審議報告には「今後の課題」として、こうした議論が尽くせなかった宿題事項も整理されています。
2027年度の介護報酬改定を見据えた宿題事項を眺めてみると、例えば次のような項目が目を引きます。
【地域包括ケアシステムの深化・推進】
▽居宅介護支援(ケアマネ事業所)におけるオンラインモニタリングの実態を把握し、必要な対応を引き続き検討していく(関連記事はこちら)
▽訪問看護と他の介護保険サービス等との効果的・効率的な連携の在り方を検討していく
▽高齢者施設等と医療機関の連携強化について、経過措置期限前にも「実効性のある連携体制」が構築されるよう実態や課題等を把握した上で、連携推進に向けた対応を検討していく。あわせて特定施設等での「医療機関との連携義務化」に向けた検討も進めていく(関連記事はこちら)
▽介護医療院の長期療養・生活施設としての更なる機能強化を検討していく
▽施設系サービス・居住系サービスについて、協定締結医療機関との新興感染症対応力強化に向けた連携方策を検討していく(関連記事はこちら)
▽小規模事業所を含む全ての介護サービス事業所においてBCP(業務継続計画)が早期に策定されるよう、必要な支援などに取り組む(関連記事はこちら)
▽認知症対応力向上に向け、例えば「「認知症の行動・心理症状(BPSD)予防に資するケアプログラム」(研修)の受講環境向上、「認知症介護に関する研修」(認知症介護指導者養成研修や認知症介護実践リーダー研修等)のスリム化・オンライン化、認知症リハビリの在り方検討などを進める(関連記事はこちら)
▽医療・介護連携や介護サービス間連携のさらなる推進に向けて、介護報酬による評価だけでなく、項目の整理や様式の標準化等の対応、電子的に情報を共有する基盤の整備・利活用を図っていく必要がある(関連記事はこちら)
▽複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ等)について実証事業や影響分析などを実施し、引き続き総合的に検討していく(関連記事はこちらとこちら)
【自立支援・重度化防止に向けた対応】
▽リハビリ・機能訓練、口腔管理、栄養管理の一体的取り組みをさらに推進していく(関連記事はこちら)
▽生活期リハビリのアウトカム評価法を引き続き検討した上で、LIFE活用も含め、報酬上の評価を検討していく
▽老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能の更なる促進策を検討していく(関連記事はこちら)
▽LIFEを活用した質の高い介護を目指し、入力項目やフィードバックの検討、適切なアウトカムの検討、ADL維持等加算の要件検討などを進めるべき(関連記事はこちら)
【良質なサービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり】
▽介護職員処遇改善加算等の一本化について、職場環境等要件の取得状況も含め、検証を着実に行う(関連記事はこちら)
▽介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進に向け、引き続き実証事業等を行い、効果等を検証していく
▽先進的な特定施設における人員配置基準の柔軟化について「現場職員の意見が反映されているか」を確認するとともに、他サービスについても類型ごとに必要な実証を行い、成果を確認できた場合は、次期介護報酬改定を待たずに必要な対応を行う(関連記事はこちらとこちら))
▽ケアマネジャー1人当たりの取り扱い件数見直しの影響を把握し、必要な対応を検討していく(関連記事はこちら)
▽訪問介護員等の人材不足は喫緊の課題であり、対応策を総合的に検討していく
▽ケアマネジャーの業務負担軽減や人材確保定着策を検討していく
【制度の安定性・持続可能性の確保】
▽介護事業所の安定経営の視点も踏まえつつ、介護サービスの適正化や重点化、財源が限られる中で保険料等の負担も念頭に置いた介護報酬の見直しを引き続き検討していく
▽報酬体系の簡素化、制度の安定性を踏まえた報酬の在り方を引き続き検討していく
▽同一建物等居住者への訪問介護等のサービス提供の在り方について、改定影響を把握し、「訪問介護の人材確保とサービスの充実」が行われるような対応を検討していく
▽国による「事故情報」の一元的な収集・分析・活用を進めていく(電子報告様式の統一化や報告を求める事項の見直し、事故報告対象範囲の見直し、事故情報の収集・分析・活用に関する国・都道府県・市町村の役割分担等の在り方、事故情報に関するデータベースの設計など)
▽引き続き、物価高騰が居住費・食費に及ぼす影響を適切に把握し、必要な対応を行う
例えば今回の2024年度介護報酬改定の影響・効果を調査し、それをもとに議論していくべき事項もあれば、別に研究事業を行い、その結果をベースに検討を進めるべき事項もあります。
こうした宿題事項の重要性はすべての委員が確認しています。さらに今後の検討に向けて、「現役世代の負担は限界に達しており、今後は、これまでと同じような介護サービスの拡充は不可能で、見直しを行わなければ制度が破綻してしまう(例えば40-64歳の2号保険料は2000年度の介護保険スタート時点から3倍になっている)。限られた財源の中で給付の重点化などを行うべき」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事、酒向里枝委員:日本経済団体連合会経済政策本部長、鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事ら)、「介護保険制度は『サービス量に応じて保険料が決まる』もので、予防・重度化防止に力を入れて保険料を抑える取り組みをしている自治体もある。そうした点を自治体や国民が十分に理解する必要があり、そのためには制度の簡素化が重要である」(松田晋哉委員:産業医科大学教授)、「都市と地方では状況が全く異なることを踏まえた制度改革が必要である」(大石賢吾委員:全国知事会・長崎県知事、奥塚正典委員:大分県国民健康保険団体連合会副理事長、大分県中津市長、稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「誤嚥・転倒・転落等の事故は、どれだけ注意しても発生してしまう。施設側がそのすべてに責任を負わなくても良いように、国民の理解が必要である」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)、「複数の分野にまたがる課題もあり、そうした事項が抜け落ちないように留意すべき」(堀田聰子委員:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)などの意見が出されています。
また、宿題事項の中に、例えば「人員配置基準の緩和に向けて、実証事業を行い、成果が確認された場合には期中に(2027年度介護報酬改定を待たずに)に緩和を検討すべき」旨が含まれています。介護人材不足が極めて深刻化しており、今後もさらに厳しさを増す点を踏まえた指摘事項・宿題事項ですが、田母神裕美委員(日本看護協会常任理事)や古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)は「慎重な議論」を求めています。今後の最重要論点の1つとなります(関連記事はこちら)。
いずれも重要な視点であり、2027年度介護報酬改定論議に引き継がれます。
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