2026年度からの専門医資格取得を目指す研修、「外科医を目指す医師」が大幅増の可能性大—日本専門医機構・渡辺理事長
2025.12.23.(火)
2026年度から専門医資格取得を目指す研修(専門研修)を開始する医師の登録(応募)状況(1次募集)を見ると、外科医を目指す医師が大幅に増加していることが分かった。各研修施設や学会の努力が功を奏している可能性がある。今後、専攻医の「診療科を選択するにあたっての意識」などを調査していきたい―。
また、全専攻医を対象に「学会発表や論文作成にどの程度の時間を費やしているのか」を調査する。この結果をもとに「専門研修期間中に、診療以外に論文作成等にどの程度の時間、業務(労働)を行うべきか」の標準時間を新たに示していく―。
日本専門医機構の渡辺毅理事長(地域医療振興協会東京北医療センター顧問、福島県立医科大学名誉教授)が12月22日の定例記者会見において、こうした点を明らかにしました。
2026年度からの専門研修、「外科専門医を目指す医師」が大幅増か
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしました。従前の専門医制度に対する「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの批判を踏まえ、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、認定を行う仕組み」「医師の地域偏在を助長しない(東京など大都市部での専門研修を希望する医師が多いため)よう、エビデンスに基づいた地域・診療科ごとのシーリング(専攻医採用数の上限)を設ける仕組み」へと改められています。
今般、来年度(2026年度)から専門研修を開始する専攻医の登録状況が渡辺理事長から発表されました。今後、必要な手続きを経て「採用→2026年4月からの専門研修開始」へと進みます。なお12月から2次募集も行われており、「総登録数」や「採用数」などは下記の数字から大きく動くことに留意が必要(あくまで「傾向」を見るにとどめる必要)があります。
▼登録数全体:9182名(2024年の1次募集登録数(8994名)に比べて188名・2.1%増加)
▽内科:2197名(1次募集全体の31.77%)(2024年の1次募集登録に比べて77名・2.7%増、シェアは0.19ポイント増)
▽小児科:528名(同5.75%)(同4名・0.8%増、シェアは0.08ポイント減)
▽皮膚科:233名(同2.54%)(同52名・35.1%減、シェアは0.63ポイント減)
▽精神科:507名(同5.52%)(同12名・2.4%増、シェアは0.02ポイント増)
▽外科:920名(同10.02%)(同133名・16.9%増、シェアは1.27ポイント増)
▽整形外科:713名(同7.77%)(同20名・2.9%増、シェアは0.06ポイント増)
▽産婦人科:451名(同4.91%)(同12名・2.7%増、シェアは0.03ポイント増)
▽眼科:320名(同3.49%)(同3名・0.9%減、シェアは0.10ポイント減)
▽耳鼻咽喉科:246名(同2.68%)(同14名・5.4%減、シェアは0.21ポイント減)
▽泌尿器科:319名(同3.47%)(同17名・5.6%増、シェアは0.11ポイント増)
▽脳神経外科:251名(同2.73%)(同31名・14.1%増、シェアは0.28ポイント増)
▽放射線科:263名(同2.86%)(同39名・12.9%減、シェアは0.50ポイント減)
▽麻酔科:450名(同4.90%)(同4名・0.9%減、シェアは0.15ポイント減)
▽病理:75名(同0.82%)(同20名・21.1%減、シェアは0.24ポイント減)
▽臨床検査:11名(同0.12%)(同8名・42.1%減、シェアは0.09ポイント減)
▽救急科:452名(同4.91%)(同55名・22.2%増、シェアは0.50ポイント増)
▽形成外科:196名(同2.13%)(同16名・7.5%減、シェアは0.23ポイント減)
▽リハビリテーション科:102名(同1.11%)(同14名・12.1%減、シェアは0.18ポイント減)
▽総合診療:228名(同2.48%)(同3名・1.3%減、シェアは0.09ポイント減)
1次募集の登録数全体が188名増加している点について渡辺理事長は「ダブルボード」(1つの基本領域の専門医資格を取得したのち、別の基本領域の専門医資格を得るために専門研修をスタートさせる)の影響があると見ています。
また、外科の登録数が大きく増加している点については、「一部の大学病院等では外科医の給与増を実施しているなど、基幹施設(専門研修を実施する施設)の努力があると思う。また外科系学会が外科医の魅力アピールを強化している点も関係していると思う。増加が一時的なものか、継続するのか、今後の状況を注視している。また、厚生労働省や学会などから『専門医資格取得者の意識調査』依頼も来ている。2023年には厚生労働科学研究費を取得して調査を実施した。来年(2026年)に、前回調査から3年が経過した中で意識がどう変わっているのか調査を実施したい」とコメントしています。
2023年の調査では、外科について▼やりがいを感じる▼手技が多い▼生命に直結する—という魅力がある一方で、▼ワークライフバランスの確保が難しい▼将来的に専門性を維持しづらい▼医師が不足しており過酷なイメージがある▼出産、育児、子供の教育に協力的でない—などの理由で「外科を専攻しない」という面があることが明らかになっています。

基本領域を選択した理由(日本専門医機構調査)(医師偏在対策検討会5 240920)

希望していた基本領域を選択しなかった理由(日本専門医機構調査)(医師偏在対策検討会6 240920)
全専攻医を対象に「学会発表や論文作成にどの程度の時間を費やしているのか」を調査
ところで、昨年(2024年)4月から勤務医の新たな労働時間規制(いわゆる【医師の働き方改革】)がスタートしています。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されています。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)
ここで重要となる点の1つとして「労働」と「自己研鑽」との切り分けがあり、厚労省は「切り分けの基本的な考え方として▼業務上必須であるか▼明示または黙示の指示によって実施するか—の2点が重要であるが、個々の医療機関、個々の医師、個々の業務について個別具体的に判断する必要がある」との考えを示しています(関連記事はこちら)。
この点について専門医機構では、「診療以外に関する専門研修プログラムの習得標準時間のパッケージ化」を目指しています。専門医となるためには「診療」技術の習得はもちろんですが、それ以外にも▼学会への参加▼学会での発表▼論文の執筆・発表▼症例登録、レポート作成▼自己学習—などを研修期間中に実施することが必要となります(もちろん専門医資格取得後も必要)。
専門医機構では、「学会発表や和文論文の作成にどの程度の時間を費やす必要があったのか」を2024年度に「基本領域の専門医資格取得者」の一部を対象として調査。その結果、「学会発表に関しては10-30時間、和文論文の作成に関しては20-50時間を費やしていることが分かり、これが「診療以外に関する専門研修プログラムの習得標準時間」とされています。
現在、この標準時間が「専攻医の労働時間の中に含まれている」と考えられます。専門研修は、学会・専門医機構が作成した専門研修プログラムに則って行われており、指導医等は明示または黙示に「学会発表、論文作成」などを指示していると考えられるためです。
ただし、この標準時間は、上記のように「一部の医師を対象に行われた調査」であるため、渡辺毅理事長は「すべての専攻医を対象とした調査」を新たに行う考えを示しています。
調査結果は専攻医を対象に行われるものですが、より多くの医師について「学会や論文のためにどの程度の業務を行っているのか」を一定程度示すものにもなると考えられ、結果に注目が集まります。
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