新専門医制度で医師偏在が助長されている可能性、3県では外科専攻医が1名のみ—全自病
2018.1.15.(月)
新専門医制度の2018年度からの全面スタートに向け、専攻医登録が進められているが、地域間・診療科間の偏在が助長されているように見える。10数年後には大学病院でも外科手術ができくなるといった事態が起こるかもしれない―。
全国自治体病院協議会の邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)は、1月11日に開催した新年初の記者会見でこのように述べました。
群馬、山梨、高知では、外科専攻医が大学病院を含めて1名(1次登録結果)
2018年度から全面スタートする新専門医制度は、これまで各学会が独自に行っていた専門医の養成・認定を、学会と日本専門医機構が共同して行うことで「質を担保するとともに、国民に分かりやすい」専門医養成を目指しています。ただし、「質の担保を追求するあまり専門医を養成する基幹施設などのハードルが高くなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されるのではないか」といった指摘などがあります。
このため日本専門医機構や都道府県、厚生労働省らが重層的に「医師偏在を助長させない仕組み」を設けており、その1つとして「各基本領域学会の5都府県(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)のそれぞれにおける専攻医の登録総数は、▽外科▽産婦人科▽病理▽臨床検査—の4領域を除いて、過去5年の後期研修医の採用実績数などの平均値を超えない」という上限値が設けられました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
2018年度の専攻医募集が始まっており、12月15日には日本専門医機構から第1次登録の採用数が公表されました(日本専門医機構のサイトはこちら)。その中で、邉見会長は外科領域に着目。オールジャパンでは767名の専攻医がいますが、▼群馬県▼山梨県▼高知県—で、大学病院を含めて、専攻医1が1名にとどまっています。この点いついて邉見会長は、「今の専攻医が働き盛りになる10数年後には、大学病院でも外科手術ができないという都道府県が現れるかもしれない」と危惧し、地域偏在・診療科偏在が助長されているのではないかと訴えています。
厚生労働省は「地域医療への影響が懸念される場合には、厚労省から日本専門医機構と関係学会に対し実効性ある対応を要請する」こととしています。今後、2018年度からの専攻医登録確定を待ち、「地域医療への影響が懸念されるのか」も含めた検討が行われることになりそうです。
公的・公立の精神科病院で構成する「日本公的病院精神科協会」を設立
なお、中島豊爾副会長氏(岡山県精神科医療センター理事長)からは、精神科病棟を持つ公立・公的病院で構成される「一般社団法人日本公的病院精神科協会」(公精協)を設立することも発表されました(1月26日に設立総会を開催)。当面、▼自治体病院▼国立病院機構▼日赤▼済生会▼厚生連—の5団体の病院(当初は128病院が参加)でスタートし、将来的に「精神科外来を持つ病院」「大学病院」にも参画を呼びかけます。
中島副会長は「我が国の精神科医療は諸外国に比べて20年ほど遅れていると指摘される。精神科医療の質の向上・改善に向けて政策や診療報酬に関する要望をしていきたい」と抱負を語っています。厚労省への政策等要望ルートとして四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)があります。しかし、中島副会長は「公的・公立病院は、日本精神科病院協会には事実上加盟できない」とし、新たな要望ルート確立のために新団体を設立したと説明しています。
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