新専門医制度、整備指針を再度見直し「専門医取得は義務でない」ことなど明記へ―厚労省検討会
2017.4.25.(火)
専門医取得は医師の義務ではない。また地域医療に従事する医師が専門医資格を取得しやすくなるようカリキュラム制を設置する。さらに、研修の中心は大学病院のみでなく、症例の豊富な地域の中核病院なども含まれる—。
こういった点について、新専門医制度の憲法とも言える「新整備指針」を見直し、明確にする方針が、24日に開催された「今後の医師養成の在り方と地域医療の確保に関する検討会」で固まりました。日本専門医機構の理事長である吉村博邦構成員(地域医療振興協会顧問、北里大学名誉教授)も、2018年度からの新専門医制度全面スタートに向けて、5月12日開催予定の機構理事会に新整備指針の修正案を提示したいとの考えを示しています(関連記事はこちら)。
目次
新専門医制度、自治体などから「地域医療への配慮が不十分」との指摘
新専門医制度は、当初、今年(2017年)4月から全面スタートの予定でしたが、「地域・診療科における医師偏在が助長する」との指摘を受け、全面スタートを1年延期(18年4月から)。その間に、さまざまな課題を解決することになっています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
日本専門医機構は役員構成を刷新し、昨年(2016年)12月には新専門医制度の憲法に当たる「新整備指針」を決定しました。新整備指針では、「新たな専門医の仕組みは、機構と各基領域学会が連携して構築する」ことを明確にしたほか、地域医療への配慮として、▼「大学病院以外の医療施設も、研修施設群の基幹施設となれる」基準を設ける▼機構は、基本領域学会と協働して、医師の都市部への偏在助長を回避することに努める▼専攻医の集中する都市部の都府県に基幹施設がある研修プログラムの定員等については、都市部への集中を防ぐため、運用細則で別途定める▼常勤の専門研修指導医を置くことが困難な場合、研修連携施設に準ずる施設を基幹施設の承認のもと研修プログラムに組み入れることを認める▼機構は、各領域の研修プログラムを承認するに際して、行政、医師会、大学、病院団体からなる各都道府県協議会と事前に協議し決定する—といった点を規定しました(関連記事はこちらとこちら)。
さらに、各基本領域学会が養成プログラムを策定する際の拠り所となる「運用細則」の暫定版を固めるなど、2018年度スタートに向けた準備を進めてきました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
しかし12日には全国市長会が、(1)中小病院が危機に陥りかねない(2)医師偏在が助長されかねない(3)医師が診療活動を開始できる時期が遅れる(4)若手医師に医局生活を強いることになる—といった問題点があると塩崎恭久厚生労働大臣に緊急要望。塩崎厚労相も、こうした懸念を払拭した上で新制度を2018年度からスタートする必要があると判断し、本決定会の設置を決定しました。
「専門医取得は義務ではないが、取得が望ましい」と日本専門医機構
検討会では、▼地域医療に求められる専門医制度の在り方▼卒然・卒後の一貫した医師養成の在り方▼医師養成の制度における地域医療への配慮—の3点を議題としますが、24日の会合では「2018年度に全面スタートする専門医制度と、地域医療の確保とのバランス確保」という目の前のテーマに焦点を合わせた議論が行われました。
住民に最も身近な自治体である市町村の立場で出席した立谷秀清構成員(相馬市長、全国市長会副会長)は、改めて全国市長会の緊急要望の趣旨を訴えるとともに、▼地域医療に責任を負う自治体関係者を交えずに制度を組み立てるのは好ましくない▼南相馬市では東京から赴任した若手医師が地域医療を支えているが、こういう気概を持った若手医師が専門医資格を取得しやすくなる仕組みとすべき—といった点を強調しました。
「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の座長も務めた渋谷健司構成員(東京大学大学院国際保健政策学教授)は、「論文執筆などを専門医研修の内容に含めているが、これでは『医学博士』のように内容のない仕組みとなってしまう。国際標準に合致した専門医養成が求められる」と指摘。また「基本領域学会が新専門医制度の理念や整備指針に反した場合の対策を検討しておく必要がある」と提案しています。
一方、尾身茂構成員(地域医療機能推進機構理事長)は、「自治体や住民、若手医師も巻き込んで制度を構築していくことは、新専門医制度のベースとなるプロフェッショナルオートノミーに反しないと思う」と述べ、より広範な視点で検討することを提案しました。
こうした指摘を受け、吉村構成員は(a)専門医取得が医師の義務ではない(b)地域医療に従事する医師が専門医を取得しやすくなるようカリキュラム制を設置する(c)研修の中心は大学病院のみでなく、症例の豊富な地域の中核病院なども含まれる—点を明確にする考えを表明しました。この点、例えば(2)のカリキュラム制の設置は、運用細則には記載されていますが、吉村構成員は「新整備指針を改めて見直し、こうした点を明確にする」とメディ・ウォッチにコメントしています。後述する構成員の指摘も踏まえて、早急な新整備指針などの見直しが行われる見込みです。
もっとも、専門医取得は医師の義務ではありませんが、吉村構成員は「例えば眼科医であれば、眼科の標準的な治療をすべて習得することが望ましい。十分な知識・技術を持たない医師がレーシック手術をして有害事象が生じているケースもあると聞く」と述べ、「専門医取得が望ましい」という点を強調しています。
なお、ここでプログラム制とは「定められた年限と研修施設で、必要な症例数などを経験し、専門医資格を取得する仕組み」と意味し、カリキュラム制とは「年限や研修施設を定めず、必要な症例数などを経験し、専門医を取得する」仕組みです。カリキュラム制であれば「地域医療に従事しながら、自身の状況にあわせて、5年、10年と時間をかけて専門医資格を取得する」ことが可能ですが、日本専門医機構では「若いうちに集中的に標準的な知識・技術を学ぶことが重要」との考えの下、プログラム制を基本に据えています。今後の新整備指針見直しで、プログラム制とカリキュラム制とをどう組み合わせていくのか、注目が集まります。
新専門医制度の法制化などを求める意見も
このほか、地域の医療提供体制構築の責任者である都道府県の立場から、荒井正吾構成員(奈良県知事、24日は同県医療政策部長の林修一郎参考人が代理出席)は「研修プログラム認定に当たっては都道府県と協議することになるが、認定後には大学病院などの基幹施設に医師配置が委ねられる。その場合、地域医療とは別の視点で医師を配置する可能性もある。国と地方自治体がしっかりと関与し、医師偏在の懸念を払拭する必要がある」とコメント。
山内英子構成員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)は、「当面は、機構と学会とが連携・協働して新専門医制度を構築し、運用することになるが。学会は学会員のために動く。機構は患者のために動くべきであり、将来的には切り分けを検討すべきではないか」との見解を示しています。
また立谷構成員は、「プログラム制では、大学病院などの基幹施設での研修が一定期間義務付け、ストレートに進んでも医療現場に出る年齢が遅くなる。その間、社会人としての活動、医師としての活動を相当制限される。そうでれば、地域の代表者も含めて国家的な議論が必要である」とも述べ、新専門医制度の法制化も視野に入れるべきと提言しています。
このように、新専門医制度にはさまざまな指摘がなされていますが、桐野高明副座長(東京大学名誉教授)は、「新専門医制度には50年の歴史がある。これを踏まえて、吉村理事長の下で日本専門医機構が『質の高い専門医の養成』と『地域医療の確保』という難しい課題の両立に向け、1つ1つ改善をしている最中である」と述べ、機構の努力に対する理解も求めています。
新専門医制度の当面の課題を解決後に、中長期的テーマを議論
今後、検討会では構成員の意見を踏まえて、日本専門医機構がどのような対応をとる方針か報告を受けることになります。
その上で2018年度スタートに目途が立った暁には、医学部教育から初期臨床研修、後期臨床研修(新専門医制度)、さらに生涯教育の一貫性確保や、地域医療への配慮、さらに立谷構成員が提案する「新専門医制度の法制化」など、長期的な課題について改めて議論してくことになります。新井一構成員(全国医学部長病院長会議会長)や今村聡構成員(日本医師会副会長)、尾身構成員は、「専門医制度に注目しがちだが、医師養成システム全体を見て議論していかなければらなない」と述べ、長期的テーマの重要性を強調しています。
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