専門医機構、地域医療への配慮について「必ず」都道府県協議会の求めに応じよ—厚労省検討会
2017.6.13.(火)
新たな専門医制度によって地域・診療科の医師偏在が助長されないよう、専門医機構は、研修施設群の状況などを「必ず」都道府県協議会に情報提供し、かつ都道府県協議会で「是正の必要がある」などとの求めがあった場合には「必ず」協力するべきである—。
12日に開催された「今後の医師養成の在り方と地域医療の確保に関する検討会」(以下、検討会)では、荒井正吾構成員(奈良県知事)からこうした強い要請が出され、日本専門医機構の理事長である吉村博邦構成員(地域医療振興協会顧問、北里大学名誉教授)は関連規定の修正を約束しています。
厚生労働省医政局医事課の武井貞治課長は、「検討会では、機構や学会が地域医療へどう配慮しているかをフォローしていくことになる。今般指摘された規定修正の状況や、都道府県協議会の状況などを見ながら、次回の検討会開催を考えたい」とメディ・ウォッチにコメントしています。
都道府県側は「都道府県協議会の関与」を明確にするよう機構に強く要望
専門医資格(学会)が乱立し、国民にとって分かりにくい制度になっているとの指摘を受け、「専門医の質を担保し、国民に分かりやすい」新たな専門医制度が来年度(2018年度)から全面スタートする予定です。専門医の認定や研修プログラムの認証を、日本専門医機構と各学会が共同して行うことが、新制度の大きな柱となっています。
日本専門医機構では、新専門医制度の憲法とも呼ばれる「整備指針」を昨年(2016年)12月に策定するなどの準備を進めてきました(関連記事はこちらとこちら)。しかし、全国市長会などから「地域医療への、さらなる配慮が必要」との強い要請を受け、塩崎恭久厚生労働大臣は本検討会を設置して「地域医療への十分な配慮がなされているか」のフォローアップを行うことにしたのです。これまでの検討会では、多くの構成員から「プログラム制(年限と研修施設を決め、その中で研修を行う仕組み)では、女性医師などが専門医資格を取得しにくくなる」などの指摘が相次ぎ(関連記事はこちらとこちら)、日本専門医機構では6月2日の理事会で、次のように新整備指針の見直すことを決定。12日に検討会で、その旨が吉村構成員から報告されました(修正内容はこれまでにもメディ・ウォッチでお伝えしているとおりです)(関連記事はこちら)。
▼「専門医はすべての医師が取得しなければならないものでなく、医師として自律的な取り組みとして位置づけられるものである。国民に信頼される安全・安心な医療提供のための専門研修は適正に施行されるべき」旨を明記
▼「基本領域の専門医研修はプログラム制が原則だが、▽専門医取得を希望する義務年限を有する医大卒業生▽地域医療従事者▽出産・育児などで休職・離職を選択した女性医師など▽介護・留学など合理的理由のある医師—などでは、カリキュラム制などの柔軟な対応を行う」旨を明記
▼「全般的、幅広い疾患の症例の豊富な支柱病院を重要な研修拠点とし、大学病院に研修先が偏らないようにする。連携病院で採用した専攻医が希望した場合、長期間連携病院での研修を設定するなど柔軟なプログラムを作成する」旨を明記
▼「機構の研修プログラム承認に際し、▽都道府県▽市町村▽医師会▽大学▽病院団体—などからなる都道府県協議会と事前に協議し決定する。承認後も、連携施設などの医師配置状況を含めて協議会に情報提供する。協議会の意見を受け、機構は協議会・関係学会と協議・調整し改善する」旨を明記
吉村構成員は、併せて下部規定となる「運用細則」について、次のように見直すことも報告しました。これも「カリキュラム制(年限や研修施設を定めず、必要な症例数などが蓄積された段階で専門医試験の受験資格を得られる仕組み)などの柔軟な対応を設けても、それに則って研修を受けられる仕組みが担保されなければ意味がない」旨の検討会構成員からの指摘を受けたものです。
(1)カリキュラム制などの柔軟な対応を担保するために、▼基幹施設などは専攻医からの相談窓口を設け、有効な研修を行えるよう配慮する▼専攻医は、相談窓口への相談後も有効な研修が行えないと判断した場合には、機構に相談できる—こととする
(2)都道府県協議会によるチェックを担保するために、▼協議会は、機構に連絡し、研修施設群に対しローテ―ト内容などの情報提供を求めることができる▼研修施設群は機構の了解の上、協議会に情報を提供できる▼地域医療への配慮や専門研修レベル改善のための必要性に応じて、機構は基本領域圧潰、研修施設群と共同して、協議会の求めに協力することはできる—こととする
しかし、運用細則見直しの(2)「協議会によるチェック」について、都道府県代表の荒井構成員は、「地域の医師偏在などが助長されていないか、都道府県協議会が事後チェックすることが重要である」とし、例えば「機構の『了解の上で』研修施設群が情報提供できる」「機構が協議会の求めに協力することが『できる』」といった表現ぶりについて、「協力しないという判断もできるように読める」ことは遺憾であると指摘。協議会の求めがあれば「必ず」対応するような表現に修正するよう極めて強い調子で要請しました。吉村構成員や、機構の理事でもある今村聡構成員(日本医師会副会長)は、この要請を受け運用細則を再度見直すことを約束しています。
また厚生労働省医政局医事課の担当者も、「厚労省も研修施設群に対し、必要な情報提供や改善をしてもらうよう協力する」考えを明確にしています。厚労省は、近く「協議会をどのように運営するのか、何をチェックすればよいのか」などを整理した通知を発出するとともに、新専門医制度に関する説明会(都道府県担当者向け)を開催し、都道府県協議会によるチェックが有効に機能するよう努める考えです。
救急や産科婦人科など7学会からヒアリング、地域医療への配慮がうかがえる
12日の検討会では、▼日本救急医学会▼日本外科学会▼日本産科婦人科学会▼日本小児科学会▼日本整形外科学会▼日本精神神経学会▼日本麻酔科学会—の7学会から、各学会の研修プログラムにおいて地域医療にどのような配慮を行っているのかを聴取しました(前回会合では日本内科学会から意見聴取を行った、関連記事はこちら)。
例えば産科婦人科学会では、▼基幹施設での研修は最長でも2年間(24か月)以内とし、基幹病院による「専攻医の抱え込み」が生じないようにする▼基幹施設の認定基準を必要に応じて緩和し、都道府県に複数の基幹施設を置くことを原則とする▼基幹施設でなく、かつ大都市以外に設置された連携施設において「1か月以上」の研修を必須とする—などの配慮を実施。もともと「統一プロトコル」で専門医研修を行うこととしている山梨県を除く、46都道府県で複数の基幹施設を設置する見通しが立っています(青森県や岩手県など24県で単一の基幹施設しかなかったが、学会が調整)。
また整形外科学会でも、▼プログラム制とカリキュラム制とを併用する▼都市部(東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県)の専攻医定員を過去5年の平均以下とする一方で、地域部の定員には上限を設けないことで、専攻医の都市集中を防ぐ▼大学病院しか基幹病院となっていない県について、市中病院の基幹病院を設置できるよう、施設基準の柔軟な運用を行う—などを実施。28県で「基幹病院が県内に1つ」という状況でしたが、学会の尽力によって佐賀県・岩手県以外は「県内に複数の基幹病院を設置」する見通しが立っていることが報告されました。
こうした取り組みに対し、「整形外科領域では指導医5名以上という厳しい要件があるが、1県1基幹病院となっている地域には学会から指導医を派遣するなどの対応を考慮してはどうか」(邉見公雄構成員・全国自治体病院協議会会長)などの注文こそついたものの、多くの構成員からは「地域医療への配慮がなされている」と称賛の声があがりました。
また小児科学会では、各都道府県において「募集定員と採用数(実際に採用できた数)との間にギャップがある」といったデータを示し、定員数と採用数とは分けて議論する必要があるとの見解も示しました。現在、都市部への集中を避けるために、領域によっては「定員に上限を設ける」ことになっていますが、より精緻に見ていく必要があるとの見解です。
しかし渋谷健司構成員(東京大学大学院国際保健政策学教授)は「大学が地域ニーズを把握せずに定員を設定しないために需給にミスマッチが起きている」と指摘。尾身茂構成員(地域医療機能推進機構理事長)も、「地域にどの程度の医師が必要になるのか、▼人口動態▼疾病構造の変化▼医療提供体制の変化や交通事情—などを踏まえた根本的な議論をする必要があるのではないか。すぐにはできないと思うが、これまでは単に『足りない』という議論しかしてこなかった」との見解を示しています。
【更新履歴】記事中、奈良県の荒井知事のお名前が「新井」となっている個所がございました。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済です。
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