新専門医制度内での医師偏在是正のためには、医師少数区域での勤務促す特別連携プログラム拡充が重要―専門医機構・渡辺理事長
2024.8.15.(木)
新専門医制度内での医師偏在是正のためには、医師少数区域での勤務を促す特別連携プログラムが重要であるが、応募者は少ない―。
特別連携プログラム応募者を増やすために、「専攻医は基幹的病院で研修を受け、当該病院から別の医師を医師少数区域に派遣する」という、いわゆる玉突きが重要ではないか—。
日本専門医機構の渡辺毅理事長(地域医療振興協会東京北医療センター顧問、福島県立医科大学名誉教授)が8月13日に定例記者会見を行い、こうした考えを改めて述べました。
今秋(2024年秋)に示される「厚生労働大臣の意見」を踏まえて、「2025年度の専門研修制度募集内容」を専門医機構で固めます。
厚労省の医師専門研修部会では、「専攻医の玉突き案」に厳しい見方
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしています。従前の専門医制度には「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの問題点があり、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、統一した基準で認定を行う仕組み」となっています。
ただし「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。
この「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みの1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があり、現在は次のように設定されています。
(1)厚生労働省の試算した「都道府県別・診療科別の必要医師数」に基づいて、「既に必要医師数を確保できている」と考えられる都道府県・診療科ではシーリング(採用数に上限)を設ける
(2)一定要件を満たす場合、「都市部等での1年半未満の研修」+「医師不足地域(医師充足率が80%未満)での1年半以上の研修」を可能とする【連携プログラム】設置を認める
(3)一定要件を満たす場合、「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とする【特別連携プログラム】設置を認める
ただし(3)の特別連携プログラムの状況を見ると、▼2023年度は60名、24年度は42名と、希望者が減少してしまっている▼連携先は「関東近県」が多く、医師不足が深刻な「東北地方」との連携は進んでいない—など、「医師偏在解消の効果」という面では十分には機能していないことが分かりました。
これらの背景には様々な要素がありますが、特別連携プログラムの「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」という要件について、「指導医の確保などが難しく、研修環境を十分に整えられず、研修プログラムを組みにくい」「研修を受ける専攻医サイドも、研修環境が十分であるのか大きな不安を抱え、応募しにくい」など、要件が厳しすぎるのではないかとの指摘もあります。
そこで、日本専門医機構の渡辺理事長は、上記(1)から(3)の枠組みを基本的に維持したうえで、(3)の【特別連携プログラム】について次のような見直しを行ってはどうかと、7月19日の医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」に正式提案しました(関連記事はこちらとこちら)。
(a)まず、「都会など医師多数の県」から「医師少数県(A県)の基幹的病院(A病院)への派遣」を可能とする
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(b)当該「医師少数県の基幹的病院」(A病院)から、別の医師を「医師不足が著しい地域の医療機関(B施設)へ派遣」する
(a)により「指導医が確保された基幹的病院で研修を受けることができ、専攻医が特別連携プログラムを選択しやすい環境」を整えるとともに、(b)で例えば「指導医がおらずとも診療を行えるベテラン医師を『医師少数の地域』へ派遣する」ことにより、医師偏在の解消も実現できるのではないか、と期待することもできそうです。
しかし、この仕組みに対し専門研修部会では「実効性に疑問がある」との厳しい意見が相次ぎました(関連記事はこちら)。
この点について渡辺理事長は、8月13日に記者会見で「機構内部で提案したもので、厳しい意見もいただいたが、『よい提案だ』とのご意見もある。医師の地域偏在是正に向け、まず『医師少数地域で研修する(勤務する)』ことが重要であり、その点で『特別連携プログラム』は非常に重要である。しかし、応募数は減少しているため改善が必要であろう。前向きに検討してほしい」旨をコメントしています。
また、専門研修部会で玉突き案に疑問の声が出ている背景には、「(b)のベテラン医師を、地域の基幹病院等から医師少数地域へ安定的に派遣する」仕組みについて、実効性・実現可能性が見えてこないことがあげられます。
この点について渡辺理事長は、▼「専門医機構が、特定の地域・病院における人事(医師派遣)に目を光らせ、監視することはできない」ために、(b)の仕組みの実効性確保は地域医療対策協議会(地対協、医療関係者や地域住民、関係市町村等で構成される地域医療の在り方を考える会議)にお願いしたい▼仮に、(b)の仕組みが稼働していない場合には、翌年度にペナルティを課す(特別連携プログラムの取り消しなど)—など、間接的な実効性担保策を組み込んでいることを説明しています。
今後、都道府県からの意見も聴取しながら議論を深め、今秋(2024年秋)に再び専門研修部会で「2025年度の専門研修制度募集内容」を詰めていきます(今秋(2024年秋)の専門研修部会で「2025年度シーリングに対する厚生労働大臣の意見」案を固め、その後、日本専門医機構で大臣意見をもとにシーリング内容を決定する)。
なお、玉突き案に対しては「玉突き案の制度化ができるのであれば、そもそも、ここまでの医師偏在は生じていない。『玉突き案の制度化は、つまり、医師偏在解消策の構築そのもの』であり、玉突き案の実効性担保はなかなか難しい」と厳しく見る識者もおられます。
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