どういった医療WEB広告が「不適切」なのか、どう改善すれば良いかを詳説―医療情報提供内容検討会(2)
2021.6.28.(月)
不適切な医療WEB広告が後を絶たず、ネットパトロールが行われている。多くは改善されるが、都道府県からの指導等によっても改善がなされない事例も一部にある―。
このため「どういった広告が不適切なのか」「どう改善すればよいのか」を分かりやすく示した事例集を厚労省が作成し、これを広く普及・周知していく―。
6月24日に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった報告も厚生労働省から行われました。
また、医療の質向上に向けて「全国統一の評価指標」構築などに向けた取り組みが進められていることも報告されています。
目次
不適切な医療広告と、改善方法などを詳説した「事例集」を作成
医療に関しては「不適切な広告が巷に溢れれば、国民・患者の健康・生命に取り返しのつかない被害が出かねない」ことから、医療機関が広告可能な事項は「限定」列挙されています。具体的には、広告可能告示(「医療法第六条の五第一項及び第六条の七第一項の規定に基づく医業、歯科医業若しくは 助産師の業務又は病院、診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項」)で「広告して良い」と明示された事項以外を広告することは許されません。
ただし、医療機関のホームページやSNSについては、「医療機関選択の際に能動的に(自分から)情報にアクセスする」という特性があることから、一定の要件(医療機関連絡先を掲載する、治療内容・費用などを分かりやすく提示するなど)を満たした場合には「限定事項」以外の内容を広告することが認められています(限定解除)。
厚労省は併せて、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(医療広告ガイドライン)を示していますが、「不適切なホームページ等」が後を絶たないことも事実です(関連記事はこちらととこちらとこちらとこちら)。
この背景には、「どういった広告が不適切であるのかが必ずしも明確でない」「不適切とされた広告をどう改善すれば適切になるのかが理解されていない」という点もあります。
そこで厚労省は今般、関係者・有識者の議論を踏まえて「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」を作成しました(関連記事はこちら)。(1)広告が禁止される事例(2)広告可能事項の記載が不適切な事例(3)広告可能事項の限定解除要件の記載が不適切な事例(4)広告にあたり注意が必要な事例—を整理・例示し、「どういった点が問題であるのか」「どう改善すればよいのか」を分かりやすくし示しています。
まず(1)の「広告が禁止される事例」には、▼虚偽広告▼誇大広告▼比較優良広告▼体験談▼ビフォーアフター写真—などが該当します。例えば、「どんなに難しい手術でも必ず成功させます」(虚偽)、「厚労省ガイドラインの遵守状況を確認する審査制度に基づき、指定審査機関から認定証を取得した」(誇大)、「最高の医療提供」(比較優良)、「サッカーの●●選手が来院」(比較優良)などです。
「体験談」(SNSからの転載も含む)や、いわゆる「ビフォーアフター写真」なども、2017年の改正医療法で「患者を誤認される恐れがある」とし、広告禁止事項となっています。
ただし「ビフォーアフター写真」については、▼通常必要とされる治療内容▼費用▼治療等の主なリスク▼副作用等に関する事項—など詳細な情報を、「ケースそれぞれに」付すことで広告が認められる場合もある点に留意が必要です。例えば、複数のビフォーアフター写真を掲載し「治療費は●円から」などと記載することは認められませんが、1つ1つの症例についてビフォーアフター写真を付け、それぞれについて「このケースでは●円の治療費があかり、治療期間はどの程度、●●の副作用が起こることがあります」などと詳説することで、患者がメリット・デメリットを把握できるため、広告可能となるのです。
また(2)の「広告可能事項の記載が不適切な事例」としては、例えば▼保険外の治療について明示されていないケース▼自由診療において「標準的な費用」が明示されていないケース▼「専門医」資格について記載が曖昧なケース―などがあります。
例えば美容医療や審美歯科などでは、公的医療保険が使用できない治療法が行われるケースが少なくありません。その際には、「●●治療は公的医療保険が適用されず、標準的には1部位●万円となります」などの具体的な記載をすることが求められます。
一方、(3)の「広告可能事項の限定解除要件の記載が不適切な事例」としては、例えば▼広告できない「専門資格」を表示して専門性をアピールするケース▼「治療内容」を十分に記載していないケース(「インプラントは失った歯に近い歯を取り戻せる」等のみの記載など)▼「未承認の医薬品を使用している」ことなどを十分に記載していないケース▼「承認された効能・効果」と異なる目的で医薬品を使用している旨を十分に記載していないケース―などがあります。
例えば、「インプラント治療」であれば、その内容(「むし歯や歯周病で抜けた歯に代わり、噛み心地や見た目を回復するための治療法で、顎の骨に人工の歯根を埋め、それを土台にして歯をつくる」んど)を明示したうえで、▼治療の流れ(検査→X線検査→骨の移植→手術→仮歯→最終)▼標準的な費用(検査・手術・総額などできるだけ詳しく)▼リスク・副作用(「痛み・腫れ・出血・感染などの恐れあり」など)—を記載することで広告可能となります。
さらに(4)の「広告にあたり注意が必要な事例」としては、例えば▼治療内容が明確でないケース(単に「審美歯科」などと記載)▼医療内容と関係ない事項による誘引(「当院で出産した人には赤ちゃんグッズをプレゼント」など)—が該当します。
例えば、審美歯科であれば、具体的な治療メニュー(▼オールセラミッククラウン▼ホワイトニング―など)を示し、それぞれの内容・治療期間や回数・標準的な費用・リスクと副作用などを丁寧に記載することで「適切な広告」となります。
この事例集は、医療関係者はもちろん、一般国民にも周知され(厚労省ホームページでの後悔など)、「この項目は不適切なのではないか」という通報の目安にもなります。事例が今後蓄積される中で「事例集のバージョン」も逐次なされていくことでしょう。
不適切な広告について自治体からの指導がなされるも、「2年間も対応しない」事例もある
上述のとおり、「不適切な広告」が後を絶たず、これは国民・患者の健康・生命に被害を及ぼすとともに、「医療への信頼」を損ねることにもつながります。そこで厚労省は2017年8月から「ネットパトロール事業」を実施し、「不適切な広告の発見」→「改善に向けた指導」にも力を入れています。
厚労省から委託を受けたネットパトロール事業者が「一般からの通報」「自ら実施するキーワード検索」によって不適切なwebサイトを探し、「医師や弁護士で構成される評価委員会での審査」などを踏まえた上で、是正が必要なwebサイトについては医療機関等に通知を行い、改善等を促すものです(改善等が行われない場合には、都道府県から指導等が行われる)。
6月25日の検討会では、次のようなネットパトロール実績が報告されました(2019年度の実績に関する記事はこちら)。美容・歯科が圧倒的多数を占めていますが「がん医療」でも不適切広告が散見されています。
▽通報受け付け件数(重複通報がある)
▼2018年度:8358サイト▼19年度:1万300サイト▼20年度:9472サイト
▽審査対象(重複除外)
▼2018年度:1525サイト▼19年度:1044サイト▼20年度:1796サイト
(2018年度から481件・31.5%減)
審査対象となった違反広告のうち「違反あり」と認められたものについては、医療機関への通知が行われ、そのほとんどでは「改善」がなされています。例えば、2020年度には、一般から通報された980サイトのうち、781サイトで「違反あり」と判断され、ここに前年度からの繰り越し分66サイトを加えた847サイトについて医療機関へ「広告に違反がある」旨の通知がなされています。このうち748サイトでは「改善」「広告中止」「対応中」という措置が取られており、88.3%で「改善がなされている」と見ることができます。
ただし、改善に応じない医療機関等もあり、その場合には厚労省委託業者から「都道府県」への通知がなされます(国は医療機関等を指導する権限を持たない)。通知を受けた都道府県では、状況を調査したうえで、必要に応じて改善に向けた指導を行います。
もっとも、自治体から指導等が行われたにもかかわらず、対応をとらない医療機関等もあります(2018年度に指導を受けたにも関わらず、2年間改善が見られない医療機関が16ある)。検討会では「健康被害などが生じないよう、罰則の発動も視野に入れた対応を行うべき」(桐野髙明構成員:佐賀県医療センター好生館理事長)などの厳しい意見も出ています。これを受け厚労省医政局総務課の熊木正人課長は「禁止事項に対する広告には罰則が適用可能だが、誇大広告には罰則を適用できないという状況もある。まずは医療機関による改善に向けた自助努力を促し、問題のあるところには罰則も含めた対応を検討していく」旨の考えを明らかにしています。
医療の質向上に向けた、全国統一の「評価指標」構築などが進む
なお、6月25日の検討会では「医療の質向上のための体制整備事業」に関する報告も行われました。
医療の質を高めるためには、「指標」を定め、各医療機関による「指標」の達成状況を数値化して比較・分析する「ベンチマーク」が非常に重要です。
そこで厚労省は、「医療の質の評価・公表等推進事業」(QI事業)として日本病院会や全国自治体病院協議会などの病院団体に委嘱し、このベンチマークによる「医療の質向上」に向けた取り組みを推進しています。
ただし、「評価指標が病院団体によって異なる」などの課題も浮き上がってきたため、病院団体の枠を超えて、つまりオールジャパンでの評価実施に向けた取り組みも進められています(関連記事はこちら)。具体的には、日本医療機能評価機構が事務局となって「医療機関、病院団体等の医療の質向上サポートを行う」もので、▼好事例の共有・普及▼人材育成▼指標の標準化▼相談対応▼基盤整備(参加医療機関の拡大など)—を行っています。新型コロナウイルス感染症の影響もありますが、例えば、だれもが参加可能な「医療の質向上」を目指すQIコンソーシアムの開催、「医療の質向上のための協議会」開催、糖尿病・脳梗塞・人工股関節置換術などに関する「医療の質改善」パッケージの開発、などが行われてきていることが亀田俊忠参考人(日本医療機能評価機構理事)から報告されました。
この点、幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)は「賛否両論あると思うが、評価結果の『国民』への開示が医療の質向上に向けて重要であると期待する。そこをゴールに据えてほしい」と要望しています。
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