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外国人旅行者の診療費、増加コスト踏まえ、各医療機関で1点単価の倍数化を考えては―外国人旅行者への医療提供検討会

2019.3.12.(火)

 外国人旅行者が我が国で医療を受ける場合、原則として自由診療となる。その際には診療上の時間等が増加すること、医療通訳などの別途コストがかかることなどを考慮し、例えば診療報酬の単価(1点10円)を倍数化(例えば1点15円や1点20円など)して費用請求することが考えられる。その際、診療の前に一定の目安を提示しておくことはもちろん、「保険に加入しているか、保険会社に自院で診療を受けることに関する手続きをしているか」などを確認することが円滑な支払いにおいて非常に重要となる―。

3月11日に開催された「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。

3月11日に開催された、「第4回 訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」

3月11日に開催された、「第4回 訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」

 

診療時間増や通訳費用などを踏まえ、1点単価を15円や20円に倍数化する考えも

 安倍晋三内閣では、重要政策の1として「観光立国」も掲げています。例えば、今年(2019年)9月にはラグビーワールドカップが、2020年にはオリンピック・パラリンピックが我が国で開催されることから、2020年には4000万人、2030年には6000万人の訪日外国人旅行者数が目標に据えられています。

外国人旅行者が我が国で傷病にあい我が国の医療機関を受診する場合、自由診療となります。しかし、患者の多くが公定価格の定められた保険診療を受ける中では、「外国人旅行者の診療価格をどう設定すればよいのか」と悩む医療機関も少なくないでしょう。

この点について、「訪日外国人に対する適切な診療価格に関する研究」班(厚生労働科学研究)の研究責任者である田倉智之参考人(東京大学大学院医学系研究科医療経済政策学講座特任教授)から、次のような考え方が例示されました。

まず、外国人旅行者の診療においては▼診療の時間等が通常に比べて増加する▼医療通訳などの別途コストが発生する―ため、通常診療に比べて「高コスト」となります。このコストを1例1例判断して、都度、診療価格を設定する(例えば保険診療の価格に、医療通訳費用等を上乗せするなど)ことも考えられます。ただし、この手法には「事前の価格提示が困難である」(後述するようにトラブルの原因となる)、「煩雑である」というデメリットがあります。

そこで田倉参考人は、コスト増分をあらかじめ加味した「標準価格」(外国人旅行者向け)のようなものを各医療機関で設定する手法が考えられると提案しています。具体的には、診療報酬の1点単価を「倍数化」、つまり「1点15円」「1点20円」などと設定する考え方です。

田倉参考人が、限られた症例ですが、「実際の医療現場で外国人旅行者を受け入れた場合、どの程度の単価倍数化を行えば、コスト増に見合うのか」を調べたところ、▼咽頭炎:1.31倍(つまり1点13円10銭)▼アレルギー治療を施した蕁麻疹:1.56倍(1点15円60銭)▼出血性の膀胱炎:2.21倍(1点22円10銭)▼重症肺炎での入院症例:3.66倍(1点36円60銭)▼虫垂炎手術:1.22倍(1点12円20銭)▼内視鏡を用いた胆管炎治療:2.92倍(1点29円20銭)▼大腿骨転子部位骨折の手術、リハビリ等:3.59倍(1点35円90銭)―など、さまざまであることも分かりました。
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また、比較的治療内容が標準化されている「咽頭炎」の治療費を国際比較すると、▼米国:1万7262円▼イタリア:6660円▼台湾:3620円▼中国:2210円―などとなっています。我が国の初診料・医学管理料・薬剤費などを考慮すると「4000-5000円程度」であり、ここに上述の「咽頭炎:1.31倍」を乗ずると「5240-6550円程度」で、イタリアと同程度の水準になると考えられます。田倉参考人は、「咽頭炎の1.31倍は、妥当な水準の倍数ではないか」とコメントしています。
訪日外国人旅行者の医療提供検討会2 190311
 
もっとも、これらは参考数値であり、「咽頭炎は1.31倍の価格で外国人旅行者に請求せよ」というルールを設けるではありません。各医療機関において、こうした数値も参考にしながら、自院の状況(例えば、外国人旅行者である患者が多いと予想されるのか、ごく稀なのか、どういった傷病が多いのか、医療通訳の確保は容易化、困難か、費用はどの程度か、など)を踏まえ、それぞれ設定することになります。例えば、軽症症例が多いと考えられるクリニックでは、基礎となる初診料等に、どれだけ倍数化を行っても医療通訳のコストを賄うことは困難なため、「医療通訳の費用」を別途請求することが現実的かもしれません。一方、高度医療を提供する大病院等では、倍数化を行ったほうが、事務コストが軽減できるかもしれません。

 研究班ではさらなる検討を進め、来年度(2019年度)には、各医療機関の価格設定に資するような「マニュアル」を作成する考えも示しています。

  
なお、法人税非課税という税制上の優遇が受けられる「社会医療法人」などにおいては、▼収益の8割超が社会保険診療等▼自費診療でも診療報酬と同じ価格設定とする―との認定要件があるため、こうした「倍数化」はできません(こうした要件の見直しについては将来の税制改正に向けた課題に位置付けられている)。

もっとも、厚生労働省は通知「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」の中で、▼日本語を理解できない患者に対する通訳料▼外国人患者が自国の保険請求等に必要な診断書等の翻訳料―などについて「実費徴収が可能である」ことを明確にしています。こうした点について再周知が行われる見込みです。

旅行患者が民間保険に加入していても、未収金発生リスクがあることを理解せよ

 ところで、外国語対応や習慣の違いなどに鑑みた「外国人旅行者への費用」が設定されたとしても、その費用を確実に支払ってもらわなければ医療機関の経営は成り立ちません。

 この点、日本人患者等の「未収金」対策とは別の観点での対策・予備知識等が必要となることが、「医療機関における外国人患者受入れの在り方に関する研究班」(厚生労働科学研究)の研究者である岡村世里奈構成員(国際医療福祉大学大学院医療経営管理学分野/医療通訳・国際医療マネジメント分野准教授)から報告されました。

 特に重要となる対策・予備知識等は、(1)保険(民間の海外旅行保険など)(2)事前の医療費概算金額の提示―の2点です。

 まず前者(1)の「保険」について岡村構成員は、▼保険に加入していない外国人旅行者もいる(2018年3月の観光庁調査では23%が未加入)▼保険に加入していても「Pay & Claim」方式では、一度患者が医療機関に全額を支払い、保険会社から加入者(患者)に保険金が支払われる形である▼保険会社から医療機関に費用が支払われるタイプ(キャッシュレス)の保険でも、契約内容の限定があり、加入者(患者)から保険会社への事前連絡・許諾が必要なケースも多い―ことを説明。つまり、患者が保険に加入していても、その費用が医療機関に確実に支払われるわけではないのです。

岡村構成員は、このような点を十分に理解し、少なくとも▼「Pay & Claim」方式の患者では、現金やクレジットカードなどで全額支払う患者と同じに扱う▼キャッシュレスタイプの保険では、患者が保険会社に連絡し、許諾を得ていることを必ず確認する(連絡していない場合には、至急の連絡・許諾を求める)―ことを提案しました。こうした点の確認を不十分なままに診療をはじめれば、「未収金」の発生リスクが飛躍的に高まります。

円滑な支払いのためには、事前の「概算医療費」提示と十分な説明が重要

また後者(2)の「事前の概算金額提示」は、円滑な支払いのために極めて重要であると岡村構成員は強調します。我が国は、皆保険制度が敷かれ多くの患者は保険診療を受けるために、事前に個別患者に「あなたの病気は●●で、○○円程度の費用がかかります」という説明が行われるケースは多くはありません。

しかし、外国人旅行者においては、事前にこうした説明をしない場合、「聞いていないので支払わない」というケースが出かねません。このため例えば下図表のような一定の書式等を準備し、「概ねこの程度の医療費がかかります」という事前の提示を行い、それに納得を得た上で診療を開始する必要があるのです。
訪日外国人旅行者の医療提供検討会3 190311
 
その際、▼診療内容▼病状の見通し―なども併せて十分に説明することで、外国人旅行患者が納得しやすく、円滑な支払いが可能になると岡村構成員は説明します。実例としては、フィリピンからの旅行者が脳梗塞で救急搬送され、「費用は概ね700万円」と病院側が提示しましたが、保険からの支払い上限は200万円にとどまりました。その際、病院側から「700万円の中にはリハビリ等の費用も含まれている。日本で急性期治療のみを行い、母国へ医療搬送を行えば、当院への支払いは安く済む」ことを、あわせて説明。患者・家族は早期帰国を希望し、結果として医療費は500万円程度になりましたが、円滑な支払いが行われたといいます。

こうした点は研究班で作成する「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」にも記載され、厚労省のホームページで公開されます。医師会や病院団体奈良が、こうしたマニュアルを踏まえた「勉強会」「説明会」などを開くことが期待されます。

 
もっとも、すべての医療機関でこうした説明体制を整えることは現実的ではありません。このため厚労省は、各都道府県に「医療機関等からの相談にワンストップで対応するための体制」を整備することなどが必要と考え、2019年度予算案に17億円を計上しています。

 
 
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