不適切な医療WEB広告の通報等増加、エビデンスない「がん免疫療法」等もあり早急是正を―医療情報提供内容検討会
2020.7.2.(木)
不適切な医療WEB広告についてネットパトロールを行っており、国民・患者からの通報を受けた調査と、「トラブルを招きやすいキーワード」に基づく検索調査(能動監視)を実施している。大半は「改善せよ」との通知に基づいて是正が行われている(是正がなされないものは、都道府県から指導等)―。
不適切な医療WEB広告は歯科や美容医療分野で多いが、一部に、エビデンスに基づかない「がん免疫療法」などもあり、早急な是正が求められる―。
また国民の医療機関選択をサポートする「医療機能情報提供制度」について、2019年度に続き20年度にも全国統一システムに向けた検討・研究を進めるとともに、2020年度診療報酬改定を踏まえた報告項目見直しを検討していく―。
7月2日に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった報告が厚生労働省から行われました。
目次
2019年度に1万300件の「不適切な広告」通報、大半は改善
7月2日の検討会では(1)医療に関する広告規制の見直し(2)ネットパトロール事業(3)医療機能情報提供制度に関する全国統一的な検索サイトの構築―の3点を議題としました。
美容医療やがん医療などの分野で不適切な情報(虚偽内容・誇大内容など)が流れており、患者に大きな不利益が生じています。このため患者の健康・医療や財産を守るために、2017年の改正医療法では、例えば次のような医療広告規制の見直しが行われました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
▽医療機関等のWEBサイト(いわゆるホームページ等)やSNSなども「広告」に含め規制の対象とする(規制の対象について「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」に拡大)
▽広告不可能な事項のさらなる明確化を行う(患者の体験談や、いわゆる「ビフォー・アフター写真」なども患者に誤認させるものとして広告不能とした)
▽一方、医療機関選択等に重要な情報提供が可能となるよう、「医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合には、幅広い事項の広告を認める」(例えば「ホームページへの医療機関連絡先を掲載する」「治療内容・費用などを分かりやすく提示する」などの要件を満たすことを条件に、幅広い広告を可能とする)
こうした見直し事項を踏まえ、厚労省は「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(医療広告ガイドライン)を示しています。医療機関がホームページを開設する場合などには、このガイドラインを遵守することが求められますが、依然として「不適切なホームページ等」も後を絶ちません。
そこで厚労省は2017年8月から(2)の「ネットパトロール事業」を実施。厚労省から委託を受けたネットパトロール事業者が「一般からの通報」「自ら実施するキーワード検索」によって不適切なwebサイトを探し、「医師や弁護士で構成される評価委員会での審査」などを踏まえた上で、是正が必要なwebサイトについては医療機関等に通知を行い、改善等を促すものです(改善等が行われない場合には、都道府県から指導等が行われる)(2018年度のネットパトロール事業実績に関する記事はこちら)。
7月2日の検討会では、次のような2019年度のネットパトロール実績が報告されました。
▽通報受け付け件数(重複通報がある):1万300サイト(2018年度から1942件・23.2%増)
▽審査対象(重複除外):1044サイト(2018年度から481件・31.5%減)
通報件数の増加からは「新たな医療広告規制について国民の認識が高まっている」ことが、審査対象件数の減少からは「悪質な違反項目が減少している」ことが伺えそうですが、長期的に見ていく必要があります。
審査対象となった違反広告のうち2019年度中に審査が行われたものは974件で、919件に「違反」が確認されました。ここに2018年度の違反事例30件を加えた949件には、医療機関等に「改善せよ」との通知がなされています。この通知を受け、815件・85.9%では改善・広告中止・医療機関等による対応中などの是正が図られていますが、134件・14.1%では是正がなされていません。このため、地域医療提供体制整備の責任者である都道府県に連絡(いわば通報)がなされています。通報を受けた都道府県では、状況を精査したうえで是正を促し、医療機関等が従わない場合には「指導」等を行うことになり、厚労省は「都道府県による対応状況も確認していく」「専門家で構成される医療広告協議会(検討会構成員も一部参画)で、都道府県が指導等を行う際のハードルについても研究・検討を進めている」考えを示し、、広告内容の適正化に向けた対応を強化していく考えを強調しています。
消費者センターと連携したキーワードで「不適切な広告」のあぶり出しも実施
また、通報は「国民・患者等が、この広告内容は不適切である」と認識して行うことになりますが、「国民・患者が認識していない(あるいはできない)不適切な広告もある」ことが分かっています。このため厚労省は、2019年度からPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム:国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる苦情相談情報の収集を行うシステム)と連携して「不適切なキーワード」を抽出。通報を待たずに、能動的なネットパトロールを実施しています(能動的パトロールそのものは2017年から実施しており、2019年度からPIO-NET連携を開始)。
例えば、最近ニュース等になっている「血液クレンジング」「糖尿病治療薬のGLP―1受容体作動薬を用いたダイエット注射」などのほか、消費者センターに多くトラブル相談がなされている「発毛」「インプラント」「レーザー治療」「二重瞼」「シミ取り」「入れ歯・ブリッジ」などの検索ワードを用いて医療機関等サイトをパトロールし、不適切な広告内容を発見するものです。
2019年度には、この「能動監視」により218件の違反が確認されました(2018年度の違反広告と合わせて223件に改善に向けた通知がなされ、うち96.0%が是正され、4.0%について都道府県への通報がなされた)。この点に関連して城守国斗参考人(日本医師会常任理事)は「悪質な違反広告は厳正に取り締まる必要がある。その際、ネットパトロールはロボット等を活用して効果的・効率的に実施すべき」と提案しています。
歯科・美容で不適切広告が多いが、エビデンスない「がん免疫療法」等の不適切広告も
また、ネットパトロールで確認された不適切な広告内容を分析すると、▼歯科(不適切広告全体の70.3%)、美容(同14.2%)などが多い▼「広告不能事項を広告している」事例が多い(同50.4%)―ことなどが分かりました。
歯科領域では「インプラント」「審美」「矯正「歯周病」などに、美容医療領域では「美容注射」「発毛・AGA」「アンチエイジング」「リフトアップ」などに不適切な内容が多くなっています。
また、「がん医療」についても延べ65件の不適切広告が確認され(サイト数では16)、例えば「免疫療法」(エビデンスが確立され保険適用されている免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダなど)ではない、エビデンスの確立されていない、いわゆる免疫療法)などの広告が依然としてなされています。早急な是正が求められます。
さらに、厚労省では不適切広告事例などを集積・分析した「事例解説書」の作成を進めています。医療機関や自治体に送付され「どういった広告が違反となるのか。どういった改善をすればよいのか」などの参考に資することになります。この点、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「国民・患者が適切な通報を行えるよう、解説書を広く公表してほしい」と要望しています。
「医師少数区域での勤務経験を認定された」旨、医療広告可能事項に追加
なお(1)の広告規制に関しては、「『医師少数区域等で一定期間勤務した医師』として厚生労働大臣に認定された」旨を広告可能とする方針が固められました(併せて広告可能事項のさらなる明確化等も実施)。
医師偏在対策の一環として、今年(2020年)4月1日から「医師少数区域等に所在する同一の医療機関で6か月以上、連続して常勤で勤務した医師」(医師免許取得から9年以上を経過したベテラン医師では断続的に180日の勤務でもよい)について厚生労働大臣が認定する仕組みがスタートしました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。医師派遣機能を持つ地域医療支援病院の院長要件として、この「認定」を盛り込むなどの評価が行われ、その旨が広告可能となるものです(前述のとおり、医療機関等は「広告可能事項以外の広告」が原則として認められない)。
厚労省はタイミングをみて医療広告ガイドラインを見直します(検討会に示されたガイドライン見直し案)。
医療機能情報提供制度、2020年度も全国統一システム化に向けた検討・研究進める
また(3)は、国民が医療機関を選択する際の重要情報の1つとなる「医療機能情報提供制度」について、より使いやすいサイトへの見直しを進めるものです。
「医療機能情報提供制度」は、国民による医療機関の適切な選択をサポートすることを目指し、医療機関等(▼病院▼診療所▼歯科診療所▼助産所―)に対し、自院の持つ機能を毎年度、都道府県に報告することを義務付けるものです。都道府県では報告された情報を整理して、ホームページ上で公開しています(厚労省のサイトはこちら(各都道府県のホームページに飛ぶことができる))。
ただし、「各都道府県で仕様が異なり、掲載情報のバラつきが大きい」「使い勝手に都道府県間の格差が大きい」などの課題を受け、厚労省は「全国統一システムに移行」する考えを提示。当初は「2019年度に全国統一システムの内容を検討し、2020年度からサイト構築」という予定で進んでいましたが、システム内容を検討する中で▼全国統一システムのあり方(都道府県における有効な活用事例を分析する)▼各都道府県における全国統一システムへの移行シミュレーション・コストメリットの試算▼全国統一システムにおける要件の精緻化(機能・画面・帳票・スケジュール等)▼NDB(National Data Base:医療レセプトと特定健診情報を格納)の活用可能性▼医療機関等から報告項目―についてさらなる検討を行うべきことが分かり、「2020年度にも、さらなる検討・研究を進め、サイト構築は2021年度からとする」旨にスケジュール変更が行われました。
なお、検討会では「国民の認知度向上策(いわゆるSEO対策等)を十分に検討すべき」「医療機関等からの報告項目を検証すべき」との指摘が出ています。
後者の報告項目については、2020年度の診療報酬改定を受けた見直しを行うとともに、より広い視点での検討が次回会合から行われる見込みです。検討会では、「新型コロナウイルス感染症を踏まえ、国民・患者が提供を希望する医療機関情報の内容も変化していると思う。その点も踏まえた項目見直しを検討すべき」(佐保昌一構成員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「医療機関が報告しやすい項目とすべき」(城守参考人)、「かかりつけ医機能について、国民が検索しやすい項目(在宅医療提供の有無、夜間・休日対応の有無など)をより明確化し、盛り込むべき」(幸野庄司構成員:健康保険組合連合会理事)などの意見が出されています。まずは「2020年度改定への対応」が優先されると思われ、どこまでの見直しを行うのか、今後の検討会論議に注目が集まります(診療報酬改定の中間年度、今般であれば2021年に向けた見直しをまず行う)(2018年度の前回診療報酬改定を踏まえた2019年度の項目見直しに関連する記事はこちら)。
この点に関連して幸野構成員は、「初診料に上乗せされる【機能強化加算】について、2020年度改定で『医療機能情報提供制度を利用してかかりつけ医機能を有する医療機関等の地域の医療機関を検索できることを、当該医療機関の見やすい場所に掲示している』旨が導入されたが、一部自治体ではこの検索ができない。にもかかわらず当該加算を算定できる状況は好ましくない」と指摘しています。もっとも、これは中央社会保険医療協議会で議論すべきテーマと言えます。
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