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医師少数区域等での6か月以上の勤務経験、将来の地域医療支援病院の院長要件に―厚労省

2020.1.22.(水)

医師偏在対策の一環として「医師少数区域等で一定期間勤務した医師」を厚生労働大臣が認定し、その認定を「医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院」等の管理者(院長)となるための要件とする―。

こうした仕組みが今年(2020年)4月1日から施行されます(改正医療法・医師法等)。厚生労働省は1月16日に通知「医療法及び医師法の一部を改正する法律の施行について」を発出し、この仕組みの詳細を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。

今年(2020年)4月1日以降に初期臨床研修を開始した医師が対象となり、管理者要件の発動までには相当の時間がかかりますが、ミクロでの医師確保効果が近く現れる可能性もあり、期待したいところです。

医師少数区域等での勤務にインセンティブを付与し、医師偏在解消効果を狙う

医師偏在の解消が、医療提供体制の重要なテーマとなっており(いわゆる三位一体改革の1つ)、▼医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度▼都道府県における医師確保対策の実施体制の強化(新たな「医師確保計画」の策定等)▼医師養成過程を通じた医師確保対策の充実▼地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応—などを盛り込んだ改正医師法・医療法等が2018年7月に成立。これを受け、厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」およびその下部組織である「医師需給分科会」で、具体的な法律施行に向けた制度設計が議論されてきました(2019年3月に取りまとめ、関連記事はこちらこちら)。

このうち「医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度」は、医師に「医師少数区域(人口10万対医師数に地域住民や医師の年齢構成などを加味した新たな指標を用いて、医師配置が下位3分の1となる地域)等での勤務」を促す仕組みです。その大枠は、医師が、医師少数区域等で一定期間勤務した場合に、一定のインセンティブを付与するものです。

医師少数区域等での一定期間勤務を認定する制度の概要



今般の通知では、医師需給分科会等の議論・取りまとめを踏まえて、仕組みの詳細を明らかにしています。

若手医師は連続6か月以上の医師少数区域等での常勤が求められる

まず、評価の対象となる「医師少数区域等」については、▼医師少数区域(人口10万対医師数に地域住民や医師の年齢構成などを加味した新たな指標を用いて、医師配置が下位3分の1となる地域、2次医療圏)▼医師少数スポット(医師少数でない2次医療圏の中にある医師の少ない市町村等)―などが該当し、認定に当たっては「この地域等に所在する病院や診療所(医師少数区域等所在病院等)で一定期間勤務する」ことが求められます。

一定期間とは「6か月以上」となります。この期間中は、原則として「同一の医師少数区域等所在病院等に週32時間以上」勤務することが求められます。ただし、育児・介護休業法の規定に基づく短時間勤務を行っている場合は「週30時間以上」の勤務が求められます。端的に言えば「同一の医師少数区域等所在病院等に6か月以上、常勤として勤務する」ことが求められると言えるでしょう。また「妊娠・出産・育児・傷病・短期の休暇等で勤務を中断した場合は、中断前後の勤務期間を合算できる」ことも明確にされました。

ベテラン医師では、断続する勤務合計が180日に達すれば良い

もっとも、医師需給分科会の議論では、「専門技術を持つベテラン医師であれば、例えば週に1日など非常勤の勤務であっても、医師少数区域等にとっては非常にありがたい」「ベテラン医師では家族等もあり、長期間の医師少数区域等での常勤は難しい(単身赴任等になるケースが多くなる)」との意見も出ました。

このため、「医師免許を取得から9年以上経過した後に医師少数区域等所在病院等に勤務する場合」には、同一・複数の医師少数区域等所在病院等における断続的勤務日数が合計180日になった時点で、認定に必要な勤務期間(一定期間)を満たすものとして取り扱われます。



また、医師少数区域等は3年(当初は4年)ごとに入れ替わる可能性がある(格闘道府県が医師確保を進める)ため、「診療開始時点で医師少数区域等に該当する地域であったが、後に医師少数区域等に該当しなくなった」というケースも生じえます。この点について通知では「当該医師少数区域等所在病院等において診療を開始した後、初めて医師少数区域等に該当しなくなった時点から3年の間は医師少数区域等とみなす」ことを明らかにしています。

医師少数区域等での勤務期間中に、総合的な診療能力の獲得を

また通知では、この6か月の医師少数区域等所在病院等での勤務の間に、以下の業務をすべて経験することを求めています。いわゆる「総合的な診療能力の獲得」が求められると言えるでしょう。

▽個々の患者に対し、その生活状況を考慮し、幅広い病態について継続的な診療・保健指導を行う業務
(例)▼地域の患者への継続的な診療(専門的な医療機関に対する患者の受診の必要性の判断を含む)▼診療時間外の患者の急変時の対応▼在宅療養を行っている患者に対する継続的な訪問診療▼在宅療養を行っている患者が急変した際の往診▼小児等に対する夜間診療の実施―など

▽「他院」および「患者が住み慣れた地域で日常生活を営めるよう支援するための保健医療サービス・福祉サービスを提供する者」との連携に関する業務
(例)▼地域ケア会議、要保護児童対策地域協議会等への参加▼他医療機関または介護・福祉事業者が加わる退院カンファレンスへの参加など「患者の転院、転棟、退院先との調整」▼介護認定審査会への参加▼地域の医療従事者に対する研修の実施(講師としての参加を含む)―など

▽地域住民に対する健康診査、保健指導その他の地域保健に関する業務
(例)▼公共的性格を有する定型的な健康診断(労働安全衛生法・学校保健法・母子保健法に基づく健診、健康増進法に基づくがん検診、高齢者医療確保法に基づく特定健診(いわゆるメタボ健診)、保険者からの委託に基づく健診等が含まれる)および、その結果に基づく保健指導▼予防接種法に掲げられた疾病の予防を目的とした予防接種▼地域で行われる母親学級での講演や、地域で行われる生活習慣病等に関する院内外における講習会など「地域住民に対する保健医療に関する講習会」の実施(講師としての参加を含む)―など

医師少数区域等での勤務経験を厚労相が認定、地域医療支援病院の管理者要件に

こうした経験を積んだ医師は、▼当該医師少数区域等所在病院等の名称▼勤務期間▼業務内容▼勤務環境(診療科や勤務時間、処遇(給与・福利厚生)等)―などを、これを証明する書類とあわせて厚生労働大臣に報告することで、「医師少数区域経験認定医師」として認定されます。

この認定資格は、▼医師少数区域等所在病院等に対して医師を派遣する▼医師少数区域等における医療の質の向上・環境の整備に資する事業(医師少数区域等における巡回診療、医師少数区域等所在病院等への医師派遣(代診医派遣を含む)、総合診療部門を備えた上でのプライマリ・ケアに関する研修・指導)―を実施する地域医療支援病院の「管理者」(院長等)要件となります。

逆に言えば、将来、こうした機能を果たす地域医療支援病院の院長になるためには、「医師少数区域等所在病院等での勤務経験」が必須となるのです。

ただし、▼2020年3月31日依然に初期臨床研修を開始した医師で「地域医療確保のために当該病院を管理させることが適当」と認められる▼予期せずに病院管理者(院長等)が不在となり(急死など)、認定を受けていない者に当該病院を管理させることがやむを得ないと認められる―場合には、認定(医師少数区域等所在病院等での勤務経験)がなくとも、上記機能を果たす地域医療支援病院の管理者(院長等)になることが可能です。



今年(2020年)4月1日から初期臨床研修を受ける医師が、地域医療支援病院の管理者(院長)になるまでには一般に数十年かかると想定され、「効果が現れるまでに相当の時間がかかる」と見る向きもありますが、早くから「地域医療支援病院の管理者になる」という志を持つ若手医師が、すぐさま医師少数区域等での勤務を希望するケースも考えられ、ミクロの視点では医師偏在の解消に一定の効果を及ぼすとも期待できるでしょう(真に医師不足の地域では「1人でも良いので医師に来てほしい」と切望している)。

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