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外国人患者受け入れのための医療機関マニュアルを公表―厚労省

2019.4.18.(木)

 東京オリンピックなどを控え、我が国では外国人旅行者が増加し、必然的に医療機関を受診する外国人も増加すると予想される。その際、「海外旅行保険に加入しているか」「保険会社に医療機関受診を確認したか」などを確認するとともに、通訳費用などを盛り込んだ「医療費」を設定し、事前に患者・家族に提示し、了承を得ておくことが、未収金の発生防止に極めて重要である―。

 厚生労働省は4月11日に、こうした内容を盛り込んだ「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」(以下、マニュアル)を公表しました(厚労省のサイトはこちら)。

 2019年度以降も順次、内容の拡充を行っていきます。

外国人患者が海外旅行保険に加入しているか、保険会社に確認をとったかなど確かめよ

 安倍晋三内閣は「観光立国」を重要政策の1つとして掲げ、また今年(2019年)9月にはラグビーワールドカップが、2020年にはオリンピック・パラリンピックが我が国で開催されることから、多くの外国人旅行者が我が国を訪れると予想されます(2020年には4000万人、2030年には6000万人を訪日外国人旅行者数の目標に据えられている)。

外国人旅行者が傷病にあった場合、我が国の医療機関を受診することになります。その際、「言語の違い」「風習の違い」などにどのように対応すべきなのか、また外国人旅行者は我が国の公的医療保険に加入していないため「費用請求」をどのようにすればよいのか、という不安が医療機関側にあることでしょう。こうした不安を可能な限り解消し、円滑かつ適切に外国人患者に質の高い医療サービスを提供するために、本マニュアルが作成されました。

マニュアル作成は、「医療機関における外国人患者受入れの在り方に関する研究班」(厚生労働科学研究、主任研究者は慶應義塾大学病院の北川雄光院長)が担当し、厚労省の「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」で寄せられた意見も随所に盛り込まれています(関連記事はこちらこちらこちら)。

マニュアルでは、▼海外旅行保険▼医療費の設定▼通訳体制▼院内マニュアルの整備▼宗教・習慣上の対応▼情報提供▼医療紛争▼感染症対策(職員が受けておくべき予防接種など)―など広範な分野をカバーしていますが、ここでは「費用請求」に焦点を合わせてマニュアルを眺めてみましょう。

前述のとおり、外国人旅行者は我が国の医療保険制度に加入しておらず、「自由診療」として費用を請求することになります。その際、とくに重要になってくるのが(1)海外旅行保険(2)医療費の設定(3)事前の説明―の3点です。

まず(1)の海外旅行保険には、▼「Pay & Claim」方式では、患者が医療機関に費用を自分自身で支払い、後に保険会社から加入者(患者)に保険金が支払われる▼「キャッシュレス」方式では、保険会社から直接、医療機関に費用が支払われる―など、さまざまなタイプがあります。

前者のタイプ(Pay & Claim)では、患者自身に費用を支払ってもらう必要があり、(2)医療費設定(3)事前説明―が極めて重要となります(この点をおろそかにすれば、未収金が発生する可能性が高い)。

また後者のタイプ(キャッシュレス)でも、「患者から保険会社への事前確認がない場合、保険会社から支払いが拒否されることもある」「保険の給付(補償)対象となっていない部分(例えば重過失の場合の医療費、一部の治療行為、翻訳費用など)もある」という点に留意が必要です。

外国人患者に対し、「保険に加入しているか」「保険のタイプはどのようなものか」「保険会社に受診の確認をしているか」を確かめるとともに、こうした点に関する知識を医療機関サイドで一定程度保有・共有しておく必要があるでしょう。

外国人患者への医療費、一般医療法人等では「自由な価格設定」が可能

また(2)の医療費設定については、4月11日時点では、別の研究班(「訪日外国人に対する適切な診療価格に関する研究」班)で取りまとめが進められ、「近日中に掲載」となっています。

この点、厚労省の「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」では次のような方針が確認されています(関連記事はこちら)。

▼一般の医療法人等
→「必要な経費」を請求でき、例えば、診療報酬点数表に沿い「1点15円や20円など」で請求する手法などが考えられる(基本的には、受益者である外国人患者から、必要な費用を請求すべきである)

▼税制上の優遇措置が受けられる社会医療法人や特定医療法人、認定医療法人など
→「1点10円」での請求となるが、「通訳などに関する費用」や「医療機関から空港までの患者搬送」等の費用は実費請求可能である

医療費の事前説明が、円滑な支払い(未収金防止)に極めて重要

 さらに(3)の「事前の医療費等に関する説明」は、保険診療が大多数となる一般の医療機関では馴染みが薄いですが、「未収金の発生防止」に向けて極めて重要な点であることがマニュアルで強調されています。

具体的には、治療に入る前に、「あなたは●●の傷病であり、◆◆の治療を行う場合には◇◇円程度、▲▲の治療を行う場合には△△円程度の費用がかかります。また治療の経過によっては、医療費がさらに高くなる可能性もあります。どういった治療を選択しますか?」という説明を行い、患者の了承を得ておくことが重要です。こうした説明と了承を怠った場合、「聞いていないので支払わない」というケースが出かねません。

マニュアルでは、このため例えば下図表のような一定の書式等(保険診療の際に患者へ発行する「医療費の明細書」の外国語版のイメージ)を準備し、これを用いて説明することが有用と指摘しています。
訪日外国人旅行者の医療提供検討会3 190311
 
なお、マニュアルには実事例も掲載されています。フィリピンからの旅行者が脳梗塞で救急搬送され、「費用は概ね700万円」と病院側が提示しましたが、保険会社からの支払い上限は200万円にとどまりました。その際、病院側からは「700万円の中にはリハビリ等の費用も含まれている。日本で急性期治療のみを行い、母国へ医療搬送を行えば、費用は安く済む」ことも説明。患者・家族は早期帰国を希望し、結果として医療費は500万円程度になりましたが、円滑な支払いが行われたといいます。このような丁寧な説明と、患者側の了承が「円滑な支払い」のために極めて重要となります。

 
外国人患者の受入れ拠点となる医療機関では、こうした対策を今から練っておく必要があります。

 
 
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