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報酬評価や研修、情報提供の仕組み整え、妊婦のコモンディジーズを多くの医療機関で診る体制を―妊産婦保健医療検討会

2019.5.20.(月)

 妊婦の診療に積極的な「産婦人科以外の診療科」を評価するなどし、妊婦に対する風邪などのコモンディジーズを多くの医療機関で診る体制を整備していく必要がある。その際には、「妊婦への診療」に関する研修受講を求め、また「産婦人科のかかりつけ医への情報提供」を十分に行うことが必要である。なお、「自己負担」については助成制度を検討することも必要ではないか―。

 5月16日に開催された「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった点が確認されました(関連記事はこちらこちらこちら)。

 6月予定の次回会合で意見とりまとめを目指し、その後、中央社会保険医療協議会などで「診療報酬」に結びつける議論が行われると予想されます。

5月16日に開催された、「第4回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」

5月16日に開催された、「第4回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」

 

妊婦の4割が他診療科を受診するが、6割で産婦人科医への情報提供がない

 妊産婦の診療については、通常よりも慎重な対応や胎児・乳児への配慮が必要となることから、診療に積極的でない医療機関が存在することが指摘されています。例えば、妊婦が風邪等で内科診療所などを受診した場合、「当院では妊産婦の診療は難しい。産婦人科のクリニックや、産婦人科のある病院を受診してほしい」と要請されるケースもあるといいます。

 こうした事態を放置すれば、妊産婦が安心して医療を受けることが難しくなり、また減少を続ける産科医療機関の負担が過重となり、産科の医療提供体制の縮小にもつながりかねません。これでは「安心して子供を生み、育てられる社会」の構築が困難です。

そこで妊産婦への適切な保健医療サービス提供を確保するために、検討会で、「妊婦」「産婦」も含めた保健・医療のあり方を幅広く議論し、2020年度の次期診療報酬改定論議などに結びつけることになりました。検討会では、これまでに専門家のヒアリング等を行い、また「妊産婦の医療や健康管理等に関する調査」を実施し、「妊産婦への保健医療サービスにおける課題」を整理するとともに、「改善・対応のための方向性」を議論しています。

医療(診療・治療等)について焦点を合わせてみましょう。

まず、出産年齢の上昇に伴って、▼周産期死亡率や妊産婦死亡率が上昇する▼「糖尿病」「甲状腺疾患」などの妊娠と直接関係しない「偶発合併症」が増加傾向にある―ことが学会等のデータから明らかになっています。一方で、▼産婦人科医師の医師数の増加率は低い▼病院勤務の産婦人科医では労働時間が長い▼分娩取扱施設は年々減少している―ことから、妊婦が妊婦健診以外で産科以外を受診するケースも少なくありません。

厚労省調査では「38.4%の妊婦が産婦人科以外の診療科を受診している」ことが分かりました。受診理由としては、▼感染症状▼口腔症状▼持病―などが多く、▼内科▼歯科・歯科口腔外科▼耳鼻咽喉科―にかかる妊婦が多いようです。

このように、妊婦の診療を積極的に行う他診療科の医師・医療機関があることが分かりますが(必ずしも十分ではない)、「産科医への情報提供・連携」という点で課題のあることが明確になりました。厚労省調査では、「風邪やインフルエンザ、花粉症などで他診療科にかかった場合、当該医師から産婦人科医に対し、診療情報提供書が書かれる」ケースは少なく、「産婦人科以外の診療科を受診した妊産婦の58%が産婦人科医への情報提供等はなかった」と回答しています。
妊産婦保健医療検討会3 190417
 
こうした状況を踏まえて検討会では、▼より多くの医療機関が妊婦の診療を積極的に行う▼産婦人科医との連携を密にする―ことが重要とし、たとえば次のような方向性を探っています。

▽偶発合併症をもつ妊婦の増加を踏まえ、産婦人科と他診療科との連携拡充が必要

▽妊婦健診時以外にも、妊産婦自身から母子健康手帳を提示してもらい、診療などを進める必要がある(妊娠時には、▼診察時の体勢に制限がある▼薬剤や放射線検査の「胎児への影響」を妊娠週数に応じて考慮する必要がある―ため)

▽産婦人科医の負担軽減のため、「直接出産に関係しない妊産婦の診療」について、地域ごとに連携体制をあらかじめ決め、連携先医療機関を明示しておく(とくに「医療資源の乏しい地域」「分娩施設へのアクセスに困難がある地域」で重要)

▽産婦人科以外の診療科で「妊産婦の風邪等のコモンディジ―ズへの対応」ができるよう、妊産婦の診療への配慮や理解を深めていく必要がある

▽産婦人科における妊産婦の健康管理に当たり「他診療科との情報共有」が必須で、歯科も含めた診療科間の情報共有として、より簡便なもの(スマートフォン・母子健康手帳・お薬手帳等の利用)を考える必要がある

 
 また、産婦人科以外の診療科の医師が妊婦を診療するとなった場合、「妊婦の特性」や「胎児への配慮」などへの理解を進めておく必要があります。この点への知識等が不足していることが「妊婦の敬遠」につながっているとも考えられるためです。

 そこで検討会では、▼産婦人科以外の診療科の医師が妊産婦のコモンディジーズを診療できるような「教育」「研修」の仕組みを構築する▼研修にあたっては、e-ラーニングや動画等を活用するなどして、「受講しやすい」体制とする▼産婦人科以外の診療科が妊産婦の診察をできるよう、「産婦人科医師によるサポート体制」や「診療科間の連携体制」を構築する▼「妊産婦の診察を行う医師」や「妊産婦の診察に積極的な医療機関」を評価する―ことが重要との考えを示しています。

最後の「評価」は、2018年度の診療報酬改定で新設され、現在、凍結されている【妊婦加算】(初診料や再診料などの加算)とも関連し、今後、中医協でその在り方を議論していくことになるでしょう。その際には、「研修や教育を受けていること」や前述の「産婦人科の主治医に情報提供を十分に行っていること」などが重要な要素(要件)の1つとなってきそうです。

もっとも、「研修」等があまりにハードな内容であったり、また研修可能な施設数が限られていては実効性が上がりません。鈴木俊治構成員(日本産婦人科医会常務理事、葛飾赤十字産院副院長)は、「研修受講が当然」となるくらいの受講しやすい環境整備などが必要と指摘。また平川俊夫構成員(日本医師会常任理事)は、「かかりつけ医研修の一環として実施してはどうか」と提案しており、これが実現すれば相当な戦力となることでしょう。

また中井章人座長代理(日本産科婦人科学会代議員、日本医科大学多摩永山病院院長)は、「研修修了者をリスト化し、そのリストに産科医や妊婦自身がアクセスできるようにしてほしい」「とくに妊婦の精神疾患を診てくれる医療機関が分かると現場は非常に助かる」と要望しています。

母子手帳活用した情報提供や、妊婦の自己負担を助成する仕組みも検討せよ

 
また「情報提供」の方法について、正確性などを考慮すれば「診療情報提供書」などを用いることが望まれますが、鈴木構成員や中井章人座長代理(日本産科婦人科学会代議員、日本医科大学多摩永山病院院長)らは「合併症や長期の疾患では診療情報提供書などが必要であろうが、風邪やインフルエンザなどの場合には、医師や患者の負担にも考慮し『母子健康手帳』などを活用した簡易な情報提供も認めるべき」と提言しています。

ただし、この点について厚労省子ども家庭局母子保健課の小林秀幸課長は、「母子健康手帳の活用に当たっては、プライバシーに配慮する必要がある(例えば児の傷病情報などの機微情報も記載されることがある)」点を指摘。例えば「希望者に対しては、母子健康手帳に他診療科からの情報を記載する」などの運用が望ましいと考えられます。

 
 ところで、【妊婦加算】凍結の背景には、患者側の「自己負担が高くなるが、それに見合った医療サービスを受けていない」という意識がありました。この点、新たな診療報酬を作ったとしても「自己負担増」は避けられず、患者側から「反対」の声が出てくる可能性もあります。

優れた医療サービスを受けるためには、それなりの「対価」(自己負担)が必要ですが、診療報酬制度に詳しくない一般の患者・国民には「この構図」が見えにくいことも事実です。

そこで検討会では、平川構成員らから自治体による「妊産婦への医療費助成」制度創設が提案されています。現在、すべての自治体では「子供への医療費助成」が何らかの形で実施されており、これを「妊産婦へも拡大してはどうか」という考えです。こうした仕組みが整えば、「妊娠した女性のほとんどが、自治体にアクセスし、妊婦を自治体サイドで把握できるようになる」でしょう。その場合、「妊産婦健診の受診勧奨」の実効性も高まる(副次的な効果もある)など、魅力的な提案と言えます。ただし、医療費助成は「国が実施を指示する」ものではなく、自治体が独自に判断して実施を決めるものである点には留意が必要です。

妊婦の多くが歯科・口腔外科を受診、妊婦健診でも「歯科」項目追加を検討せよ

 前述のように、妊婦がよく受診する診療科の1つとして「歯科」「口腔外科」があります。▼妊娠中は、「口腔清掃の困難さ」「嗜好の変化」「ホルモンバランスの変化」等により、むし歯や歯周病が進行しやすい▼歯周病は、早産や低体重児出生と関連するとの報告がある―ことから、妊婦の口腔管理は非常に重要と言えます。

 しかし、▼妊婦健康診査の「望ましい基準」告示には、歯科項目の記載がない▼妊産婦に対する歯科健診の受診率は低調である(保健センター等での集団健診を受診者は約7.5%、クーポン券等を活用した歯科診療所等での個別健診受診者は約23.6%)―という状況です。

 このため検討会では、▼妊婦への歯科健診の充実▼産婦人科医師や助産師から妊婦に対する「歯科医療機関受診時にも、母子健康手帳を提示する」といった勧奨―などを求める声が出ています。

なお、凍結されている【妊婦加算】は、歯科診療報酬には設定されていませんが、歯科を受診する妊婦の多さなどを踏まえて、中医協では診療側委員から「歯科における妊婦診療の評価」を求める声が出てきそうです。

「妊娠と薬情報センター」を全医療機関で活用できる体制の整備が必要

また妊婦および産婦への医療提供においては「薬剤」の投与が非常に重要となります。例えば、ある薬を妊婦に投与してよいのか(胎児毒性はないのか)、産婦に投与してよいのか(母乳への影響はないのか)などといった点への配慮です。

この点、妊産婦が医薬品を処方・調剤された場合、「自己判断で内服を中止してしまう」ケースも少なくないと指摘されます。

こうした点を重くみて、国立成育医療研究センター等が中心となり、各都道府県に「妊娠と薬情報センター」の整備が進められています(2017年度に全都道府県に「「妊娠と薬情報センター」の拠点病院を整備」。ただし、▼相談件数は年間2000件程度にとどまっている(2009年以降横ばい)▼センターでの相談対応には人手と時間を要し、「適時の回答」が困難―という課題もあります。また、医薬品の添付文書における「妊産婦への使用に関する内容」と、「学術的に許容されている内容」とにギャップがあることも知られています(「妊娠と薬情報センター」からメーカーに対し、集積データ等を添付文書に反映する取り組みを実施している)。
妊産婦保健医療検討会6 190315
中医協総会(2)2 190410
 
こうした状況を踏まえて検討会では、▼医師が科学的エビデンスに基づいた処方を行えるよう、「妊娠と薬情報センターの活用」や「研修」「処方前からの薬剤師との連携」などを進める▼「妊娠と薬情報センター」に、全ての医師がアクセスしやすい体制を整備する▼医薬品のリスクにナーバスになっている妊産婦へ、配慮した説明ができるよう、医療者側のコミュニケーションに関するトレーニングを行う▼妊娠中の服薬等に関する、妊産婦本人への教育や情報提供も行う―ことが重要との方向を固めつつあります。

産婦人科以外で受診する機会の多い、内科や耳鼻咽喉科では医薬品を処方されるケースが多く、処方医はもちろん、調剤薬局においても、十分な配慮と分かりやすい情報提供がなされることが期待されます。

 
 
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