2024年度からの新専門医制度研修は「現行シーリング」を維持、専門研修制度の中で「子育て支援」をどう行うか―医師専門研修部会
2023.6.23.(金)
2024年度からの「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医については、「募集を遅らせることは好ましくない」との日本専門医機構・基本領域学会の声を踏まえて、「現在のシーリング制度を維持」する—。
また、2018年度からの専攻医採用状況などを踏まえて「シーリングの効果検証」を行い、2025年度以降の制度に反映させていく—。
子育て世代の専攻医への支援を行っている場合には「専攻医の増員」を行える仕組みについて、シーリングとの関係も踏まえて引き続き検討していく—。
6月22日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こうした方針が了承されました。今後、日本専門医機構・基本領域学会では、専門研修プログラム・シーリングなどの設定を行い、今秋(2023年秋)に再び専門研修部会で「2024年度からの専門研修制度」を確定します。
2024年度の専門研修シーリングは、23年度の仕組みを踏襲する
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしました。従前の専門医制度に対する「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの批判を踏まえ、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、認定を行う仕組み」となっています。
ただし、「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。
その1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があり、現在は次のように設定されています。
(1)厚生労働省の試算した「都道府県別・診療科別の必要医師数」に基づいて、「既に必要医師数を確保できている」と考えられる都道府県・診療科ではシーリング(採用数に上限)を設ける
(2)一定要件を満たす場合、「都市部等での1年半未満の研修」+「医師不足地域(医師充足率が80%未満)での1年半以上の研修」を可能とする【連携プログラム】設置を認める
(3)一定要件を満たす場合、「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とする【特別連携プログラム】設置を認める
2024年度からの専門研修については、▼本年(2023年)6月に専門研修部会で方針を固める→▼この方針に沿って機構・基本領域学会で専門研修プログラム・シーリングなどの設定を行う→▼今秋(2023年秋)に「医師の偏在が助長しないか」などの最終確認を行う→▼専攻医募集を開始する(2023年秋から2024年初め)→▼2024年度から研修を始める—というスケジュールで進みます。
6月22日の専門研修部会では、日本専門医機構の渡辺毅理事長(地域医療振興協会東京北医療センター顧問、福島県立医科大学名誉教授)から「2024年度からの専門研修について、『専攻医募集を遅らせるわけにはいかない』との基本領域学会の声を重視し、2023年度の仕組み(上記)を踏襲したい」との考えが示され、了承されました(関連記事はこちら)。
●2024年度の専攻医採用数(都道府県別、診療科別)はこちら
ただし委員からは、▼シーリングなどの効果について「医師偏在の緩和」などにつながっているのか、なども含めて検証すべき(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)▼専門研修でも「平等性」が重要であり、その視点も踏まえたシーリングの効果検証を行うべき(野木渡委員:日本精神科病院協会副会長)▼特別連携プログラムで「1年だけ」地方の病院に来てもらっても、継続して来てもらわなければ意味がない。例えば3人をセットで「1人1年ずつ地方での勤務を行う」などの仕組みも検討すべき(立谷秀清委員:全国市長会会長、福島県相馬市長)▼現在のシーリングは「過去の採用実績」をベースに設定しており、言わば「医師多数の地域の既得権を保護する」ものとなっている。抜本的な見直しが必要ではないか(花角英世委員:新潟県知事)—などの意見・注文が出ています。
このうち「シーリングの効果検証」はすでに日本専門医機構で一部始まっており、例えば▼全国で人口当たりの専攻医数は増加傾向にある▼東京集中は緩和傾向にある▼診療科別にみると「総合診療」「救急科」では増加しているが、「内科」「外科」では苦戦している—などの状況が明らかになっています。今後、渡辺・日本専門医機構理事長は「様々なデータ(厚労省統計や、研究者保有データなど)も加味して、さらなる分析を行い、その結果を2025年度のシーリングに反映させたい」考えを示しています。もっとも渡辺・日本専門医機構理事長は「医師の地域偏在解消には『地域枠』が効果的である。シーリングが、どの程度+αの効果を持つのかの検証を行う」ともコメントしています。
なお、この点について釜萢敏委員(日本医師会常任理事)は、「日本専門医機構には2018年度以降の『医師免許取得者がどこで初期臨床研修を受け、どこで専門研修を行っているか』のデータがあり、その分析をまず進め、早急に傾向を公表してほしい」「日本専門医機構で詳細な分析を行うことは困難であろう、多くの研究者が日本専門医機構のデータを活用した分析を行える環境を整えるべきで、厚生労働省もそれに向けた支援を行ってほしい」との2点の要望を行いました。前者については、「本年度末(2023年度末)までに一定の研究結果」が示される見込みです。しかし、後者については「公的な性格を持つとはいえ、民間団体である日本専門医機構のデータを国(厚労省)に移管し、そのデータを広く利活用可能とする」ことには、法制度面・予算確保面などさまざまな点で高いハードルがあることから、「今後の検討課題」に位置づけられるでしょう。
また、特別連携プログラムについては「一定の効果がある」と渡辺・日本専門医機構理事長は評価していますが、「現在は『医師少数区域』(主に2次医療圏)単位で、1年以上赴任することを条件としており、子供の教育環境等を考慮して二の足を踏んでいる専攻医も少なくないと考えられる。『医師少数県』単位での赴任とすることで、より大きな『医師偏在緩和』効果が出ると考える」との考えも示しています。例えば、東京から医師不足県に専攻医を派遣することで、当該県の「医師総数」を増やし、その「増えた医師」の中で医師少数区域への医師派遣を行う(いわゆる「玉突き」というイメージです。
この考えに対し立谷委員は「反対である。玉突きを生じさせるには、それを担保するための仕組みが必要であり、それとセットでなければ『大学医学部所在地付近のミニ一極集中』が生じるだけである」と指摘しました。立谷委員は「医師少数県の中にも、医師が潤沢な地域と医師が不足する地域がある。医師多数県の中にも医師が不足する地域がある。ミニ一局集中を招く仕組みは好ましくない」との考えを示しています。
この点については、渡辺・日本専門医機構理事長は「医師偏在の解消には、『医師を受け入れる側(都道府県など)の努力』も必要である。特別連携プログラムは『医師を派遣する、受け入れるチャンス』を設けるものであり、そのチャンスをどう生かすかは受け入れ側自治体にかかっている。例えば『専攻医だけでなく、指導医をセットで受け入れる』など研修環境の整備を積極的に進めている自治体もある」とコメントしています。
特別連携プログラムは「シーリングの外」で設定され、例えば都市部でシーリングにより「x名まで」という上限が設定されたとしても、そこに「+α名」の専攻医採用が可能となります。このため、一見「都市部への専攻医集中が進んでしまう」ようにも思えます。しかし、「都市部での研修を希望する若手医師の希望を無視することは困難である」「都市部での研修医が増えても、その3分の1は医師不足が極めて顕著な地域で研修を行うため、その分、医師偏在解消効果につながると期待できる」との考えの下に設定されました(関連記事はこちらとこちら)。今後、「玉突きの制度化とセットでの、特別連携プログラムの見直し(県単位での派遣)」なども今後の検討テーマになってくるでしょう。
また、野木委員の指摘する「平等性を担保したうえでの、医師の地域・診療科別偏在の是正」を実現するためには「マッチング制度の導入」が効果的と思われます。この点について渡辺・日本専門医機構理事長は「マッチング導入は可能であるが、47都道府県・19領域について、どの程度の採用数とするのかが精緻に設定することが非常に難しい」との考えを示しています。「地域別・診療科別の必要医師数」を厚労省が推計していますが、関係学会や自治体からは「さらなる精緻化が必要である」と要望しており、マッチング制度の検討・導入はまだまだ先のこととなりそうです。
子育て支援に力を入れる病院で、専攻医採用枠を広げるべきか?
また、シーリング制度に関連して「子育て支援加算」という宿題事項があります。「子育て世代の支援を重点的に行う(育児と仕事を両立できる職場環境が整っている医療機関で研修を行う)場合に、専攻医採用枠の増加(加算)を認める」という提案です。
これまでに専門研修部会では「医師偏在を助長する可能性がある」「要件が曖昧である」などの問題点があり継続審議とされています(関連記事はこちら)。
この点、日本専門医機構では「要件の精緻化」に向けた研究・検討を進めており、これまでに下図のような要件案が浮上してきていることが報告されました。
こうした検討状況に対しては、「施設(病院)単位の加算となるイメージのようだが、それが『都道府県・診療科単位のシーリング』とどう関係してくるのかが見えない。子育て支援に力を入れる施設では、指導医のキャパシティを超えて専攻医採用を可能とするのだろうか」(牧野委員)、「子育て支援は極めて重要である」との点で委員の意見は一致したものの、「シーリング制度と関連づけることが理解できない。院内保育実施などの要件を見ると大病院が有利になり、都市部のシーリング逃れに用いられてしまう」(野木委員、花角委員ら)などの疑問の声が出ています。
ただし、片岡仁美委員(京都大学医学教育・国際化推進センター教授)は「専門研修制度の中でも『子育て支援』に向けて何かできないかという議論を行うことが非常に有用であり、前向きに検討していくべきである。なお、加算の要件については『中小規模の病院が、地域連携して子育て支援を行う』点への配慮や、『病児保育体制』はハードルが高く、他の要件とのバランス確保などを考える必要がある」と指摘しています。
専門研修部会では、これまでも「医師偏在の解消」や「子育て支援」などの諸問題を「すべて専門研修制度の中だけで解決しよう」というイメージで議論が進みがちです。このため議論が拡散してしまいますが、「専門研修制度の中ですべての問題を解決する」ことは不可能せす。「専門研修制度の中でも手当てを行うことは可能である」との視点で議論が進むことに期待が集まり、厚生労働省医政局維持課の山本英紀課長もこの点を指摘しています。「医師の資質向上」という専門研修制度の最大の目的を損なわない範囲で、「医師偏在解消が進まないように、少しでも解消できるような仕掛けはどのようなものか」「子育て支援につながるような仕掛けとして何が考えられるか」を探っていく必要があります。
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