専門医を目指す研修プログラムに「どの施設で、どの程度の時間外労働が生じるのか」など明示を―医師専門研修部会
2022.2.3.(木)
2024年度から勤務医に「新たな時間外労働上限」が適用される。新専門医資格の取得を目指す専攻医が「この研修プログラム・病院において、時間外労働の状況はどうなのか」を把握し、安心して研修先を選択できるよう、「2024年度から研修をスタートさせる研修プログラム」以降は、「どの施設(病院)で、どの程度の時間外労働が発生すると想定されるのか、また前年度の時間外労働発生状況は実際にどうであったのか」を明示する―。
2月2日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こうした方針が固められました。今後、厚生労働省と日本専門医機構で細部を調整します。
また専門研修部会では「専攻医が育児休業等を取得しやすくする環境整備」に向けた議論も開始しました。
目次
専門研修を受ける専攻医の研修先選択に資するよう、施設ごとの時間外労働状況を明示
2024年4月から、勤務医に新たな時間外労働規制(原則となるA水準では年間960時間以内、救急医療などのB水準・研修医などのC水準などでは例外的に同じく1860時間以内)が適用されるため「医師の働き方改革」が急務となっています。
このうち、新専門医資格の取得を目指す専攻医や臨床研修医を対象とする「C1水準」においては、専攻医等が勤務先病院を選択しやすくするために「病院や研修プログラムが、想定される時間外労働はどの程度か、過去の時間外労働の実際はどの程度であったのか」を明示することが求められます。運用方法の大枠は、これまでに次のように示されています(関連記事はこちら)。
【C1水準】の運用
▼臨床研修病院等が、直近の研修医等の労働実態を踏まえて、自院の研修プログラムの中で「研修医等に関する時間外労働の上限(X時間:1860時間以内で設定する)」を明示し、都道府県知事にC水準医療機関としての特定を受ける
↓
▼病院と勤務医等との間で36協定を締結する(36協定の中で「研修医等については、X時間の労働を可能とし、連続勤務28時間以内・勤務時間インターバル9時間以上などの健康確保措置を図る」ことを明示する)
↓
▼病院側の条件(時間外労働上限X時間など)を踏まえて研修希望医等が応募し、採用され、業務(診療)を開始する
↓
▼勤務実態が、条件(時間外労働上限X時間など)と乖離する場合には、各制度の中で是正(臨床研修病院の指定取り消しなど)し、健康確保措置の未実施については、都道府県知事が是正する(C水準の特定取り消しなど)
2月2日の専門研修部会では、病院や研修プログラムにおいて「想定される時間外労働等」の明示をどのように、いつから行うこととすべきかを議論しました。
まず「明示の方法」です。病院等が思い思いに(ばらばらに)明示を行ったのでは、医師側が「どの病院が、自分が研修を行うにマッチしているか」を比較検討することができなくなります。そこで厚労省は次のような方針を示しました。
▽基幹施設のC1水準の要否に係わらず、専門研修プログラム内に▼時間外・休日労働の想定上限時間数(年単位換算)▼過去の時間外・休日労働時間の実績(年単位換算)—を基幹施設と連携施設ごとに「一覧表にして明示」する
下表が、具体例です。この研修プログラムではX病院が基幹病院となり、イ・ロ・ハ・ニの各連携病院をローテーションして必要な症例を経験することになります。その際、専攻医が「どの病院で、どの程度の時間外労働が発生するのか」を一目で把握できるように、個々の病院において「当該研修期間において生じると想定される時間外労働の時間」を明示します。その際、時間外労働の時間は「年間換算される」点に少し注意が必要です。
上表では「イ病院」(連携施設)では、時間外労働の時間は「900時間」と示されていますが、これは「イ病院において●●症例を◆数経験するためには月75時間の時間外労働が必要と想定され、1年間(12か月)に換算すると900時間の時間外労働が必要なことを意味する」と理解することができます。同様に各施設について見てみると、次のような理解が可能です。
▽X病院:必要な症例を経験するためには月133時間強程度の時間外労働が必要(年単位換算では133×12→1600時間)
▽イ病院:必要な症例を経験するためには月75時間程度の時間外労働が必要(年単位換算では75×12=900時間)
▽ロ病院:必要な症例を経験するためには月125時間程度の時間外労働が必要(年単位換算では125×12=1500時間)
▽ハ病院:必要な症例を経験するためには月8時間強程度の時間外労働が必要(年単位換算では8強×12→100時間)
▽ニ病院:必要な症例を経験するためには月133時間強程度の時間外労働が必要(年単位換算では133強×12→1600時間)
このため、例えば「X病院で1年間、イ病院で6か月、ロ病院で6か月、ハ病院で6か月、ニ病院で6か月」という研修プログラムが組まれた場合には、各病院における総時間外労働時間はX病院:1600時間、イ病院:450時間(75×6)、ロ病院:750時間(125×6)ハ病院:50時間(8強×6)、ニ病院:800時間(133強×6)となります。
繰り返しになりますが、各病院の想定時間外労働時間は「研修を行う期間の時間外労働時間を1年間に換算したもの」であり、各病院における「実際の年間時間外労働時間を示すものではない」という点に留意が必要です。上記イ病院の900時間は、「当該研修プログラムにおいて、イ病院で研修を行う期間に発生する時間外労働時間を1年間に換算したもの」にすぎず、イ病院の平均的な時間外労働時間が「年間900時間」であるわけではありません。
また一覧には、時間外労働時間のみならず「想定される当直・日直の回数」や「前年度の専攻医における時間外労働実績」も記載することが求められます。専攻医サイドが病院選択をする際に重要な情報です。
なお、専攻医について「年間960時間を超える時間外労働が必要となる」場合には、原則として「C1水準の指定」を都道府県から受けなければなりません。ただし、専攻医に「自院では、一覧に示されている内容と異なり、B水準(救急病院などが対象)を専攻医にも適用します」と分かりやすく明示していれば、必ずしも「C1水準」指定を受けず、「B指定」のみで専攻医受け入れが可能であることが厚労省から示されました。
しかし、専攻医は「上述した一覧」を見て研修プログラム・研修先病院を選択することになります。その際に「自院の研修内容は、一覧とは違います」などと示す病院が、専攻医に選択されるのか(病院側から見れば専攻医が応募してくれるのか)となると、大きな疑問を感じざるを得ません。「労働実態が不明な病院は選択しない」と考える専攻医が多いでしょうし、また「明示内容と実態が異なる」と不信感を持つ専攻医も出てくる可能性があります。病院サイドは、「応募する側(専攻医や研修医)の視点」に立って「B・連携B・C1指定のどれを受けるべきか」を考えることが重要です。
「2024年度から専門医研修を始める」プログラムから、時間外労働状況など明示
また、新たな時間外労働上限が適用されるのは「2024年4月から」となるため、上述した明示は「2024年度から新たに専門研修を開始する研修プログラム」以降に適用されます。
「2024年度から新たに専門研修を開始する研修プログラム」については、▼2023年夏ころに研修プラグラムを基本領域学会・日本専門医機構で了承する▼2023年10月頃から応募を開始する―というスケジュールが組まれるため、各研修プログラム・病院では「遅くとも2023年夏ころ」までに、上述した「一覧」を作成する必要があります。
この点、多くの病院では「勤務医の労働時間管理すら十分に行えていない」のが実際であり、また「宿日直許可取得」や「36協定締結」もしっかりと行っていない病院も少なくないようです。「専攻医や研修の採用」という側面からも「労働時間の把握、宿日直許可取得、36協定締結、労働時間短縮」といった働き方改革を早急に進める必要があり、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)はこの点を強調しています。
厚労省は「各施設における既存の専門研修プログラム/カリキュラムが、C1水準指定を受けることとなった場合は、2024年度以降、当該プログラム/カリキュラムに沿って研修を継続する医師と施設との間で36協定の締結について専攻医・医療機関の双方に自己点検してもらう」ことが必要であるとし、自己点検の要請・周知を日本専門医機構を通じて基本領域学会等へ行っていく考えも示しました(現在、省内で「36協定」の様式をB・連携B・C1・C2のそれぞれに区分するような見直しを行っている)。
こうした内容は概ね了承されており、今後、詳細を厚労省と日本専門医機構で詰めていくことになります。2024年4月の新制度適用までに時間がない(2023年度からはB・C指定等を行う必要があり、各病院では2022年度中には指定のベースとなる医師労働時間短縮計画策定に着手しなければならない)ため「早急に詳細を詰める」考えが厚労省担当者から示されています。
専攻医が育児休業などを取得しやすくなるような環境整備の検討をスタート
なお、2月2日の専門研修部会では「専攻医が育児休業等を取得しやすくする環境の整備」も議題にあがりました。
育児休業などの取得推進を目指す「育児・介護休業法の改正」が行われ、法案審議を行った国会では「臨床研修医や専門医を目指す医師など、勤務先を短期間で移らざるを得ない者が育児休業を取得しやすくなるよう必要な方策を検討する」ことを附帯決議しました。いわば「法律を施行する行政(ここでは厚労省)への宿題」という位置づけです。
従前、有期雇用労働者が育児休業を取得するためには、例えば「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である」との要件があり、ローテーション研修を受ける研修医・専攻医が法定の育児休業を取得することは大変困難でした。しかし、この要件が改正法で廃止されることから、研修医・専攻医でも法定の育児休業を取得しやすい環境が整えられます。
厚労省では、上記の附帯決議を踏まえ「さらに育児休業を取得しやすい環境を整備する」ことが必要と考え、専門研修部会に議論を要請しました。すでに臨床研修医に関しては、例えば▼研修プログラムの中に「妊娠・出産・育児に関する施設および取り組み」を記載する▼臨床研修病院の指定に当たり「妊娠・出産・育児に関する施設および取り組み」を記載する▼育児休業などを取得した研修医数の報告を求める―などの対応が固められつつあり、専攻医・新専門研修についても、これらを参考にした対応が検討されます。
この点、「専攻医サイドに、どういった希望をもっているのかヒアリングを行ってはどうか」などの提案が出ており、引き続き、専門研修部会で議論が行われます。結論を出す期限は特に定められていませんが、「育児休業を取得したい」との専攻医の期待に応えられるよう「なるべく早く結論を出し、実行に移したい」と厚労省担当者は考えています。
【関連記事】
高度技能獲得目指すC2水準、乱立・分散防ぐため当初限定をどこまですべきか―医師働き方改革推進検討会(2)
医療機関の働き方改革状況、「5段階評価」でなく、時短への取り組みなど「定性的に評価」する方向へ―医師働き方改革推進検討会(1)
高度技能獲得を目指すC2水準、「長時間の手術等伴う保険外の医療技術」などが該当―医師働き方改革推進検討会(2)
B水準等指定の前提となる「労務環境等の評価」、各医療機関を5段階判定し結果を公表―医師働き方改革推進検討会(1)
連続勤務制限・インターバル確保等で勤務医の働き方は極めて複雑、シフト作成への支援を―医師働き方改革推進検討会
医師働き方改革に向け「副業・兼業先も含めた労働状況」の把握をまず進めよ―医師働き方改革推進検討会(2)
医師時短計画作成は努力義務だが「B水準等指定の前提」な点に変化なし、急ぎの作成・提出を―医師働き方改革推進検討会(1)
医療制度を止めたオーバーホールは不可能、制度の原点を常に意識し外来機能改革など進める―社保審・医療部会
医療機能の分化・強化、当初「入院」からスタートし現在は「外来」を論議、将来は「在宅」へも広げる―社保審・医療部会
公立・公的病院等の再検証スケジュールは新型コロナの状況見て検討、乳がん集団検診で医師の立ち合い不要に―社保審・医療部会(2)
紹介状なし患者の特別負担徴収義務拡大で外来機能分化は進むか、紹介中心型か否かは診療科ごとに判断すべきでは―社保審・医療部会(1)
2024年度からの「医師働き方改革」に向け、B・C水準指定や健康確保措置の詳細固まる―医師働き方改革推進検討会
医師の働き方改革論議が大詰め、複数病院合計で960時間超となる「連携B」水準に注目―医師働き方推進検討会
医師働き方改革の実現に向け、厚生労働大臣が国民全員に「協力」要請へ―医師働き方改革推進検討会(2)
地域医療確保のために「積極的に医師派遣を行う」病院、新たにB水準指定対象に―医師働き方改革推進検討会(1)
医師労働時間短縮計画、兼業・副業先の状況も踏まえて作成を―医師働き方改革推進検討会
医師働き方改革の実現に関し大学病院は「医師引き上げ」せず、地域医療機関の機能分化推進が鍵―厚労省
2018年の【緊急的な取り組み】で超長時間労働の医師はやや減少、残業1920時間以上は8.5%に―厚労省
長時間勤務医の健康確保の代償休息、「予定された休日の確実な確保」でも良しとすべきか―医師働き方改革推進検討会
B・C水準指定の枠組みほぼ固まるが、医療現場の不安など踏まえ「年内決着」を延期―医師働き方改革推進検討会
医師の兼業・副業で労働時間は当然「通算」、面接指導等の健康確保措置は主務病院が担当―医師働き方改革推進検討会
B・C指定に向け、医師労働時間短縮状況を「社労士と医師等」チームが書面・訪問で審査―医師働き方改革推進検討会
高度技能習得や研修医等向けのC水準、「技能獲得のため長時間労働認めよ」との医師の希望が起点―医師働き方改革推進検討会(2)
地域医療確保に必要なB水準病院、機能や時短計画、健康確保措置など7要件クリアで都道府県が指定―医師働き方改革推進検討会(1)
2021年度中に医療機関で「医師労働時間短縮計画」を作成、2022年度から審査―医師働き方改革推進検討会(2)
長時間勤務で疲弊した医師を科学的手法で抽出、産業医面接・就業上の措置につなげる―医師働き方改革推進検討会(1)
1860時間までの時間外労働可能なB水準病院等、どのような手続きで指定(特定)すべきか―医師働き方改革推進検討会
医師・看護師等の宿日直、通常業務から解放され、軽度・短時間業務のみの場合に限り許可―厚労省
上司の指示や制裁等がなく、勤務医自らが申し出て行う研鑽は労働時間外―厚労省
医師働き方の改革内容まとまる、ただちに全医療機関で労務管理・労働時間短縮進めよ―医師働き方改革検討会
研修医等の労働上限特例(C水準)、根拠に基づき見直すが、A水準(960時間)目指すわけではない―医師働き方改革検討会(2)