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新専門医制度、「シーリングの遵守」「迅速な情報提供」「カリキュラム制の整備」など徹底せよ―医師専門研修部会

2018.10.17.(水)

 来年度(2019年度)の新専門医を目指す専攻医募集に当たって、日本専門医機構や関係基本領域学会では、「迅速な情報提供」「事務局機能の強化」「シーリングの遵守」「規定に厳密に則ったプログラム認定」「規定に厳密に則ったカリキュラム制の採用」などを行う必要がある―。

 10月15日に開催された、医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)でこういった考え方が概ね了承されました。文言修正などを経て「厚生労働大臣の意見」として日本専門医機構に通知されます。機構では、この意見を踏まえて制度修正等を行い、近く、専攻医募集を正式に開始する考えです(関連記事はこちら)。

10月16日に開催された、「平成30年度 第2回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会」

10月16日に開催された、「平成30年度 第2回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会」

 

新専門医制度に対し、都道府県の意見なども踏まえた「厚生労働大臣の意見」を提示

 医師偏在是正を大きなテーマに掲げた改正医療法・医師法で、新専門医制度について「各都道府県の地域医療対策協議会の意見を踏まえて、厚生労働大臣が新専門医制度の内容に関して意見を述べる(日本専門医機構は、意見を反映させる努力義務を負う)」仕組みが創設されました。

 地域医療対策協議会には、▼都道府県▼市町村▼医師会▼病院団体▼基幹病院等▼大学―などが参加し、地域医療確保の観点で新専門医制度等に関して協議を行い、意見・要望を都道府県・厚生労働大臣を通じて日本専門医機構に伝えることができます。
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 10月15日の専門研修部会では、都道府県の意見・要望を踏まえ、例えば次のような内容を日本専門医機構や関係学会に伝えてはどうか、との意見・要望案が厚生労働省から提示されました。

【日本専門医機構に対して】

●医療提供体制の確保

▽都道府県の意見とりまとめ期間を確保するため、早急に専攻医募集スケジュールを公表し、総合診療科も含め全診療科のプログラム情報を厚労省に提出する時期を明らかにする。都道府県が速やかに議論できるよう、連携病院の情報も含む各研修プログラムのすべての情報をまとめた資料を提示する

▽各専門研修プログラム整備基準および専攻医の「都道府県」「プログラム」「診療科」ごとの▼定員▼採用人数▼シーリング数—、サブスペシャリティに関する制度など、決定した事項について毎年早急に公表し、専攻医等への速やかな周知に努める

▽厚労省、都道府県、学会、専攻医を目指す医師等からの問い合わせに適切に対応するため、専用担当者を置くなど「事務局機能」を早急に強化する

▽医師の大都市圏集中について、基幹病院ごとに専攻医のローテート状況とプログラム等を調査し、エビデンスに基づいた検証を行い、2018年度中に今後の専攻医の動きの予測とともに公表する

▽シーリングについて、現在行われている診療科では、専攻医集中防止を前提として継続する。また、カリキュラム制の専攻医も「大都市圏で主に研修を行う場合には、大都市圏の採用人数に含む」ことを明確化し、2019年度の募集から厳密に適用する

▽日本専門医機構で検討を進めている新たなシーリングの在り方についての検討状況を踏まえ、各専門研修プログラムが都市部以外の地域に貢献している程度を計る統一的な指標を作成し、より適切なシーリングの方針を検討し、2020年度の募集に反映する

▽「連携病院に3か月以上勤務しないプログラム」が存在するなど専門医制度整備指針を遵守していないプログラムが散見される。各学会から提出されたプログラムが専門医制度新整備指針、運用細則等に則っているか厳正に審査し、即していないプログラムについては認定を行わない

▽連携病院で採用した専攻医については、専攻医の希望があった場合、できる限り長期間連携病院における研修期間を設定するなどの柔軟なプログラムを着実に整備し、また専門研修指導医が不在の病院等においても、専門研修プログラム中に研修が行えるようにするなど、より地域の事情に応じた研修プログラムの運用を可能とするよう、各学会に周知する

●研修機会確保

▽特に地域枠医師や地域医療に資することが明らかな場合、出産、育児、介護、留学等相当の合理的な理由がある場合に柔軟な研修カリキュラム制による研修を行うよう早急に各学会に通知する

▽総合的に診療できる医師を各都道府県で幅広く養成できるよう体制を整える

▽地域枠医師が、各都道府県内の専門研修プログラムに優先的に採用され、「他の都道府県基幹病院による採用の制限」などの仕組みを整える

●日本専門医機構から各学会へ実施徹底を指示する事項

▽日本専門医機構が定める専門医制度新整備指針、運用細則に厳正に則った研修プログラムを用意する

▽大都市圏におけるシーリング数を厳密に遵守する

▽シーリングをカリキュラム制の専攻医についても、主に研修を行う地域の定員に含んだ上で定員数を遵守する

▽各病院のプログラムの募集開始時期が、日本専門医機構が定める募集期間より早くならないようにする

▽次年度の研修プログラムの日本専門医機構への登録は期限までには必ず行う

【関係学会に対して】

▽各都道府県の実情を踏まえた専門研修プログラムの策定

▽シーリングの厳正な遵守

▽カリキュラム制の整備

▽専門研修プログラム整備指針のホームページ上での公開

 
 こうした内容に対し委員からは明確な反対意見は出ていません。もっともいくつかの注文は出ており、それを踏まえた修正を行い、近く日本専門医機構と関係基本領域学会に対して「厚生労働大臣の意見」として提示されます。日本専門医機構等は、この意見を踏まえた制度修正などを行った(努力義務)上で、専攻医募集を開始します。

 委員から出された注文としては、例えば「カリキュラム制への移行を柔軟に認めるべき。出産や介護など以外にも、指導教官のパワーハラスメントなども移行理由となる」(立谷秀清委員:全国市長会会長、相馬市長)、「都道府県からの問い合わせ等に回答する事務局員を、いつまでに何名配置するなど、目標を立てるなどした上で、日本専門医機構の事務局体制を強化すべき」(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「地域医療の確保においては、専門医資格の『更新』が極めて重要となるため、体制等を十分に整えてほしい」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)といった内容が目立ちます。

 これに対し、参考人として出席した日本専門医機構の寺本民生理事長(帝京大学・臨床研究センター長)は、▼カリキュラム制について、各基本領域学会で受け止め方に差があるので、日本専門医機構と学会で相談し一定の要件を定める。2019年度からはプログラム制とカリキュラム制とを専攻医登録段階で分けるようにシステム改修する予定である▼事務局体制の強化に努めており、事務局長配置も検討している▼更新負担の軽減に向け、e-ラーニングなどの整備も検討している―と返答。

 さらに厚労省医政局医事課の佐々木健課長は、「国も、日本専門医機構と連携して情報提供するなどの支援を行っていく」との考えを示しています。

総合診療専門医、地域の「総合的な診療能力を持つ医師」のリーダー的存在に

 また10月15日の専門研修部会では、より根本的に「専門医制度の在り方をどう考えていくか」という議論も行われています。

 そもそも専門医制度の見直しは、「学会が乱立し、各々で専門医資格を授与しているため、専門医の質が担保されているのかが懸念され、国民にとって非常に分かりにくいものとなっている」という点への反省から行われたものです。このため新専門医制度では、「専門医の質の確保」と「国民への分かりやすさ」とを両立することを主眼とし、▼18領域+総合診療専門医の基本領域を1階部分とし、その上に基本領域と関係の深いサブスペシャリティ領域(2階部分)を設ける▼専門医の質を担保するために、専門研修プログラムは、日本専門医機構の策定した整備指針に則って、学会が責任をもって作成する▼専門医の認定は、日本専門医機構と学会が共同で行う―などといった制度設計がなされています。

ただし、「質の確保」を重視するあまり、研修を実施する施設(病院等)の要件が厳しくなり、地域医療が確保できなくなる(例えば指導医の基幹病院への移行など)との懸念もあり、「5大都市圏(東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県)では、外科などを除き、専攻医の定員上限(シーリング)を設ける」「各都道府県において、地域医療の関係者が集う『地域医療対策協議会』を設け、新専門医制度への意見・要望を吸い上げ、厚生労働大臣の意見として、それを日本専門医機構等に伝える」などの配慮もなされています(厚生労働大臣の意見については前述のとおり)。

この点、10月15日の専門研修部会では、「総合診療専門医」について様々な角度から議論が行われました。高齢化が進行し、複数の疾病を抱える患者が増加していることなどを背景に、臓器別の専門医とは別に、「患者を総合的・全人的に診療できる医師」の養成が期待され、新専門医制度では「総合診療専門医」を基本領域の1つに位置付けました。ただし「総合診療専門医」については、現在、養成が進んでいる最中であることも手伝い、「定義が明確でない」「どのような医師像なのかが曖昧である」といった指摘もあります。

もっとも、総合診療専門医についても2018年度から養成が始まっており、ここでゼロからの議論をしなおせば、再度、医療現場は混乱してしまいます。「地域で『総合的な診療能力を持つ医師』に何が求められ、その中で、総合診療専門医はどのような役割を果たすのか、『総合診療専門医ではないが、総合診療能力を持つ医師』との役割分担をどう考えるか」といった視点で議論を行うべきでしょう。この点、専門研修部会でも「地域医療を確保するためには、全医師の2割程度が総合的な診療能力を持つ必要があり、とても総合診療専門医だけでは対応・カバーしきれない。総合的な診療能力の確保に向けて、日本病院会でも『病院総合医』の養成を始めている」(牧野委員)、「総合診療専門医が、地域の『総合的な診療能力を持つ医師』のリーダー的存在となることを期待している」(寺本参考人)といった意見が出ています。将来的に、今一度「総合的な診療能力を持つ医師」に関する議論をしていく必要があるかもしれません。
 
 
 
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