東京都における2019年度の専攻医定員、外科など除き5%削減を決定―日本専門医機構
2018.9.25.(火)
東京都においては、2019年度の専攻医(新専門医資格の取得を目指す後期研修医)定員を▼内科▼小児科▼皮膚科▼精神科▼整形外科▼眼科▼耳鼻咽喉科▼泌尿器科▼脳神経外科▼放射線科▼麻酔科▼救急科▼形成外科▼リハビリテーション科―の各領域について、今年度(2018年度)定員から「5%削減」する。ただし、東京都から関東近県への医師派遣への影響なども考慮し、当面、この定員を維持し、今後、3-4年程度かけて専攻医の動向を分析した上で、改めて定員について検討を行う―。
日本専門医機構の寺本民生理事長(帝京大学・臨床研究センター長)は9月25日に記者会見を行い、こうした点を決定したことを発表しました(関連記事はこちらとこちら)。
なお専攻医登録(募集)スケジュールについては、都道府県からの要望等を踏まえる必要もあり、まだ正確な期日は明らかにされていません(10月中旬から募集開始予定)。
2019年度の定数上限は当面維持し、3-4年後に専攻医動向の実態を見て見直しを検討
今年度(2018年度)から新たな専門医制度が全面スタートしました。従前、専門医資格の授与は各学会が独自に行っていましたが、さまざまな学会が乱立するに至り、専門医の水準や内容が不明確という問題が浮上してきました。
そこで、専門医の質を担保し、かつ国民に分かりやすい資格とするために、2018年度から▼専門医の質の担保(研修プログラムなど)は、各学会が責任を持つ(もっとも日本専門医機構の定める方針に則ることが大前提)▼専門医資格の授与は日本専門医機構と関係学会が協働で行う―ことなどを柱とする新専門医制度がスタートしたのです。
しかし、地域医療の現場からは「質の担保を追求するあまり、専門医を養成する基幹施設などになるためのハードルが高くなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されるのではないか」といった強い指摘があり、日本専門医機構・都道府県・厚生労働省が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ仕組み」を設けています。その1つとして、「5都府県(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)において、▼外科▼産婦人科▼病理▼臨床検査—の4領域を除き、専攻医の募集定員を過去5年の後期研修医の採用実績数などの平均値以下に抑える」といったルールが設定されました(シーリング)(関連記事はこちら)。
この点、今年度(2018年度)の採用実績を見ると、東京都では「初期研修医1350名」に対し、「専攻医1825名」となり、その差475名が「地方から東京」へ流れていることが分かり、各方面から「東京への専攻医集中が助長されているではないか」との批判が出ています。日本専門医機構では、こうした批判に応えなければならないとし、来年度(2019年度)のシーリング(専攻医の定員上限)について、▼東京都では、2018年度採用実績から5%削減する▼東京都以外の4都市(神奈川、愛知、大阪、福岡)では、2018年度と同じ考えとする▼外科・産婦人科・病理・臨床検査—の4領域はシーリングから除外する―方針を固めました。
今般、さらに日本専門医機構と関係学会が協議を行い、東京都における2019年度のシーリングを次のように設定することが決まりました。基本領域(診療科)によって若干異なりますが、2018年度に比べて「概ね5%」の削減を目指したものです(1人未満の端数は切り上げとなっている)。例えば、脳神経外科では「3.4%減」にとどまっており、「5%よりもかなり甘い」と思われがちですが、もう1名定員を削減(3名削減)した場合「5.8%減」となってしまうことから、2名減にとどめているものと考えられます。
▽内科:2018年度・567名 → 2019年度・541名(26名、4.6%減)
▽小児科:2018年度・130名 → 2019年度・124名(6名、4.6%減)
▽皮膚科:2018年度・92名 → 2019年度・88名(4名、4.3%減)
▽精神科:2018年度・101名 → 2019年度・96名(5名、5.0%減)
▽整形外科:2018年度・122名 → 2019年度・117名(5名、4.1%減)
▽眼科:2018年度・78名 → 2019年度・75名(3名、3.8%減)
▽耳鼻咽喉科:2018年度・61名 → 2019年度・58名(3名、4.9%減)
▽泌尿器科:2018年度・52名 → 2019年度・50名(2名、3.8%減)
▽脳神経外科:2018年度・58名 → 2019年度・56名(2名、3.4%減)
▽放射線科:2018年度・58名 → 2019年度・56名(2名、3.4%減)
▽麻酔科:2018年度・116名 → 2019年度・111名(5名、4.3%減)
▽救急科:2018年度・69名 → 2019年度・67名(2名、2.9%減)
▽形成外科:2018年度・55名 → 2019年度・53名(2名、3.6%減)
▽リハビリテーション科:2018年度・22名 → 2019年度・21名(1名、4.5%減)
▽上記領域の合計:2018年度・1581名 → 2019年度・1513名(68名、4.3%減)
寺本理事長は、「東京都への専攻医集中」という指摘には応えなければならない、とした一方で、▼「医療資源・症例の豊富な東京都での研修を望む専攻医が多い」という実態がある▼医療資源・症例が豊富であり、質の高い研修が可能なことも事実である▼「東京都から近隣県(特に北関東)への医師派遣」への影響も考慮する必要がある―ため、「当面は上記の定員上限を維持し、今後、3-4年かけて専攻医の動向実態を詳しく分析した上で、定員上限の在り方を検討する」との考えも明らかにしました。そこでは、診療科(基本領域)ごとの偏在是正に向けて、新専門医制度の枠組の中で何ができるか、という視点、さらには「本当にシーリング設定は正しいことなのか」という視点での検討も行われることでしょう。
例えば、「年月日単位で、専攻医がどの医療機関に所属しているのか」を把握し、東京都から近隣県等へどの程度の人数が、どの程度の期間、派遣されているのかを3年間(多くの研修プログラムの研修期間)、詳細に追跡し、その後、必要な検証等を行った上で、改めて「専攻医の定員上限(シーリング)」はどうあるべきかを考えることになります。もちろん、毎年度の登録状況を踏まえた微修正などは否定されるものではありません。
このためには、専攻医の登録システム等を、「ある専攻医が、実際にどの医療機関に勤務しているのか(派遣されているのか)」を追跡できるように改修する必要があります。月の半ばに他医療機関に派遣されるケースもある(例えば9月14日までは基幹のA病院で研修を受け、15日から3か月間、地方のB病院に派遣されるなど)ことから、寺本理事長は「できれば『年月日』単位で追跡できるようなシステムが望ましい」と付言しています。
関連し、来年度(2019年度)からの登録システムでは、▼研修が通常のプログラム制(年次ごとに定められた研修プログラムに則って研修を行う仕組み)なのか、妊娠・出産・介護・留学などのためにカリキュラム制(年限や研修施設を定めず、一定の症例数などを経験することで専門医試験の受験資格を得られる仕組み)とならざるを得ないのか▼地域枠出身の医師であるか否か―を選択できるようになる見込みです。
ところで、気になる専攻医の募集スケジュールですが、寺本理事長は「10月中旬から募集開始を目指す」と述べるにとどめています。この背景には、新専門医制度に対する「都道府県の地域医療対策協議会(いわば「地域医療の課題を吸い上げる場」)からの意見・要望」があります。厚生労働省は9月28日と10月中旬に「医道審議会・医師分科会・医師専門研修部会」を開催し、そこでは都道府県の地域医療対策協議会からの意見を踏まえ、新専門医制度の改善に向けた議論が行われます。その議論の行方によっては、来年度(2019年度)の研修内容や枠組みに大きな見直しが迫られる可能性も否定できないのです。寺本理事長は「●月●日に募集開始と宣言した後に、一定の制度・枠組の見直しが要望され、日程変更をせざるを得なくなれば、医師の間に大きな混乱を招いてしまう。それは避けなければならない」とコメントしています。
【関連記事】
2019年度新専門医研修、「東京のみ」「東京・神奈川のみ」で完結する研修プログラムの定員を削減―日本専門医機構
2019年度、東京都の専攻医定員数は2018年度から5%削減―日本専門医機構
日本専門医機構、新理事長に帝京大の寺本民生・臨床研究センター長が就任
がん薬物療法専門医、サブスペシャリティ領域として認める―日本専門医機構
2019年度の専攻医登録に向け、大阪や神奈川県の状況、診療科別の状況などを詳細分析―日本専門医機構
東京の専攻医、1年目に207名、2年目に394名、4年目に483名が地方勤務―日本専門医機構
新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構
新専門医制度によって医師の都市部集中が「増悪」しているのか―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、偏在対策の効果検証せよ―医師養成と地域医療検討会
医学生が指導医の下で行える医行為、医学の進歩など踏まえて2017年度に再整理―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、専門研修中の医師の勤務地を把握できる仕組みに―日本専門医機構
地域医療構想調整会議での議論「加速化」させよ―厚労省・武田医政局長
新専門医制度で医師偏在が助長されている可能性、3県では外科専攻医が1名のみ—全自病
新専門医制度の専攻医採用、大都市部の上限値などの情報公開を―四病協
新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構
新専門医制度、現時点で医師偏在は助長されていない―日本専門医機構
新専門医制度、専門研修中の医師の勤務地を把握できる仕組みに―日本専門医機構
新専門医制度のサブスペシャリティ領域、国民目線に立ち「抑制的」に認証すべき―四病協
新専門医制度、専攻医の1次登録は10月10から11月15日まで—日本専門医機構
新専門医制度、都道府県協議会・厚労省・検討会で地域医療への影響を監視—医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、地域医療への影響を厚労省が確認し、問題あれば対応—塩崎厚労相
2018年度からの新専門医制度に備え、10月から専攻医の仮登録—日本専門医機構
新専門医研修プログラム、都道府県協議会で地域医療を確保する内容となっているか確認―厚労省
専門医機構、地域医療への配慮について「必ず」都道府県協議会の求めに応じよ—厚労省検討会
新整備指針の見直し、総合診療専門医の研修プログラム整備基準を決定—日本専門医機構
専門医整備指針、女性医師に配慮した柔軟な対応などを6月2日の理事会で明記—厚労省検討会
地域医療へ配慮し、国民に分かりやすい専門医制度を目指す—日本専門医機構がQ&A
専門医取得が義務でないことやカリキュラム制の設置、新整備指針の中で対応—日本専門医機構
新専門医制度、整備指針を再度見直し「専門医取得は義務でない」ことなど明記へ―厚労省検討会
新専門医制度、見直しで何が変わったのか、地域医療にどう配慮するのかを分かりやすく示す―日本専門医機構
必要な標準治療を集中的に学ぶため、初の基本領域での研修は「プログラム制」が原則―日本専門医機構
新専門医制度、東京・神奈川・愛知・大阪・福岡では、専攻医上限を過去3年平均に制限―日本専門医機構
専門医制度新整備指針、基本理念に「地域医療への十分な配慮」盛り込む―日本専門医機構
地域医療に配慮した、専門医制度の「新整備指針」案を大筋で了承―日本専門医機構
消化器内科や呼吸器外科など、基本領域とサブスペ領域が連動した研修プログラムに―日本専門医機構
総合診療専門医、2017年度は「日本専門医機構のプログラム」での募集は行わず
新専門医制度、18基本領域について地域医療への配慮状況を9月上旬までにチェック―日本専門医機構
【速報】専門医、来年はできるだけ既存プログラムで運用、新プログラムは2018年目途に一斉スタート―日本専門医機構
新専門医制度、学会が責任もって養成プログラムを作成、機構が各学会をサポート―日本専門医機構
【速報】新専門医制度、7月20日に「検討の場」、25日の総会で一定の方向示す見込み―日本専門医機構
新専門医制度、各学会がそろって同じ土俵に立ってスタートすることが望ましい―日本専門医機構・吉村新理事長
【速報】新専門医制度、日本専門医機構の吉村新理事長「7月中に方向性示す」考え
新専門医制度で地域の医師偏在が進まないよう、専門医機構・都道府県・国の3層構造で調整・是正―専門医の在り方専門委員会
新専門医制度、懸念払しょくに向けて十分な議論が必要―社保審・医療部会
2016年末、人口10万人当たり医師数は240.1人、総合内科専門医が大幅増―医師・歯科医師・薬剤師調査―2014年医師・歯科医師・薬剤師調査
専門研修修了医(certified doctor)と臨床経験を十分に積んだ専門医(specialist)は区別すべき―四病協