2021年度からの新専門研修の概要固まる、「シーリング逃れ」などを厳格に是正—医師専門研修部会
2020.9.18.(金)
来年度(2021年度)の新専門研修について、「シーリング逃れ」(シーリング対象外の基幹施設で最短期間(6か月)のみの研修を受け、残りの2年半はシーリング対象の連携施設で研修を受けるなど)などを是正するために、新専門医制度の整備指針見直しなどを日本専門医機構に求めていく―。
また、プログラム制からドロップせざるを得なかった専攻医が、継続して専門研修を受けられるようにカリキュラム制について十分な整備を行うよう日本専門医機構や基本領域学会に求めていく―。
9月17日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こういった方針が了承されました(関連記事はこちら)。
近く、日本専門医機構・各基本領域学会では、この要請・意見を踏まえた制度改善を行い、2021年度からの新専門医研修に向けて専攻医(新専門医資格取得を目指す研修医)の募集を開始することになります。
目次
地域・診療科偏在の助長を防止するための「シーリング」、データもとに検証を
2018年度から新専門医制度が全面スタートしています。従前の専門医制度にあった「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」との批判を踏まえ、日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、認定を行う仕組みへと改められています。
また、新専門医制度の発足により医師の地域偏在・診療科偏在が助長されないよう、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省―が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みも構築されており、その1つに、「各都道府県の地域医療対策協議会(医療関係者や地域住民、関係市町村等で構成される地域医療の在り方を考える会議)の考えを厚生労働大臣が取りまとめ、制度改善を求める」仕組みが設けられています。
2021年度からの研修に向けて近く専攻医募集が開始されますが、その際のシーリング(地域・診療科偏在を助長しないよう、医師の多い地域・診療科では、専攻医の採用数に上限を設けるもの)に関して次のような是正要望が伝えられることになりました。
(1)「特定の都道府県での勤務が義務づけられている専攻医」(例えば地域枠出身医師など)に対する不利益が生じないよう、2020年度と同じく「医師少数区域などへの従事要件が課される、地域医療対策協議会で認められた地域枠医師および自治医科大学出身医師はシーリングの枠外」とする
(2)過去の採用数が少なく、採用数の年次変動が大きい都道府県別診療科に対する配慮として、2020年度と同じく「過去3年の採用数のいずれかが10未満である都道府県別診療科のシーリング数を過去3年の採用数のうち大きい方とし、過去3年の採用数の平均が極めて少なく、シーリング数が5(連携プログラム0)の都道府県別診療科をシーリングの対象外」とする
(3)シーリング対象となった都道府県のうち、都道府県内に医師少数区域がある都道府県に対する一定の配慮のため、2020年度と同じく「地域貢献率(医師多数でない他県に、医師を派遣している度合いを数値化したもの。値が大きいほど、他県の医師不足解消に貢献していると判断できる)の算出にあたり、シーリング対象外の都道府県での研修期間に加え、都道府県内の医師少数区域において研修を実施する期間も考慮にいれる」こととする
(4)採用数の平均が少数であるにもかかわらず、単年度のみ採用数が多かったためにシーリングの対象となってしまった都道府県への配慮のため、新たに「過去3年の採用数の平均が少数(5以下)の都道府県別診療科はシーリングの対象外」とする
この点に関連して、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「シーリングの効果を検証する必要があり、問題点が明らかになった場合には、都度、解消に向けた検討を進める必要がある」と指摘しています。
新専門医制度では、専攻医が「自分はどの期間、どの施設で研修を受けたか(勤務したか)」などを記録する仕組みが設けられています【マイページ】。この記録を分析すれば、「当該医師が、求められている研修を適切に受けたか」を確認できるとともに、「地域別・診療科別の専攻医勤務状況」を把握することができます。後者からは「医師の地域偏在・診療科偏在が助長されていないか」を確認することができるのです。
このように【マイページ】への研修履歴入力は、専門医資格を取得するために事実上の「要件の1つ」となります(研修履歴が不明であれば、適切に研修を受けたのかを確認出来ず、資格が付与できない)。ただし、創設は2020年度からで、2018年度・19年度から研修を開始した専攻医は「遡って、自分の研修履歴を入力する」ことになります。寺本参考人は「研修履歴を記載しなければならない」旨を周知していく考えを強調しています。
この【マイページ】データを集積・解析する中で、シーリングの効果や問題点がより明確になってくると考えられます。
「シーリング逃れ」への厳格対応、カリキュラム制の整備などを進めよ
また、2018年度から新専門医研修が稼働する中で、「制度の裏を突く」ような不適切事例も一部に見られています。このため、厚生労働大臣から次のような改善要望を行うことも確認されました。
(A)「シーリング対象外の基幹施設」で6か月のみの研修を行い、残りの2年半を「シーリング対象の連携施設」で研修を行う研修プログラムが発生しており、「シーリング対象地域における研修期間の上限設定」を行う
(B)特別な理由なく「連携施設での研修期間が3か月未満」となっている研修プログラムが発生しており、▼研修プログラムの厳正審査▼連携施設における最低勤務期間の延長の検討—を行う
(C)県内に複数の研修プログラムのない診療科(小児科、産婦人科、整形外科など)がいまだに存在しており、▼各基本領域学会によるプログラム審査において妥当性を検証する▼検証結果を医道審議会に報告する—こととする
(D)「研修先未定」の研修プログラムがいまだに存在しており、▼厳格運用▼研修先未定プログラムの公表の検討—を行う
(E)カリキュラム制の整備指針がないにもかかわらず、カリキュラム制研修を実施しているケースが一部に見られることから、▼カリキュラム制の整備指針の迅速整備▼カリキュラム制研修が行える医療機関リストの公表―を行う
このうち(A)は、事実上の「シーリング逃れである」と立谷秀清委員(全国市長会会長、福島県相馬市長)は指摘。厳格な対応が、「整備指針の見直し」によって担保されていくことになるでしょう。
また多くの委員は(E)のカリキュラム制にも着目し、整備指針を急ぎ制定するよう要請しています。
新専門医制度において、研修の原則は「プログラム制」とされています(年次ごとに定められた研修プログラムに則って研修を行う仕組みで、基幹施設と連携施設で「研修施設群」を作り循環型の研修を行う)。日本専門医機構では、これまでに「とりわけ初めての基本領域の研修では、集中的に必要な標準治療を学ぶ必要がある」とプログラム制を原則としている理由を説明しています。
しかし、さまざまな理由でプログラム研修のスケジュールからドロップせざるを得ない専攻医もいます(結婚や子育て、介護などのほか、研修先でハラスメントに合うケースなども考えられる)。また、地域枠出身医師や自治医大出身医師などでは、特定地域・医療機関での一定期間従事が求められており、プログラム制の適用がそもそも困難です。こうした医師に対し新専門医の資格取得の門戸を閉ざすことは好ましくないことから、カリキュラム制(期限の定めを設けずに研修を受け、基準を充足した時点で専門医資格取得を可能とする仕組み、「単位制」とも言える)を一部認めることとなっているのです。
この点、一部の基本領域では、カリキュラム制に関する仕組みが完全には整備されていません(整備指針が完全に固まっていない領域、カリキュラム制研修が可能な医療機関の公開がなされていない領域などがある)。これでは専攻医がカリキュラム制を選択することが難しくなってしまいます。
立谷委員は「指導医のすべてが立派な人格の持ち主ではない。専攻医は資格取得のために我慢しなければならないとなれば、昔の医局と変わらなくなってしまう。プログラム制からドロップせざるを得ない医師のことも十分に考えるべき」と改めて強調。また釜萢敏委員(日本医師会常任理事)、山内英子委員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)も、カリキュラム制の重要性を指摘。
厚労省も、今後、地域枠が大きくなっていくことなどから、カリキュラム制の重要性が増していくことを確認したうえで、「キャリア形成プログラムの中で、カリキュラム制を活用することを十分に検討すべきであり、日本専門医機構・各基本領域学会もカリキュラム制を迅速に整備し、PRしていくことが重要」とコメントし、厚生労働大臣からの要望として「カリキュラム制の適切な整備」を求めていくこととしています。
地域枠については、「地域での勤務・従事が義務化され、学位取得や新専門医資格の取得が不利になるのではないか」などの誤解や不安が受験生や医学生にあるといいます。こうした誤解・不安を払拭するために、各都道府県では「海外留学をする場合の勤務プログラム例」「学位を取得する場合の勤務プログラム例」などといった【キャリア形成プログラム】を作成し、地域枠医師を学部段階から支援していくことが求められています。しかし、カリキュラム制を活用したキャリア形成プログラムは少ないのが実際で、地域枠を目指す高等学校生や、地域枠の学生・医師の誤解・不安払拭を進めるためにも、カリキュラム制の周知とその普及が重要となってくるのです。
なお、この点に関連して寺本民生参考人(日本専門医機構理事長)は、プログラム制からドロップした専攻医については、「他の研修プログラムへの移行」や「カリキュラム制への移行」に向けて日本専門医機構が個別にサポートしていることを紹介しており、「ドロップを放置しているわけではない」点に留意が必要です。
臨床研究医コースに大学医学部などから123コースの提案、近く専攻医募集を開始
さらに、2021年度の研修から▼臨床研究医コース▼地域枠から離脱した医師の取り扱い―についても導入されます。
後者は、地域枠医師で、特定の都道府県での勤務・従事が義務付けられているにもかかわらず、別の都道府県で研修を開始してしまう事例が散見されていることから、「都道府県の同意を得ずに地域枠を離脱し、専門研修を開始した者については、原則、日本専門医機構の専門医の認定を行わない」「都道府県の同意を得ずに別地域で専門研修を開始した場合には、プログラム変更を促す」などの対応がとられます。
前者は、一般の専門研修枠とは別に、次のような「研究医を養成する仕組み」を設けるものです。
▽通常の専門研修と同様に、臨床研修(初期研修)を修了した医師を対象とし、7年間の臨床研鑽および研究(エフォートの50%以上)に携わる(研修期間は7年間)
▽大学病院等で研鑽する(例えば2年間)中で臨床を学び(主にカリキュラム制となる)、その後、大学院等に進学し、研究に携わる。研究期間中に、First author(主筆)として、SCI(Science Citation Index)論文を2本以上執筆する義務を負う(case reportは除く)
▽研修修了後は、大学等で臨床教官となることが考えられる
▽研修期間中は、身分保障がなされ、所属大学病院や大学院等の規定に沿った給与支給を受けられる
当初は40名からスタートし、応募状況などを見ながら「研究医コースの拡大」などを検討していくことになります。
寺本参考人からは、大学医学部などから「123コース」の研究医コース創設が提案されていることが報告されました。今後、「研究医コースを希望する医師」の募集を行い(9月23日予定)、▼応募数に応じた「各基本領域への定員の割り振り」(40名を応募数に応じて比例配分していく)▼各基本領域における「各研究医コースへの定員の割り振り」(基本領域で検討する)▼各研究医コースによる選抜と採用(10月21日予定)―という流れで進む見込みです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
研究医コースで採用されなかった医師は、11月からスタートする予定の「一般の専攻医採用枠」に応募することが可能です。
なお、研究医コースが「シーリング逃れ」に利用されないよう、例えば「研究医コースから専攻医がドロップし、一般の専門研修に移行する」ような事態が生じた場合には、当該病院について「専攻医の採用枠削減」というペナルティが課されることになっています。
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