新専門医制度の議論迷走、「機構認定済」の23サブスぺ領域に依然、許可下りず―医師専門研修部会
2019.11.11.(月)
新専門医制度における2階部分の「サブスペシャリティ領域」をどう考えるか―。
こういった議論が医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で続けられていますが、11月8日の会合では、「日本専門医機構がすでに認定した23のサブスぺ領域の基準論議を先に進んでいるが、他領域の認定にも関連するため、慎重に議論する必要がある」「サブスぺ認定基準が緩やかであれば、旧専門医制度のようにサブスぺが乱立してしまい、国民に分かりにくい仕組みに戻ってしまう」などの慎重論が相次ぎ、「専門研修部会の下にワーキンググループを設け、医学会関係者も交えてサブスぺ領域について議論する」方針が固められました。
また11月8日の専門研修部会では、「国民への分かりやすさという視点で考えると、循環器内科や消化器内科などは基本領域に組み込むことも考えられる」などの根本論も出ており、今後、どういった方向に動くのか予断を許さない状況です。
サブスぺ領域と基本領域との連動による「医師偏在の助長」を懸念
2018年度から新たな専門医制度がスタートしました。従前、各学会が独自の研修プログラムと認定基準をもって専門医を養成してきたことから、「一口に専門医と言っても、質が担保されていないのではないか」「国民にとって非常に分かりにくい仕組みとなっているとの批判がありました。
そこで新専門医制度では、各学会とともに、第三者組織である日本専門医機構とが連携して、研修プログラムの作成・認証、専門医認定基準の設定等を行い、「の質の担保」と「国民への分かりやすさ」を基本理念としています。19の「基本領域」(1階部分)と「サブスペシャリティ領域」(2階部分)の2層構造となっており、「基本領域のみの専門医資格を取得する」ことも、「基本領域とサブスペシャリティ領域の専門医資格を取得する」ことも可能です。
【基本領域】(1)内科(2)外科(3)小児科(4)産婦人科(5)精神科(6)皮膚科(7)眼科(8)耳鼻咽喉科(9)泌尿器科(10)整形外科(11)脳神経外科(12)形成外科(13)救急科(14)麻酔科(15)放射線科(16)リハビリテーション科(17)病理(18)臨床検査(19)総合診療—の19領域
サブスペシャリティ領域については、「国民への分かりやすさ」という基本理念を踏まえ、日本専門医機構と基本領域学会とで「認定する基準」を設け、その基準に合致する学会・領域のみを認定することとなっています。日本専門医機構の寺本民生理事長は、11月8日の専門研修部会に、▼専門医制度整備指針・改訂案▼サブスペシャルティ領域専門研修細則案―を提示。
そこでは、サブスぺ領域の認定は、▼専門医像と社会的使命(必須要件)▼基本領域の承認と同意(必須要件)▼サブスペシャルティ領域としての認知▼専門医数▼専門研修施設数・指導医数(必須要件)▼専門医制度の安定性▼専門研修整備基準▼客観的基準に基づく専門医認定▼専門医資格更新(案)―の各要素を勘案して行うこと、研修期間は原則として「3年以上」とし、「プログラム制の研修期間」≦「カリキュラム制の研修期間」とすること、「医師の地域偏在を助長させないような配慮を行う」こと、などを規定しています。
現在、94の関係学会がサブスぺ領域への認定を希望しており、これらの要件をクリアしているかどうか、各学会からレビューシートが提示されています。
しかし、細則案等の内容や、レビュー手法について委員からは疑問の声も出ています。
牧野憲一委員(日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)は「例えば、神経内科のレビューシートを見ると、すべての臨床研修病院で『常勤医による診療科あり』となっているが、これは事実なのだろうか」と、レビューの信憑性に疑義を提示。
また、「医師の地域偏在」に関して、後述する「連動研修」(基本領域とサブスぺ領域とを一部重複させる)が行われた場合、「サブスぺ領域の指導医がいない連携施設があれば、そこでの研修を避ける専攻医が現れ、結果として医師の地域偏在が助長されてしまうのではないか」との指摘が従前よりあり、11月8日の専門研修部会でもやはり、この点を是正すべきとの指摘が数多く出されました。
さらに、研修期間が「原則3年以上」とされている点について、山内英子委員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)は「長すぎはしないか。領域によっては1年、2年で十分なこともあり、柔軟な規定とすべきである。長期間のサブスぺ領域研修が『連動研修』などの問題を生じさせる面もあるのではないか」と指摘。この点、立谷秀清委員(全国市長会会長、福島県相馬市長)も「医師免許をとってから胃カメラを操作するまでに8年も研修を受けなければならないのは、どう考えるべきか。これでは地域医療が持たない」と述べ、「医師が早期に臨床能力を身につけ、地域医療に従事できる」ような専門医制度構築を強く求めています。
日本専門医機構では、こうした指摘を踏まえて▼専門医制度整備指針・改訂案▼サブスペシャルティ領域専門研修細則案―を修正。その修正版を各都道府県の地域医療対策協議会に示して意見を募り、再度、専門研修部会で議論することになります。
老年病など23のサブスぺ領域の認定に許可下りず、学会交えたワーキングを設置
専門研修部会では、サブスぺ領域の基準を議論すると同時に、具体的に「どういった領域をサブスぺ領域とすべきか」という点にも踏み込んだ議論を始めています。
内科・外科・放射線科の基本領域学会では、社会的意義や国民への認知の程度などを踏まえ、以下の23学会・領域を「サブスペシャリティ領域とすべき」と推薦し、日本専門医機構でもこれを既に認定しています。
【内科領域】
▼消化器病▼循環器▼呼吸器▼血液▼内分泌代謝▼糖尿病▼腎臓▼肝臓▼アレルギー▼感染症▼老年病▼神経内科▼リウマチ▼消化器内視鏡▼がん薬物療法―
【外科領域】
▼消化器外科▼呼吸器外科▼心臓血管外科▼小児外科▼乳腺▼内分泌外科―
【放射線領域】
▼放射線治療▼放射線診断―議論
とくに内科・外科領域については、一定の症例について「基本領域での経験症例」と「サブスペシャリティ領域での経験症例」との重複カウントを可能とし、より早期に「基本領域とサブスペシャリティ領域の資格を保有する専門医」を養成する「連動研修」が計画されていました。連動研修は2019年4月スタート予定でしたが、専門研修部会では「一部(消化器内視鏡など)、国民にとって分かりにくいものがある」「整備基準(サブスペシャリティ領域として認定するための基準)をまず策定し、その上で認定を行うべきである」との意見が強く、「待った」がかかっています(重複分の症例は、のちにカウントするなどとして専攻医に不利益が生じないように取り扱われる見込み)。
11月8日の専門研修部会でも「23領域(すでに機構でサブスぺとして認定済)をどう取り扱うか」という点が再び議論されました。
これら23領域がサブスぺ領域として認定されることを見越して、現在、内科・外科の基本領域の研修を受けている専攻医においては、「議論が遅々として進んでいないが、本当にサブスぺ領域として認定されるのだろうか」と心配をされていると思われますが、11月8日の専門研修部会でも結論(認定)は見送られました。
23領域をサブスぺ領域として認められない理由は多岐にわたりますが、専門研修部会委員の意見は▼サブスぺ領域として機構が認定している23領域の中には、2階部分というよりも、「3階部分」や「技術認定がふさわしいもの」も含まれている▼23領域の基準は、他の領域にも適用されることから、「サブスぺ領域乱立」の恐れがないか慎重に検討しなければならない―といったところに整理できそうです(関連記事はこちら)。
この点、日本専門医機構では、上述したレビューシートの詳細(23領域)を専門研修部会に提示しましたが、やはり上述したように「信憑性に疑義がある」(牧野委員)といった指摘も出ているほか、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「レビューには国民の視点が入っていない」と苦言を呈しています。
釜萢敏委員(日本医師会常任理事)や片岡仁美委員(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科地域医療人材育成講座教授)は、「まず『日常診療を担い、医療需要が高く、偏在対策が講じられるべき領域』に限定してサブスぺ領域に認定し、その後、状況を見て『専門性が高く集約化が進むものの、単独の領域として一定の患者数が見込まれる領域』『特殊性が高く、研修を行える施設が限られる領域』への拡大を検討するべき」との考えを示しています。
また、専門研修部会には日本専門医機構・学会の関係者が委員として出席していない(参考人としてのみ出席)ことから、山内委員は「機構・学会の関係者も交えたワーキンググループを設け、そこで密な議論を行ってはどうか」と提案し、了承されました。ワーキングメンバーや議題などはこれから詰められますが、▼専門研修部会委員の一部▼日本専門機構関係者▼学会関係者―で構成され、主に「サブスぺ領域の在り方」を議論することになりそうです。
なお、牧野委員や野木渉委員(日本精神科病院協会常務理事)からは「国民への分かりやすさという視点に立てば、循環器内科などはサブスぺ領域というよりも、むしろ基本領域に組み込むべきであろう。サブスぺ領域はもちろん、基本領域についても根本的な議論をしなおすべきではないか」との指摘まで出始めています。
こう見てくると、「サブスぺ領域の議論はいつ決着するのか」と不安になります。早ければ2021年4月からサブスぺ領域の研修が始まるため、募集期間等を考慮すれば、「2020年秋」にはサブスぺ領域の認定が完了し、研修プログラム等が確定などしていることが必要でしょう。ワーキングで「サブスぺ領域の在り方」をきちんと定め、その結果に沿って「サブスぺ領域認定基準」などを固めていくなど、議論がぶれないような工夫も必要となってくるでしょう。
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