専門医制度、「専門医の質確保」(高度な研修)と「地域医療の確保」は両立可能―医師専門研修部会(2)
2019.5.21.(火)
専門医制度の在り方を議論する際には、「地域医療の確保」という視点ももちろん重要であるが、「教育・研修レベルの確保」が絶対要件となり、両者は「両立可能」な関係にある―。
5月14日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)では、こういった議論も行われました。
今後の具体的な「サブスペシャリティ領域」論議をする際に、重要な視点となるでしょう。
内科領域、専攻医1人当たりの症例数は長野・山口・鳥取・静岡で多く、濃密研修が可能
専門医資格は、従前、各学会が独自に養成・認定を行っていました。しかし、学会が乱立し、それぞれに専門医養成を行っていることから、「国民に分かりにくくなっている」「質が担保されているか不明確である」との批判を受け、2018年度から、各学会と日本専門医機構が協働して養成プログラムを作成し、統一的な基準で認定する仕組みへと改められました。
具体的には、19の「基本領域」(1階部分)と「サブスペシャリティ領域」(2階部分)の2層構造となっており、「基本領域のみの専門医資格を取得する」ことも、「基本領域とサブスペシャリティ領域の専門医資格を取得する」ことも可能です。
【基本領域】(1)内科(2)外科(3)小児科(4)産婦人科(5)精神科(6)皮膚科(7)眼科(8)耳鼻咽喉科(9)泌尿器科(10)整形外科(11)脳神経外科(12)形成外科(13)救急科(14)麻酔科(15)放射線科(16)リハビリテーション科(17)病理(18)臨床検査(19)総合診療—の19領域
このうち、内科・外科・放射線科の各基本領域学会では、社会的意義や国民への認知の程度などを踏まえ、以下の23学会・領域を「サブスペシャリティ領域とすべき」と推薦し、日本専門医機構でもこれを認定しています。
【内科領域】
▼消化器病▼循環器▼呼吸器▼血液▼内分泌代謝▼糖尿病▼腎臓▼肝臓▼アレルギー▼感染症▼老年病▼神経内科▼リウマチ▼消化器内視鏡▼がん薬物療法―
【外科領域】
▼消化器外科▼呼吸器外科▼心臓血管外科▼小児外科▼乳腺▼内分泌外科―
【放射線領域】
▼放射線治療▼放射線診断―議論
また内科・外科領域については、一定の症例について「基本領域での経験症例」と「サブスペシャリティ領域での経験症例」との重複カウントを可能とし、より早期に「基本領域とサブスペシャリティ領域の資格を保有する専門医」を養成する「連動研修」が計画されていました。しかし、専門研修部会では▼サブスペシャリティ領域の中には、国民に分かりにくいものもある(消化器内視鏡など)▼連動研修は地域医療の確保を阻害する恐れもある―という意見が多数出され、「この4月(2019年4月)からの連動研修スタート」に待ったがかかっています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
例えば、基本領域である内科において「A病院・B病院・C病院を循環する」という研修プログラムが組まれていたとします。「地域医療の確保」という各方面からの強い要請を受け、例えば「基幹病院のみで完結させない」などの配慮・工夫が凝らされています。
しかし、サブスペシャリティ領域との連動研修となった場合、「B病院には当該サブスペシャリティ領域の指導医がいないので、A病院とC病院のみで研修を完結させ、B病院での研修(勤務)を行わない」という事態が生じてしまう可能性が指摘されています。この場合、B病院の所在する地域において、医師確保に困難が生じるなど「地域医療への悪影響」が生じる可能性を否定できないためです。
こうした「待った」がかかった状況の中、医師専門研修部会の遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)は「一度、専門医制度の在り方について根本に戻った整理・議論を行う必要がある」と判断。基本に立ち返った議論を委員および厚生労働省当局に要請しました。
まず、厚労省は専門医制度を検討する際には、冒頭に述べた過去の反省に立ち、▼国民へ分かりやすいものである▼医療提供体制・医療計画に資するものである―こととの2つの視点を提示。前者の「分かりやすさ」は、例えば、一般の国民・患者が医師や医療機関を探す際に「専門家でなければ正確に理解できない資格」では困る、というもので、専門研修部会はもちろん、社会保障審議会・医療部会などでも何度も確認されている視点です。
また後者は、当然のことですが「専門医も地域医療の1プレイヤーである」ことを確認する視点です。地域医療は、都道府県の定める医療計画(5疾病5事業及び在宅医療など)に沿って進められ、そこには2020年度からスタートする「医師確保計画」も組み込まれます。したがって、「一部の地域・一部の診療科に専門医が集中し、他地域では医師が極端に不足する」という事態は避けなければなりません。
この視点に立って厚労省は、専門医制度を議論するにあたり、(1)国で専門医制度を議論する意義は「専門的医療を、できるだけ公平に国民に提供する」点にある(2)診療内容と専門医資格とが一致することが原則である(3)都道府県レベルで養成が困難な「希少疾患に対応する専門医」は、ブロック単位(東北ブロック、関東ブロックなど)での養成も検討する―という論点も提示しています。
このうち(1)は、「専門医の在り方」について、大きく2つの側面があることを意味しています。学会・日本専門医機構は「専門医には、専門的な知識・技術を習得しなければならない」という側面からアプローチして専門医制度を検討・構築することが求められ、一方、国(専門研修部会も含めて)は「専門医には、習得した質の高い専門的医療を、公平に国民に提供しなければならない」という側面からアプローチすることが求められるというイメージです。
どちらの側面も重要で、学会・専門医機構のアプローチが十分でなければ「質の高い医療の確保」が不可能になり、国のアプローチが不十分であれば「医療にアクセスする機会」が阻害されてしまいます。5月15日の専門研修部会でも、この点が再確認されました。
地域医療確保に責任を持つ自治体の立場で参画する立谷秀清委員(全国市長会会長、相馬市長)は「地域枠・地元枠出身の医師が新専門医制度のプログラム制(定められた医療機関で定められた年限、研修する仕組み)で置いて行かれることにないよう、カリキュラム制(年限を定めず、一定の症例を経験する仕組み)の充実を要望してきた。日本専門医機構・学会・全国医学部長病院長会議・国・医師会が連携し、地域医療を確保してほしい」と強調。
また同じく自治体の立場で参画する阿部守一委員(長野県知事)は、「地域枠医師が専門医資格更新で不利益にならないような配慮」「希少疾患に対応する専門医も、すべての都道府県において一定期間は連携病院として研修がなされるような枠組み」を要望しています。
両委員の意見は、後者の「専門的医療を公平に国民に提供する」という側面を重視したものと言えるでしょう。
この意見への反論はもちろん出ていませんが、山内英子委員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)や片岡仁美委員(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科地域医療人材育成講座教授)らは、前者の「専門的な知識・技術の習得」という側面を「絶対的条件」として強調します。片岡委員は「『医師の不足する地域なので研修はほどほどでよい』ことなどがあってはいけない。日本内科学会ではJ-OSLERシステムで研修実績を把握し、質の担保を図っている。各学会や大学病院が、専攻医をバックアップする仕組みが必要である」と指摘しました。
また山内委員は、この点に関連して「研修医(専門医資格の取得を目指す専攻医も含めて)時代に地域医療に携わる考え方もあるが、例えば研修を受け一人前の知識・技術を身に着けてから地域医療に携わるほうが、より地域医療にとってプラスではないか」との考えも示しています。医師偏在対策について議論した「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」では、ベテラン医師による断続的な「医師少数の地域」での勤務を認定する仕組み(医師派遣機能を持つ地域医療支援病院の「管理者(院長)要件」などとして活用)も設けており、山内委員の考えはすでに厚労省も取り入れていると考えることができそうです。
なお、日本内科学会からは「J-OSLERシステムによれば、専攻医1人当たりの経験症例数が多い(言わば、濃密な研修を実施している)都道府県は、長野県・山口県・鳥取県・静岡県などで、都市部の専攻医がより多くの症例を経験しているというわけではない」ことが報告されています。これは、「勤務地(研修地)」と「研修の質」とは、必ずしもトレードオフの関係(言わば「どちらかを重視すれば、他方をあきらめなければならない」という関係)にはないことの証左と言えるでしょう。
「専門医の質確保」と「地域医療の確保」とを両立する(日本内科学会報告を踏まえれば実際に両立可能である)という視点で、今後、サブスペシャリティ領域の在り方などを議論していくことになります。
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